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03 旅道具にも貧富の格差ががが!

 けっきょく、ボクらの旅の行き先は、女子組が勝ったことで『ヒノイズルクニ』の有名リゾート地にして、原作主人公のスタート地点でもあった場所――『ユートピアン』に決定した。


 これにはボクのやらされた先鋒戦による一勝も小さくないわけで……。おかげさまで、以後、ムダに男子くんからのヘイトががが!


 でも。言ってはなんだけど、攻撃技が反動ダメージ有りの『ころがる』しかない、レベル1の『イシンナカ』だけしかない状態で旅立たないといけないのに『回復アイテムを用意してない』とか、ね。バカか、と。ボクら『ヒト』種のケガすら癒せるビックリ・ファンタジーな回復アイテムを、旅立ちに際し、どうして誰も準備していないのか……これが本当に、わからない。


 もっとも。ここ、『ヤオヨロズ』の世界では、『成人の儀式』たる旅立ちは伝統で。誰しもが一度は経験する恒例行事。だから自分が、子供が、孫が旅に出るときのため、授業内容から社会の構造から『未成人による旅』をサポートしたものになっている。


 結果。原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』を良く知るオレの記憶もつボクでなくても、学校を卒業した子供たちは、みんな、大人の考える『旅に必要な最低限の知識』をもっているわけで。だから、誰もが簡素なつくりのテントを組み立てられるし、火をおこせるし、シキを使ってのバトルもできるから『一人旅』だって安心・安全――…………なんて思ってそうで、こわい。


 ねぇ。なんで、女子組のみんな、テント持ってないの? 見た感じ、寝袋も持ってないよね? 大丈夫なの――って、お嬢さまの持ってるバッグにだいたい全部・・入ってるの!?


 …………あー。彼女のバッグでアレだ。原作でもあった、主人公が持ってる『いくらでも、どんな大きさや重さのものでも入って重量は感じず。どころか、中身の時間経過すら無い』っていうビックリ不思議ファンタジーな『アイテム・ボックス』こと通称『ふしぎなリュック』という便利アイテムだ。


 そっか、それでみんな軽装――って、男子組は見たまんま? テントも寝袋も、雨具さえ持ってないの? ……そう。今日が晴れてて良かったね。


 とりま。旅というものを舐め腐ってるっぽい男子組は論外としても、ざっと女子組の持ち物を確認した感じ、こっちもなぁ……。どうにも危機感が無い、って言うか、旅行感覚? ……じつは、これが普通なのかな? 逆にボクの持っているものの少なさに心配されたんだけど。


 ……いや、だって、さ。ボクってば、同年代の子たちに比べて二つ、三つは幼い体躯なわけで。レベルが低いから、そういう意味でも体力や腕力が無いわけで。ついでに、ウチってば貧乏だったから、ね。


 ほかの女子組のように裕福な家の子であるお嬢さま全面協力で準備したらしいそれらと違って、ボクはだから、装備から荷物から厳選に厳選を重ねたうえでの最小限、ということになった、と。


 だから、当然、余計な服なんか持ってないし。「化粧品? なにそれおいしいの?」ってやつだし。……あと、生理用品も、ね。うん。着替えもだけど、女の子には大事なものだよね。否定はしない。しないけど、ボクにはまだ必要ないかな~?


 で。それはさておき。さきのバトルの結果、どういうわけか女子組のリーダー格であるお嬢さまに気に入られたようで。今日まで無視されてきたボクだけど、行き先決めのチーム戦でボクの貢献もあって勝利できたことで、ボクの発言力も向上したようす。


 逆に、男子組との確執は覆すことはできなさそうだけど……とりあえず、今日の野営地となる場所までの道すがら、女子組と多少なり打ち解けられたので、良し、と。


 で。こうした街道の途中に、誰でも無料で、安全に野営できる広場が定期的に配されているあたり、さすが『ヤオヨロズ』。誰もが十歳となった年度初めに故郷を旅立ち、成人となる十三歳までの間、帰れない、なんて制度がまかり通ってる世界である。


 今晩、泊ることになった広場には無いけど、ある場所にはSPを消費して水を生み出す、前世の『水道の蛇口』みたいな施設があったり、軽食や飲み物が買える自販機もどきがあったり、トイレがあったりして。地域で、国で、社会で、一丸になって未成人の旅をサポートしよう、としているのがオレ的には違和感ががが!


 おかげで幼い時分の、考えなしの子供たちでも比較的安全に他所の町に行けるし。さらに言えば、原作『百八ヒャクハチ』では主人公が『十歳の少年少女』だったからか描かれていなかったけど……じつは、この世界にも自動車のような乗り物は一般的で。今、ボクらが向かっている隣町にだって、バスもどきの大型の乗り物でもって、遠足みたいなノリで何度か訪れているから、ね。


 大人の足で半日。子供たちの足でも二日とかからない距離に、定期的に泊まれる施設ないし野営地が整備されているとあって、どうしても皆の危機感が欠如しているようなんだけど……まぁ、まだまだ幼い彼ら彼女らが傷つき、命を失ってしまうのなんてボクだって嫌だし。こうして当事者として旅をするようになった今、ありがたいことには変わらないし。だからまぁ、いいか?


 とりま。三々五々、広場に着くや、それぞれで好き勝手に動き出すのを横目に、ボクは広間の隅にある薪をためてる小屋まで行き。幾つか良さげな薪を選んで運び、明るいうちにまずはテントの設営を、と。……その間に、女子組は『設営しようと願い、SPを流すことで起動する便利アイテム』でもって一瞬で『数人が余裕で寝転がれるサイズのテント』を呼び出しているのを見て、ちょっと切なくなる。


 原作『百八ヒャクハチ』主人公たち御用達の『ふしぎなリュック』もだけど、この手の便利アイテムって高価だからね。今の中古品中心で装備を揃えるしかなかったボクには手が出ませんでしたよ……。はぁ。


 さておき。こうして勝手をしているボクが言うのはなんだけど、こういうとき、指示出しをリーダー格であるお嬢さま、ないし男子で一番体格の良くって発言力の高いらしい男の子がしてくれると元・クラスメイトが一丸になって助かるんだけど……さきのバトルで負けたのを根に持ってか、男子は女子を無視するかたちで勝手にやってるし。お嬢さまはお嬢さまで「つかれましたわ」と言って座り込んだきり、ボクらを眺めているだけという。


 ……うん。まぁ、邪魔しないだけマシ、とでも思おう。


 とりま。持ってきた薪を、持参したマイ山刀でもって割り。さっさと焚火をおこしつつ、この、マッチやライターを使わず、前世でいう『魔法』のように内なるカミのチカラでもって世界を構成するカミに干渉・改変して『一見、何もないところで火をつける』現象をおこせるのが、また。オレの感性で言えば、わりと毎回テンションが上がるんだよねぇ。


 で。ついでに、ちょっと離れた位置で、ボクと同じく薪割りをしようとしてまごつき、苦戦しているらしい少女らに手を貸すことに。……ふふふ。こういう小さなことからコツコツと好感度を稼いでいかないと、ね。


「ふふ。となり、よろしいかしら?」


 と、そう断りつつ隣に座すお嬢さまに「どうぞ」、と返し。彼女といっしょにぞろぞろと近寄ってくる少女たちを尻目に、小鍋に魔法的不思議ファンタジーなチカラこと『神術しんじゅつ』でもって水を入れ。火にかけて。


 とりあえず、まずは今日の晩御飯についてだけど――……確認したら、誰一人、調理器具を持ってきてない件。


 あのね、君たち。今晩は持ってきたらしいお弁当で良いし、明日の朝以降にしても『ヤオヨロズ版カ〇リーメイト』的なお菓子だけで大丈夫なのかも知れないけどさ。


 でも「スープつくるけど、飲む?」って聞けば、やっぱり欲しがるじゃん。こういうときの温かい飲み物のありがたみをもう少し知ってた方がいいよ、ほんと。……え? お礼にお菓子くれるの? ありがとうございます。それ、値段的に、ボクだと買えなかったんだよねぇ。


 とりま、持ってきていた乾燥野菜とスープの素を入れつつ「ああ。そうだ」とボク。大事なことを一つ、と。そう言って、ちょい、ちょい、と軽く手招きして女子組全員をそばに寄せたうえ、いっそう声をひそめて「トイレについて」と。その一言で瞳に真剣みを帯びた四人に、決して男子組には見えないだろう位置に手をもって置き、指先でもってボクが張ったテントを示して「あのテントの裏に、いい感じの目隠しになる草むらがあるんだけど」と言葉を次ぐ。


 できれば、今のうちに行ってきて。もちろん順番に。できる限り、男子にはバレないように。スコップは持ってきてる? ……持ってきてない? 貸すから。はい。あと、除菌ティッシュは……ある? よかった。


 それから、なるべくでいいから、今からは水分摂取は控えめで。深夜とか、寝ているときに行きたくなっても一人では絶対に行かないように。シキを伴ってか、ボクでも誰でもいいから起こして、ね。


 恥ずかしいかもだけど、今は『外』で、近くには男子がいるんだから気をつけて、と。そう神妙な空気をつくって告げれば、彼女たちもまた真剣な顔で頷いてくれた。


「まぁまぁ。素晴らしい手際ですわね」


 と。そんなボクの隣に来て、元・クラスメイトにして女子組のリーダー格であるお嬢さま。「さきのバトルのときも思いましたが……ふふ。わたくしってば、あなたのことを勘違いしていたみたい」と。


 聞けば、町一番の猟師の家の子だとか? さすがですわね、と。そう微笑みを浮かべ、自然体で今まさにいい匂いを発しだしている小鍋を見やり、『自分に一番最初に寄越せ』と言っているような彼女には、「……味見、します?」と。そう、つくり途中のスープをよそって渡し。なんか嫉妬の目でもって見てくる他の女子たちにも「君たちも、味見、お願いできる?」と言って、どうにか機嫌をとることに。


 次いで「あと……男子には内緒で相談が」と。無いとは思うけど、と声をひそめ、わずかにお嬢さまに顔を近づけ。ちょっと距離のある他の女子組にもわかるよう努めて、ちらり、男子たちを視線と指さしでもって示し、「夜。寝ているときの警備は、がんばろう」と。あえて共通の敵をつくることで仲良くなろうと画策。


「? それは、どういう……?」


「――あ。そうか、今って……」


「た、たしかに。先生とか、大人のひとが居ないんだった……!」


「それねー。いちおう、みんな、シキを出しておこっかー」


 うん。男子組には悪いけど、やっぱり適度な緊張感は必要だと思うし、最低限の連帯感は育んでおかないとマズいと思うんだよね。


 うん。男子組とのことは諦めました。ムリです。ここから仲良くなるのは。だから――じゃないけど、せいぜい彼らのことは利用させてもらうことに。


「おー。さすが、狩人のうちの子だねー」


「だねー。学校の授業のときはそうでもなかったけど、大人のいない今だと、男子なんかとはやっぱり安心感が違うって言うか、頼もしいよね」


「それな! ってか、むしろ男子の方が不安材料ってやつな!」


 ……ははは。うん。とりあえず、声をひそめてください。男子組の目が! ボクを見る目ががが!


「え、えーと……。あ、そう言えば、知ってる? じつは――」


 とにかく、話題を変えよう、と。そう思って大して考えもせず提供した話題で――……まさか、あんな結果を招くことになるとは。


「はい、男子ー! 注目ー!」


「相談、相談ー!」


「って言うか、提案があるんだけどー!」


 ――翌朝。最低限の身嗜みを整えて、さっそく男子組に突撃していく女子組。


「ふふ。あなたたちのことですから、どうせ、『最初の町』まではいっしょにいてくれるんでしょうけど、そこからは別れてマウンテン・ホーライにでも行くつもりなんでしょう?」


 で。そんな彼女たちを尻目に、ボクは一人、傍目にはテキパキと朝食を準備しているふうを装いつつ、背中に冷や汗たらり。


 ……うん。この騒動ね。ボクが原因なんだわ。


「ああ? だったら、何――」


「今、わたくしたちの手札は、みな、『イシンナカ』だけですわよね?」


 そう。今でこそ、男女十二人という一団に一枚ずつシキがあり。ボクのおかげで最低限の回復アイテムこそあるものの、言ってしまえば、それしか『備え』が無いのだ。


 だから、大人組は『全員で最初の町まで向かう』よう願い。


 だけど、ボクのせいもあるんだけど、女子組と男子組の確執はひどくなり。このままでは確実に、『最初の町(そこ)』で男女が別れることになる。


「ですから、提案ですわ」


 だからこそ、今のうちに。せめて、数でもって質を補えるうちに。


「今日いっぱいを使って、みなでレベル上げと――新しいシキを手に入れません?」


 ――この周囲に出現する敵性モブは、今のボクらが使役する『イシンナカ』よりレベルが高い。


 これは、原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』のゲーム版主人公のスタート地点が、ボクらの故郷である『ダイタン・コー』ではなく。その三つは手前の町だからで。要するに、主人公がレベル1のシキを手に『成人の儀式』として旅立ち、順調にレベル上げをしていった先にあるのがココだから――なんて理由では勿論ないのだろうけど。


 珍しいことに、これはオレではなく、ボクの知識として。この『ヒノイズルクニ』では町や街道には野生のオニが嫌う、いわゆる『結界』的な不思議ファンタジーなチカラが働いていて。道行くヒトや住まうものたちに安全を約束してくれているらしいんだけど、それが理由なのか、逆にそれらヒトが生み出した安全地帯以外の、人里から離れれば離れるほどに危険度が上がっていく、と。ボクらは授業で習って知っていた。


 だから、ボクがあらためて危険を訴えるまでもなく、彼ら彼女らはこの辺りのオニの脅威を知っているわけで。実際問題、授業でやらされた『野生のオニ退治』でも、ここまで来て、ここいらで出現するオニのレベルが『4』、ないし『5』はあったと知っている……はずだ。たぶん。


 で。そんなのの相手をボクらのようなレベル1のシキ一枚で退けろ、っていうのは酷というか、普通に考えればムリなんだけど……そこはそれ、野営地にもまた『オニ除けの仕掛け』があって。不用意に道を外れて草むらに突っ込まなければ野生のオニに遭遇しないから大丈夫、と。


 また、最悪の場合は、シキを囮に逃げれば良いし。あるいは、大人組の願うとおり同期のみんなで――つまりは『数でもってレベル差を覆す』で行けるだろう。


 幸いにも、ボクらの与えられたシキは、ここら辺でポップする敵性モブに対して有利ではあるし。今日までの道行きではオニと遭遇しなかったから大丈夫。……なんだけど、だからと言って安心はできない。


 特に、男女が別となる次の町から先はマズい、と。敵性存在に対しての手札の貧弱さがヤバイ、と。それをボクらは知っていて。……少なくとも、ボクに昨日、指摘された女子組は気づいたからこそ、危機感をいだいて。あらためて、現状を改善しようと、今、行動を起こしている。


 …………なんて。そんな動機だったら、良かったんだけどなぁ。


「レベル上げ、ねぇ……」


「新しいシキをゲットするんも賛成だけど……ぶっちゃけ、それ、女子組おまえらとする必要、無くね?」


 お嬢さまと、その取り巻き三人に対して、なぜかニヤニヤ笑いでもって返す男子組は……もう、救えないなぁ。


「ええ。そうですわね」


「同感ー」


「それねー。あたしらも、男子なんかといっしょにレベル上げしなくてもいいって言うか、最初から『いっしょに』なんてする気ないんだけどさぁ?」


「逆に質問なんだけど――わたしたちはレベル上げ優先で『出発を後らせる』つもりだけど、どうする? 先、さっさと行く?」


 あ~あ……。やっぱり、そうなっちゃうかぁ。


「勘違いさせてしまったようですが――わたくしたちは別に、あなた方と組んでレベル上げをする必要なんてないんですのよ?」


 ――HPが『0』になったシキは『鬼札』に戻り、まる一日もの間、再召喚することができない。


 だから、返す返すも、旅立ちの日や途中で手札全部のシキのHPを全損させるまでバトルとか、普通しないし。危ないし。ありえないでしょ、常識的に考えて――っていう愚痴はさておき。


 シキは『鬼札』に戻すことで時間と使役主マスターのSPの消費こそ必要だが、自動的に回復させることができる。


 だから、そんな回復の間が発生する関係で、参加人数が多いほど無駄が無いというだけで。つまり、効率の問題で。彼ら彼女らの言うとおり、男女別でのレベル上げであっても問題ない、と。


「そーそー。これはー、言ってしまえば親切心からの忠告ー?」


男子組あんたたちは馬鹿で、考えなしだからさぁ」


「マジで。このまま低レベルのシキ一枚だけで旅して死なれちゃ寝覚めが悪そうだしねー」


 なんかムダに煽ってらっしゃる女子組は、さておき。


 初代のゲーム版『ヒャッキ・ヤオヨロズ』のときであれば、いざ知らず。ある程度バージョンアップしたあとのタイトルや現実世界となったここでは、じつのところ、ある程度のところで勝負をやめても『内容に応じて』レベルアップに必要な、いわゆる他ゲーでいう『経験値』的な要素である『EXP』を得られるわけで。


 実際。ゲーム版同様、『相手のHPを全損させる』ことを強いられたチーム戦のおかげか、あれの勝者のもつ『イシンナカ』は、だいたいレベルを『2』に上げられたようで。かく言うボクの『イシンナカ』にしても『戦闘時間が長い』と『回復アイテムを使用』の二点でもって『EXP』を稼げたから、たぶん、近いうちにレベルアップできる、はず。


 だから、まぁ。そういう意味で言えば、おいしかったです。……でも、消費時間的、実費的にはマズかったです。大変ありがとうございました。


「はぁ!? なんだと、てめぇ!」


「よーし、わかった! つまりはケンカを売ってんだな。買ってやるよ、そのケンカぁ!」


 ……うん。なんか知らないけど、いつの間にか女子組の狙いどおりの『バトルによるレベル上げ』が始まる流れになってるんだけど。


 あ。ボクはハブですか? ……ああ、いえいえ。ボクは放置で良いですよ、お嬢さま。ほら、ボクってば薪割りで忙しいので。はい。お食事の準備は、おまかせをー。


「ふふふ。それにしても、これは――」


「はい。計画通り、ってやつですね」


 そ・れ・な。


 熱くなる男子に隠れ、ほくそ笑んでいるお嬢さまたちの言葉に内心で同意し。黒い鉄球こと『イシンナカ』が転がりあい、そこかしこでぶつかり合う光景から意識を逸らすため、昨晩のことを回想。


 ――原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』の『最初期のアニメ版マスコットキャラクター』こと、後に『百八ヒャクハチ』の顔とも称されるオニを『カミナリス』と言い。


 体長おおよそ三十センチほどの、黄色味がかった白い体毛のリス型のオニで。つぶらな瞳に、黒い『雷マーク』の眉でキリッとした表情をしているように映る、シリーズ屈指の大人気キャラクターではあったのだが……なんとビックリ、この『カミナリス』の人気はここでも大概高いようで。昨晩、「じつは、この近くの森に出現する」って情報を提供したら、思いのほか食いついてきた。


 それこそ、翌日――つまりは、今日、いきなり森に突撃しかねないほどに。……うん。さすが、全世界の女子供に絶大な人気を博した『百八』のマスコットである。


 が、しかし。先述どおり、この付近で出現するオニのレベルはボクらの使役するものより高い。だから、今いる野営地や街道のような『野生のオニが近づき難い仕掛けがある』場所を行くのでなければ、さすがに危険すぎる。


 と、言うわけで。一計を案じた結果、まずはシキのレベル上げを行う運びになり。次いで、シキの数を増やそう、と。それこそ大人組の願いどおりだろう、男子女子全員が揃っているうちに効率的なレベル上げを行って、先々でも安心・安全な旅を送れるよう、ボクとしても必死に言葉を尽くしたつもりなんだけど…………うん。どうして、こうなった?


「そう言えば、『新しいシキを』というのは良いのですが……この辺りで捕まえられるオニって何が居ましたでしょうか?」


 ダメージの回復待ちか、はたまたボクの作っている朝食が今まさに完成したからか。いつの間にか隣に待機スタンバっていたお嬢さまが問うてきた。……あー。うん。仕方ない。さきに、どうぞ?


「この辺の草むらで出るのは、『ノネチュー』と『ヤコッケイ』かな?」


 ちなみに。野ネズミ型のオニ『ノネチュー』と鶏型の『ヤコッケイ』は、この国『ヒノイズルクニ』では最もポピュラーなオニで。わりとどこの草むらにでも出現するオニであり。そして…………最も多く食肉・・として狩られるオニだったりもする。


 だから、狩人の家の娘として、こいつらを狩っている様子や解体・・作業まで目にしているボクは、ちょっとトラウマががが!


 スプラッタ、イヤ。マジで。今生のお父さま、お母さま、お肉屋のおじさん……お願いだから、ボクに解体とかさせないで。旅に出たときに役立つ、って言われてもムリだから。教えなくていいから! どこの部位がおいしいとか、べつに知りたくないから!


「……そうでしたわね。『ノネチュー』と、『ヤコッケイ』……正直、あまり欲しいとは思えないオニですわね」


 お嬢さまのつぶやきに、ハッと正気にもどる。


「あー……。でも、『ヤコッケイ』だけでもゲットしておかないと大変ですよ?」


 なにせ、この先の、女子組が真に向かいたい場所である森の中では虫型のオニが出る。そりゃあもう、出る。


 原作どおりであれば、森のような場所では『ほかに比べて特にオニの出現率が上がる』から、『反動ダメージ有り』の攻撃技しかない『イシンナカ』ではツライ。それこそ、回復アイテムがいくらあっても足りないと思われるほどに。


 だから、『ノネチュー』か『ヤコッケイ』をゲット――つまりは、『封印札』というアイテムを用いてオニを『お札』に封印すること――して。とにかく、『イシンナカ』を『鬼札カード』に戻して回復する間を稼ぐためにも、これからの旅の安全のためにも、何でもいいから手札は増やすべきで。


「最悪、森で『バグス』か『ワーム』をゲット――」


「それこそ却下ですわ」


 ですよねー。


 だって、『バグス』って……つまりは、前世でいう『セミ』とか『カマキリ』とかの、いわゆる『見たまんまの虫』だし。『ワーム』は、『イモムシ』や『ミミズ』のような『ニョロッとした生き物』だし。強い弱い、役に立つとか以前にビジュアル面からして女子組にはムリだと思う。


「うーん……。それならいっそ、どうにか男子を森まで引っ張っていって『つゆ払い』を――」


「それで行きましょう」


 …………うん。男子組にも、このさき、幸多からんことを。


オレ氏のメモ:誰もが一度は旅を経験する世界なせいか、インスタント食品やキャンプ用品に関しては前世日本を超えるものがあり。だいたいの便利アイテムがカード一枚になっている……けど、そういうカードになっているアイテムほど高いから、ボクは持っていなかったり(泣)

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