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『Miserable Mayu』


 異国にて出版された新聞の見出し。とある少年の写真を載せて、その新聞が配られた。


 それは、世界で唯一人、聖剣を抜くことができなかった少年についてだ。


 聖剣で全てが成り立っているこの世界において、聖剣を抜くことができない、使えないというのは、何よりも重い疾患だ。


 聖剣をひねれば水が出て、聖剣を叩けば火が出る。聖剣を押せばインターホンが鳴り、聖剣を回せば洗濯ができる。


 他にも、聖剣を振ったら斬撃を飛ばすことができたり、空を飛んだりすることができる。


 そんな聖剣でできた世界で、彼は聖剣を使えない。


 性別、身長、体重、聴覚、視力、血液型、聖剣検査。赤ちゃんが生まれた時に行う検査だ。その聖剣検査に彼は引っかかった。


 聖剣検査は実のところ検査などではなく、始まりの勇者であり、『選別の聖剣』の所有者である勇者モノロの加護を受けるために行われるお祈りのようなものだ。


「勇者モノロのご加護を」


 そう唱えながら赤ちゃんの額に聖剣の欠片を押し当てる。すると、聖剣が光り輝き、勇者モノロの加護を受けることができる──と考えられている。


 お医者さんも何が起こったのか分からず五回くらいやり直したそうだ。「あれ? 壊れた?」とか言って。聖剣に壊れることなんてありえないのに


 それはそれはシュールな光景だ。いや、当事者たちにとっては笑い話ではなかっただろうけれど。


 だって、先ほども言ったけれど、この世界で聖剣を使えないのは何よりも重い疾患なのだから。


 だって、誰も聖剣を使わない暮らしを教えることができないのだもの。


 ──彼は隠された。


 マスコミが彼の両親を囲んだことにより、彼の両親は気が滅入ってしまい、彼を隠した。


 彼は家から出ずに幼少期を過ごしたという。


 それから、彼のその後を知るものはいない。噂によれば、人知れず山奥で暮らしているというが、いまだにどのマスコミも彼の今の姿をその目に捉えることができていない。


「……そうなの?」


 私は目の前の男に雑誌の一ページを見せた。いや、正確に言えば一ページの半分。


 今や忘れ去られてしまった『Miserable Mayu』について、誰かが思い出したようにつらつらと書き連ねた穴埋めのような半ページ。


「……」


 男は何も言わなかった。何も言わずに、ただただ焚き火を眺めていた。


「……嘘もここまでいけば面白い。嘘をつくならはこうでなくっちゃ」


 私はそう言って、雑誌を閉じた。


 彼の真実はもっと酷い。酷いというか、目も当てられない……──

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