第一章2話 ♡人形とおしゃべり♡
戦闘が終わり、オランチアの足元にあるリベアナの姿をした人形。おそらく、自分が撃ったビームによって人形の姿に変化したと考えることができる。
「すっすげぇ……。このビームで相手を人形にすることができるんか……。」
俺はとりあえず、リベアナの人形を左手に持って、スタート地点とも言える家に戻るために行きの道に歩いていこうとする。
右腕の鎌で刺された傷からポタポタと血が垂れている。殴られた痛みが癒えない状態でいつ何かに襲われるか分からないような場所で留まることはできない。
『おい。聞こえてんのか。変態魔法男。』
「え? 誰?」
『私だよ。』
オランチアは自分の近くから人形になったはずのリベアナの声が聞こえてきたため、人形を凝視する。
『お前に人形されてんだよッ!! 早く元の姿に戻しやがれよ!!』
声の発信源はやはり人形からだ。俺は突然、テレパシーを脳に送られるように声が聞こえたのでビビって人形を思わず手放してしまった。
「はぁはぁ……。お前、まだ生きてんのかよ……。」
俺は少し体をビクビクとさせたが、リベアナの人形が動き出すことはなく、ただテレパシーを送ってくるだけなので、安全を確認した後、もう一度手に取って持ち歩くことにした。
『くくく……。私を今すぐ元の姿に戻せば、命だけは見逃してやる。この状態異常の魔法はいつ効果が切れてもおかしくないんだからね。』
果実の魔法少女たちに出てくる人を蛙や虫に変えるような魔法は大体三日が経過すると元の姿に戻る。そのことからリベアナの人形を今すぐ元の姿に戻さなくても時間が経てば戻れる……はず……。
「そうか……なら魔法が使える人が住んでいる安全な場所で解除しよっと……てか、解除方法あの子教えてくれなかったから分からないけど。」
リベアナの人形にそう伝えると、彼女から罵倒するようなテレパシーが送られてくる。
『はぁ? さっさと戻せねってことは私に殺されたいってことでいい? お前なんて私の組織の部下よりも弱ぇくせに……。 たまたま不意打ちでビーム当てられたからって次はないからねッ!』
おぉ。リベアナのツンデレ最高ッ!! ツンデレ自体は俺に刺さる属性ではないものの、可愛い顔の子にこんな態度されて嬉しい男はいない! 今日からこの人形をたっぷり可愛がろう!
「リベアナちゃん大好き♡ チューしよ♡」
『きっしょっ!!』
俺は魔法少女の姿で彼女の頬に軽くキスをする。リベアナの人形からは何故か人間の体温のような生暖かい感触があり、人形にされても彼女は死んでいないということを実感することができる。彼女は嫌がる声をテレパシーで送ってくる。
『てめぇ……! 一緒に来た私の部下にそのまま真っ二つにされっちまぇ!!』
「ふふふ……。リベアナちゃんって口が悪いけど、私はそういう強気な感じの美少女も好みだよ!」
どうやら、彼女の仲間が近くにいるようである。早く逃げないと今度こそゲームオーバーになってしまう。既に私は怪我を負っている上にグランドストリートは様々な悪の組織の中でも取り分け強力な部下を従えていることが多いからだ。
「じゃあ、尚更ここから離れないとやばいじゃん」
魔法少女の姿のまま、義春が急いで郊外から戻ろうとした時、後ろから誰かの足音が聞こえてくる。
「あら、やはり魔法少女さんですね!」
振り返ると黒髪のお団子ヘアーと赤いゴスロリ衣装の可愛い女の子がいた。髪に付けているヘアピンと首に付けているネックレス。脇出しワンピースのミニスカが特徴的。顔面点数は78点。俺好みのおっとり系。しかし、この子には見覚えがある。
「あ…あなたは……ミャウ……?」
ミャウはアニメの中盤に悪の組織に寝返った悪い魔法少女で最終的には組織を壊滅させられた後、刑務所行きになる人物。成人男性くらいの大きさのある巨大なハサミ型のステッキで敵の肉体を真っ二つにしちゃう恐ろしいステッキ使いだ。あの可愛らしい小柄な体型からは考えられないような凶器を使う敵だから、子供の頃にアニメで彼女を見た時はちょっとスリルがあったなぁ。
「はい? 私あなたとどこかでお会いしました?」
ミャウは手に大きなハサミ型のステッキを構えながら、私の顔をじーっと眺める。私の正体を探ろうと勘ぐるような態度を取るが、ハサミを構えているところから私に対して恐らく、敵意がある。何とか誤魔化して今すぐ逃げてやりたいところだが、上手くいくかな。
「ねぇ。 あなたが手にしている人形は何ですか?」
「あっ! いやぁ……これはただの人形ですけど……。」
「見た目は……リベアナちゃんだね。」
『おい! ミャウ! この変態をそのハサミで真っ二つに葬ってくれ!』
リベアナはテレパシーを送り、オランチアがミャウの敵であることを伝えようとする。しかし、彼女の耳にはテレパシーは届いていないのか、リベアナの人形が言葉を発していることにビクとも感づかない。
(どうやら、この人形化の魔法は私にしか声が聞こえないみたい。)
オランチアはミャウにリベアナの声が聞こえないことにほっとする。しかし、ミャウはオランチアを怪しいと警戒している。敵か味方かも分からない突然やってきた魔法少女が同胞の人形を持ちながら歩いていたら怪しいと思われてもおかしくはない。
「とりあえず、あなたが魔法少女であり、ここで活動しているということは何か理由はあるわけですよね?」
「いえいえ、実はここがグランドストリートの管轄だったことを知らなくてうっかりと来てしまったんですよ……。特に何かここでしたりする気はめっぽうございませんのですぐにそのまま帰ります。」
私はなんとか彼女を誤魔化すよう優しく対応をしながら、その場をさっさと抜けようとした。今の体力で彼女とまともに張り合ったところで勝ち目はない。裏切り者で悪の組織と共に敗北するとは言え、それでもかませ犬のような雑魚キャラではなく、立派な強敵としてアニメでは描かれている。リベアナを人形に変えたなんて知られたら瞬殺されるだろう。
「ということで……私は正義の魔法少女ではないですので、ここでおさらばさせてもらいます。あはは……はは……。」
オランチアがリベアナの人形を持ち、そのままミャウに背を向けて帰ろうとすると、
「あなた組織の魔法少女では無いので私に殺されてくださぁい♪」
チョキリと物凄い殺気と同時に飛んでくる彼女。私はすぐにその場をジャンプしてなんとかミャウのハサミの餌食になるのを避けた。
「ひぃッ! 私はあなたの敵じゃないのにぃ!」
怯えながらも嘘を吐くオランチア。彼女にはどうやら、私が敵であるということはお見通しのようである。
「嘘を付く悪い子にはお仕置きですねぇ。その人形はどう考えてもリベアナちゃんですよね。」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃぃいいいい!!
私は心の中でそう叫びながらも必死で人がいる街まで逃げようとする。しかし、私が戻ろうとした道にはぬいぐるみのような姿をした遊園地のマスコットのような姿をした魔獣がウヨウヨと私の方を向きながら待機している。どうやら、そう簡単には見逃してくれないようである。
「あのの、すす、すいません。本当に死ぬのはごめんなので、今回ばかりは見逃してくれませんか?」
オランチアはミャウには勝てないことを理解していたので、そのまま謝るようにお辞儀をする。魔法少女になれても精神的な部分はごく普通に暮らしてきた男子高校生だったこともあって、立派な戦士としては程遠い言動をする。
「どうやら、その反応からあなたは何かを隠しているようです。殺しはしませんが逃げられたら困るので、その足の片方どっちかを今この場で切断しますね!」
「うわぁぁああああああ!! 誰か私を助けてぇぇぇぇぇえええええええ!!」
もう誰でもいいから助けにきて欲しいと願うオランチア。魔法少女とは本来困っている人や悪党に襲われている人を助けるのが仕事であろう。それなら、俺……いや私のようなか弱い魔法少女を助けに来てくれる魔法少女も存在していいだろうと救いに思いを寄せる。
「――ちょっと、そこの二人。止まりなさい!!」
哀愁漂うすじ雲が広がる空の上から聞こえる少女の声。その声はまるで透き通るように澄んでいるような和らぎを与える。