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モブ不良共がいなくなったのを確認すると、俺は灰銀の方に向き直った。


「立てる?」


「あ、え~と、ちょっと無理かも……」


腰が抜けてしまっているのか、立つこともできないようだ。とはいえ、地面に女の子を放置したら、人に見られたときに不味い。俺は苦渋の決断を下した。


「少し、失礼するぞ?」


「え?あの、待って」


俺は灰銀をお姫様抱っこすると、座っていたベンチに連れて行った。密着しまくったから、心臓が高鳴っていたのは内緒である。


「ぽ、ぽぽぽ、ぽぽぽ!」


顔から湯気が立ち上って、俺を見上げながら、ずっと「ぽ」を連呼している。八尺様かな?


「や、やりやがったな…ネムレス君!?い、言っておくけど、私はチョロインじゃねぇんだぜ?たった一度、不良から助けられたくらいで、いや、そこに関しては感謝の気持ちはあるけど、そ、それだけだよ!お姫様抱っことか色々されたけど、別にちょっとときめいただけで別に恋慕の気持ちはないし、それに、私には金城君がいるの。だ、だから、え~と、か、勘違いしないでよね!?」


「なぜ、突然のツンデレ?」


灰銀唯煌:『氷の女王』モードは既に終わったらしい。今は、ヒドインモードだ。


とはいえ、さっきまでチャラ男に絡まれていたわけだ。車に連れこまれそうになったわけだし、恐怖もあるだろう。わたわたと慌ただしそうにしているのもおそらくそれが影響している。


「コーヒー買って来たから飲めば?」


「お、おう。すまねぇ」


甘い(・・)方のコーヒーを差し出した。すると、灰銀の腕が固まった。


「一番苦いやつを頼んだと思うんだけど?」


「ごめん、ブラックは売り切れだったんだ。灰銀さんには悪いけど、甘い方を飲んでくれないか?」


「き、気遣いがぶつかり稽古にやってきた!?」


「謎の語彙センスを発揮するんじゃない」


後、そういうのは気付いたとしても、何も言わないでおくんだよ。恥ずかしいじゃん。


ブラックのコーヒーは俺が呑む。苦いのでちびちび飲んでいると、会話が途切れる。こういう時に、気の利いた会話ができないのが、俺の欠点だよなぁ。今度、春樹に教えてもらおうかね。すると、灰銀が意を決したように俺の方を見た。


「い、色々言いたいことはあるけど、助かったよ。ありがとうございました」


「まぁ……」


灰銀がぺこりと頭を下げてきた。何も悪ふざけをしない灰銀に調子が狂う。


「ネムレス君、強いんだね。同人の世界だけかと思ったよ」


余計な一言を添えるな。


「強いかどうかは分からないけど、知り合いが身体を鍛えておけってうるさかったからな」


もうサッカーには未練がないっていうのに、春樹が俺に体を鍛えろとうるさいから仕方なくだ。たまに練習に付き合わせられるが、おかげで帰宅部特有の運動不足には陥っていないので、プラマイでプラスだろう。


「結果的に灰銀さんを助けられたし、良かったよ」


「……わざとかお主?」


なぜジト目?女心は難しいな。


「……も~いいや。君はアレだね。私の感情を揺さぶる天才だね。別に惚れたってわけじゃないぜ?」


「何言ってんだ……」


惚れたも何も、灰銀は金城が好きなんだろ。いばらの道だが、ぜひ頑張ってほしい。


時計を見ると、もういい時間だ。明日は学校だし、帰宅には丁度いいだろう。


「ま、とりあえず契約はここまでってことでいいよな?」


「契約って何じゃ?」


嘘だろ……


「金城の尾行に付き合うってやつだよ。一回きりって言っただろ?」


「あ、ああ。そのことね。すっかり忘れてたよ」


こうして雇用主と労働者の溝は深まるんだろうなぁ……


「それじゃあ駅まで送るよ」


「およ、ネムレス君は電車じゃないん?」


「俺はチャリでここまで来たんだ」


「私も歩き。家、すぐそこだし」


そういえば、灰銀と待ち合わせをした時、背後を取られたな。


「そんじゃあ、ここで解s「ウォッホン!」」


灰銀がおっさんみたいなくしゃみをした。こうして、また灰銀の好感度が下がりましたとさ。


「コホン。ええ、と。瑪瑙君」


「何?」


ん?今、少し違和感があったぞ。


「助けてもらっておいて何もしないというのも、灰銀唯煌の名が廃るというもの。飯くらい奢らせてもらえんか?」


なんで顔が赤くなってるんだ、この人。


「今日のことは気にすんなって」


「ワイの誘いを、断る、だと……!?」


なんでそんなにショックを受けてるねん。己惚れが過ぎるな。


「だ、だけど、何もしないと言うのは私の沽券に関わるというか、なんというか……あ」


灰銀が何か思いついたようだ。


「そ、それなら、瑪瑙君の家にお邪魔しようかな~。ほら、さっきのデートの報酬云々の話をした時にさ」


「あ、それ採用」


「へ?」


俺は灰銀にして欲しいことなんて一ミリもないが、琥珀は灰銀のファンだ。サインくらいは頼めば貰えるだろう。


「あ、あの、その、あのね!」


「あ、ついでに今日は両親いないから」


「お、おお……瑪瑙君と二人きり……」


今日は琥珀と二人で飯を食べる日だ。両親は休日出勤で駆り出されている。ご苦労様です。


で、なんで赤くなってるんだこいつ?わたわたと慌てたり、顔を赤くしたり忙しい人だな。何か呟いていたが、聞き取れなかった。


「行こうか」


「ちょ、ちょっと待って!コンビニ行って準備してくる!万が一があると不味いでしょ?」


「?ああ」


そういうや否やピューとコンビニに駆け込んだ。準備って、うちに菓子折りでも買おうと言うのだろうか。悪くはないが、コンビニで済ませようとする残念さが、ヒドインらしくて良かった。良くはねぇか。


「あ!」


さっきから名前で呼ばれてるじゃん。問いただそう。

『重要なお願い』

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心を揺さぶられ続けるヒドインに幸あれ…
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