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どこにでもいるような少年だった。
ただ、人より自分に自信がなかった。
いつだって、自分には何もできないと泣いていた。
そんな彼が六歳になった。六歳になった彼は聖剣の儀に参加することになった。
聖剣の儀。それは
「次の勇者は誰だ。次のモノロは誰だ」
などという謳い文句を述べて子供達に聖剣を引き抜かせ、
『うちの子供の聖剣の抜き方は男らしかったぞ!』
『うちのコはきっと聖女になるぞ!』
などと言いながら酒を飲むお祭りだ。
『聖剣を引き抜いて喜ぶ子供を肴に酒を飲もうよ』
それが聖剣の儀。
その日、少年は聖剣の儀に参加するため、ホリタ国の首都であるホリタを訪れていた。両親やその仲間たちが酒を飲むための肴として連れてこられた。
少年の友人達も連れてこられていた。
「なんだよ、今さら聖剣を引き抜くって。そんなんいっつも使ってんだから引き抜けないわけないじゃんか」
友人達はそう言いながら、大人の思い通りに動かされていることに対して愚痴をこぼしていた。
「……抜けなかったらどうしよう」
「は? お前もいつも家で聖剣使ってんだろ? 抜けないわけないじゃん」
「で、でも……」
「お前ほんと弱虫だよな」
友人達はそう言って、聖剣を引き抜く列に並んだ。
少年もおどおどと周囲の馬鹿騒ぎに怯えながら列に並んだ。
そして、聖剣の儀が執り行われた。
勇者は次々に生まれていく。聖剣は──もうほんと、悲しいくらいに、ズポズポと。
抜き差し。差し抜き。ズポズポ。
──初めの勇者モノロはこんな言葉を残している。
『人は誰でも勇者になれる。その小さな足を一歩前に踏み出せば、君はすでに勇者だ』
素晴らしい言葉だ。勇気をもらえる言葉だ、
……聖剣がズポズポじゃなかったらな。
聖剣の儀、なんてカッコつけた名前してるのが烏滸がましい。
正直に言え。聖剣抜き差し体験会と。
そして、少年の番がやってきた。少年は聖剣の柄を握った。数多の少年少女の手垢と、大人達の酒欲に塗れたその柄に。
その聖剣の名前は『選別の聖剣』
初めの勇者モノロが実際に使用していた聖剣だ。とても貴重なものに触れることができるので、聖剣抜き差し体験会にも意義があるのかもしれない。
『選別の聖剣』の能力は、『聖剣を握ったものが勇者にふさわしいかどうか選別する能力』だ。
少年は荒い息をしながら手に力を込めた。
抜けなかったらどうしよう。
ズポズポと抜き差しされる哀れな聖剣を目の前で見ていたのにもかかわらず、少年はどうしても不安になってしまった。
少年はどうしてこんなにも心配性なのだろうか。
そして、少年は聖剣を持ち上げた。
「っん。……あれ? っん! っん~! ……あ、あれ? っえ? っえ、んー! んんんんー! え? いやあれ? え? な、え? っふん! ふん! え? なんで? え? んー! んんんんんんー! え、いやあの、ちがくて。いや、違くて! へえ? いやふざけてなっ……。ん! ん! やだ、やだやだ、待って! ん! 待って待って? ん! え? え? やだ待って……! ん! ひん! えぅ……あぁ! あぁぁ!!! んんん!!! え? ゆんんんんんんんんんん!!!!!!」
──
「な、なーんてね?」
少年はそう言った。
「なんだ。演技か」
「つまんねー演技してんじゃねぇぞ!」
「早く失せろ!」
大人達の野次を背に、少年は聖剣から離れた。
酒飲みたちが小さな少年の背中に罵声を浴びせかけた。
「なんでなんでなんでなんでなんでなんで──────」
少年は罵声から自分を守るように耳を塞ぎながら聖剣から逃げた。
※『Miserable Mayu 』という新聞は、由緒正しき聖剣の儀でめちゃくちゃスベった哀れな少年を嘲笑する記事だったという……。