01 好きこそものの見事に落ちこぼれ?
――曰く、その世界のすべてはカミを宿すという。
空も。大地も。海も。
世界を構成するなにもかも。そこにあるすべてはカミによってできている。
当然。そこに住まう生き物も。ヒトも。同じく、その身はカミによってできていて。これら『意思ないし自我をもつカミの集合体』を、総じて『オニ』と呼ぶ。
そんな世界を称して『ヤオヨロズ』と。
そんな世界を描く作品のタイトルを『ヒャッキ・ヤオヨロズ』と。略して『百八』なんて呼ばれていた。
――ボクの前世の記憶では。
要するに、アレです。『異世界転生』というやつです。
それも『前世でよく知る作品への転生』というやつで。今生の人格こと、『ボク』には、前世で『おっさんだった頃の記憶』こと、『オレ』の知識が生まれつき備わっていた。
……もっとも。幸か不幸か、『オレ』の最期の記憶は無く。『ボク』として生を受ける以前――つまりは、よくある『転生に際して神さま的な存在と会って云々かんぬん』の記憶も無いことで、たぶん『チート的な特殊能力』は無いものと思われる。
が。それでも。ボクにはこの世界の――あるいは、こことよく似た設定の『ゲーム』や『アニメ』の知識があって。現実となったことで生じた齟齬こそあれ、ボクは生まれながらにしてこの世界のことを誰よりも詳しく知っている、と。だから、ボクはこの世界の主人公になれる、と。そんなふうに思ってしまうのは、我ながら単純ではあるけど、しかたないと言うもので。
現地語の習得こそ多少の苦労をともなったが、そこはそれ、生まれた時点で『現代日本で四十代だった人格』があったボクである。おかげさまで『つかまり立ち』をできるようになるまえに、だいたいのことを把握できた。
オレ氏の記憶に曰く。ボクの生まれた国――『ヒノイズルクニ』は、原作こと『百八』では最初の作品であるゲームの舞台で。後に放送されたアニメの舞台でもあり。全世界でもっとも認知された、『ヒャッキ・ヤオヨロズ』というタイトルにおけるスタート地点だったわけで。
だから、それを確信したとき、ボクは狂喜乱舞です。転生してスグに、ここが『百八』の世界だと知ったとき同様、テンションが振り切れて熱が出たね。それでまた死にかけたよね! ……心配をかけてしまった保護者一同には本当に申し訳ないことをしました。ごめんなさい。
さておき。そんな誰より良く知った世界に、文字通り『夢にまでみた』転生を果たしたのである。
当然、オレ時代に幾度となく妄想したとおりの冒険を思い、ボクが心を躍らせたし。それでなくても、自分が特別な存在だと疑っていなかった時分である。
ボクの生まれこそ『原作主人公』ではなく、名持ちの脇役ですらない、『原作では描かれなかった』家の子ではあったが、そんなことは些事。当たり前に、オレの記憶と知識があれば、ボクこそが世界の中心たりえる、と。ここが『レベル制』の、いわゆるRPGの世界だったこともあって、動けるようになれば誰より強くなれる、と。
ボクこそが主人公だ! なんて――
…………そんなふうに思っていた時期もありました。
結論から言いますと、ボクは誰よりも強くなんてなれず。どころか、同年代ではつねに最弱。
加えて、家業の手伝いもせず。偏食家で。ワガママで。有体に言って、ダメダメな子として有名となってしまうことに。
これを『どうしてこうなった……』と嘆けるのであれば、ある意味良かったのだろう。
頑張ってもムリで。運が悪くて。ダメだった理由がわからない――なんてことはなく。これはボクがオレの人格を有しているからこその必然であり、当然の帰結、と。もはや諦念すら覚えていた。
――この世界は、オレ氏の記憶にある『ヒャッキ・ヤオヨロズ』という作品世界によく似ていた。
だから、その類似性にボクは歓喜し。狂喜して、この世界のことをオレこそが誰よりも知っていると驕った。
――オレは『ヒャッキ・ヤオヨロズ』という作品が大好きだった。
その世界観が。その物語が。ゲームとしてのシステムが。
プレイヤーが、そして主人公や登場する数多のキャラクターたちが連れた、友にして供たる『オニ』が。時に相棒として、時にペットとして描かれた、原作『百八』の顔とも呼ぶべき『オニ』たちが、オレは大好きだった。
――オレ氏の記憶に曰く。『百八』は製作元である日本はもちろん、全世界で人気を博した作品であり。そこに登場する『オニ』は、だからこそ老若男女問わず愛されるデザインだった。
おかげで玩具やなんかのグッズを買わされたオレは、気づけば家すら建てられる額を投じていて、後に愕然としたものだけど……それは、さておき。
この『オニ』が、ボクにとっては最大の問題だった。
――この『ヤオヨロズ』の世界にあるものは、すべからく『カミ』を宿している。
そして、そこに住まう生き物――『意思ないし自我をもつカミの集合体』を、総じて『オニ』と呼ぶ。
つまり、
そんな生物の一種である人間は、ほかのモノがそうであるように、生きるためにほかのカミを取り込んで成長する。
つまり――
この世界のヒトは、オニを食べるのである。
……想像してほしい。
原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』のゲームやアニメの対象年齢が小学生以下だったこともあり、『オニ』には女子供を虜にした愛らしいデザインのものが多く。オレ視点であれば、『ヤオヨロズ』に生息する生物は、すべて『なんとなく現実の生物をデフォルメさせた造形』か『子供たちでも嫌わないような愛くるしいデザインのもの』で。オレはそんな『オニ』のことが好きだった。大好きだったのだ。
当然。ボクとしても、そんなカワイイ外見のものが多い『オニ』を嫌うなんてありえず。むしろ、オレの知りうる限りの、この世界に存在するだろうすべての『オニ』を愛していた。……愛しすぎていた。
それこそ、はじめて自分が食べている『お肉』の正体を知って、発狂しかけるほどに。
――この世界の生物は、すべて『オニ』である。
つまり、この『ヤオヨロズ』で口にする『お肉』は、そのすべてが『オニ』を加工したもので。家業である『猟人』が何を狩り、何を解体していたのかを知って…………ボクは泣きわめいた挙句に気絶して。絶望して。以後、『肉』が『肉』だとわかるものを口にできなくなった。
これだけでも大問題なんだけど、それに加えて、この世界がRPGの――『レベルを上げることを第一とする』世界だったことが災いした。
原作ゲームがそうであったように、この世界のヒトは他のオニを殺してレベルを上げる。
これは、ヒトがオニを退治することで命を吸収しているからで。効率を別にすれば食事に限らず、空気を吸っているだけで――つまりは、生きているだけでもレベルを上げられるんだけど……それはさておき。ボクはこの、『オニ退治』や『オニを食材としたものを食らう』ことが苦手で。だからこそ、クラスの落ちこぼれになってしまった、と。
そも。この世界のヒトが、なぜ、レベル上げを至上とするか。それは、レベルが上がれば『ステータス』が――つまりは身体能力や肉体強度が上昇するわけで。つまりは、病気になり難くなり。頭は良くなり。ついでに見目が良くなって。寿命まで延びるという。
これに加えて。世界観的に、ちょっと街を出て、ちょっと道を外れただけで敵性モブとして野生のオニが襲ってくる、RPGが原作の世界である。
だから、必然。誰も彼もがレベルを上げようとするし。そのために、社会の構造からして『レベルを上げる』ことを主軸にしてできていて。オレの観点からすれば驚きの、『レベル上げの仕方』を授業で習ったり、実際に『オニを倒してのレベル上げ』をさせられたり、した。
……これをオレ時代に『ゲーム』ないし『アニメや漫画といった非現実』として見たり、聞いたりしたのであれば他人事として楽しめたのだろうけど、当事者となった今のボクは違う。有体に言って、ボクは『オニを傷つける』ことに強い忌避感を抱いてしまっていた。
これがまた、原作からして戦闘描写がリアル重視の血生臭いものであったとかであれば――人気が出るかどうかはさておき、今のボクほど拒否感なく受け止められただろうが……残念。『ヒャッキ・ヤオヨロズ』は子供向けということもあり、その戦闘描写やダメージの表現なんかは曖昧で目にやさしいものであった。
だから、と言ってしまえば『考えが甘い』と怒られるかもだけど……作品の傾向からして、原作でも『オニ』というのは、ときに主人公たちの友だちとして。親友として。ペットや家族や相棒として描かれていたわけで。
もちろん、原作でもオニは、RPGにおける敵性モブ扱いでもあったし、ときには最悪の敵役として登場することもあったんだけど……ゲームのシステム上、そんな敵対ユニットでも仲間にできるのが『ヒャッキ・ヤオヨロズ』の持ち味でもあり、売りの一つだったわけで。
そも。原作『ヒャッキ・ヤオヨロズ』というゲームでは、主人公たるプレイヤーのレベル上げのために『オニを使役して戦わせる』タイプの作品で。作品ごと、数多いるオニのなかから自分の気に入ったオニを選んで封印。契約して、使役したオニに指示して戦わせるタイプの、『プレイヤー自身では戦わない』タイプのRPGであり。そのコレクション性の高さや、『自分の考えた最高のパーティ』でもって冒険したり、プレイヤー同士で対戦したり、なんかはオレだって大好きだったわけなんだけど……ね。うん。
ちなみに。この『ヒトが使役するオニ』を『シキ』と呼び。プレイヤーたち『シキを操るもの』を総じて『使役主』――『マスター』というのだけど、それはさておき。先述通り、この『マスター』としてシキを操り、レベル上げをすることを授業で習い。社会として、国として、皆に推奨しているのがここ、『ヤオヨロズ』の一般常識なんだけど……これがボクには合わないという。
あれです。愛犬を愛でることを至上とするブリーダーに闘犬をさせようとする世界、みたいな? ……もうね。本当に、合わない。
描写の少ない原作版ならいざ知らず。リアルとなったここで、オニを傷つければ正しく『キズ』となり。骨は砕け、血を流れ。殺せば、殺せてしまう。
それがイヤで。ガマンできなくて。
無理やり授業でオニ同士をバトルさせられて、何度泣いて、わめいて、吐いたことか。
加えて、ボクの実家は猟人――つまりは、野生のオニを狩り。解体し。加工するのが仕事なわけで。……当然、そんなのを手伝えるわけもなく。『お肉』が食べられない、なんて好き嫌いを言うことも併せて、ボクってば家でも味噌っかすです。はい。
もうね。オレとして生きた『数十年ぶんの記憶』があるからこそ、人生に悲観せず、絶望せず、暗くならずに済んではいるけど……そのオレの感性がゆえに苦労させられているから痛しかゆしである。
で。そんなダメダメなボクではあるけど、それでもオレの知識を引き継いでいるだけにレベルがどれだけ低かろうとも将来的に職には困らない――はず、なんだけど。問題は、それ以前にあった。
なんと、この『ヤオヨロズ』では、原作の主人公たちがそうであったように『十歳となった年度初めに旅に出なければならない』という制度があり。それがまかり通っていた。
その理由というか『設定?』に関しては後述するとして。とにかく、十歳になったら――ここでは生まれたときに『一歳』で、年始で一つ歳をとる制度なため、オレ視点で言えば『九歳以下という幼い時分』で、ボクらは故郷をあとにして冒険に出なければいけない、と。
……うん。これね。オレ的にも、正直、正気を疑う制度なんだけど、ね。前世だと原作ゲームの対象年齢が小学生以下だったこともあり、主人公が軒並み『十歳の少年少女』だったことに疑問も抱かず、純粋に楽しんでいたのも今や昔。当事者になってしまえば、これほど不条理で不安に思える制度もないわけで。
しかしながら、ここはそれを常識とする世界であり。社会であり。歴史と伝統もある制度なわけで。ボクが泣いても笑っても、どれだけ嫌がって訴えても関係なく、この『旅立ち』は決定事項。よっぽどの事情でも無ければ、十歳となる年度初めから『成人』とされる十三歳になるまでの間、故郷に帰れないというのであれば、しかたない。あきらめて、そんな『成人の儀式』とも言える旅立ちのため、ボクのできる限りの準備をするだけだ。
と。ボクはボクなりに真剣に、本気で、今日という『旅立ちの日』をむかえたわけなんだけど――……おかしいな。なんか、ほかの子たち、普段着に外套一枚とバッグやリュック一個とかの軽装なんだけど?
ボクなんて、使い古しのくたびれた若草色の硬い革でできた『フード付きのポンチョのような外套』を羽織り。それと同じ素材でつくられた膝下ブーツ、と。色合いさえ気にしなければ、オレ氏時代にあった『雨合羽と長靴』装備のようにも映る恰好であり。じつのところ、しっかりと雨よけの効果もあるんだけど、それはさておき。
そんなローブに隠れて見えないだろう、下にはダボッとした作業ズボンに、これまたサイズの大きめな上着と。とにかく『成長期』ということも考慮したサイズにして、あとあと買い直さずに済むようにしたのは、ボクの手持ちが少なかったからであり。荷物を減らそうと考えたからで。
これに、外套と似たような色合いのリュックにテントまで、そのほとんどが中古品ではあれ、素材の頑丈さは当然として、総じて『草木の多い場所だと見難い色』と。『オニに遭遇し難いように。遭遇しても大丈夫なように』をコンセプトに整えたもので。つまりはなけなしのお小遣いを使い、考えうる限りの工夫と、できる限りの手間に伝手を駆使して用意した専用装備――……なんだけど、あれ? みんな、なんか『ちょっと隣の町まで』みたいな恰好なんだけど???
「だーかーらぁ! せっかく旅するんなら、東まわりで『マウンテン・ホーライ』越えを目指すべきだって!」
「いいえ。向かうなら西の林道を行っての『リゾート・ユートピアン』一択ですわ」
本日、四月一日の早朝。日の出とともに集合した、ボクを含めて男女十二人の卒業生たちは、今、最初の一歩を――決めかねていた。
「『ヒノイズルクニ』に生まれたからには、一度は国の象徴のホーライ山には登るべきだろう?」
「バカね。大人でも苦労して登頂するって言うのに、旅の最初に山登りなんてありえないでしょ? って言うか、無理。無茶。無謀」
これは、教師や大人たちの指示というか『おねがい』として。なるべく旅の最初の目的地は同じにしてほしい、と。できる限り低レベルのうちは大勢で過ごしてほしい、と。そう言われたからで。
それをしっかりと叶えようとするのは良いことだし、ボク自身もこれに賛成だったから、最初だけは行き先がどこであれ、『元・クラスメイトの一人』として同期の子たちといっしょに行くつもりだったけど……まさか、合流して「さぁ、出発」って段階まで行き先を決めていないとは思ってなかった。
「バカは女どもだ! リゾート地とか、そういうとこは何でも高いんだぜ? お嬢と違って、俺らがそんなとこ行ったって何もできねーっての」
「グダグダ言ってるけどー。男子たちの狙いってー、山向こうの『水の都』――『アクア・マ・リーナ』でー。そこのー、水着のおねーさん、でしょー?」
なお、クラスカースト最下位のボクの意見は求められてないのは承知しているので、内心で。とりあえず、原作で『日本の富士山がモデル』らしいホーライ山はやめよう?
ここ、『ヤオヨロズ』の子たちがレベルによる強化でオレの子供時代より数段高い身体能力と体力があったとしても、女子組の言うように、最初に標高三千七百メートル超の山の登頂なんて目指すべきじゃないと思うし。レベルの低い成長不良のボクなんて言わずもがな。普通に考えて九歳以下の少年少女だけで国一番の山の踏破とか、頭おかしいと思う。
で。女子組の希望するリゾート地の方がマシかと言えば、こっちは男子組の言うとおり、物価の高い場所に行くのは、ね。お金、ないッス……。
大人たち曰く、『成人の儀式』で旅する未成年――もとい、この世界で言う『未成人』は、世界的に何かと優遇され、割引きされるらしいけど、それでも最初の目的地として目指すのは、ちょっと……。
だから……まぁ。けっきょくのところ、ボク個人の見解としては、『どちらでもいいけど、どちらにせよ途中で抜けよう』って感じかな?
だから――
「…………。やっぱり、口で何言ったとこで納得なんてできねーよな、お互いに」
「……ですわね。あなたと同じ意見というのも業腹ではありますが、仕方ありませんね」
そう。だからと言って、だ。
まさか、この話し合いという名のケンカもどきが前哨戦で。先日、旅立ちの手向けとして配られた『鬼札』――『はじめてのシキ』を使ったバトルこそが目的で。言ってしまえば、目的地がどうのというのはバトルの口実というか、スパイス?
……いや。まぁ、わからなくもないんだけどね。
原作でもあった『最初にもらったシキ同士を使ってのバトル』は、オレ時代からしても毎回テンションを上げるイベントだったし。言ってしまえば、授業でやっていたのはチュートリアルみたいなものだったわけだし?
だから、本番である今日。理由がなんであれ、今の自分の本気でもってバトルがしてみたい、と。ボクと違って『バトルに対する忌避感が無い』彼ら彼女らが、さっそく手にした力を行使したい、と。そう思ってしまうのはしかたない。
だから――否。だけど、だ。
お願いだから、それにボクを巻き込まないでください。
って言うか、ボクに拒否権は無いんですかね? ……無いんですか、そうですか。じゃあ、スグに降参をして――え? 最後までやれ? 勝敗は、どちらかのHP全損でのみ決定?
……いやいや。え? シキのレベルが『1』という最低値同士で、HPの最大値も少ない同士にしても、それを五戦? ……これから旅立つんだけど? せっかく、早起きしたんだけど? バカなの、死ぬの???
「ほら! さっさとお前も、自分のシキを召喚しろ!」
気づけば、子供たちのつくる円陣のなかに二人。ボクと、ボクの相手役だろう男の子が向かい合うように立たされ、男女五対五のチーム戦――その先鋒を担わされているという。
「…………はぁ」
もはやこれまで、と。深く、長く、ため息をまた一つ。それでどうにか内心のモヤモヤを吐き出したつもりになって、ボクは厚い革のローブで隠してずっと持っていた鬼札に意識を集中。
学校で教師に、そして家では両親に教わったとおり、ボクが唯一契約したオニ――シキとの繋がりを感じ。そこに向かって内なる魂のチカラ――『SP』を注ぎ。
そして、
「――召喚。出てきて、『イシンナカ』」
告げる。と、同時に、革のローブを透過していく光の粒子。
それが一瞬にして集まり。形を成して。現出する、ボクたち同郷の子供たち全員が手向けとしていただいたシキ――種族名『イシンナカ』。
その外見は、言ってしまえば『野球のボールサイズの黒ずんだ鉄球に、金色にほの光るビー玉が二つ、まるで目のように配置されている』だけ、と。口も無ければ手も足も無く。どころか、砕いたところで『中身』もなく。正しく『くず鉄と黄鉄鉱』によってできているのに、勝手にコロコロと転がるし、なんならジャンプまでしてみせるという、前世の感覚で言えば『おもちゃ?』にしか見えない――と言うか、実際に前世ではホビー化されていたし。オレ氏、持ってたし。だから、ボクの感覚としても冗談抜きでおもちゃにしか見えないわけだけど。こんなナリでもれっきとした生物である。
いわゆる、鉱物系と呼ばれるタイプの、原作曰く『鉱物に自我が発生したタイプ』のオニで。特徴として、HPを全損させられれば元となった鉱物だけが残るから、『ヤオヨロズ』では採掘代わりにオニ退治、なんてのもアリだったという。
「んじゃ、ぼちぼち一回戦目、始めっか?」
「ええ。そうですわね」
……けっきょくのところ、最初から最後まで、ボクの意思も意見も求められておらず。
男子たちは、消化試合。女子にしても、ボクのバトルは数合わせと言うか、一種の『言い訳のための捨て駒』。
ゆえに、誰にも期待などされず。
ゆえに、誰にも心配すらされず。
だから――……否。だけど。
それでも、だ。
「始め!」
――ボクは、この一戦を、ムダにだけはしないと心に決めるのだった。
オレ氏のメモ:地味に前世と同じで一年は265日。12カ月で、一月がおおよそ31日。一日は24時間。一週間は7日で、しっかりと曜日まで同じ。それでいて、年齢は1歳スタートで。年始で歳をとり。成人とされるのが13歳というのが、解せぬ……。