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屍王子は、安楽椅子に座る。秘密を握られた探偵助手のワタシ〜泥だらけの罪と、学園のささやかな事件簿〜  作者: cross-kei
第01部:最悪の出会い

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【第2の謎】震える助手への要求

 翌朝、学園は奇妙なほどの静けさに包まれていた。


 放課後。


 誰もいない特別教室棟の階段を、ゆっくりと下りていく。

 西日がステンドグラスを抜け、踊り場に色とりどりの影を落としていた。


「やあ。こんにちは、白石さん」


 背後から、不意に声がした。


 心臓が、喉から飛び出しそうになるほど跳ね上がった。


 息を呑み、錆びついた機械のように首を後ろへ回す。

 そこには、逆光の中に佇む一人の男子生徒がいた。

 光の輪を背負うようにして立つその姿は、あまりにも美しく、そして現実離れした学園の王子がそこにいた。


 ズキリ、と。不意に、頭の奥を鋭い痛みが突き抜けた。

 一瞬だけ視界がぐらりと揺れ、脳に濃い霧がかかったように真っ白になる。


「い、ちじょう……せんぱい……?」

「そんなに驚かないでよ。少し気分転換に散歩していただけなんだ」


 蓮は階段を一段下り、私と同じ目線に立った。

 責めるような響きは微塵もなく、ただ純粋に私を心配するような、柔らかな声だった。


「顔色が悪いね。昨日の夜、随分と遅くまで起きていたんじゃない?」


 膝の震えが止まらず、私は階段の手すりにしがみついた。


「先輩、私……その、昨日は……」

「安心してよ」


 蓮は、ふわりと微笑んだ。


「君が昨日の夜、旧校舎の裏で一生懸命『何か』を埋めていたのは見たよ。泥だらけになって、すごく必死そうだったね」


 心臓が、肋骨を突き破りそうな勢いで脈打つ。


「でも、僕自身でそれを掘り返して確認するような野暮な真似はしない。そういうデリカシーのないことはしたくないんだ」


 彼は少しだけ小首を傾げ、目を細める。


「ミステリー好きとしてはさ、その中身は自分の頭で推理して当てたいんだよね。だから君、明日から僕の『助手』になってくれないかな?」

「……じょ、しゅ……?」

「そう。僕って生徒会長で忙しいでしょ? 学園で発生したミステリーの謎解きを楽しみたいのだけど、助手が必要なんだよね。君が一生懸命隠した秘密は、僕だけの胸にしまっておいてあげる。誰にも言わないから協力してよ」


 脅迫だった。

 しかし、その口調には威圧感も、ドS特有の冷酷さも一切ない。

 本当に気の置けない友人を秘密の遊びに誘うような、底抜けに明るく、優しいトーンだった。


「どうかな? 警察や先生に調べられるより、僕と一緒に謎解きをする方が、ずっと楽しいと思うんだけど」


 警察という言葉に、私の肩がびくりと跳ねる。


「……やります」


 私はギリッと奥歯を噛み締め、その提案を受け入れるしかなかった。


「よかった。これからよろしくね、僕のかわいい助手さん」


 蓮は嬉しそうに微笑み、階段の踊り場で静かに佇んでいた。

 彼が私の肩に触れることはなく、ただ一定の距離を保ったまま、その優しい眼差しで私を包み込んでいた。


「さっそくだけど、君の最初の仕事だ。美術部で部費が紛失したらしいから、明日の放課後までに聞き込みをしておいてくれないかな」


 断れない私を待ち受けていたのは、ワタシの心理を弄ぶような、彼の異常な「謎解きゲーム」の始まりだった。

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