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屍王子は、安楽椅子に座る。秘密を握られた探偵助手のワタシ〜泥だらけの罪と、学園のささやかな事件簿〜  作者: cross-kei
第02部:反転する世界

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第05話:仲直り出来て、ご機嫌な暴君

「おい、そこのクッション! もっとパステルカラーの可愛らしいものに変えろ! アンティーク調の家具ばかりでは、彼女がリラックスできないだろう!」

「は、はいっ! 直ちにピンクのフリル付きと、ウサギのぬいぐるみを配置します!」


 放課後の特別生徒会室。

 学園の絶対王者たる一条蓮の号令により、一般の役員たちは、重厚なマホガニー調の部屋を必死に『ファンシーでかわいいレイアウト』へと模様替えさせられていた。


 事の発端は、今朝のことだ。

 登校してきた白石さんから、「今日の4時に生徒会室にお伺いします。会長とお話したいので」と直接告げられたのだ。

 スマホという便利な通信機器を持たない僕にとって、彼女からの直接のアポイントメントは、雷に打たれたような衝撃と歓喜だった。


「ああっ……! 申し訳ありません、会長! 来月の予算案の書類、一部に計算ミスが……!」


 ファンシーな空間作りでパニックに陥った役員男子が、顔面を蒼白にして床に這いつくばった。

 いつもなら「その無能な脳髄ごと書類をシュレッダーにかけてやろうか」と冷酷に言い放つところだ。

 しかし、今日の僕は違う。


「……構わないよ。誰にでもミスはあるさ。気づいたなら、ゆっくり直しておいておくれ」

「えっ……」


 這いつくばっていた役員が、ポカンと間抜けな声を漏らす。

 僕は、背中に花畑の幻覚が見えるほどの満面の笑みで、優しくそう告げた。


「それよりも、皆に伝達事項だ」


 僕は、機嫌良さそうに真新しいウサギのクッションを撫でた。


「今日の午後4時、僕の大切な『彼女』がここに来る。だから、午後4時以降はこの生徒会室を完全に立ち入り禁止とする。誰一人として、僕たちの甘い時間を邪魔しないように」


 その言葉を聞いた瞬間、役員たちの間にピリッとした緊張が走った。

 彼らは怯えたように、視線だけで互いに会話を交わしている。


(……前にも似たようなこと言って立ち入り禁止にして、そういえば『謎解きを楽しんで欲しいから予備の鍵を埋めておけ』って、意味不明な命令出されたよな?)

(あったあった。命が惜しければ、4時前に撤収しよう!)


 そんな部下たちの切実な心の声など知る由もなく、僕はただひたすらに、午後4時が来るのを時計を見つめて待ち焦がれていた。


   * * *


 カチリ、と時計の針が午後4時を指した。


 コンコン、と控えめなノックの音が響き、重厚な扉がゆっくりと開く。


「……失礼します」


 顔を出したのは、白石さんだった。

 ひったくり事件で僕の肉体の秘密を知り、学校を休んでしまった彼女。

 嫌われたかもしれないという絶望の淵にいた僕の前に、彼女は少しだけ緊張した面持ちで部屋に入ってくると、僕の目の前で立ち止まった。


(……うん? なんか、部屋がやけにファンシーになってない?)


 彼女の視線が一瞬だけウサギのぬいぐるみを彷徨った気がしたが、彼女はすぐにコホンと咳払いをし、真っ直ぐに僕の目を見つめてきた。


「一条先輩。……先日は、助けていただいてありがとうございました」

「いいんだよ。僕の気高い花嫁を守るのは、当然の義務だからね」

「……それです」


 白石さんが、少しだけ眉を下げる。


「先輩たちの正体が、本当に人間じゃないってことは分かりました。でも、如月先輩から聞きました。先輩は、不器用だけど根っからの悪い人じゃないって」


(如月の奴、余計なことを……いや、ファインプレーだ。後で最高級のトマトジュースでも奢ってやろう)


「だから……その、花嫁とか、そういう重すぎるのは、やっぱり絶対無理なんですけど」


 彼女は少しだけ頬を赤く染め、もじもじとスカートの裾を握りしめた。


「先輩さえ良ければ……探偵の助手とか、まずはお友達からなら……いいですよ」


 ドクン、と。

 僕の心臓(すでに死んでいるはずの臓器)が、かつてないほどの激しい音を立てて跳ね上がった。


(お、お友達……!?)


 僕の命を奪い、スコップで丁寧に埋葬してくれた、美しき破壊神。

 彼女のほうから、歩み寄ってきてくれた。

 僕の異常な愛情を、完全には拒絶せず、まずは『友達』という関係性からなら受け入れてくれるというのだ。


 頭の中が、真っ白に沸騰していく。

 喜びという感情の器が限界を突破し、言葉がうまく紡げない。


「ほ、本当かい……!? ああ、破壊神よ。君のその慈悲深さに、僕は今すぐこの身を捧げたい……っ!」

「だから、そういう重いのはやめてって言ってるんです」


 ジト目で睨んでくる彼女の顔すらも、愛おしくてたまらない。

 友達。友達から始めるのだ。

 人間の男女が『友達』になった場合、次に取るべき行動はなんだ?

 そうだ、連絡先の交換。そして、デートだ。


 僕は高鳴る鼓動を必死に抑え込み、かつてないほどに緊張しながら、彼女に向かって口を開いた。


「そ、それなら……しゅ、週末……!」

「週末?」


 不思議そうに小首を傾げる彼女に向けて、僕は最高にクールでスマートな笑顔を作った。


「しゅ、週末、予定が空いていたら、君と連絡を取るための新しいスマホを買いに行くので……い、一緒に行こう、しゅらいしさん」


 ……やってしまった。


 静寂。

 生徒会室に、痛いほどの沈黙が降り下りた。


 よりにもよって、愛しき彼女の名前を、人生で一番大事なこのタイミングで、盛大に甘噛みしてしまったのだ。


「……『しゅらいしさん』?」


 白石さんが、ポカンとした顔で僕の言葉をオウム返しにする。


「あ、いや……違うんだ、これはその、魔界の訛りというか、発声練習の途中で……」

「ぷっ……ふふっ、あははははっ!」


 僕が必死に取り繕おうとした瞬間、白石さんが堪えきれないというように吹き出した。

 そして、お腹を抱えて、涙が出るほど笑い始めたのだ。


「しゅ、しゅらいしさんって……あはははっ! 絶対王者とか言ってたくせに、噛んでるし……っ!」


 彼女のその無邪気な笑顔を見た瞬間、僕の顔は、自分でもわかるほど一気に真っ赤に茹で上がった。


(……ああ、もう。本当に敵わないな)


 笑い転げる『しゅらいしさん』を前に、僕は顔を覆いながら、情けなくも幸せなため息をつくことしかできなかった。


「……あははっ、もう、しょうがないですね。スマホの買い出し、付き合いますよ。週末、空けておきますからね」


 目元に滲んだ涙を拭いながら、彼女は呆れたように、けれど今日一番の柔らかな笑顔でそう言ってくれた。


 こうして、美しき破壊神とのお友達関係と、初めての週末デートの約束を手に入れた僕。

 最悪のすれ違いから始まった二人の物語は、ここから極上の甘い日常へと続いていくのだった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!


ついにお友達から関係をリスタートさせた二人。

スマホを持っていない王子の精一杯のデートの誘いは、

盛大な「しゅらいしさん(甘噛み)」によって威厳ゼロの結果となりました(笑)。


これにて、第二部『反転する世界』は完結となります!


二人の初めての週末デートや、まだまだ続くモンスター学園でのドタバタな日常は、

皆様からの評判や応援の声が多ければ、『第三部』として

続きを執筆したいと考えております。


少しでも「面白かった!」「続きのデート編が読みたい!」と

思っていただけましたら、

画面下部より【★で称える】や【作品フォロー】、応援コメントにて

ご支援をいただけますと幸いです。

皆様の温かい応援が、第三部執筆への最大の原動力となります!

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