【第5の謎】僕のスマホと彼女の秘密
学園での事件は、次々と蓮の推理によって解決に導かれていった。
ある日の昼休み。
私は購買部で買ったパンを片手に、渡り廊下を歩いていた。
「今日の君も、すごく頑張ってくれたね」
耳元で、甘く優しい声がする。
隣には、一条蓮が並んで歩いていた。
学園のアイドルの彼と並んで歩いていては騒ぎになると思い、私は周囲の目を気にしてビクビクしていた。
「先輩、だから……あんまり堂々と出歩かないでください。誰かに見られたらどうするんですか」
私が小声で咎めると、蓮は困ったように微笑んだ。
「大丈夫だよ。僕のことなんて、君以外は誰も気にしないさ」
言われてみれば、すれ違う生徒たちは誰一人として、彼に――いや、隣を歩く私にすら視線を向けていない。まるで、私たち二人だけがこの空間から切り取られ、透明になってしまったかのような奇妙な感覚。その薄気味悪さに耐えきれず、私は小さく息をついて話題を変えた。
「そういえば先輩、スマホって持っていないんですか? 事件の調査中、何度か連絡を取りたいと思ったんですけど……」
「ああ、うん。ちょっとね、落としてなくしちゃったみたいなんだ。でも君が直接報告しに来てくれるから、別に困らないよ」
蓮は無邪気に笑う。
落とした?
学園長である父親に言えば、すぐにでも新しいものを買い与えられそうなものなのに。
その時、脳裏にふと『ピロリロリ』という間抜けな電子音が響いた気がした。
――なんだろう、今の音。
胸の奥がざわざわと波立つ。
私は何か、とても大切なことを忘れているような気がするのだ。
それが思い出せそうで思い出せない、胃の奥に冷たい鉛を飲まされたようなひどく重い感覚。
「どうしたの、白石さん。難しい顔をして」
「いえ……なんでもありません」
蓮の優しい声が、私の思考の波を穏やかに均していく。
周囲から孤立していく私の世界の中で、彼だけが唯一の理解者なのだと、私の心は逃げ場のない錯覚に深く沈み込み始めていた。




