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廊下を歩きながら、さきほどのことを思い出す。


『愛』の反対は何かという問いがある。安直に答えるなら、『憎』になるのだろう。


ただ、マザーテレサは『愛』の反対を『無関心』だと言っている。俺もこの説には納得だ。


灰銀は、金城以外のすべての人間に『無関心』だった。それによって、宮内たちの灰銀への愛は憎しみに代わってしまったのだろう。


アンチや批判ばかりする人間たちはそういう人間たちなのだろう。嫌いな相手をわざわざ批判するなんてそんな面倒なことはしない。


『無関心』な貴方に気付いて欲しい。


それが根幹にあるに違いない。


まぁ、だからといって、宮内たちを擁護する気はない。やろうとしたことは本当に酷いことだ。


だからこそ灰銀は凄い人間だ。普通なら自分を害した人間を許すなんて発想にはならない。本人には言わないが、器が大きいと思った。


「マジで金城は勿体ないことをしたよな……」


あんなイイ女を振るなんてもったいない。ヒドインの分を差し引いても受け入れるべきだったと思う。だからと言って夢宮が負けてるなんて全く思わないが。


「贅沢者だな」


久しぶりに、誰かを羨んだ。


下駄箱で靴に履き替えると、夢宮との待ち合わせに向かった。だいぶ遅れたから平謝りだ。


「アレ?」


誰もいない。ただ、夢宮の荷物がある。それと━━━


「な、なんで私が走らなきゃいけないのよ……」


怨嗟に似た声が聞こえてきた。疲労のせいで声がブレブレだ。


「進条さん!ファイトです!もう少しでゴールですよ!」


後ろを見ると、冬歩と夢宮が一緒に並んで走っていた。そして、なぜか夢宮が冬歩を応援していた。


「なんだこれ……?」


画像処理が追い付かない。俺は一体何を見てるんだ……?


「もう、無理!」


冬歩はゴールに付くや否やすぐに地面に座り込んだ。


「夢宮さん」


「あ、枯水君!」


「さっきぶり。それでこれはどういう状況?」


死にかけの冬歩を見ながら、夢宮に聞いた。すると、困ったように笑った。


「実は、唯煌ちゃんが来ないので待っていたら、進条さんが来てくれたんです。特訓の最終日だからって」


「へぇ、冬歩が……」


1人(・・)で走り始めようと思ったら、進条さんが『ただ、走って夢宮さんを応援したらいいのでしょう?それなら猿でもできるわ』って言って代わりに一緒に走ってくれたんです」


「……夢宮さん、冬歩の物まねうまいね」


「いやぁ、それほどでも」


てへへと笑う、夢宮さんに不覚にも見惚れてしまった。ごめん、金城。


それにしても、『1人』か……


たった数日しか経っていないのに、夢宮の態度はいい意味で大きくなった。うちの部室に来た時のような卑屈さはだいぶ陰を潜めて、自信がついたように見える。


端的に言うと、イイ女になった。


「お~い、桃花」


「真君!?部活はど、どうしたの?」


夢宮はいそいそと身支度を整える。金城にダサい姿を見せたくないという乙女心だろう。


「顧問に急用ができたらしくてな。部活がなくなった」


「そ、そうなんだ」


「もし良ければ一緒に帰ろうと思ったんだが、まだ走るのか?」


「え、それは……」


夢宮が言い淀んでいる。特訓は今日までだが、せっかく金城から帰りのお誘いがきたのだ。


一日くらいサボっても平気だろう。


「ああ、灰銀さんからの伝言。灰銀さんは今日部活に顔を出せないから、早く帰ってゆっくり休めってさ」


「え!?本当ですか!?」


嘘に決まってる。灰銀は今日、顔を出せないのだから、バレやしない。それは灰銀にバレたとしても先に仕事をサボったのは灰銀だ。責められる理由はない。


「トレーニングはここまで。お疲れ様」


「そ、そうですか!あの、今日までありがとうございました!枯水君も進条さんも」


冬歩は死にかけているので手だけで反応を示した。


「枯水、世話になった。桃花がここまで変わるとは思わなかった……」


「お礼はいいよ。それより、これから頑張れよ?」


「?ああ」


今週の日曜、進化した夢宮に食われることになると思う。ぜひ、頑張ってほしい。


二人がいなくなると、俺と冬歩だけになった。中々回復しないな。


「……大丈夫か?」


「これが大丈夫に見えるなら、瑪瑙の眼は節穴ね……」


「減らず口が叩けるならまだ元気だな。もう一周してくれば?」


「瑪瑙のそういうところ、本当に大嫌い」


「はいはい」


とりあえず、冬歩が元気になるまで待とうか。それにしてもだいぶ暑くなってきた。本格的に夏が始まったようだ。


「……唯煌さんの問題は解決したのかしら?」


「何のこと?」


「宮内さんだったかしら?三人組のグループの女たちと何かあったんでしょう?」


驚いた。まさか冬歩が知っているとは思わなかった。


「カマをかけただけだったけれど、当たりだったようね。少し前に宮内さんたちが来たわ」


「へ~、なんの話をしたんだ?」


「何も言ってないわ。笑顔で中指を立てただけよ?」


「おいコラ……」


その光景を簡単に想像できてしまう。冬歩は本気でキレる時は満面の笑顔になる。


「友人のネガキャンをするような奴らを許すわけにはいかないじゃない。瑪瑙もそうでしょ?」


「まぁな……」


冬歩も俺と同じ側の人間だったな。鏡を見ているようで俺も短気を直そうと思った。今度、あの三人には謝っておこう。


「ま、瑪瑙の顔を見る限り悪いことにはなっていないんでしょう?」


春樹もそうだが、たまに察しがよくなるのは進条兄妹のズルいところだよな。


「まあな。色々話したいことがあるらしいから部活に出れないと言っていたぞ?」


「そう……全く、仕事を忘れて遊びに行くなんて駄目な部員ね。おかげで私が尻拭いをする羽目になったじゃない……」


冬歩は運動が得意な方ではない。だが、夢宮よりはできはずだ。ただ、最後のあの様子を見ると、冬歩と夢宮の体力は逆転したようだ。


それにしても大口叩いて夢宮に介護されていたのは笑えたな。しばらくこれを肴に飯を食べよう。白米が美味しくなる。


「【天狼にシリウス】」


「……なぜ、今、俺を傷つける?」


「なんとなくよ」


良い笑顔してんなぁ……


「今回に関しては唯煌さんのお手柄よ。よくやったと褒めておかないといけないわね」


「……そうだな。MVPがここにいないのが悲しいがな」


「貴方は相変わらず役立たずね」


「余計なことは言うなよ……」


いつもの冬歩の調子にため息が止まらない。灰銀たちがどうなったのか気になるが、それは月曜の教室の空気で分かるだろう。答え合わせはまた来週だ。

『重要なお願い』

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