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04 スローライフをしま……せん!?

 結論から言えば。女子組の口車に乗せられた男子七人は、しっかりと次の町――深緑の町『ジャング・ローグ』まではもちろん。そこから数日の間、森に入っていっしょにレベル上げを行い。ちゃっかり、道中の虫よけとして利用された挙句、しっかり、女子組全員が『カミナリス』をシキにできるまで使われて。


 そのあとで、予想通り、彼ら彼女らは別れることになり。それぞれが目指している場所へと向かって行った。


 で。ボクは一人、これまた予定通り、深緑の町に残ることにしたんだけど……旅立ちの日からずっと、できる限り危機感を煽りつつ全力で媚びを売ったせいだろうか。最後の最後まで、お嬢さまたちに旅の同行を乞われたりもして…………それがちょっと嬉しかったり。


 ……うん。まぁ、とりあえず。当初こそ、旅に対する認識の違いに愕然としたものだけど、なんとかボク以外の元・クラスメイト全員がシキのレベルを上げて。皆、二枚以上の手札を持てるようになったわけで。これで大丈夫だろう。……たぶん。きっと。めいびぃ。


 ちなみに。この『ジャング・ローグ』が、どうして『深緑の町』と呼ばれているのか。それは、この町が『深海の森』と呼ばれる広大な森――それこそ『ヒノイズルクニ』の国土以上に広い森林に隣接するかたちで存在し。その森を産地とする材木でもって家々が造られていて、全体的に緑色だからである。


 そして、じつはこの『深海の森』は初代ゲーム版『ヒャッキ・ヤオヨロズ』におけるラスト(・・・)ダンジョン(・・・・・)でもあり。浅瀬までであればいざ知らず、その深部に至っては『ヒノイズルクニ』のなかでも最高レベルの野生のオニがポップする危険地帯というね。


 あと、この『深海の森』はシリーズの二作目たる『ヒャッキ・ヤオヨロズ(ツー)』の舞台となる隣国とを隔てる『壁』であり。じつはこの森全土が『ヒノイズルクニ』の国有地というわけではないんだけど……それはさておき。


 どうして、ボクが一人、この町に残ることにしたのかについて。


 これは単純に――資金不足だから、である。


 当たり前のことだけど、食べ物やアイテムを買うのも、宿をとるのも、お金が要るわけで。ボクの場合、旅立ちの日までの準備でおおよその資金は尽きていて。とてもではないけど、このまま旅をつづけていけるとは思えなかったのだ。


 で。これがオレのよく知る日本であれば、十歳未満の子供がお金を稼ぐことなんてほぼほぼ不可能であったろうけど、ボクの生まれた『ヤオヨロズ』では違う。と言うより、未成人でも旅の途中でお金を稼げるよう、いろいろ考えられた社会構造になっている。


 その中でも最もポピュラーなのが二つあり。これは原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』のゲーム版でもあった――と言うより、ゲーム版では『これ以外の収入源が無かった』わけだが。とにかく、その方法は『オニを売る』か、『ほかの使役主マスターにバトルで勝つ』かで。前者は、こうしてボクとして転生してから知ったのだけど、だいたいが『食料』のためか、アイテムないし何かしらの道具の素材として使うから、らしい。だから、売られたさきのオニは、そのほとんどが『殺される』運命にあるという……。


 で。それを知ってしまったボクとしては、これはムリ、と。じゃあ、使役主マスターとのバトルに勝って、『バトルチップ』として資金を得るか、だけど……これもむやみやたらにオニ同士で傷つけあわせるのがイヤだから、パス、と。


 ちなみに、この『バトルチップ』と言うのは、いわゆる『ファイトマネー』と言うか、『ご祝儀』? ……オレ氏の住んでた日本だと馴染みの薄い文化なんだけど、ここ『ヤオヨロズ』では『チップ』として、『おめでとう』や『ありがとう』の気持ちとして小銭を渡す習慣があり。特に相手が未成人として旅をしている場合、勝っても負けても『支援金』としてチップをあげることを推奨されていたり。


 だから、すこしでも余裕のあるひとは未成人を見かけるとバトルしようとするし。勝敗に関わらずレベル上げにもなるから、だいたいの場合、未成人側もバトルを受けるんだけど……ボクはこれを全部断っていた。


 その理由として、「どうしてもオニが傷つくのを見るのがツライ」と素直に話せば、だいたいのひとは納得――は、微妙にしてくれないんだけど、どうにか断ることはできて。


 それでも、たまーに押しの強いひともいて。これが正直、本当に…………こまる。


 それが善意からの誘いであり。この世界的に言えば、おかしいのはボクの方で。


 自分の方が年上で、世の中のことをよくわかっていると思っている大人に多いんだけど……ボクが何を言っても「いいから、いいから」と。今は無理やりにでもバトルした方が良い、と。大丈夫、勝敗に関わらずチップあげるから、と。そんなふうに強引にバトルに誘ってくるんだけど……ごめんなさい。普通に、ありがた迷惑です。


 はい。そういうとき、ボクは――逃げました。……だって、話してもわかってもらえないのであれば、もう逃げるしかないよね?


 閑話休題。


 前述の、原作でもあった方法以外での稼ぎ方について。


 それは、一言でまとめれば『採取』、かな? いわゆる、冒険者なんかが登場するファンタジー作品によくある『薬草あつめ』というやつである。


 ……正直、何かにつけてオニを解体させようとしてくるところが絶望的に合わない両親だけど、この手の『森で採れる、お金になるもの』に関しての教授には感謝しきりです。ありがとうございました。でも、たぶん二度と帰りません。ごめんなさい。


 さておき。そんなわけで、ボクには深緑の町近くの森に関する知識があり。なんだかんだで素人に比べて森歩きも慣れているため、この町を拠点に、しばらく資金調達に努めようと最初から決めていたのです。


 幸いにも、採取物を売るため、さきに確認した道具屋や薬屋で『オニを一定時間、近寄らせないようにする』アイテム――『オニ除けの護符アミュレット』と、『虫型のオニが嫌う匂いを付与する』アイテム――『虫よけのおこう』が買えたこともあり。出現するオニの九割が『バグス』と『ワーム』という虫型のオニという森での採取活動は捗り。……たまーに、そこまでしても対峙してしまった場合は逃げ一択。荷物の関係で逃げきれそうにない場合だけ、しぶしぶ、『イシンナカ』にゴロゴローってしてもらったりもして。


 とりま、『護符』や『お香』が効果時間アリの使い捨てアイテムということと、宿代に食事代なんかで出費もありはするけど、どうにかこうにか収支としてはプラスで。雨の日は採取に行けないし、季節ものの採取物なんかもあるから冬なんかは特に余裕が無さそうだけど……それでも、なんとか大丈夫。生きていける。…………はず。


 と言うか、前世含めて、なんだか最近は特に『生きてる』って感じがして、楽しかったり。


 やっぱり、『気づいたら、大好きな作品の世界に』っていう転生スタートからこちら、オレ氏の感性からしても『それってどうなの?』な『成人の儀式』への準備なんかで、ずっと、精神的にいっぱいいっぱいの状態で過ごして。はじめてオニを食べたと知ったときや解体をさせられそうになったときなんて、正直、転生したことを本気で後悔しかけたからね。うん。


 ……まぁ、でも。


 それでも。


 やっぱり、ボクはこの世界を嫌いにはなれなかったし。今生の両親や、何かとお騒がせなボクのことを本気で心配して助けてくれたひとだって居たし。苦しめられたりもするオレの知識にしても、やっぱり、あって良かったと思うときもあって。


 だから――ではないけど。ボクは、しっかりと今生を全うしようと思います。


 その第一歩として、ボクはしばらく、この町で一人、静かに生きていこうと――




「見つけたわ! ここであったが百年目ってやつね!」




 ――…………そう、思ってたんだけど、なぁ。


 森のなか。今日も今日とて、薬草採取に勤しんでいると、なんか聞き覚えのない女の子の声で、なんだかとっても物騒なことを言われた。


 ……誰だろう? 深く被ったフードの下、視線だけで振り向きつつ思案する。たぶん、見ず知らずの、初対面のはずだけど……台詞的に、彼女はボクを探してた?


「確認だけど。アンタ、今年デビューのルーキーで、『ダイタン・コー』出身よね?」


 身長は、クラスで一番背が低かったボクよりわずかに高いぐらいで。なにより特徴的なピンクの長髪をツインテールにした、どことなく子猫を思わせる釣り目気味で勝ち気そうな美少女の顔を、ボクは――いや、オレ(・・)が知っている?


 おお……! この子、たぶんアレだ。原作ゲームの女の子版主人公(・・・・・・・)だ!


「え、っと……。君は、だれ……?」


 そう問い返しつつ、ひそかにテンションを上げる。わー……! マジかー。主人公キター!?


「……ちょっと。質問に質問で返すのは失礼じゃない?」


 オレの知識に曰く。この国、『ヒノイズルクニ』を舞台にしたゲーム版『百八ヒャクハチ』は、初代のものと、そのリメイク版の二種類があり。そのうちの初代のゲーム版でこそ選択肢なく、アニメや漫画版主人公と同じ、男の子でしかプレイできなかったんだけど、幾つかのタイトルを挟んでのリメイク版では違う。


 シナリオこそ同じでありながら、ゲーム版『百八』シリーズでは途中から主人公を男女で選べるようになっていて。双方に専用のビジュアルが設定されていたんだけど……見た感じ、彼女の格好はそのまま『初代ゲームのリメイク版で登場した女の子主人公』のようで。


 背中に背負う赤いランドセルのようなリュックに、巫女服をイメージしているのだろう紅白カラーのヘソ出しミニスカドレスに、黒スパッツ。水色と白のツートンカラーが眩しいハイソックスと茶色のローファーも併せて、そこはかとなく『メスガキ』チックな外見は、数あるタイトルのなかでも上位の人気っぷりで。オレ氏も同人誌などでは大変にお世話に――……ゲフンゲフン。


「……いや。そうは言うけど、知らない人に個人情報をいきなり教えられないでしょ?」


 言って、かがんでいた状態を起こし。彼女を刺激しないよう、ちらり、足元をコロコロしていたボクの『イシンナカ』を確認。


 幸か不幸か、森のなかでは不意打ち対策でシキを召喚しっぱなしにしていたんだけど――って、あ。もしかして、この子を見て『ダイタン・コー』出身だって気づかれた?


 とにかく。ボクの返しに「ふん」と、一見、不機嫌そうに返し。それでいて「それもそうね」と素直に頷く様子から、どうにも幾つかの二次創作なんかで見た『女の子主人公はツンデレ』という解釈が一致していたらしいと察し、内心でかつてない高揚を覚えた。


「あらためて名乗りましょう。アタシは『アクア』! 『ユートピアン』出身のルーキーよ!」


 あ。やっぱり、この子『女の子版主人公』だ。出身地が、まんま原作と同じ『ユートピアン』だ。感動~。


「じゃあ、こっちも。あらためまして、ボクの名前は『ユリーカ』。お察しのとおり、『ダイタン・コー』出身のルーキーだよ」


 よろしく、と。軽く頭を下げれば、また「ふん」と鼻を鳴らし。腕を組んでそっぽを向く少女――アクアちゃん。表情的には機嫌が悪そうに映るが、小さな声ではあったが「こ、こっちこそ……よろしく」と返してくれるあたり、やっぱり悪い子じゃなさそう。


「で? 君は、ボクに何か用?」


 問いつつ、なんとなく彼女の用は察してはいる。……うん。だって、主人公だもん。そりゃあ、旅の途中であった手ごろな相手に対して行うことと言えば――


「そんなの決まってるわ! アンタ、アタシとバトルしなさい!」


 …………ですよねー。


 こちらを指さし、勝ち気な表情でもって仁王立ち、アクアちゃん。


 そんな彼女に気づかれないよう、ひそかにため息を一つ。……いつもであれば即座に断るところなんだけど、この子、原作の主人公ちゃんだからなぁ。ここでバッサリ断って、それでバイバイはオレ的にはちょっと勿体ないって思っちゃうんだよねぇ。


 だから、「いいけど」と。軽く肯定の意を示しつつ、「でも、ちょっと待ってもらってもいい?」と言葉を次ぐ。


「じつは。ボクの手札って、この『イシンナカ』だけなんだよね」


 だから、森の中(ここ)でバトルするのはムリ、と。ごめんなさい、と言って謝れば「……は?」と固まるアクアちゃん。数秒の間を挟んで「え? ええ!?」と驚き、なんで!? どうして、一枚だけ!? と、混乱する彼女の疑問は……まぁ、正しい。


 客観的に、こういう敵性モブが出現しやすい場所で――と言うより、旅のお供として、普通は複数枚のシキを持ち歩くもので。その辺の認識の甘かった元・クラスメイトたちに手札を増やすよう勧めていたのも記憶に新しく。ボクだって、できるのであれば手札を増やしたかったよ。


 でも、「あー……じつは、さ」と。頭をかきかき、ボクはバトルが苦手で、オニが傷つくのを見るのがツライ、と。敵味方関係なく、血とか流してるのを見ると泣く。吐く。気絶する、と正直に話すことに。


「えー……?」


 うん。混乱してる。困惑してる。そうだよねー、そういう反応になっちゃうよねー。


 この世界では、幼少期からオニを退治するのは当然として教わり。グロ耐性の有無こそあれ、誰もがバトルを忌避せず。どころか、楽しむものの方が多いというのが、短い生でありながら今日までボクとして生きてきての感想だった。


「い、いやいやいや。おかしい、って言うか、ダメでしょ。それ」


 バトルがキライとか、ありえない、と。そう表情から何から雄弁に語るアクアちゃん。オレの感性で言えば、女子供に好かれるようデザインされたオニのビジュアルからして、それらが争い、血を流して本気で殺しあうさまを見ることの方が我慢できないし、バトルとして強要することの方がありえない――ん、だけど。


 だからこそ、と言うべきか。原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』がRPGだったせいか何なのか。オニのような愛くるしい見た目の生き物を使って傷つけあい、殺し合わせてのレベル上げに、この世界独自の必然性が与えられており。そのことをボクらは授業で習い、レベル上げは義務・・として教わっている。


「アンタ……そんなんじゃ、長生きできないわよ?」


 ――この世界『ヤオヨロズ』に住まう生き物は、『ヒト』を含めてすべてが『オニ』である。


 そして、オニは『自身を構成する以外のカミを吸収することで成長する』もので。これがレベルアップの正体というか、レベルの上昇における強化の理由? 設定? なんだけど、これに『成人の儀式』として旅立つことをプレイヤーに納得させる理由付けとしてなのか、『ヒトは、同じカミを吸収し続けると、自我が歪む』という設定まであり。


 これに『一定以上のレベルが無いと、日々吸収しつづけるカミによる汚染に自浄が追いつかない』とか。『一定以上、自身を構成するカミが淀んだ場合、「ヒト」は「ヒトデナシ」というオニへと変じる』という設定りゆうまで加わった結果。この世界では『幼い時分での旅立ち』は推奨されるようになり。シキを用いた間接的なカミの吸収でのレベル上げに『必然性』が与えられた、と。


 だから、この世界のひとは『レベル上げは義務』で。『バトルは推奨されるもの』だから、ボクのようなバトル嫌いでレベル上げに消極的なやつは『頭おかしい子』扱いが順当となってしまう、と。


 だから、そんなボクに対し、一転して本当に心配そうな表情でもって訊いてくるアクアちゃんは、きっと……とても優しい、良い子なんだろう。


「うん。そうだね」


 だからこそ、申し訳ない。


「でも…………ごめんなさい」


 ボクにとって、オニとは愛すべき隣人で。友達で。家族のようなもので。


 だから、そんなオニを傷つけられないし。バトルに強い拒否感をもつうえ、『お肉』だと見た目からしてわかるものを食べられない、と。


 おかげで、同期じゃ一番レベルが低い成長不良児ちんちくりんだよ、と。そう冗談めかして告げれば、なんだか泣きそうな顔してギュッと唇を嚙みしめるアクアちゃん。


「で、でも……。それじゃ、アンタ、『ヒトデナシ』に……!」


 うん。そだね。


 ボクはきっと、長生きはできない。……たぶん、ボクの最期は、今では珍しくなって久しい、『ヒト』から堕落した化け物――『ヒトデナシ』となっての討伐死だろう。


 聞けば、『ヒトデナシ』は特に『ヒト』にとっての毒となるカミを内包しているって話だし。それがゆえに、見つけ次第、問答無用での『討伐』が推奨されている、らしい。


 それが、残念と言えば残念だし。前世で大そう願った、大好きな『ヒャッキ・ヤオヨロズ』の世界だもん。そりゃあ長生きしたいという思いが無いと言えばウソにはなるし、自我が汚染されていっての発狂死って言うのも怖い。


 でも……半分、あきらめているのもまた事実で。正直、オレとして生きた四十数年の生からの延長である今生ボクだから、そこまで悲観もしていなかったり?


 …………もっとも。レベル上げをし難いのも、なにもかも。一から十までオレの記憶のせいなんだけど、ね。


 うん。


 とりあえず。顔を曇らせるアクアちゃんに「だから、お願いを一つ」と。どうか、こんなヘンテコな子が居たことを覚えていてくれたら嬉しい、と。なんとなくヒロイン的なムーブを決行してみたり。


「っ! あ、アンタ――」


「ユリーカ」


 ……うん。本当に、ごめんなさい。


「できれば、名前で呼んでほしい、かな」


 アクアちゃん。君には、なんの恨みもないし、酷な仕打ちであるのも理解しているんだけど、さ。……ごめんなさい。大好きな『ヒャッキ・ヤオヨロズ』という作品で、特に大好きだったキャラのきみに、オレはボクのことを刻みたい。覚えていてほしい。


 だから、ごめんなさい。ボクは、ボクの自分勝手なワガママのために、今日あったばかりの君に爪痕を遺すことにする。


「大丈夫。ちゃんと、町まで戻ったらバトルするから」


 さきに、ちょっと採取させて、と。そう言って、あえて背を向け、さっとその場に座り込むボク。そして、アクアちゃんに声をかけられるまでしていた薬草採取のつづきに取りかかる。


 ……ふっふっふ。これぞ、大人の駆け引き!


 バトルしたらバイバイだからね。それだけじゃあ彼女とあまり話せないし、ボクのことを知ってもらえないってなわけで、ちょっと振り回されてもらうよ。


「と。そう言えば、さっきの『ここであったが百年目』って何?」


 もしかして、どこかで会ったことある? と、作業しつつ問えば、「え?」という声が思いのほか近くから聞こえた。……って、ああ。なるほど。手持ち無沙汰でボクの手元を覗き込んでたのかな?


「あー……。それは、アレよ。言葉の綾って言うか……」


 曰く。やはり、アクアちゃんとボクに面識は無く。出会い、話したのは今日が初めて、と。


 しかし、彼女はボクのことを知っていた。と言うか、教わったらしい。


 曰く。故郷の町を出て数日のところで出会った、とある『お嬢さまと愉快な仲間たち』に。それも、バトルでボッコボコにされたあとで。なんとも上から目線の忠告といっしょに、だ。


 アクアちゃんはそれまで、とある理由から先を急いでいて、シキのレベル上げをあまりしていなかったそうで。最初の、旅立ちの日に手向けとしてもらったシキだけしか手札が無かったことも含め、そんなんじゃ危ない、と。急がば回れ、と。それはそれは腹立たしい口調でもって正論パンチを――もとい、同じルーキーとして『優しく?』諭されたらしい。


 で。このとき、深緑の町に居るだろう『もう一人の同郷のルーキー』こと、『旅に関しては随一の見識をもつ同性』――つまりは、ボクのことを教えてくれやがったそうだ。悔しかったら彼女にでもバトルでリベンジすると良いですわ! なんて言葉とともに。


 ……うん。とりあえず。ありがとう、お嬢さま+αたち。なんか無意味にヘイトを稼いだ挙句、その敵意をぜんぶ擦り付けられてるけど……おかげさまで原作主人公であるアクアちゃんと知り合えたわけで。


 ボク自身、最近は森にこもってばかりだったから、ね。ムダとも思える高いヘイトのおかげでスルーされることなく彼女に探し出してもらえたのは、幸い、かな?


 ……お嬢さまズが何を思ってアクアちゃんを差し向けてきたのかは知らないけど、原作スキーのオレ氏としては大歓喜。感謝御礼のファインプレイと褒めざるを得ないわけで。


 と言うか、自分たちだって最初は『イシンナカ』だけで十分と思ってたし。レベル上げにしたって半ば『カミナリス』のためだったよね? それで何で偉そうに説教してくれてるの? そのおかげでアクアちゃんと出逢えて、旅の安全が買えたのであれば……まぁ、あえて彼女らの真実は黙っていてあげるのもやぶさかではないけど。


 あと。舞台となる国こそ、初代やそのリメイク版と同じとは言え、そのスタートというか主人公のデビューするタイミングがボクと重なるとは思わなかったから、正直、今日まで気にしてなかったけど――




 ……あれ? これ、ちょっとヤバくない?




 つまり、原作主人公たちもこの『ヤオヨロズ』には居て。


 つまりつまり、原作主人公たちの辿るべき物語シナリオが、まだ経過してないってことで。


 だから――……え? マ・ジ・で???


 う、うわー……ヤバイよヤバイよ。今日までは自分のことでいっぱいいっぱいだっから気にしてなかったけど――このままだと国の一大事!? あと、ほかの国の主人公たちのデビューがいつかは知らないけど、そのタイミング次第では世界の存亡を賭けた一大決戦に巻き込まれかねないんだけど!?


「と、とにかく、アレよ! あ、アンタにはしっかりと、アイツらの代わりにアタシのリベンジを受けてもらわなきゃなのよ!」


 逃がさないんだから、と。そう可愛らしくツンデレるアクアちゃんの様子にほっこりしつつ、何気に彼女を足止めさせてしまっている現状ってば大丈夫なんだろうか? と、今更ながら不安に襲われる。


 お嬢さまズが彼女にバトルで勝てたのは、言ってしまえばボクのおかげなわけで。そこから、ボクを探してバトルを挑ませた理由に関してはあずかり知らないにしても、アクアちゃんがレベル上げや手札を増やすために足踏みすることになった遠因は、確実にボクの助言が理由だろうし。個人的には『イイね!』をあげたくはあるけど、オレ視点で言えば『主人公が途中で足を止める』っていうのは影響力がヤバイ。規模的に。それこそ、死傷者が数千数万と変わってもおかしくないぐらいには、ヤバイ。


 だから――……否。だけど(・・・)、だ。


 あえて、言おう。知ったことか、そんなこと。


 オレ氏は原作スキーであり。当然、そのシナリオだって気に入っていた。


 主人公の頑張りを、成長を、その旅の道のりを、何より楽しんでいたさ。


 だけど――それがどうした(・・・・・・・)


 少なくともアクアちゃんのことを心配してだろう、今生でできた初めての友達・・の行為を否定することを、ボクはできないし、許さない。


 そのせいで、あとで後悔するような結末となっても。ボクは、少なくとも彼女たちの想いだけは否定しない。否定したくない(・・・・・)


 だから――


「ちなみに。アクアちゃんは、この森で手札を増やす気はある?」


 内心でため息を一つ。ひそかに思考を切り替え、ちらり、少女を振り向いて訊ねる。


「……ぇ? や、無い、けど?」


 だって、この森、虫しか出ないじゃん、と。プイッとそっぽを向いて答えるアクアちゃん。


 そんな彼女に「ですよねー」と頷いて返しつつ、フード付きのローブを脱いで、「はい」と。道中でよく枝葉に引っかかっていた長いツインテールと、ヘソ出しミニスカなんて格好なせいで危なかったしかったこともあり、上着代わりにとポンチョもどきの外套を貸すことに。


「えー? ……なにこれ、かわいくない」


 てか、なんかケムリ臭くない? と、なんかイヤそうな顔をして受け取る彼女に、すこしピキッと来たけど、「それ。『虫よけのおこう』を付与してるから」と。どうにか笑顔でもって告げ、ボクが森に入っているときは基本、それと『オニ除けの護符アミュレット』でもって野生のオニと遭遇し難いようにしている、と教える。


 だから、今まで『バグス』も『ワーム』も出てないでしょ? と、ほんのり得意げに言えば、「えー……。なんでそんな、徹底してんのよ……」と呆れ顔になってアクアちゃん。そんなんじゃ、マジでレベル上げ、できないじゃん、と。聞き取れるかどうかという小声で、ボクに渡された外套を羽織って顔を隠しつつこぼす彼女は……やっぱり優しいな。


「ちなみに、それ着て森を駆けまわれば、もしかしたらこの森唯一の虫以外のオニ――『カミナリス』と出会える、かも?」


「え、マジ? ここって『カミナリス』出るの!?」


 アンタ、それ早く教えなさいよ! と言って、さっそく駆けだしていくアクアちゃん。


 その背に、「ちなみにー。お嬢さまたちに『カミナリス』のこと教えたのもー、ボクだったりー?」と心なし大きな声で呼びかければ、彼女は反転。こちらにダッシュで戻ってきて「やっぱ、だいたい、アンタが原因かー!?」とグーパンでもってツッコミをくれた。うん。良い右手をお持ち、で……ぐほぁッ!


オレ氏のメモ:『メスガキ』って良いよね……。

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