02 日本産だからね、仕方ないね
前世では世界的に大人気だった『ヒャッキ・ヤオヨロズ』。
その作品のなかで、最初の舞台にして、アニメ版主人公のスタート地点でもある、ボクの生まれたこの国の名を『ヒノイズルクニ』と言い。この国は、シリーズでも特に、元ネタだろう『日本』のものを多くパクり――もとい、オマージュした名称が使われていた。
例えば、ボクが生まれた町の名前は『ダイタン・コー』と言い、原作における設定上、そしてこの世界での歴史上では元『有名な鉱山街』だったそうで。つまりは、大・炭鉱ないし炭坑というのが名前の元ネタ、かな?
で。初代の場合、名称以外にもキャラクターの外見などまで日本人の感性に寄り添って描かれたものが多く。何を隠そう、アニメや漫画の主人公くんは黒髪黒目の、まんま『日本の男の子』といったビジュアルだったし。長寿番組の定めか、原作ゲームのシナリオにない話としてアニメ版独自の回には現実世界のそれと似たような風習や時事ネタなんかを扱ったりもしていて。それがまた、視聴者の共感を呼んで人気に繋がったりもしていた。
だから、ボクの外見が、オレ視点ですら日本にも居そうと思われる醤油顔で。赤銅色の、たれ目がちな瞳と短髪頭はともかく、幼児期からの偏食とバトルによるレベル上げを拒否し続けたことで実年齢より二つ三つは幼く、小さく、痩せていて。そばかすの浮かぶ顔の色は、もろもろの理由でいつだって若干、悪っかたりするんだとしても……まぁギリギリ日本人? に、見える、かも?
もっとも。今のボクの格好は、ちょっと日本人には見えないものだろうけど、それはさておき。ボクと同じく、そこはかとなく日本人に見える元・クラスメイトにして『旅立ちの日』が同日となった子供たちが、今――
「始め!」
――ボクと男子くんが召喚した『はじめてのシキ』同士の一戦を見つめていた。
「『イシンナカ』、『ころがる』だ!」
審判役のつもりだろう、男子のリーダー格の子の掛け声と同時。対峙する先鋒役の男子くんの指示と、それによって動き出す、彼の足下に転がっていたシキ。
それを冷めた目で見て、聞いて、慌てることなく口を開く。
「『イシンナカ』、避けて『いしまとい』」
――曰く、『ヤオヨロズ』での『成人の儀式』で手向けとしてもらえるオニは、その土地によって変わるのだそうで。
これは原作でも描かれていなかったからオレも知らなかったが、ボクたちの生まれ故郷たる元・鉱山街『ダイタン・コー』でもらえたシキの『イシンナカ』については、ボクはきっと、この場の誰よりも詳しい。
「ちっ! 外したか!」
――原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』のアニメや漫画版は、さておき。ゲーム版では、プレイヤーの指示出しは『ターンごとの、シキの使える技を選んでのコマンド選択』方式で。その技の発動タイミングは、そのシキの敏捷値の高い順であり、技の命中率なんかは『その技に予め設定された数値そのまま』が基本であった。
で。男子くんが最初に指示した『ころがる』は、『最初のシキ』としてレベル1でもらえる『イシンナカ』が使える唯一の攻撃技で。最初期の作品でこそ、『命中率は低いが、威力は高く。与えたダメージの半分のダメージを受ける』という微妙なものであったが、バージョンを重ねての、オレの知る最新版では、前述したものに加えて『命中するまで「ころがる」以外の選択がとれない。攻撃が外れるごとに命中率・敏捷値・攻撃力が上がり、これは「ころがる」の攻撃が命中することでリセットされる』という効果が付いていた。
で。問題なのは、リアル版こと、ボクの住まう世界の『イシンナカ』が使う『ころがる』がどちらかなんだけど……どうにも、ここでは最新版というかアニメ・漫画版に準拠した感じ? の、ようで。
もともと『イシンナカ』の敏捷値――つまりは、『動き出し』は遅いほうで。『ころがる』が、そのままズバリ、体を転がして体当たりを決行する攻撃技なせいでなのか、なんなのか。最初の方であればゲーム版での『命中率』がどうとか以前に『見るからに避けやすそうな攻撃』だから、リアル寄りな描写の多いアニメ・漫画版ではよく見る、伝説の必殺技『避けろ――本来、そんなコマンドは選択できないし、指示できない――なんて指示がターンを消費せず使えたり。
そして、ボクが避けさせたうえで指示した『いしまとい』は、これまた『イシンナカ』が最初から使えた技の二つ目で。唯一の攻撃技が『ころがる』であれば、こちらはいわゆる強化技で。現状、この二つしかボクらがもらったシキが使える技が無いんだから、相手のHPを全損させる勝負において、選択するなら『ころがる』一択だろう――……なんて思っているのならボクの勝ちだけど、はたして?
「『イシンナカ』! そのまま『ころがる』だ!」
――攻撃技『ころがる』は、外れるごとに威力と敏捷値が上がる。
要するに『転がり続けることで加速していき。それがゆえに相手が避けにくくなっていき、当たったときの加速度分の威力が出る』というもので。数ある『百八』シリーズに登場するシキの技のなかでも比較的わかり易いというか、効果の説明文の長さに反比例して現実的なものなんだけど。
「『イシンナカ』、『いしまとい』を使って受け止めて」
――強化技『いしまとい』は、ある意味、『ころがる』の真逆。
なんとビックリ、不思議ファンタジーなパワーというかシキ自身のSPを使って『その身を創造した石で多い隠す』という魔法的な技で。まさしく、『物理法則? なにそれおいしいの?』であり、この技でもって『石』を纏って隠れ潜むさまを見て『石の中』もとい『イシンナカ』と名付けられたとか、どうとか?
とにかく。この『いしまとい』だが、その効果というのが『防御力と重量の上昇。敏捷値の低下』という『強化と言えば強化だけど、弱化もしてる?』なのに加えて、『使用したシキの属性を「土」に変える』というもので。さきの『ころがる』と併せて、最初のシキとして『イシンナカ』は、オレ氏の感覚で言えば『アタリの部類ではあるけど、ちょっと玄人向け』と思われ。
それがゆえに、
「ばっか、でー! なんでわざわざ受け止めさせてんだよ!」
そう嘲笑し、ボクを指さして「つか、なんで馬鹿の一つ覚えで『いしまとい』しか使わねーの?」と。攻撃技使わないとか、勝つ気ねーの? と。さらには「授業で習ったろ?」と、なにやら賢しげに『いしまとい』の効果と属性についてを語りだす男子くんは――……ちょっと、頭が足りない。
なるほど。彼の言うとおり、『ヤオヨロズ』のオニはそれぞれ属性を持つことがあり。元ネタだろう『陰陽師』的な要素を多数含んでいる原作と同じく、いわゆる『五行思想』を基にしたのだろう、『属性による優劣』というものが世界の根幹として存在している。
これは、例えるなら水辺にいる人魚を模したオニは『水』の属性をもち。『水』の属性をもつオニは、『水をかければ火が消える』的な自然現象を基にしてか『火』属性相手には有利となり、『水をかければ木は茂る』的な思想から『木』属性には不利になる、みたいな?
で。今回の件で言えば、『金』の属性の『イシンナカ』に対して、わざわざ『土』の属性になってしまう『いしまとい』を使うのは間違いだ、と。なぜなら、『百八』の仕様上、『ころがる』のような『属性を持たない接触技』の場合、仕様上、『使用するシキの属性の攻撃として判定される』からで。つまり、『金』の属性の『イシンナカ』が使う『ころがる』の場合、『金』の属性攻撃として判定され。『いしまとい』を使って属性が『土』に変化した『イシンナカ』の場合は、以後、『土』の属性攻撃となってしまう、と。
で。これの何が悪いと言って、『ボクの指示のせいで』属性相性の有利不利が発生してしまうのだ。
つまり、五行思想にある『土生金』――ゲーム的な判定で言えば、『土』の属性攻撃は、『金』属性相手にはダメージが半減する『弱化攻撃』となり。これが当初のまま『金』属性攻撃のしあいであればともかく、以後、唯一の攻撃技である『ころがる』の属性が『土』になってしまうボクの『イシンナカ』では『金』属性の男子くんの『イシンナカ』に対して『弱化攻撃』になるから不利、と。
どうやら彼は、ボクがそんなことも知らない愚か者と嗤い。早くも勝ちを確信してだろう、ボクを必要以上に貶める発言でもって相対的に『それがわかる自分スゴイ』アピールをしているようだけど、
――あまり、元・百八狂いを舐めないでほしい。
「って、はぁッ!?」
思わず『ご高説』をやめ、驚愕に目を剥く男子くん。
その視線のさきで、わずかな燐光を散らしてダメージが回復したことを報せるボクの『イシンナカ』。
と、同時に。ローブの下に潜ませていた『アイテム』が発動したことを報せる光の粒子を振り払い。茫然としている彼の目にもわかり易く映るよう、わざわざ右手をローブから出して、使用済みとなって絵柄の消えた『カード』――この世界の便利アイテムである『お札』を突き出して見せる。
「たしか、ルールは『HP全損による敗北』――だけ、だったよね?」
左手を腰に。ゴツイ革ベルトにすぐ使えるよう予め用意した『お札』の束から数枚引き抜き、突き出して。これまたわかりやすく映るよう扇状に広げながら「つまり、回復アイテムの仕様はアリ、でしょ?」と告げる。
「……は? はぁ!? ふ、ふざっけんな!」
驚き、声を荒げてキョロキョロする男子くん。ボクに文句を言っているようで、たぶん、審判役の男女のリーダー格に是非を問うているのだろう。
……うん。まぁ、正直、大人げないかな~って思わなくもないし。これで反則負けの判定になろうと、それはそれで構わないんだけど…………それ以前に、予想通り、『ヒト』のケガすら癒してくれる『回復アイテム』を持っていないっぽいのが、さ。もう何度目か知れないけど、内心で悪態をもう一度。もうね、バカじゃないのか、と。旅を舐めるのも大概にせーよ、と。
「こ、こんなのノーカン! 反則だろ!?」
しかし、アレだね。ゲームでは『ターン制のコマンド選択バトル』だったから、シキへの指示とアイテムの使用は『1ターンに片方だけ選択可能』だったし。シキの行動順は基本、敏捷値依存の早い者勝ちルールだったのに、さすがはリアル。アニメや漫画版でもそうだったけど、この世界のバトルでは『何より使役主の判断力』こそ問われるようで。
状況判断にシキへの指示出しはもちろん。アイテムの使用なども併せて、ボクら『マスター』の力量が思いのほかバトルではものを言うようす。
だからこそ、ボクはいつ何時でも『シキの召喚』と『ケガの回復』をできるよう考え、『一見して傍目からはお札を持っていないように』両手をローブの下に隠し。いつでもシキを召喚できるよう、ずっと手元に準備していたんだけど、ね。
「あら? どうして反則なんです?」
「……ちっ。お嬢の言うとおり、今回のルール的には『回復アイテムに限らず、アイテムの使用はアリ』――つまりは、続行だ。クソ」
にやにや、面白そうな表情でもってボクを見やるお嬢さまは、さておき。苦々し気に睨んでくる男子たちは何なのか。そも、回復アイテムの使用に思い至らず、あまつさえ準備を怠っている時点で『負け』だと思うんだけど……これも授業としてのバトルしか知らない弊害かなぁ? 授業だとアイテムの使用とか、基本的に禁止だったし。
ただ。なんにせよ、だ。
とりあえず、『審議中?』ってことで何もしなかったけど、対峙する男子くんが「クソが!」と悪態ついて自分のシキに指示するのを見て、ボクも動くことに。
「『イシンナカ』、『ころがる』だ!」
「……『イシンナカ』、受け止めて『いしまとい』」
ちなみに。ボクと、対面する男子くんに限らず、シキへの指示に際して『最初に種族名を呼ぶ』のは、言ってしまえば授業でそう習ったから、だ。
これは、今回のような一対一のシンプルなバトルでなら、いざ知らず。一人の使役主が二体以上のシキを同時に指揮してのバトルもあるとして、いざという時、慌てず、正確な指示出しができるように、と。授業では最初に命ずべきシキの種族名、ないし『命名した固有名』を呼んで、それから行動を。使うべき技にしても動きの指示にしても簡潔に、わかりやすく、なるべく滑舌良く発しよう、と。ボクらはそう習い、練習してきたわけで。
だから、一見すると『微妙なもの』に映るかも知れない指示出しの光景もしかたないもので。その実、『シキへの指示や召喚などはSPを消費して「そう望む」ことで行使可能』なわけで。慣れてしまえば、いちいち口に出す必要も無かったり。
だから、ほかの元・クラスメイトたちはどうか知らないが、今日という日のため準備してきたボクなら、無言でシキを呼び出したうえで何もしゃべることなく指示出しできたりもしたのだけど……それをここで見せる理由もないわけで。
ついでに言えば、そこまでして本気で勝ちを拾いに行く必要もない、と。
だから――
「……クソ! くそくそくそくそ!」
悪態つき、こちらを睨む男子くん。その怒り、焦り、不安を宿すさまは――……見ていてすこし、同情してしまう。
「『イシンナカ』! 『ころがる』だ!」
……きっと、君はボクに負けるなんて思ってもみなかったんだろうね。
「『イシンナカ』、受け止めて『いしまとい』」
――ボクは、正しくクラスの落ちこぼれだ。
ボクの今のレベルが『6』なのに対し、ほかの子の平均レベルは『10』で。対峙する男子くんにしたって『9』はあり。ボクは事実、クラスで一番――どころか、歴代の卒業生のなかでもダントツでレベルが低かった。
そのうえ、バトルの授業では毎回のように泣き。吐いて。たまに気絶していた。
だから、正しく、ボクはバトルが苦手であり。彼ら彼女ら元・クラスメイトたちの思うとおり、きっと、誰よりも弱い。
だから――……否。だからと言って、だ。
こと、バトルの内容が傍目にも地味――骨が折れたり、血が流れたり、目を覆わんばかりに痛々しい様子にならない場合。
そして、使用するシキに差が無く、マスターの知識と事前準備がものを言う試合において、
ボクは、たぶん、最強である。
そも。原作ゲームでは攻撃によるダメージはもとより、反動ダメージにしても最低で『1』のダメージが与えられてたわけで。
だから、そのままの仕様が適応されてた場合、相手が『ころがる』を使い続ければボクが攻撃を指示しなくても、どちらかの『イシンナカ』は『ぜったいにHPが無くなって』勝敗が決していたわけで。
――オレ氏の記憶に曰く。原作ゲーム版における、オニのステータスというのは『生命力、神通力、攻撃力、防御力、敏捷値』の五つで表記されていた。
そして。それぞれが――
〇生命力:いわゆるHP。これが高いほどHPが多い。HPが『0』になると死亡判定。
〇神通力:作中では『SP』と表記される、別ゲーなどにおけるMP。これが高いほどSPが多い。SPが『0』になるとオニは技が使えなくなる。
〇攻撃力:これが高いほど与えるダメージが多くなる。
〇防御力:これが高いほど受けるダメージが低くなる。
〇敏捷値:これが高いほど技の使用における先手が取りやすくなる。
――ということを表していて。
基本的に、この五つの数値が高いほど優秀とされていて。そこに『属性』や『使える技の良し悪し』に、一度のバトルで使えるシキの最大枚数である五枚――通称『手札』と呼ばれるものの中でのバランスや役割なんかを考えるのが『百八』プレイヤーの楽しみの一つだったたんだけど……それはさておき。
これまた原作ゲーム版における『イシンナカ』のステータスについて。
この子のステータスのうち、五つある要素における最大値を示す防御力を五段階表記における『5』とすると――
〇生命力:3
〇神通力:1
〇攻撃力:2
〇防御力:5
〇敏捷値:1
――と。だいたいこんな感じだったと思われ。
つまりは、『防御力が最も高く、敏捷値が最も低い、耐久型のオニ』というのがオレ氏の評価であり。
また、レベル1の『イシンナカ』の最大HPは、ゲーム時代、ギリギリ一桁という数値ではあったが、今回のような『攻撃力の低い耐久型のオニ』同士のバトルの場合、反動ダメージのある『ころがる』を打ち合うだけ、なんて幼稚な試合展開でもなければ十分に回復アイテムの使用が間に合うわけで。
だから、互いに決定打の無い長期戦にもなりえたんだけど……残念。今回のバトルは完全に、事前の準備の差であり。つまりは――ボクの勝ち、だ。
「あらあら。これは……また」
「……ああ。勝負あったな」
結果として。五対五による男女別チーム戦――その先鋒役であるボクは、ついには泣きながら攻撃を指示していた男子くんに対し、三枚目の回復アイテムの使用をもって『次に攻撃を指示した段階で決着』という状態を生み出したことで、彼に膝を屈させるかたちでレフェリーストップの判定勝ち、と。
うーん……。なんか空気が悪いけど…………これ、ボク、悪くないよね???
だって、ボクの使ってた『回復アイテム』って、ゲーム版には無かった『最低値の回復量』のもので。ちょっとした擦り傷や手荒れなんかを癒せる程度の、十枚で『100スィン』――ここ『ヤオヨロズ』の通貨である『スィン』は、オレ氏の感覚で言うと『1スィンが、おおよそ100円』――というもので。たぶん、ゲーム版だと『HP5回復』とか、それ以下だろう。レベル1の最大HPの平均値が10未満だったこともあり、こういう『最初期のシキ同士のバトル』でぐらいしか、じつのところ回復アイテムとして考えると微妙な性能だったり?
それでも、逆に言えば最安値の回復アイテムであり。使えば、それだけでちょっとした傷などは瞬時に癒せるから、旅立ちの日に必須のアイテムだと思ってたんだけど……この子たち、マジで危機感無くない? 大丈夫?
「さぁ、気を取り直しまして、二回戦目を――するまえに、ちょっと良いかしら?」
と。バトルが終わったタイミングで『イシンナカ』を送還――『鬼札』に戻し、回復アイテムの『お札』ともども腰もとのケースにしまっているところに、お嬢さま。
これまで会話らしい会話も無く、無視されていたわけではないまでも『仲良くするつもりもなかった』らしい彼女にしては珍しく、ボクを大そう興味深げな様子で見やり、近づきながら「あなたの使っていました『回復アイテム』を譲っていただけません?」と。
ここであえて、男子組にもわかりやすくボクに交渉してくるあたり、さすがは女子組のリーダーさまか。……おかげで、以後のバトルでは『回復アイテムに限らず、アイテムの使用を禁止』というルールになったようで。旅立ちをまえにしても『札束の殴り合い』を抑制することに成功してみせた。
もっとも。それなら自分たちのバトルもやり直しするよう要請し、無視されて泣いている男子くんは、なんと言うか……ご愁傷様です?
とりま。そうして、あらためて二回戦目以降も行われていったわけだけど。その間、普通にお嬢さまがボクから『回復アイテム』こと、ゲーム時代風に言えば『微回復のお札』――原作だと最低回復量のアイテムが『小回復のお札』であり。ボクの持っているのは、『小』未満の微妙な回復量のアイテムだったから『微』で――を何枚か買ってくれた。
その際、回復量の低さと用途についても教えてみたけど……なんだろう? 今日まで避けられてたわりに話せば話すだけ、なぜか目を輝かせていってるような? そんなお嬢さまの様子に反比例していくように機嫌が悪くなっていくお嬢さまの取り巻き三人ががが!
…………よし。ここはアレだ。初戦の勝ち方のせいか男子組との関係修復はムリそうだし、せめて最初の町に着くまでは女子組に全力で媚びを売ろう!
そのために。まずは、女子組のリーダー格であるお嬢さまに『微回復のお札』をプレゼンしつつ、周りの取り巻きの子たちにも「手荒れ、肌荒れ、日焼け予防にもいいよ」と。今なら売値そのままに売るけど、と。手持ち全部を売り払う勢いでセールストークを頑張り。
傍目には『黒い鉄球が勝手に転がりあってぶつかりあう』という『イシンナカ』同士の、『ころがる』の打ち合いというバトル風景を見続けるのも嫌だったこともあり、ボクは女子組に『お札』を売ったら、そのぶんの補充のために走って買い出しへ。……地味に仕様済みの『絵柄の消えたカード』をお店のひとに返却することでわずかに割引きされるから、今回のバトルで使ったぶんだけ収入があったけど、それはさておき。
とりま。ボクが戻ったころには『自分のシキを用いた初めてのバトル』こと、行き先決めの『五人対五人のチーム戦』が終わっていて。三勝二敗で女子組の勝利という結果に。……おかげで、またボクに負けた男子くんには睨まれ、ほかの男子組にまで恨まれることに。
あーあ。せっかく狙って『準備の大切さ』を知らしめるような戦い方をしたのに、完全に裏目ったというか……元・クラスの落ちこぼれとして『ちょうど良いヘイトの向けどころ』として、ボクだけが悪者みたいになってしまったようで、ひそかに凹むことに。
……うん。やってられないですわー。
オレ氏のメモ:本文にて技名が『ひらがな』もしくは『カタカナ』でのみの表記で、漢字が使われていないのは、初代ゲーム版でのそれが白黒ドット絵の携帯ゲーム機のソフトだったせいで、作中、漢字表記ができなかった名残です。現地ではしっかりと、『いしまとい』→『石装』とかって、それなりの名称が付けられ、叫ばれてます。あしからず。