【第5話】炭と、パンと、教会の鐘
「へいらっしゃい! ようこそ、空にも昇る極上のパン屋へ!」
威勢のいい声と共に、茶色い肌の大男が振り返る。原始人を思わせる巨躯のパン職人、イルケだ。
「お! リルにミ……って、おいリル! 顔が炭だらけじゃねーか!」
イルケがぎょっとして声を上げた。
しまった。顔についた炭を落とすのを忘れてた!
横でミーナがにやにやと笑っている。……こいつ、まさかわざと黙ってやがったな?
「ほら、とりあえずこれで拭けって」
いかつい顔に似合わず、イルケが甲斐甲斐しく白い布を差し出してくる。
「……ありがとう。あとで洗って返すよ」
俺はごしごしと顔を拭いながら、ミーナをジロリと睨みつけた。
「まぁまぁ、そう怒るなよ」
イルケは苦笑しながら、俺から布を受け取る。汚れは相当ひどかったらしく、布はあっという間に真っ黒になっていた。
そう、俺とミーナは今、町で一番人気のないパン屋に居座っている。
「空にも昇る極上」なんて看板を掲げているくせに、書き入れ時の昼時だというのに客はゼロ。店内にいる生物といえば、人間が一人に、小動物が一匹、あとは野生の猛獣が一頭……ってところか。
……うん、さすがに今の脳内分類は失礼すぎた。忘れてくれ。
「で、今日は何の用だ?」
言いつつ、イルケが俺たちの向かいの椅子にドカリと腰を掛ける。座っていても圧迫感がすごい。
俺は慌てて、持ってきた籠をテーブルへと差し出した。
「実は今日もパンを焼いてきたんだよ。試食してみてくれないか?」
イルケは籠の中身をジロリと見下ろし、無骨な手で一つ掴んで口へ運ぶ。
しばらく咀嚼してから、ニヤリと笑う。
「見た目は最悪だが味は良い。……ミーナに手伝ってもらったな?」
ミーナの腕前を知っているイルケにはお見通しだ。ミーナが横でにやにやしながらこっちを見る。
イルケは「じゃあ何のために俺に食わせた?」と言いたげな顔をしている。俺は観念して理由を明かした。
「実は、村の外れにある教会に持っていこうと考えているんだ」
村人たちが決して近づこうとしない不穏な一帯。そこに孤立して建つ、あの教会のことだ。
イルケの表情がわずかに曇った。
「なんでまた、あんな物騒な場所に?」
そして、リルは答える....
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「気になる子がいるんだ」
......空気が固まった。




