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第9話 魔王、人間を助ける

 今なんて言った?

 イジメられている弱っちいあいつが……魔王って呼ばれているだと?


「待て待て待て待て!なんで魔王なんだ?他に呼び方あっただろ?」

「知らないわよ!私が名付けたわけじゃないし!」

「じゃ誰だよ?あいつのことを魔王って名付けたバカは?」

「分かんないわよ!」


 ふざけるなよ。俺が魔王だぞ。

 あんな雑魚3人組にやられているやつが魔王だなんて風評被害も甚だしいぞ。

 俺は「むむむっ」と怒りを感じながら、床に倒れたまま動かない茶髪のショートカットの女を睨む。

 立て!魔王と呼ばれているなら立ち上がって人間なんて抹殺しろ。


「おいおい!俺が憎たらしいだろ?ムカつくだろ?俺を呪ってみせろよっ!」


 男たちは挑発するが、女は何もせず、ただ床に伏せているだけだ。

 それを見た男たちは嘲笑う。


「俺はまだピンピンしているぜ!ぎゃははははっ!魔王も大したことないな」


 はぁ?


「ていうか、勇者が倒した魔王って、ほんとにスゴいやつだったのか?」

「案外雑魚だったんじゃないか?皆全人類が恐れていたとか言われているけど、結局勇者に殺されたしよ」

「俺さ一回街中で勇者を見たんだけど、なんか金髪の姉ちゃんに殴られていたぜ。それでしばらくのびてた」

「はははっ!女に負けるのかよ。勇者ダサすぎるだろ!」

「英雄ってチヤホヤされている割にはなんかパッとしないおっさんだったな!なんかフツーに勝てそうだったし」

「えーマジかよ。んじゃその勇者に負けた魔王はめっちゃくちゃ弱かったんじゃね?」

「ははっ!だな!そうだ今度俺たちで勇者を袋にしてボコボコにしてみようぜ。女にやられるぐらいだったら俺たちでも楽勝で倒せるだろ?」

「お、いいね~」


 俺は男たちの馬鹿げた会話を聞きながら、体がカッと熱くなるのを感じた。

 ふざけるな。

 魔王が雑魚だと? めっちゃ弱いだと?

 ふざけた発言をする野郎どもに怒りで顔が真っ赤に染まっていく。

 いくらイジメをしてもいい。勇者をバカにしてもいい。

 だが、人間風情が魔王を茶化すだけは許さんぞ。


「貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!」


 気づけば俺の体は動いて、叫びながらあいつらのところへ走っていた。その声が響き渡ると、「うお!なんだよ!」と奴らは一瞬驚いたようにこちらを見た。

 俺は全力で地面を蹴り、奴らに向かって一直線に飛び込む。そして男どもの一人にドロップキックを叩き込んだ。


「ぐわっ!」


 男は一撃で吹き飛び、勢い余って床を転がっていく。しかしそれだけでは俺の怒りは止まらなかった。

 俺は立て続けに次の標的に向かって攻撃を繰り出す。


「小さき雷よ、我が命じるままに閃け……雷弾(サンダー)!」


 手を広げて、詠唱をする。

「バチンッ!」と乾いた音とともに、青白い稲妻が広げた手から放出する。


「ぎゃあああああっ!」


 稲妻がやつの腕に直撃した瞬間、イジメっ子は感電したようにビリビリと震え、その場に崩れ落ちた。手元に電気の残響を感じながら、俺は息をついた。

 だがまだ終わっていない。最後の一人が怯えた目で後ずさりしている。


「お、お前は勇者の息子っ!?」

「貴様らの罪はデカいぞ!」


 魔王という偉大な存在を侮辱した罪がな。

 

「お前!お、俺ら精鋭組だぞ。お前より年上なんだぞ!?喧嘩売って、どうなるか分かっているんだろうな!?」

「知ったことか」


 男の声は震えていたが、俺は冷たく返事をする。


「な、なら教えてやる!俺らに喧嘩を売ったら、俺たちの仲間が」

「小さき雷よ」

「お前を襲って……き……て」

「我が命じるままに閃け」

「やめてぇぇぇぇ!俺、痛いの苦手だから!お前のパパをバカにしたことは謝るから許してぇぇぇ!」


 俺に向かって土下座をするが、無視する。

雷弾(サンダー)」と言いかけた途端、


「す、すみません、こいつバカなんです!ほんとに!」


 ノノが俺の頭を叩き、必死に頭を下げている。


「何するんだ!?こっちはコイツを痛ぶるので忙しいだよ!」


「邪魔するじゃねぇ」と俺は怒鳴るが、ノノは俺の頭を「バカバカバカ」と何度も引っ叩く。


「本当にこいつの仲間が襲ってきたらどうするのよ?」

「そんなの倒せばいいだろ?」

「出来るわけないでしょ?精鋭組なのよ!考えて行動しなさいよ!脳みそクルミぐらいの大きさしかないんじゃない?」

「はぁ!?脳みそめっちゃデカいに決まっているだろ!てかなんで貴様はこんな雑魚にペコペコしてるんだよ!?そんなんだからお前は小物なんだよ!」

「なんですって!苗木枯らしたくせに!」


 俺とノノは言い争いをする。こいつとは本当に馬が合わない。

 互いを睨み合っていると、その隙に「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」と男が逃走。


「おい!どこへ行く!?逃がさんぞ!」


 俺が追いかけようとするが、「やめなさい!」とノノが羽交い締めをして追跡の邪魔をする。

 相手は逃げ足が速く、見失ってしまった。

 くそ……仕留め損ねた。小物のやつ許さんぞ。

 ノノを睨んでいると、ノノは床で倒れている茶髪のショートカットの女に手を差し伸べていた。


「大丈夫?……リルエットさん」


 リルエット。

 どうやらこいつの名前のようだな。

 ノノの問いかけにリルエットはこくりと頷いた。


「ありがとう……」


 そしてゆったりとした口調で感謝した。


「お礼を言うなら私じゃないわ。こいつよ」


「私何もしてないし」と言いながらノノは俺のほうを指差した。

 するとリルエットは俺のほうをじぃーと見つめた。

 俺もこいつのことをガン見して観察していた。

 肩まで伸びている茶髪はショートカットで毛先がくるって巻いている。髪と同じ色の瞳は瞼が少し落ちていてなんだか眠たそうだった。

 見た目はどこにでもいる普通の女。

 美形で完璧なボディを持つ魔王とは程遠い。


「ありがとう……ユウ」

「勘違いするな。別にお前を助けたわけじゃない」


 人間に感謝されるなんて不快だ。


「カッコつけちゃって。素直に「どういたしまして」とか言えないの?」


 エナはやれやれと肩をすくめながらため息を吐いた。


「俺たちには関係ないって言っておきながら、結局、助けたじゃない?」

「何度も言わせるな。俺は助けたんじゃなくて、イライラしたからあいつらを殴っただけだ」

「はいはい、そういうことにしてあげるわ」


「素直じゃないね〜」とノノがからかっていると、騒ぎを聞きつけた足音が近づいてくる。そして突然、背後から声がかかった。


「お前ら!何をしているんだ?」


 振り向けば、そこには教師が立っていた。

 顔には明らかに不機嫌そうな表情が浮かんでいる。俺とノノは一瞬で状況を理解した。

 周りにはさっきまでイジメていた男子生徒が倒れている。

 ここで捕まれば生徒暴行の罪でまた怒られるだろう。

 それだけは避けたい。


「やばい、ユウ。ここから逃げるよ!リルエットさんも」

「お、おい」


 ノノが焦った様子で俺とリルエットの腕を引っ張り、走り出した。

 意外に力が強く、俺はノノに引きずられながらその場から逃げた。



 ……あ、「俺が魔王だ」ってイジメっ子(あいつら)に言えばよかった。

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