【第1話】世界に殺され続けた俺、ついに世界を殺す
ああ、またか。
視界を埋め尽くすのは、なにもない――ただ、ひたすらに空虚な白。
煙のように立ち込める微睡の中、俺の意識だけがぽつんと浮かんでいる。
「……あぁ、そっか。俺、また死んだんだな」
これで何度目だろう。
数えるのをやめてから、もう数百年は経っている気がする。
この場所に戻るたび、霧が晴れるように「すべて」を思い出す。
そして同時に、救いようのない絶望が、冷たい泥のように心の底へ沈殿していく。
俺は、繰り返している。
死んでは生まれ、生まれては死ぬ――終わらない輪廻の螺旋。
タチが悪いのは、現世にいる間、「前世の記憶」がすべて封じられることだ。
流行りのラノベなら、前世の知識で無双したり、チート能力でハーレムでも作るんだろう。
だが俺には、そんな慈悲は一欠片もない。
あるのは、転生のたびに課される、あまりにも理不尽な「世界の悪意」だけ。
「……次は、どうして死んだんだっけ」
記憶の糸をたぐる。
直近の人生。それは、魔法が文明の礎だった世界。
だが俺に与えられた魔力量は、赤子の産声ひとつにも満たないスズメの涙。
まともな職にもつけず、路地裏で泥水をすすり、誰にも看取られぬまま飢え死んだ。
……情けない。笑えない冗談だ。
その前の人生は、もっと酷かった。
産声を上げる暇もなく、落雷に貫かれて母親ごと焼き尽くされた。
――生後数秒の人生。
俺の魂にはもはや、「不運」なんて言葉じゃ足りない。
まるで、世界そのものから拒絶されているみたいだ。
あぁ、母さん。
あの時は本当に、すまないことをした。
「……次こそは、なんて。もう、めんどくせぇよ……」
何もしたくない。
このまま、この白の虚無に溶けて消えたい。
そう願っても、システムは俺の休息を許さない。
思考が薄れていく。
――どうせまた、何かを奪われて生まれるんだ。
次は、足がないのか。
目が見えないのか。
それとも、愛してくれる親がいないのか。
期待するだけ、無駄だ。
俺はただ、「次の死」を待つために生まれるだけなのだから。
……だが。
一万一回目――その産声を上げる直前。
――ドクン。
いつもなら俺を濁流のように押し流すはずの「転生の摂理」が、奇妙な音を立てて軋んだ。
――《 警告。因果律の蓄積が限界値を突破しました 》
――《 累積した “世界の悪意” を、個体識別名:『俺』の固有能力として再定義します 》
「……は?」
真っ白な視界に、黒いノイズが走る。
これまで俺を殺し続けてきた「不運」――「欠陥」――「絶望」。
それらすべてが、濁った黒い熱になって、魂へと逆流してくる。
遠のく意識の片隅で、確かに聞こえた。
世界が、初めて「悲鳴」を上げた声を。
鼓動が跳ねる。
魂が新しい「器」に押し込められていく。
熱い。苦しい。
濁流に飲み込まれるように、意識が遠ざかっていく。
「……おぎゃ……ぁ、おぎゃあああッ!」
嫌悪を吐き出すような、激しい産声。
その音と同時に、俺の意識は再び真っ白に塗り潰された。
――そして、俺はまた「世界の否定」を背負って、新しい地獄――リルベット・フィルリアとして、産み落とされた。




