05 推定・女の子版主人公 VS 主人公としてプレイしまくっていたオレ
予定通り、午後の三時ぐらいを目途に採取を切り上げ、町に戻ることにするボク。それについてくるアクアちゃんは、しっかり目的の『カミナリス』をシキにできたようで。ゲットしてスグにボクのもとに自慢しにきてから、ずっと、その胸に体長三十センチほどの、黄色味がかった白い体毛と、何より特徴的な『黒い「雷」のマークのような眉』のリスもどきこと、『カミナリス』を抱きしめてニマニマしている。
うん。さすが、オレ氏の世界でも大人気だったマスコットキャラクター。女子組のときもそうだったけど、『カミナリス』を手札に加えてからのテンションの上がりっぷりがヤバイね。
……途中、「この臭いの効かないみたいなんだけど!?」って怒鳴りこんで来たときは、どうしてくれようか、って思ったけど。
そも。『虫よけのお香』は虫型のオニが嫌う匂いを付与することで原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』のゲーム版では『エンカウント率を下げる』って効果だったんだけど、リアルでは『虫型のオニがお香の匂いに気づく』、からの『その匂いを嫌って遠ざかる』って感じだからね。当然、自分から駆け寄れば『エンカウント率を下げる』も何もない。
だから、そのことでクレームを寄越されても困るし。歩きまわるだけだったら十分、虫よけになるし。って説明して、「こういう特定のオニばかりが出現するエリアで、それ以外のレアものを狙うなら、この手の『○○よけ』ってタイプのアイテムを使うのはマジお勧め」ってオレ氏時代のゲーム知識をひけらかしたら、「なるほど」と。存外、素直な性格らしい少女は簡単に納得してくれた。
そのうえ、ローブを返してもらうときに、外套が薄着の彼女でも羽織るだけで森歩きが安全になるからって「これ、ちょうだい!」なんて調子の良いこと言ってくれちゃって。気に入ってくれたのは、嬉しいけど……さすがにあげられないです。さーせん。
うん。だって、外套ね。ボクの一張羅です。苦手な狩りを手伝って、貰った小遣い数ヶ月ぶんの、いっしょに見つけたブーツと併せて準備に数年を要した逸品なんです。
だから、ってわけじゃないけど。とりあえず、町に戻ったら雨合羽代わりにもなる丈夫な革製の外套の購入を勧めてみたり。……ボクのは、ほら。さすがに彼女の雰囲気に合わない、って言うか……正直、手直ししてもらっていても『くたびれた感』が強くて、ね。そういう意味でも、あげられない、かな?
で。さすがにオーダーメイドの一品ものなんかを注文して、出来上がるまで待つ、とかだと時間がかかるし。なんか先を急ぎたいふうだから厳しいだろうけど……それでも、出来合いのもので、暖かい時期の寝具代わりにもなるマントぐらいならどこでも買えるだろうし。とにかく、ヘソ出し&ミニスカの肌色過多のアクアちゃんには少しでもその柔肌を隠せる外套を着せねば。お父さん心配で、このまま旅になんて出せません!
「って、誰が誰のお父さんよ!」
うん。ナイス、ツッコミ!
「……って、あれ? ユリーカ。アンタって、もしかして…………男の子?」
「ちがいます」
女の子です。……少なくとも、肉体的には。
あと、個人的に、一見して女の子だってバレる恰好はできるだけ避けた方が良いって思うんだ。もちろん、宿や部屋のなかの安全地帯でならお洒落でもなんでも好きにして良いと思うけど。少なくとも、旅の途中では肌色成分は薄めでいる方が安全だと思うよ?
ちなみに、ボクの頭が『不揃いな長さの短髪』なんて髪型なのは、性差を誤認させるため――とかではなく。日頃『節約のため、自分で適当に切ってるから』っていうのと、『旅の途中、何度も髪を切るのが面倒だから』である。
「……いや。アンタさぁ。女の子として、それはどうなの?」
うん。それね。わりとマジで、両親には何度か泣かれたんだけど……どうしても四十すぎまで『おっさん』だったオレの人格を引き継いでの今生だから、ね。ボクの性自認てば大分『男性より』だから、『お化粧』や『お洒落』とか興味が薄いんだよね。
「ふん。まぁ、なんでも良いけど――そろそろ、いい?」
場所は、もう少しで深緑の町『ジャング・ローグ』の入り口に着くという、ちょっとした広場で。それまでボクの後ろをついて来ていたアクアちゃんは、その言葉を最後に足を止めた。
「バトルしよう、ユリーカ」
そう真剣な顔でもって告げ、抱きしめていた『カミナリス』を鬼札に送還し。わざわざ、その鬼札をしまって『違うシキで相手する』とでも宣言するように新たに懐から別の鬼札を取り出し、構えるアクアちゃん。
「ユリーカ。アンタには外套を貸してもらったり、『カミナリス』のことを教えてもらったり、とかの借りもある」
だから、一対一で。アタシは一枚のシキだけしか使わないわ、と。そう言って手元の鬼札を強調する彼女は、やっぱり優しくて良い子なんだろう。
ボクの事情を知って。だからこそ、あえて不利な条件を自身に課してでもバトルをさせようとする、その意志は天晴である。
だけど、
「甘いなぁ」
呟き、ため息を一つ。背負っていた袋を置き、被っていたフードを脱ぎつつ「確認なんだけど」と。こちらも真剣な顔をつくって、「降参は、あり?」と訊く。
「『あり』だけど……何もしないでいきなり『参りました』はナシ。ってか、ちゃんとバトルしなさいよ」
……ふむ。
とりあえず、「ちぇ……」と。わざとらしく舌打ちを一つ。さらに、肩をすくめて見せつつ『やっぱり、甘いなぁ』と内心でだけ言葉をつぐ。
お嬢さまズとバトルしたって言ってたのに、バトルのルールに関しての言及はそれだけ? ……うーん。もしかして、この子も、なのかな?
「しかたないなぁ。うん。約束だったし、その一対一のバトル、受けるよ」
ボクのシキは、ほら。もう召喚してるし、君も召喚したら? と、そう促せば、アクアちゃんは素直に頷き。そこはかとなく嬉しそうな雰囲気をにじませて、「召喚!」と。
果たして、この世界における原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』の女の子版主人公の召喚したシキは――
「なるほど、『ミズガメ』か」
――予想通り。原作と同じで、主人公が最初期に選択可能なシキのうちの一体。
逆さまの『水を溜める瓶』から溢れ出る、ライトブルーに煌めく『水によって形作られたウミガメ』という、一見すると瓶と蓋の部分が甲羅のように見えないことも無い姿のオニ――『ミズガメ』。
原作通りであれば、主人公と、そのライバルキャラは『最初に四種類のオニ』の中から、それぞれ一体を選んでゲームを開始するのが『百八』の伝統で。そのなかでも最初期の、この国を舞台にしたタイトルの主人公の場合。これまた伝統的に、最初に選択したシキの属性に応じた名前が付けられていた。
だから、なんとなく。彼女が選んだシキが『ミズガメ』ではないか、というのは予想していた。
「ふん。『ミズガメ』、知ってるんだ。……ほんと、森でのことといい、アンタってば、わりと物知りよね?」
「そりゃね。自慢じゃないけど、ボクほどオニのことが大好きで、たくさんのことを知っているルーキーは居ないと思うよ」
そして、
「だからこそ、言わせてもらうけど――いいの? アクアちゃん。その子だけじゃ、ボクの『イシンナカ』に勝てないよ?」
あえて、挑発する。
……ねぇ、主人公。君は知らないだろうけど――じつはオレも、主人公だったときがあるんだわ。
それも何度も。何度も。何度も。
特に最初期の『百八』は、何回もリセットして楽しんだ。……それこそ、君が連れている『ミズガメ』を選んでスタートしたのだって、一度や二度じゃない。何十、あるいは何百と『やり直し』している経験がオレにはあって。当然、ボクには彼女の召喚した『ミズガメ』のスペックをゲーム的にだけど完全に把握している。
「へぇ……。バトル嫌いの臆病者のくせに、言うじゃない」
なんか予想以上に怒ってる彼女に、あえてニヤリと笑って返すボク。……うん。せっかくだから番外戦術ってのも、お礼代わりに教えてあげようかな、と。
なにせ、情報的なアドバンテージだけでもダントツな現状。これに真剣勝負というものに対する経験値の差も歴然なんだから、わざわざ勝ちを譲ってくれたお礼に『苦い思い出』をプレゼントしてあげよう。
「試せば、わかるよ。……行け、『イシンナカ』! 『いしまとい』だ!」
「っ! 『ミズガメ』、『すいじょうき』! からの『みずでっぽう』!」
互いのマスターの指示に合わせ、動き出すシキたち。
ボクの足下に転がっていた鉄球こと『イシンナカ』はSPを消費して『石』を生み出し。その身に纏って。
アクアちゃんの眼前に佇む水でできた亀こと『ミズガメ』は、同じくSPを消費して『水蒸気』――というか、『水分多めの白い霧?』を生み出して、自身の周りに漂わせ。次いで、これまた中空に生み出した『拳大の水球』をけっこうな速度で飛ばして、ボクの『イシンナカ』を吹っ飛ばした。
と。そんな奇しくもオレ視点で言えば不思議ファンタジーなチカラが発生した二枚の初動ではあったけど――それ以前の話として。地味に、ボクのやったフライング気味の指示出し、からの『いきなりバトル開始』とか。アクアちゃんがやった、これまたターン制のゲーム版ではありえない『指示の継ぎ足し』なんかが、もうね。リアル版のバトルの弊害と言うか、審判のいない野良バトルで往々にして発生してしまう事象の一つと言うか?
とりま。これらが反則にならない辺り、オレの知識だけでは不利にもなりえそうだけど――
「『イシンナカ』、『いしまとい』! 以後、別命あるまで『いしまとい』を続けて」
――残念。それでも、同期の子たちでは、オレに戦術で勝つことはできない。
「っ!? ちょっ、そんな……! あ、アンタ、何枚アイテム使う気よ!?」
単純明快。指示したそれが『行使が簡単で、断続的に同じものを使わせる』ものだった場合、こうして指示出しを簡略化できるし。同時に――回復アイテムだって使える。
そのために、バトルの開始と同時に、ひそかに腰の山札ケースから回復アイテムを数枚、引き抜いてたわけで。だから……うん。本当に、残念だよアクアちゃん。
せっかく、お嬢さまズにボクのことを聞いていたと言うのに、ボクが唯一、彼女たちのまえで勝ってみせたバトルの内容を知らない、って情報を『ルールの設定確認』の段階でボクに教えちゃうなんてね。
「――『水』属性の『ミズガメ』が最初に使える技は、二つ。それが『アタック』と『すいじょうき』で、後者の『すいじょうき』を先に使って『以後、三ターンの間だけ「水」属性の技の威力と効果を上昇させる』って効果でもって早期決着を狙うのは良かったけど――残念。強化技である『いしまとい』と違って、環境変化技である『すいじょうき』は効果を重ねられないからね」
防御力上昇と回復を同時に行えるボクと『イシンナカ』を相手に、それじゃあムリ。この時点で『王手』である。
「な、なにを偉そうに語って――」
「『イシンナカ』、『すなかけ』だ」
――原作同様、この世界のオニは属性を持ち。オレ視点で言えば『未熟に過ぎる戦術』が蔓延するこの世界では、その相性によって、バトルの趨勢は決まると言っても過言ではない。
今回で言えば、『金』の属性持ちである『イシンナカ』の場合、『水』属性持ちである『ミズガメ』に『ころがる』のような『これ単体では属性の無い接触技』だと、使った『イシンナカ』の有する『金』の属性の攻撃になってしまい、『属性相性』が発生。五行思想における『金生水』――『百八)』的なゲーム判定として『「金」の属性攻撃は、「水」属性相手には「弱化攻撃」判定となり、ダメージが半減する』となってしまうわけで。
だから、最初に使うなら『いしまとい』一択。これによって『イシンナカ』の属性を『金』から『土』に変えることができて、仮に『ころがる』を使って攻撃させたとしても、『いしまとい』使用後であれば『土』属性の攻撃となるわけで。これまた属性相性が発生。
『土克水』――ゲーム版では『土』属性の攻撃は、『水』属性のオニに対して威力が二倍となる『強化攻撃』判定だった。
だから、『いしまとい』をフライング気味に。先んじて使用できた、それだけでも値千金。この一事だけで不利が有利へと簡単に反転するという、この辺が『イシンナカ』が玄人向けだとオレが判断する所以なんだけど――それはさておき。
原作同様。この世界でも『使用するオニと同じ属性の技は、効果と威力が増す』という仕様が適応されているようで。
だから、二度目以後の『いしまとい』の場合。『土』属性の『イシンナカ』が、同じ『土』属性の強化技である『いしまとい』を使ったことで『同じ属性の技は、効果が増す』という事象が発生。ゲームだと『五割増し』という仕様だったそれのおかげで、本来『防御力を二割上昇させる』という『いしまとい』の効果を、二回目使用時からは『防御力を三割上昇させる』に変化させた――のか、どうか、は流石に目視だけでは判断できないけど。とにかく、リアルとなったこの世界でもゲーム版のとき同様、『効果が増す』というのだけでも確実なようなので、良し。
で。そのうえで計五回。これまた原作同様、リアルでもある強化可能な最大回数まで『いしまとい』を使うよう指示して。ゲーム版だとボクの『イシンナカ』は『防御力二割上昇』に『防御力三割上昇』×4という、これだけでも勝ちを確信できそうなものだけど……実際のところは、アクアちゃんの『ミズガメ』が最初に使った『すいじょうき』の『攻撃力二割上昇』の効果が、使用したオニと同じ『水』属性の技だったことで効果が上昇。『攻撃力三割上昇』になっていて。
さらに次に使わせた『みずでっぽう』が、同じく『水』属性の攻撃技ということで『五割増し』のダメージとなり。彼我のレベル差に『すいじょうき』の『攻撃力三割上昇』と合わさって、結構な威力になってはいたけど……幸いにして、使った『ミズガメ』が『防御力が高い耐久型』のオニであり、素の攻撃力が低かったこともあって、似たような耐久型の『イシンナカ』を一発退場とまでは持って行けず。内心、ホッと息をついたのは秘密である。
あと、最初の方のダメージ量だと、旅立ちの日に用意していた『微回復のお札』では回復量が足りず。それだけでは押し切られていたかもだけど、そこはそれ、『こんなこともあろうかと』ってなもので。最近になって『微回復のお札』だけでなく、より回復量の多い『小回復のお札』を用意していたのである。
で。こうして、序盤はどうにか凌ぎきり。『すいじょうき』の効果切れのタイミングからは完全に余裕が生まれたボクは、この時点で『わざわざ解説までして、それを知らせる』ことにして。
もちろん、これは意地悪でも挑発でもなく。これまた番外戦術による一手である。
……だって、『小回復のお札』って『微回復のお札』の十倍の値段なんだもん。そんなの、何枚も使いたくないんだもん。
ってなわけで、この時点で負けを認めてくれていれば良かったのだけど……さすがに負けず嫌いの子供には『理屈だけではムリか』と察し。仕方なく攻撃技を指示。
『イシンナカ』が使える唯一無二の攻撃技である『ころがる』を――ではなく。今日、と言うか『本当に今さっき』というタイミングで『イシンナカ』のレベルが『5』に上がり。そこで使用可能になった二つ目の攻撃技の『すなかけ』を指示した、と。
……ちなみに。この現実となった世界では『自分や相手のシキのレベルや残りHPが視える』――通称『審秘眼』というのがあって。使役主の必須技能として、学校で教えてもらえるんだけど――要するに、『審秘眼』のおかげでゲーム版の『百八』よろしく、彼我のレベル差や残存HPを常に確認できて。回復アイテムの使用タイミングとか、『すなかけ』を使えるようになった、というのも視てればわかった、と。
で。ボクの指示した『すなかけ』だけど。これがまた、癖の強い特殊な技なんだよね。
数多ある攻撃技のなかで威力こそ最低値ではあるものの、この攻撃が命中した相手の『攻撃命中率が下がる』効果が、特に一対一での持久戦という現状では、最高。攻撃モーションも技名通り『砂をかける』であり、地味に『SPを消費して「砂」を生み出し。それを相手にかける』という魔法チックな技なんだけど……だからこそ、ケガを負わせる類の攻撃技でない点もグッド。
さらに『すなかけ』が『土』属性の非接触型の攻撃技というのが、また。『水』属性の相手に『いしまとい』を使うまでもなく『土』属性による『強化攻撃』が打てて。『いしまとい』で『土』属性になったあとで使えば、さらに『属性一致』でダメージ増加、と。
絵面的に、『砂』をかけられたことで『ミズガメ』の肉体――というか、水でできた体が、どんどんと濁っていっているんだけど……うん。たぶん、この『砂』を否応なく纏ってしまうことでシキが技を使って狙うのを不思議ファンタジーなチカラで阻害して命中率を下げている……の、かな? たぶん。
と言うか。リアル版のバトルだと、シキそれぞれの個性と言うか、正確性? 器用さ? あと技に対する理解度とか熟練度みたいな、原作では無かった『命中力』といったステータスが何より重要なようで。ちょっと考えておく必要がある、かな?
もっとも。今回のバトルは――もはや、決着済み、なんだけどね。
「『詰み』だよ。防御力マシマシで回復アイテムをたくさん持っているボクの『イシンナカ』に対して、攻撃の命中率が下がり続ける『ミズガメ』じゃあ、どう頑張っても勝てない。でしょ?」
そして。たぶん、これがお嬢さまズがアクアちゃんに勝てた理由の一つだろう。
……なにせ、ボクと別れる時点で女子組の持っていた『イシンナカ』は、皆、今のボクの『イシンナカ』よりレベルが上だったし。しっかり、ちゃっかり、ボクと同じように回復アイテムだって持ってたはずだし。つまりは、今のボクの上位互換だったはずだからね。
これに加えて、彼女たち全員にゲットさせた『カミナリス』が『木』属性持ちのシキで。これまた『水生木』――『水』属性の『ミズガメ』の攻撃では、『カミナリス』に対して『弱化攻撃』となって威力半減という、ね。
なお。『ミズガメ』や『カミナリス』の使える初期技『アタック』は、属性の無い接触攻撃技で。特殊な追加効果も無く、威力も低いが、だからこそと言うべきか、消費SPが少なくてレベルが低い時点での攻撃技としては割と優秀、と。属性持ちによる雑魚狩りなんかでは重宝する場面も多く、『イシンナカ』の初期技である『ころがる』が大ダメージ反動ダメージ技というレベル上げのし難いものとは真逆だったり。
また、この『アタック』の面白いのが、これを初期技として使えるオニが多いのと比例し、その『攻撃モーションも多種多様』という点で。ネズミなら『噛り付く』感じだし、鳥なら『嘴でつつく』ような攻撃をする、言ってしまえば『攻撃しろ!』ってことだから……もはや技の指示ではないような?
「~~ッ! あ、アタシは、まだ……!」
「やめておいた方がいいよ」
閑話休題。とにかく、ここからは『バトルを終わらせるための説得』のターンである。
「アクアちゃん。君がボクに勝つには、最低でも『回復アイテムを使ってもムダ』と思わせるダメージを与え続けるしかない。それは、わかるよね?」
もはや、勝敗は決している。
強化技による強化が五回までなのと同じように、『すなかけ』による『命中率低下』も五段階もあり。これを繰り返すだけで『ミズガメ』の攻撃は当たり難くなるうえに属性一致と強化攻撃の判定で『威力の低い特殊な攻撃技』である『すなかけ』であっても十二分にダメージソースとなってしまうわけで。
たぶん、お嬢さまたちは、ここから『ころがる』とかも使ってトドメを刺したのだろうけど……ボクはそれは遠慮したいわけで。
だから、
「仮に、ボクと同じようにアクアちゃんが『回復アイテム』を使って持久戦をしようとしても、ボクの『イシンナカ』は防御力マシマシで、君の『ミズガメ』の攻撃命中率は最低値。……つまりは、『回復アイテム』を使いあう戦いになったとしてもボクの方が完全に優位、ってね」
ちなみに。この強化や弱化をリセットする術も、あるにはある。そういう効果のアイテムを使うか、『強化しているシキを送還させる』技ないし戦術を用いる、といったところなんだけど……前者のアイテムをアクアちゃんは持ってないだろうし、後者に至っても同じ。そも、レベルの低いシキ同士の一騎打ちで『送還させる技』とかゲーム時代だと不発判定だったし、交換を促す戦術とか『むしろ、ボクの方が使ってる』し。
「アクアちゃん。君がボクのことを慮ってバトルをしてくれたのは嬉しい。感謝してる」
だけど、同時に――
「アクアちゃん。君が一対一なんてルールを提案してくれたのは、『それでも勝てる』って思ったからだよね?」
なにせ、ボクは『イシンナカ』一枚しか手札が無いと教えていたし。そんな唯一のシキにしたって、ボクはずっと傍に置いていて、視ようと思えばレベルだって事前に知れる。
加えて、あらかじめ『イシンナカ』の使う技にしても、さきにお嬢さまズとバトルしていたのなら知っていて当然。
だから、『勝てる』と思った。『負けはない』と、そう確信したからこそ、自分にだけ不利になるルールを提案した。
「つまり――舐めていたんだ、ボクのことを」
ばさり、と。ローブの下に隠していた両手を突き出し、そこに持った回復アイテムをあえて扇状に開いて見せながら、笑って告げる。
「お嬢さまたちがボクのことを何て紹介したのかは知らないけど、ね。この『回復アイテム』と『いしまとい』を使い続けての持久戦は彼女たちのまえでもやったし。そのときの相手役にも思ったけど――せめて、『アイテムの使用の有無』ぐらいはルールで指定した方がいいよ」
そうでなければ、『札束の殴り合い』――あらかじめ何枚の回復アイテムを買っていたかの勝負になってしまう、と。そう語り、さっさと回復アイテムを腰元のケースにしまって。彼女が何か言うまえに『イシンナカ』も鬼札に戻して、『はい、決着』と言外にしめす。
「っ! ちょ、ちょっと! アタシはまだ、負けたって――」
「それなら、ボクの反則負けでいいよ」
そう笑って告げ、背負い袋を担ぎなおし。さらに「なんなら、バトルチップもあげようか?」と。成人が未成人に勝敗に関わらず与える『支援金』ではなく、未成人同士のバトルで負けた側が『グッドゲーム』とでも告げるよう与えるチップを払う、と。そう背を向け、町へと向かいつつ、ちらり。いたずらっ子のような笑みを向けて言葉を投げれば、「いらないわよ!」とアクアちゃん。
彼女は何度か地団駄を踏み、内なる苛立ちをそうして晴らすと、ボクと同じように『ミズガメ』を送還。鬼札を懐にしまい、違う鬼札を出して「召喚!」と。どうやら精神の安寧のために再び『カミナリス』呼び出し、抱きしめてからついてくることにしたらしい。
「――ちなみに。君の敗因の一つが、『それ』」
パタパタと駆け寄ってくる彼女に、軽く胸元の『カミナリス』を指さして告げるボク。「……は?」と、不機嫌さを隠すことなく首を傾げるアクアちゃんに「ボクは『見せ札』って呼んでるんだけど」と、肩をすくめて返し。
「ボクが護衛として『イシンナカ』を森のなかでは常に傍に置いていたのは、見てたから知ってると思うけど――その『イシンナカ』を見ただけで、アクアちゃんはボクの故郷を察せたでしょ?」
先に、お嬢さまたちに出会っていたから、というのも理由の一つではあろうが。この付近で、この時期、ボクのような『見るからに幼い子供』が『イシンナカ』をシキとして連れている時点で、いろいろ察せられる。
――学校で、使役主の必須技能として『審秘眼』を教わる。
だから必然、旅する未成人は『だいたいにして、オニを見たら即「審秘眼」で調べる』し。皆、そうするよう、教えられている。
「だから、あえて見せて『察してもらうためのシキ』っていうのは、立派な戦術の一つだと思うんだよね」
君が、ボクの『イシンナカ』を見てもろもろを察したように。アクアちゃんが仮に『ミャーコ』か『クルッポ』を連れ歩いていれば、ボクもアクアちゃんの故郷を察せられる、と。
そう説明すれば「へぇ……」と。今度はわずかに感嘆の声をもらす少女に気を良くしつつ、『これで仮に、原作主人公と違う外見の子が「ミズガメ」を連れてた場合、逆に混乱するんだけどね』と内心で苦笑。……言ってはなんだけど、原作主人公や、そのライバルキャラ以外で、この時期、『この国では最初の手向けとして貰えないはずのシキ』を持っている同期の子供が居た場合、ボクはパニクる自信がある。
「ボクはこの国で出現するオニの分布は、おおよそ知っているからね。時期と場所、それから持ち主の年代で、意外と多くを察せられるんだなぁ、これが」
で。それに加えて、その連れているシキのレベルを視れば手札の強さも察せられる、と。
このとき、『カミナリス』のように属性持ちを『あえて見せて』いた場合、バトルを挑んでくる相手は高確率でそいつに有利な属性持ちか、レベルで上回っているシキを手札に持っている、と。そうでなければ、大してオニに対する知識を持っていないか、勝利に貪欲というわけでもない、と分析できると語れば……さっきとは違って、逆に「……ええ」と半ば引かれてるんだけど? なぜ???
「いや、なんかムダに理屈っぽいって言うか……。一回のバトルにひくほど頭使ってる……ってのは、ともかく」
ねぇ、ユリーカ。アンタ、バトルは苦手なんじゃなかったの? と、怪訝な顔して問うのに、ボクはこの日一番だろう笑みを浮かべて「そうだよ」と頷き。
「言ったでしょ? ボクほどオニが好きな子は、そうはいない、って」
オニが好きで。だから、他人より多くのことをボクは知っている。
「アクアちゃん。ボクはオニが好きで。他人より大好きで――」
そして、
「――……好きすぎて、バトルがロクにできなくなった、落ちこぼれの使役主」
それがボクさ、と。ボクは笑顔で言えた。……と、思う。たぶん。
オレ氏のメモ:初代には無かった『風』属性だけど、それを追加実装すると同時に『風』→『土』→『水』→『火』→『風』という四つ巴の属性相性まで実装されることになり。ハブられた『金』は、どういうわけか『属性を持たない攻撃に対して強くなる』なんて修正をうけることに。