プロローグ 『夢の中での出会い』
高校の下校のチャイムが鳴る秋の夕暮れ時。
下校途中に自分の進路のことで悩みながら歩いている男子高校生が一人いた。
「あぁ、このままだと俺は有名大学に進学して楽しい人生を歩むという典型的な勝ち組日本人になれずに埋もれた人生を歩むことになるのかぁ、考えたら嫌な気分になっちゃった。」
俺は【橙木義春】
身長170㎝ちょうどのもうすぐ18歳の男子高校生。
メッシュのオレンジ色の髪型と茶色い瞳がクラスの女子からカッコ可愛いと言われたことがあるぜ。
「まあ、そう言ってきた女子は俺を恋愛対象として見てなかったのはショックだったけどな。」
俺は今、人生の岐路に立たされている。このままではFラン大学に進学どころかそのまま就職しなくてはならない状況ということだ。俺の親が仕送りができる程の貯金が無いらしく、奨学金も借りてはいけないとか言い出したため、そのまま就職コースとして進路担当が俺のことを扱っている。
「あぁ、神よ、この私に尊い人生に導いて頂けませんか。」
高校卒業と同時にそのまま、就職というのは俺には合わない。せっかくサッカー部として頑張ってきたというのにロクな成績も得られぬまま、最後の大会も終わってしまい、スポーツの内申も貰えなかったなんて苦痛以外の何ものでもない。
俺はこの人生を凡人として終わらせたくない、何か世界を変える存在になりたいという必死な思いから信者でもないのに帰り道にある大きな教会に入って神に祈りを捧げるという奇行に走る。
幸い教会の中には人がいなかったので変な揉め事を起こすことにはならなかったが、後々考えるとヤバいことをしているなと自分で思ってしまう。
帰宅すると家の中にいる両親から進路のことについて色々と相談を持ちかけられる。その内容はどれも俺にとっては気分の良いものではなかった。
「ちょっと義春。 明日、三者面談があるって学校から連絡があったわよ。うちはお金ないし、奨学金も借りても仕送りはできないからそのまま就職しな。指定校推薦で給付型奨学金なら考えたけど、貸与はダメよッ!!」
「はいはい。 俺が頑張って借金は返すんでだいじょーぶでーっす。」
この後も親とは口論になったが、俺はやっぱり高校卒業と同時に地元の工場やスーパーの店員なんて言う底辺職で終わる器じゃないと考えており、親の意思を曲げてでも進学したい。
「はぁ……。面倒だ。神様が俺に力を少しでも分け与えてくれればなぁ。」
そんなことを考えながら義春は風呂を出た後、昔好きだった魔法少女系アニメ【果実の魔法少女たち】の新作ゲームが発売されるという情報を見ながらベッドの上で寝転がっていた。
※※※※※
「ねえ。」
「……。」
「ねえ君。」
「え……。」
誰かがいる……。
気が付くと俺は一人の少女と共に絵の具で描いたような風景の世界にいた。
水着とセーラー服を合わせたような造形の魔法少女コスに水色の三つ編みヘアーの少女が俺に対して語りかけてくる。
女の子の姿は愛嬌の良さそうな可愛らしい顔立ちをしており、その身体は第二次性徴期を迎え、徐々に女性らしい肉体になっていく段階にいる女の子ような肉付きをしていて、薄く透けているスク水から小さいおへそがうっすらと見える。
「君は……?」
「どこにもいる普通の女の子よ。」
いや、どう見ても普通の子がそんな恰好で宙に浮いているっておかしくないか。
それより、何か理由があって俺に話しかけてきたのか。
「何か用ですか……?」
俺が恐る恐る女の子に声を掛けると彼女はウフフと笑い……。
「君は魔法少女になりたい?」
と返答してきた。確かに自分が子供の頃に好きだったアニメが魔法少女ものだし、今も好きな漫画やアニメ、ゲームのキャラクターが特殊な能力を持った女の子キャラというのは事実ですけどぉ……。
自分が魔法少女になるのはちょっとねぇ……。だって俺、男だし。
「魔法少女好き?」
「大好き!」
「じゃあ、私の力を与えるね。」
「へ?」
そう言うと女の子は手を広げた。そして不思議な光に俺は照らされた。
そして女の子は俺に向かって何かを指示してきた。
「愛の力よ! 私のものとなりて! マジカル・オランチア!」
俺は自分の意思とは無関係に身体が動き、叫んだ。その瞬間、自分の肉体が一切の痛みを出さずに崩れ落ちていくような感覚に襲われて身体が縮んでいく。完全に崩れ落ちた感覚が過ぎると何が起こったのか分からないまま、俺は辺りを見回した。
「可愛い私の眷属の出来上がり!」
女の子は手を振ると、景色全体が鏡のようになり、俺の肉体を照らす。そこに映された自分を見て俺はとても気分が高揚した。
「な………なんて美しい体……。」
髪の毛はオレンジ色で可愛らしいサイドテールをミカンのような形をしたリボン。
服装は全体的に橙色をイメージしており、ちょっとギザギザした先端があるミニスカのフリルとメイド服のような肩回りのドレス。
そして、胸元のリボンについてる不思議な力を秘めているであろうハート型のコンパクトがついている。
「これは凄い! 体がとても軽く感じるぞ!」
「嬉しい?」
「いやあ、最高だよ。 他にも必殺技みたいなものがあれば完璧だけどね。」
「両手でハートを作って思いっきり精神を集中させて見てね。」
「よおし……。 やってみせるか!」
義春はこの素晴らしい身体で次の人生を送ってやると考え、物凄く希望に満ちていた。まるでこんな高揚がずっと続くかのように……。
「それと最後にお願いなんだけど、十二人の子に会ったら集会のお手伝いしたいですってちゃんと伝えてね。」
「集会? 十二人?」
「うん。君ならすぐに会えるよ。 よろしく。」
「え、ちょ」
※※※※※
「…………。 ってあれ……。」
気が付くと小鳥の鳴き声が窓の外から聞こえてくる。
そして、布団から顔出すと眩しい温かい光が義春の顔を包み込んだ。
どうやら、夢の中で不思議な女の子から魔法少女になれる力を与えられたようだ。
「なんてね☆」
俺は少し妙に不思議で生々しさのある夢を見たなと思い、そのまま学校に出かける身支度を始めた。今日はどうやら、父親も母親も仕事が早番のようだ。
「さあ、今日も学校に行くか。 制服がいつものデザインと違うけど。」
そうして、家を出ると何故か今までとは違う光景が俺の周りに広がっていた。一見すると普通の住宅街の様に見えるが、昨日まで俺が見てきた近所ではない。近くを歩いている人を探して周りを確認したら、まるでアニメのコスプレをしているかのような女の子が歩いていた。
「あ……あの、すみません。今日って何かこの辺でコスプレイベントでもやっているのでしょうか?」
「コスプレですか……? さあ……。」
「え?」
「あの、その恰好って……。」
「魔法少女に変身してるだけだよ。今日は学校で魔動技の授業があるから。」
「ま……魔動技……。」
俺はすぐに自分の家に戻って、自分の家の中を隅々まで調べた。良く見たら自分の住んでいる家とは家の構造が違うのである。そして、部屋には魔動技の使い方についての資料の本があった。
魔動技と言うと【果実の魔法少女たち】で一般的に使われている魔法の体系や技の名称である。
「ま、まさか……。」
どうやら、俺は果実の魔法少女たちの世界に迷い込んでしまったようだ。