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夜も遅くなり、もう二十二時に差し掛かろうとしていた。琥珀が泊めていけと言っていたが、明日は学校だ。そんな無茶はさせられない。


灰銀は遠慮していたが、帰り道も暗いし、さっきのこともあるので、送っていくことにした。


「悪いね~送って貰っちゃって」


「それを言うなら俺の方だよ。琥珀のわがままに付き合ってくれてありがとう」


俺は灰銀と琥珀を会わせたかっただけだ。それが琥珀のわがままで夕飯まで一緒にさせてしまって、『お礼』の範疇を超えてしまっていた。


「いい子だね~琥珀ちゃん」


「そうだろ?俺の自慢の妹だ」


俺が母親の中に置いてきた色々なものをすべて受け継いでくれたからな。鼻が高いよ。


「めっちゃいい妹だよ。友達になっちゃった」


「それはなんというか、ありがとう」


灰銀と友だちになれるなんて琥珀はどれだけ徳を積んできたのだろう。普段の行いが実を結んでくれて兄としては嬉しい。


「私、友達いないからね~むしろお礼を言う側だよ」


「たくさんいるだろ?」


灰銀さんが何を言っているか分からない。クラスでいつも中心にいたじゃないか。男女問わず、灰銀の周りには人がいる。


俺の言葉の何が面白かったのか灰銀はクスリと笑った。


「突然ですが、唯煌ちゃんのクイズタ~イム!私がアイドルを辞めた時、仲が良いと思っていた人たちはなんて言ったでしょう?」


「え?」


なんだこのノリ。


「はい、十、九」


考慮時間が短い。別に答える義理もないが、一応本気で考えるか。


「二、一、ゼロ。回答をどうぞ」


「間の数字を大事にして」


イカサマされたせいで思考がまとまらない。とりあえず頭に浮かんだ言葉を伝えるか。


「心配したんじゃないか?」


「ぶっぶー!お馬鹿さんだね~そんなんじゃ私を堕とせないゾ☆」


腹立つな。


俺の前にスキップで躍り出た。


「正解は~『干されたの?』『何をやらかしたの?』『勿体な』『男か?』『今が稼ぎ時なんだけど……』『性格悪いしね』……大体こんな感じかな」


灰銀の表情はここからは見えないが、声のトーンが少し下がっていた。


「酷い人にはアイドルを辞めたあんたに価値はないって言われちゃった」


「マジか」


そんな酷い人間がいるのか。


「直近だと、金城君が夢宮桃花と結ばれたのを歌で祝福しろっていうやつかな。瑪瑙君が気付いたか分からないけど、私がフラれたことを知っててアレを言ってるからね?」


「━━━」


あまりにもあまりな事実に声が出ない。女子たちが怖すぎる。


「私が仲良くしていたと思っていた人たちは、『アイドル』の灰銀唯煌が好きなだけで私にはなんの関心もないんだなぁって悟っちゃったんだよね。あ、でも金城君だけは私を心配してくれたよ?」


金城の話になった時、声が少し明るくなった。


「心根までイケメンなんだな」


「だろぉ?惚れちゃダメだぜ?喜ぶのは深井ちゃんだけだからね」


俺は至ってノーマルだ。


「だから、琥珀ちゃんみたいないい子がファンになってくれたのは本気で嬉しいんだよ。芸能界にいたから分かるけど、彼女みたいな子は貴重だよ」


琥珀の評価がここまで高いと嬉しい。琥珀には負担ばっかかけているから、大好きな灰銀唯煌に褒められるというのは何よりも嬉しいだろう。


「どっかの誰かさんは私の心を揺さぶる天才なんだけどね~」


せっかくいい話をしていたのに、なぜ自分で傷口を広げるんだ……


「大丈夫だよ。夢宮さんには全勝してるから、金城を寝取れるさ」


夢宮さんがアレだけヒロインをやっていたせいで、プライドが傷つけられたのだろう。実際よくやっていると思うし、灰銀を褒めておく。


「瑪瑙君のせいだって言ってるんだけど……?」


「俺?」


夢宮の話をしているのかと思ったら、俺だったらしい。はて、俺は灰銀の自尊心を傷つけたのだろうか?


ジト目で俺を見る灰銀を見ても、心当たりがなさ過ぎる。


「もういいや。改めて、君は私の心を揺さぶる天才だよ。マジで」


「褒められてる気は全くしないな」


「当たり前だろ?褒めてねぇし」


なんなんだ、この女。


「あ、この辺でいいよ。もうすぐそこだし」


「ああ、そうか」


意外と近所らしい。俺の家は学区と学区の境にある。灰銀もそうなのだろう。お互い小・中と結構長い通学路を通ったことが予想できて、勝手に親近感を覚えた。


「それじゃあね」


「ああ」


ここで灰銀と別れたら、明日からは赤の他人だ。灰銀と俺を繋ぎとめる縁も、動機もない。クラスのアイドルと教室の空気。少しだけだが、夢のような時間を過ごせた。


「あ、言い忘れてた。瑪瑙君!」


「ん?」


背を向けた時、交差点の向こう側から灰銀が俺を呼び止めた。


「さっきの【唯煌クイズ】なんだけどね、君の解答はゼロ点だ。ゴミにも等しい」


「ああ、そう」


振り返り際にダメ出し。まぁ外したから文句はない。


「だけど、【唯煌フィルター】はギリのギリギリで突破しました。おめでとう!」


「なんの話?」


拍手をされても、俺には何が何だか分からない。クイズで失敗してフィルターを通ったといのはどういうことだ?


「そんな君にはご褒美をあげないとね」


「ご褒美?」


なんだか灰銀がご褒美をくれるようだ。貰えるものはもらっておこう。


「景品はね、『私と友だちになる権利』、だよ?」


「……は?」


街灯の光がスポットライトのようになって灰銀を照らした。照れているようなはにかんだような表情に俺は魅了されてしまった。


「今日は本当にありがとね!また、明日学校で!」


「あ、ああ」


灰銀は元気よくぶんぶん手を振ると、暗闇の中を全力で走っていった。見えなくなったのを確認すると、俺の硬直も解除された。灰銀に背を向けて、自宅に向かった。


琥珀、俺に高校での新しい友人ができたようです。

『重要なお願い』

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