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奴隷商 2

楽しんでいただけましたら感想やレビューなど、何でもいいので拡散していただけないでしょうか……!

よろしくお願い致します!!!

「マユ……本当に良かったの?」

 もし、様々な方法で死んでしまった彼らが本当に移送屋だったら、領主に楯突くことになってしまう。

 そのような展開はマユの嫌うところだ。

 マユはいつも奴隷商をやっつけては可哀想な身寄りの子供を村に返していたりするけれど、それは相手が奴隷商だとしっかりと判断してから行なっていたはず。

 今回のように確認もせず行動に移すのはマユらしくない行動だ。

  しかし、マユは不安な素振り一つ見せず子供たちの元へ歩み寄っていった。

 私は不安な気持ちを抱えつつ、子供たちには不安な表情を見せまいと、優しげな表情を作ってからマユの後に続いた。

「家は?」

 マユが尋ねると、子供たちは震えながら涙を流し始めた。女の子が一人泣き始めると、子供たちは涙につられてしまったのか誘われたかのように次々と涙を流し始めた。

 雪のふる静かな大地に子供たちの泣き声が響き渡る。

「大丈夫?」

 私は一番小さな子に歩み寄り、その子の頭を撫でてやった。

 年は多分、私と同じくらいだろう。

「あなたは誰ですか?」

 少し背の高い男の子がマユに訪ねた。

「安心しろ。奴隷商ではない。お前たちを元の家に返してやる」

 マユの言葉に──しかし、男の子は険しい顔をしたままだった。しっかりした子だ。

 私はマユに駆け寄ってマユの服を掴んだ。

「大丈夫。アカは優しいよ?」

 マユの怪しさを私が緩和する。私はこれを勝手に私の仕事だと思っている。実際、これをすると相手の表情がコロリと変わる。

「……そっか」

 男の子の表情が柔らかくなった。

「家は?」

「ここからさらに北へ行ったところなのですが、もう攫われてから三日程移動してきてしまって……。細かくは分かりません……」

 そうか。

 マユはそう言うと立ち上がり、馬車の方へ行って馬を撫でた。

 馬はブルルと鼻を鳴らした。

「乗れ。君たちの村へ帰る」

 マユはそう言って御者の椅子に座った。

「行こ?」

 私はそう言って子供たちを促し、全員が馬車に乗ったことを確認すると、マユの隣へ座った。

 私が腰を下ろすと、マユは一瞬私のことを見た。

 私には分かるよ。「子供たちと一緒に荷台に乗れ」とでも思っているんでしょ。

 嫌。私はマユの隣りにいる。どんな時も。


──


 子供たちは家に帰れることを理解すると、とても楽しげな声を聞かせてくれた。荷台から笑い声が聞こえてきて、私も思わず笑顔になった。

「ねぇマユ。ありがとう」

 私はマユにお礼をした。マユは何も応えないけれど。

 その時だった。私はとある感覚を覚えた。

 この感覚には覚えがある。これは──

「マユ、向こうに聖剣がある気がする」

 マユは私が指差した方を見た。そして、馬車を止めた。

「どうしたんですか?」

 荷台から男の子が顔を出した。マユはそれを見て少し考えると、男の子に言った。

「君、聖剣、欲しいか?」

 マユの問いかけに男の子は目を輝かせた。

「え!? はい! 欲しいです!」

 マユは問いかけた。

「どうして?」

「え、どうしてって……」

 男の子は一瞬戸惑ったが、すぐにマユの目を見つめて答えた。

「僕の村には聖剣がないから、皆コソコソと隠れながらの生活を強いられてる。でも、僕が聖剣をもって強くなれば、皆のことを暗闇の中から連れ出すことができるから」

 マユは男の子のことをその静かな目で見つめ返すと「分かった」と答えた。

「じゃあ考えろ。自分にふさわしい聖剣はどんな聖剣か。どんな聖剣なら彼らを守ることができるのか」

 と、言いながらマユは人差し指を立てた。

「聖剣までの距離は、おそらくここから三十分程度だ。この三十分が君の人生の大半を決める。しっかりと、深く考えろ。後悔のないように」

 マユの静かだが意思に満ちた眼差しに、男の子の目つきが変わった。

「分かりました」

 男の子はそう言うと、馬車の中に戻っていった。

「マユ。ありがとう」

 私はまた、マユにお礼を言った。

 マユは応えなかった。


──


 聖剣はあった。

 大きな岩に突き刺さっていた。誰にも引き抜けなさそうな程に、深く、深く。

 しかし、あの聖剣は抜くことができるのだ。

 私にも。男の子にも、子供たちにも。誰にでも。


 ただ一人、マユを除いて。


 男の子は岩の上に登ると、一つ息を呑んでから、聖剣の柄に手をかけた。まだ、誰にも握られたことのない聖剣の柄に。

 そして、ゆっくりと、金属の擦れる音を鳴らしながら、引き抜いていった──。

「これが……聖剣……」

 聖剣は淡い光を放っていた。

「振るってみろ」

 マユが言うと、男の子は静かに頷き、聖剣を頭上に構え、そして、振り下ろした──


 その英雄は誰よりも光を望んでいた。

 聖剣のない村に生まれ、聖剣の脅威から逃げ隠れるように生活していた幼少期。

 英雄は村を救うために聖剣を手にした。

 自らの聖剣で村に光を──


 男の子が振るった聖剣は弾けるように鮮烈な閃光を放った。

 マユでさえも、突然の閃光に目を覆った。

 

 世界を救う四人の英雄の一人。

 

 『煌々皇ラスバン』はこの日に生まれた。

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