第一章3話 ♡人助けをしてこそ魔法少女♡
時がまるで止まるように周りが動かなくなるような感覚。圧倒的な力を持つ者のオーラとはこれ程までに威圧的なものなのだろうか。
出会っただけで自分の手には届かないことが分かる美しい容姿の少女が二人の魔法少女の真上にいる。
腰まで届く長いピンク髪をひとつにまとめ、碧色の右目と黄色の左目が輝いている。とても整ったその顔立ちからは女性としての美しさと健気な可愛いらしさが同居し、見る者全てが目を向けてしまうような不思議な魅力を醸し出している。
身長は158cm程度。白色をベースにした魔法少女としての服装は華美な装飾をせず、その絶妙なシンプルさが逆に周りに圧倒的な存在感を示している。しかし、そんな一見完璧に見える容姿とは裏腹に頭頂部にクルッとしたアホ毛が一本生えているのが何処となく、ギャップ萌えできるポイントになっている。
「あなた、本当は正義の魔法少女ではないでしょ。今すぐそのオレンジ髪の子から離れなさい!」
どうやら、彼女はミャウの正体を見破っていたようだ。なぜ正体を見破ることができたのかは不明ではあるが、とりあえず彼女に命を救われたことには感謝しよう。
「た、助けてぇ! この魔法少女、グランドストリートのメンバーなのぉ!」
オランチアこと義春は口を開けて大声で叫んでピンク髪の魔法少女に助けを求める。
彼女はオランチアの救助の声をもう一度、耳にすると右手を挙げて巨大な魔力の弾を放出した。
「ピュギューーーン!!」
オランチアの命を狙うぬいぐるみのような姿をした魔獣たちは彼女の放った弾によって全員焼かれるように灰になっていた。あまりにも広範囲に燃えたのでオランチアは怖気づいてしまった。
「どうやら、あなたにも強力な味方がいたのですね。」
そのまま、浮遊するように下に降りてきて、キラッと先端が光り輝く手刀を脇の矛から取り出す彼女。
ミャウはピンク髪の子が降りてくると標的を私から彼女へと変更させた。顔の表情から徐々に余裕が失われていくミャウ。やはり、強い魔力を持つピンク髪の子の殺気に内心ビビッてるんだろうなぁ。
「私を威嚇して真っ向勝負とは……。あなた調子に乗っていませんか?」
「いえいえ、調子に乗ってなんかいないわよ。」
ピンク髪の子がとても自信ありげな微笑みをミャウに見せる。ミャウはハサミを開き、彼女の肉体を真っ二つにするための構えを取り、それに対してピンク髪の子は手刀を右手に持ち、左足を少しだけ前に寄せる。
最初に攻撃を仕掛けたのはミャウ。やはり、足の素早さは私よりも圧倒的に速い。もしアニメで見た攻撃動作を知らなかったら、もしピンク髪のオッドアイの少女に助けられなかったら、もう俺……私はこの世界で死んでいただろう。
「さあ、そのままここで命日になっちゃえ!」
ミャウの本気を込めた瞬発力がピンク髪の子に向かって飛んでいく。巨大なハサミがシャキシャキと音を立てながら刃の先を鋭く光らせ、その大きな口がパクリと獲物を喰らおうとする。彼女はそんな凶器を前に何一つ臆することなく、切られる瞬間を見極めて身軽に回避していく。
「あなたは悪の組織に加担した魔法少女。しっかりと連行するので後で事情を聞かせなさい。」
「ちっ。」
ピンク髪の子はその圧倒的な素早さでミャウの攻撃を躱していく。ミャウはさっきまでの大人しい性格からは想像できないような顔で彼女を睨み付け、魔法を使った。
「喰らえっちまえよぉ! このアホ毛女ァ!!」
ミャウが詠唱をすると、近くの土が溜まっている場所からドバっと土の塊が現れた。土の塊はそのまま宙に飛んでいき、周辺に飛び散っていった。
「この【魔動技】で生み出された土に触れると身体にこびりついて、上手く動けなくなるみたいだね。」
「うふふ。今度こそあなたは終わりです! その魔動技の相手の動きを封じる力は非常に強いんだから!」
ピンク髪の子は泥になった土の塊を浴びた。ミャウはその隙を逃さず、そのままハサミで彼女の肉体を真っ二つにしようと攻撃を加えようとする。
「どうですか!? 全く動けないでしょぉぉぉおおおおお!?」
ミャウの妨害魔法と一撃の必殺のステッキによって彼女の肉体は真っ二つにされて終わるだろう。私は彼女に助けてもらおうとしたが、逆に私が彼女を助けないといけない状況になった。しかし、今の状況で攻撃しようと思っても、間に合わない!
そんな! せっかく助けに来てくれた女の子を死なせてしまうなんて……。
「あなた、それなりに戦法は良いけど……。私にはあまり意味がないわ。」
オランチアが助けに来てくれた子を犠牲にしてしまうと悔やんだ瞬間、彼女の体に付着した泥が全て消え去った。そして素早く全身を動かしてミャウの死角に入り、そのままミャウの腹部に短刀を突き刺した。
「うッ! ぐっふ、ぅぅうう!! な……なぜ……。」
ピンク髪の子はすぐにミャウに刺した短刀を抜き、そのまま後ろに飛び跳ねて短刀に付着した血をポケットに入っているハンカチで拭く。短刀を突き刺されたミャウはそのまま、膝をつくように倒れた。
ピンク髪の子は倒れているミャウをローブで縛り上げ、動けないようにした
「くッ! この私がこんな……簡単にやられるなんてッ……!」
「とりあえず、ここで死んでもらっては困るから少し治療だけはしとくね。」
彼女の使う治癒魔法で胸に刺された傷を癒した。ローブには魔力が込められており、魔力を持つ人間でも身動きできずに無力化させる力が込められている。
彼女はそのまま、ローブでミャウを引っ張って連れて行こうとした。
「とりあえず、君の命は助かった! 魔法少女として人命救助ができて私とっても嬉しい! あっ! よく見るとあなたも怪我をしているようね。」
彼女はリベアナにやられた私の右腕を治癒魔法で癒してくれた。
「あ、ありがとうございます。あなたがもし、ここに来なかったら私とっくに死んでました……。もう私にとってあなたは命の恩人です!」
「それなら、良かったわ! 私の名はヨゾラ。 ホシノヨゾラが正式名だけどヨゾラって呼んでね! この子を署まで連行したら一緒にセンター行きましょうよ。」
「い、一緒に行きます! 私はオランチア! つい最近、魔法少女としてデビューしたばかりの新参者ですがよろしくお願いします!」
ホシノヨゾラ。実は【果実の魔法少女たち】や他の自分が好きだった魔法少女モノの作品でも聞いたことのないキャラクターである。恐らくこの異世界独自のオリキャラといったところか。
まあ、このオランチアという魔法少女自体も元の作品には存在しない魔法少女だし、割と独自設定が多く含まれているなァ。
「まあ、女の子キャラなら可愛ければ問題無しっと!!」
オランチアがオリキャラの良さについて自身の脳内で自分自身と語り合っていると、何者かが目の前に現れたような感覚に襲われる。ヨゾラも何か起こったのか分からず、近くを振り返る。
「あれ? ミャウが……。」
縛っていたローブごと、姿を消す彼女。まさか……。
「残念だったな。」
ミャウをそのままお姫様抱っこするかのように持ち上げる一人の女性。リベアナと同じく赤い瞳と金髪が目立つ身長170㎝近くの体格の良い女性が彼女の身柄を開放した。彼女の名はビアンコ・イーシュリン。リベアナの実の姉である。リベアナとは違い美人系と言った子で彼女よりも日焼けている褐色肌が特徴の子だ。服装はちょっとパーカーが似合ういかにもギャルの子という姿である。
「あぁ! ビアンコ様!」
「ミャウよ、ここは一旦退散するぞ。」
「で、でもぉ! リベアナちゃんがあのオレンジ色の雑魚に殺されちゃったの!」
ミャウがビアンコにそう言うと、彼女が私の方を睨んできて煙幕のようなものを放ってきた。
私はすぐにその場を後ずさりすると、煙幕の中から火を放つ銃弾のような鉄の塊が私の顔面に飛んできた。
「ひ……ひぃ!」
「アル・ストレイア!!」
弾丸が私の目の前に飛んでくる瞬間、その火を放つ銃弾が停止し、そのまま止まって私の前に転がり落ちる。どうやら、ヨゾラの魔動技の効果であろう。
「くっそッ!!」
煙幕が晴れるとビアンコもミャウも既に私たちで追いつくことのできない距離までいた。二人とも物凄い速さでその場を去っていく。
「オレンジ髪ッ!! てめぇの身元も暴いて家族諸々ブチ殺してやるから首を洗って待ってろッ!」
最後にそんな感じの捨てセリフをビアンコが吐いていった。
まあ、身元明かされても家族はこの世界にはいないし、自分の家もあるかどうか分からない状態の自分にとってはあまり意味のない脅しなんだけどね(笑)。
「逃げられちゃった……。どうしよう……。」
「大丈夫! とりあえず、あなたが無事だっただけマシだよ! 私にとっての最大の重要課題である人命救助はできた訳だし!」
そうだよね。彼女がいなかったらもう死んでたわけだし。
「助けてくれて本当にありがとうございますッ!!」
オランチアはヨゾラに感謝の気持ちを伝えた後、彼女に誘われた通りに一緒についていくことにした。