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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
CHAPTER.1「死にたがりの悪役人生」
5/51

01-04:賭け金はオマエの命


 前回のあらすじ。脱社畜化計画をこっそり推進していたボクこと洞月真宵は、異能部の下っ端として表のお仕事を頑張っていた。勇者だったのに変態になった琴晴日葵や、大鎌をブンブン振って鴉ばっかを狩り殺す不思議ちゃんの八十谷弥勒を連れて、もう使う人がいない森林公園跡地へ嫌嫌訪れていた!

 部活動は戦闘。汗水垂らして戦うのがボクらの使命!

 副部長である星見廻の無能予知で出待ち作戦を決行したボクたちは、素早く任務を遂行。不浄なゴブリンの群れを手早く掃討して、万々歳。

 だったのに……


「───グオオオオオオオ!!!」

「ギュルルル……!!」

「ぐちょっ……じゅるる……ぐちゃっ……」


 閉門した筈の《洞哭門(アビスゲート)》がまた開いて、強い気配を持つ空想を吐き出したのだ!! はい、前回のあらすじ終わり。なんでまた空間裂けてるんですかねぇ……ホントになにがどうなってんだ新世界。な

 《門》はの数は三つ───いや増えてんな?

 そんでもって現れたのも丁度三体。どれもが大型個体で先程のゴブリンなんかじゃ比べ物にならない大物ばかりであった。

 人間基準では、だけど。


『空想追加だとッ……レッドオーガの特異個体に、アレはデスワーム!? それと……なんだ? あのスライムは……いや……スライム、なのか?』

「すっごい澱んでる……」

「汚染されたウンディーネじゃん。めずらし」

「ん。なにそれ」

『説明を求める』

「……? 言ったまんまだけど」

「なんで知ってんって話」


 赤色肌のオーガの特異個体と、砂漠の地下水脈が住処のバカデカ芋虫と、粘液の塊に堕ちた、精霊の死に損ない。異常個体ばっかだけど、相手にできない程強くはない。

 でもヤバいねぇ。

 レッドオーガは強硬強靭、二階建ての民家よりデカイ。デスワーム、正式名称“幼体バクバクワーム”なんかもっと規模あるし……ウンディーネも、男の平均身長サイズまで肥大化してるし……大きいのバーゲンセールかな?

 なんで今来るんだよ。ボクがいない時にこっち来いや。

 ……ウンディーネっていうのは文字通り水を司る精霊。清く澄んだ湖を住処にしている……筈なのだけど。アレは多分、身体か住処のどっちかに呪いか毒かをぶち込まれて魔物に堕ちたな。精霊が魔物堕ちするのはまぁまぁある。

 パターン的に今回のは……身体に直接かな? 呪いとかを注ぎ込まれたタイプだと推測。

 可哀想に。アレではもう……


「さ〜て、ちゃっちゃと殺して帰ろっか」

「真宵ちゃん真宵ちゃん。待って待って? 私たちそこまで詳しくないからさ……あのウンディーネについて、教えて欲しいなぁ……ね、おねがーい♪」

「……えぇ……あー、それなら、あの敵対心ありまくりなデカブツ共を先に消してからでもいいんじゃない?」

「それもそうだね」

「ん。突撃」

『あっ、おい待て! まずは観察をだな……!』

「「そんなの関係ねぇ!」」

「ん。無視」

『おい……』


 廻先輩は不憫枠。

 後手に回ろうとするのやめなよ。初見相手でも躊躇わず突っ込む精神は持つべきだよ。最初のやられ役になるのもそういうのだけど。臨機応変ってヤツが必要だ。今回のは躊躇なんていらない相手だから尚良し。

 安牌取りたい気持ち自体はわからなくもないけどさ……こういうのは先手必勝だよ。いつもと同じだね。

 そう、最適解はヤツらが下手に暴れる前に殺すこと。

 ……こいつら始末し終わったら、ウンディーネについて本当に話さなきゃいけない感じなん? 知識ひけらかせと。あーあ、お口チャックしてれば良かった。


 ボクに引っ付く日葵と、終始真顔無言で教えて教えてと縋ってくる弥勒先輩は遠投して横に置いておこう。マジでくっつくな。ったく……はぁ。仕方ない。受け入れよう。でも説明してほしければ……あのデカブツと黒いミミズをさっさとぶち殺すこったなぁ!

 てか、言ってる傍からアイツら攻撃してきたよ。

 このまま待ってもボクはいいのよ? ワンチャン轢死してハッピーエンドだから。


「真宵ちゃん、あれ拘束しといて!」

「はぁ?」


 日葵に掴まれポーンと安全地帯まで投げられたボクは、その命令に首を傾げる。

 なんで拘束? ウンディーネを? 殺すんじゃなくて?

 聞きたいだけで生かすつもり……え、あるの? やっぱり心が綺麗だねぇ、キミたちは。

 ちょっとキライ。ボクとは違うから。

 内心嫌悪を隠さないでいると、アイツら二人はすぐさまレッドオーガとデスワームに飛びついた。

 めんどい……


「ガアアアアアアアアア!!」

「《───♪》───ほいっ、せい!」

「ッッ!? ガアアアアアアアアアアアアアア!!」


 怒号を飛ばすレッドオーガが振り下ろした柱並みに太い棘付きの鉄棍棒を、日葵は新たに唄って作り上げた天使の光剣をもって受け止める。そのまま自慢の怪力、素の力で打ち返した。仰け反るレッドオーガも負けじと頑張って、そんなのの無限ループ。両方タフだな。

 つーかなんで打ち勝てるんだよ。すごいなパワー。


 何気に硬いんよねあのオーガ。身体が装甲みてーに頑丈だからかな?


「ギュルルルルルル!!」

「ん。輪切りにする───、?」

「ギュルルル!」

「んん……硬……面倒……」


 自然公園に穴ぼこを増やすデスワームは、大鎌一振りで無謀にも特攻かました弥勒先輩へ捕食攻撃……大きな口で土ごと平らげようとしたけど、先輩は跳んで回避。

 顕現させたままだった鎌を振り下ろして───硬すぎる表皮に阻まれて、弾かれる。

 すごい金属音鳴った。耳キーンってなるなった……

 加えて穴掘りの震動がすごい。あと人、よくもバランス崩さずに動けれるな……いや日葵も赤鬼も被害食らってて普通に動けてるから、そこまでか……ボクも含めて、全員おかしいのか?

 あー、んー、でも、確かにこの程度の揺れは異世界育ちアルカナ育ちには弱いかなぁ。ここって変わらず地震大国ジャポーネだもん。慣れるよね。

 ……立体機動六番兵装(なんかすごいブーツ)で三半規管鍛えられたのもあるのかな?


『うぉっ、危なッ……今当たるとこだったぞ!?』


 叫んだ廻先輩のドローンをしょうがないモノを見る目で見る。そりゃあブンブンドローン飛ばしてたら、いつかは尾が当たるもんだよ。でも操作は上手いよね……自動操縦モードに切り替えたらもっと危機減るのでは?

 壊れたら弁償なんだもん。既に何回も壊してるけど。


 それはそれとして、後ろに跳躍してから即座に接近して斬りかかるとか、弥勒先輩の動きは並の人間だったら到底できない芸当だな。流石は死神……大道芸人目指せば?

 本当、異能者って便利な身体してんよねー。なんでか、魔力で身体が仕上がってる? から、ふつーの人よりすごい動きができるんだよね。

 原理とかは……魔法パワー? ってことでよろしく。


「ぎゅぷ…ちゃぷっ……ぎゅるるん!」

「……なに言ってっか興味はないけど、キミは黙ってな。特別に殺すのは……我慢してあげるからさ」

「!? ーー!! ーー!!」


 汚い水音を立てて、弾丸のように粘液を撃ち出してきたウンディーネ(堕)を、指をクイッとさせて連動させた足元の影で捕らえる。市販のブロック肉風に縛って拘束して、うわっ、隙間から水鉄砲撃ってきやがった……んまぁそれ無駄撃ちなんですけどね。隙間があるように見えるけど、実際はないから。影と影の間には不可視の障壁が常時展開されてるんだよねぇ……なにせ捕縛目的だよ?

 名付けて<暴妖捕牢(ぼうようほろう)>───具現化した闇を縄のように対象に絡めて拘束した上で、そいつの生命活動以外の機能全てを阻害して苦しめる効力を持つ拘束技だ。

 あっ、こら暴れないの。間違って圧殺しちゃうから……よしよし動かなくなってきたな? ちゃんと技の効いてきた効いてきたようで……これでウンディーネの捕獲完了だ。

 いやぁー、ホント慈悲。優しいなぁボクってば。今なら聖女名乗っても許されるまである。


 そうやってボクが精霊を完封している間に、日葵たちの戦況は早くも佳境に入りかけていた。

 いや早いな。流石は新世界が誇る異能戦闘民族……


「ん。んぅ……壊せない……なら、こうする」


 八十谷弥勒の異能【死之狩鎌(デスサイズ)】はかなりの融通が効く。再構築し直すって手間はあるけど、刃の鋭さや強度、柄の長さなんかも自由自在に変えることができる。

 形状はあんま変わんないんだけどね。

 大釜の形から逸脱しない、その範囲ならばやりたい放題できる。


 で、まぁ……異能拡張に限界はあっても、デカくて硬いデスワーム程度なら……


「んっ……分解、再構築───<粛征盡威(しゅくせいじんい)・“解”>」


 死神の鎌はバラバラに解けて、散らばった紫色の粒子は黒鉄色の塊となって弥勒先輩の手に再び集まる。そして、新たな大鎌を再構築。より濃厚で、寒々しい死気を纏った死神の大鎌は、新たな形を得て冥府より顕現する。

 仰々しい名称だ。悪役にいそーなヤツの技名だ。

 さてさて、そんな先程までのよりも遥かに大きく、より禍々しくなった大鎌を、弥勒先輩は───…


「ん。重い……無理」


 持ち上げられてすらないじゃないか。なんで作った。


「ギュルロォォォォオオ!!」

「ん。…ん」

「ギュボッ!?」


 その無様を嘲笑うかのように、刃がない側面の方角から突っ込んできたデスワームを……先輩は、重すぎて刃先を地面に刺して支えさせていた大鎌を横スイング。

 なんか、こう……地面を利用して横からぶっ叩いた。 

 いやぁ、まぁ……確かにね? 仮に斬撃は効きずらくても衝撃なら通用するよね。吸収とかがなければ絶対効くわ。内部まで浸透する衝撃は、幾ら硬かろうと意味ないし。

 現にあのミミズはのたうち回ってる。それはそれとして震動がうぜぇ。ふざけんな一撃で気絶してろや害虫めが。

 さっさとぶち殺してしまいなさい。


「ん。おしまい」

「ギュオッ、ギュルオ……ォ、オギォォォ……ギュ!?」


 仕舞いの一撃は、狂ったように地面をのたうち回る蟲の表皮にサクッと突き立てて、鎌の自重でサクッと斬首。

 蠕虫、縦に両断真っ二つ。

 奇声をあげて左右に倒れるデスワーム。呆気ないなぁ。さっきまでのグダグダはどこへ?


 おいピースすんな、こっち見んな。いい加減その重いの使い慣れて。


 んん……一先ず芋虫を圧倒した先輩は横に置いといて。日葵の方はどんな感じかな?


「ふっ……せいっ!」

「ガァアアア……グオォッ!!?」

「遅いよ!」


 お、ちょうど日葵が棘付き棍棒を破壊する瞬間だった。そのまま流れるようにレッドオーガの右腕を切断して片足の腱も切って無力化している。

 ずっと日葵のターン。見た目の割に弱いな赤鬼。

 手こずってもいない。硬さを把握してすぐそれに合った威力で切り落としたようだ。


 ……でも、やっぱ手ぇ抜いてんね。絶対正体隠すべしと宣言してるボクが言うのもなんだかおかしいけど、日葵の戦闘は消極的なのが見てわかる。

 ボクは知っている。

 この程度の魔物、一撃で真っ二つに両断できることを。聖剣とか光剣とか関係なく、だ。なのに何故やらない……全盛期一歩手前程度の力しか出せないから、なんて陳腐な理由じゃないのはわかる。

 ……遠慮してる? なにに? わっかんねぇーな。まさかボクに合わせてるとかは……


「………」


 ……えーっと、異能部で日葵が本気を出したのが一度もない話をするんだけど。きっと、全身全霊で戦わなければいけない危機が来なければ力を出さない。その機会が仮にあるならば、それは本当に世界が危機に陥った時だろう。

 本気にならない方がよっぽど平和ってこと。

 ある意味平和の証明ってヤツ?

 気持ちはわかるけど、そんな未来よりも今を優先すべきだろうに。

 手なんていくらでも抜いていいからさ。ウンディーネを椅子にするのも飽きてきた所だ。


 舐めプも別にキライじゃないんだけどなぁ……いい加減おだてて急がせるか。チョロいし。


「───ひーっまちゃーん、早く終わらせて〜。そろそろ飽きちゃぅ〜」

「! うんっ、わかった!!」

『なんて単純な生き物なんだ……』


 ほら、見るからに動きが早くなった。やったね……でも興奮する必要はあったんですか?

 廻先輩もドン引きしてるよ。

 あはっ、珍生物でも見た声が出たね……同意はするし、気持ちはわかるけど。でもね先輩。それを言っていいのはボクだけなんだよ。

 日葵を罵っていいのはボクだけだ。すっこんでろ。


 声援で高揚する日葵はシュバッと跳び上がり、オーガの首元に光剣を突き立てる。死という恐怖の色に染まる鬼に微笑みを返して、日葵は息を吸う。歌でも歌うつもりか。魔力があれば無制限に使えるもんだけど……魔力ってのも無限じゃないんだから。多少は節約ってのをすべきだよ。魔力切れしたら困るじゃん? 主に元気なボクが。代わりに頑張ってって言われたら最悪泣く。

 そんなボクの杞憂も余所に、日葵は光剣をオーガの首に食い込ませたまま、遂に歌を口遊み始め……


「♪───エデンの園“第六楽章”───<魂葬歌(こんそうか)>」


 ちょっ……おい待て、それ聴いたニンゲン皆殺しにするクソ歌じゃねぇーかそれッ!! 流石に効力落としてはいるみたいだけどさァ!

 それ使うかよ普通! やれって言ったのはボクだけど!

 弥勒先輩もびっくりしてんぞ!? 表情変わってないけど何故かわかるぜ!!


『あの馬鹿』

「っ〜〜〜ふざけんなよ。危機感ねぇの? 耳は……まぁ、塞がなくても平気なレベル、か」

「ん……」


 天使の死を齎す音は、刃を伝ってオーガの肉体を侵す。効果はすぐに現れ、断末魔を上げることすらなく赤鬼から生命の気配が消失した。この歌は脳の破裂と細胞の崩壊が同時に起こるお得セットだ。歌を聴きながら死ねるんだ。何故かボクのことは殺せないけど。一時期嫌がられながら子守唄にまでしてもらったのに……やっぱ、滅ぼして正解だったな天使なんて。

 ……てかさ、“第六楽章”は使うなって特務局からも強く念押しされてなかったっけ?


 ……今更証拠隠滅で首落とそうが、全部が遅いんだよ。星見ドローンにデータ残っちゃったよ。


 やっぱ勇者怖いわ。記憶力がないんだ。近付かんとこ。


 おいこら察知するな。慌てて寄るな寄るな近寄るな!

 せめてその返り血を拭ってからにしろ! あ、弥勒先輩も便乗すん……ぎゃあ、やだ、汚い芋虫の汚い液体拭って! 無理無理無理ッ! 近付くんじゃねぇー!!!

 魔物はご飯だけど、見た目汚いのは無理なの! 拭いて!


「なんでボクが保護者みたいなことを……」


 影から取り出したタオルを投げつけて、自分の手で血を拭わせる。

 頭から被ってなくて良かったよ本当……

 どうせ予備の着替えとか持ってきてないんだろ。馬鹿め知ってるんだからな。たく……予めバスの中に入れとけや準備不足女共が……女子力どこに置いてきたんだよ。

 特に弥勒先輩。ここで制服脱ごうとするな。羞恥心は?


「ん〜よしっ……で、真宵ちゃん。説明ちょーだい。あれホントにウンディーネなの?」

「ん。教えて真宵」

『俺も詳しく聞きたいな。情報源はどの文献だ? 図書館の蔵書データにそれらしいのはないんだが』


 そして尋問タイムである。めんどくせぇ。廻先輩は余裕あるから探すの早いね? 文献とかあるわけねぇよ情報源は過去の記録、つまりはボクの記憶の中だ。

 文献があったのは魔王城だけどもう無いし……日葵との決戦とあれこれでもうこの世にはない筈。原因はそりゃあボクだよ。当たり前だろ? 戦争だから仕方ないね。

 ……しゃーないな。語ってやろうこのボクが。


「知ってることは知ってるだけだよ」

「そーゆーの良いよ。で、これ、本当に水の精霊なの?」

「どーせ呪いとかでやられたんでしょ」

『精霊、か……眉唾だが、本当に存在してたのか……俺は伝承でしか聴いたことが無かったんだが……』

「ん。初めて見た」


 ふむ? ……あぁ、成程成程。前世勇者やってた日葵でも知らないことはあるのか。いや当たり前か。

 ……知りすぎてるボクがおかしいのか。成程ね?


 えいえい。椅子にしていた拘束済みウンディーネ(堕)の哀れな成れの果てを足蹴にして、三人から絶えず送られる解答請求を素直に受け取る。

 ……反応しないなこの椅子。世界渡った時点で、意識が朦朧としてたのかしら。可哀想に……ここは慈悲をもって早く楽にしてあげなきゃ。


 あの《門》って、いきなり開いては近場にいたのを強制誘引してる説あるからなぁ……多分、このウンディーネも自分の意思で来たわけじゃないんじゃないかな。

 もう閉じちゃったからわかんないけど……この子がいた場所と繋がっていた《門》の向こう側を探索できなかったのは痛いね。

 殺された二体も含めて、一緒の場所から来たのか別々の場所からなのかもわかんないし。


 ……んまっ、そんなことボクが気にする必要もないか。


「ウンディーネっていうか、水の精霊ってのは他の精霊と比べても結構デリケートなタイプの精霊なんだよ。毒とか呪いとかに弱くってさ。一度浴びたらすぐ影響受けて……ちゃんと処置しなきりゃ、こ〜んな風に魔物に転化する。つまり堕ちちゃうんだってさ」

「闇堕ちってこと?」

「厳密には違うけど、似たようなモン。まぁこーなるのも極稀だし。あっ、出典は魔女様の教本だよ。書いてあるの読んだから知ってんの」

「ふーん……それで? 治し方は?」

「ないけど」

「えっ」


 真実を告げたら絶句された。冗談でしょ! と肩を力強く揺すられるけど、嘘じゃないです。いや、本当にマジで。そんな抗議されても困る。無いものは無いから。

 ボク、ウソツカナイ。本当に無理なモノは無理!

 この世の全てに平等に救いがあるわけじゃない。そこはキミだってわかってるだろうに。


 ……正義感強いというか、善人だよなぁ、こいつら。


「精霊術師───基本自由な性格の精霊たちと交信できる技能持ちじゃないと、意図的な接触すら無理なんだって。治すのもそいつら必須だよ。文献だと……あの戦争よりも前の時代に、後継者どころか存在ごと行方不明になって、そこで途絶えたっぽいけど」

「そんな……」

「ん。どうするの」

『……酷な話になるが、方法がないなら、無理だ。もう、楽にしてやるしかないだろうな……』


 廻先輩の悔やむような声には正しいから賛同しかない。なにせ本当に救う手立てはないのだ。いくら現実から目を逸らそうったってそうはいかない。

 非道な手段ならボクにも心当たりがあるけど……ここの面々がそれを望むことはないという確信がある。

 勿論、海浜にいる神室姉妹も、今日サボってる人達も。


 あーぁ、なんて可哀想なウンディーネ。時代が時代なら助けられたかもだけど、現代は精霊を視れて対話ができる人間は0になり、非人間で唯一精霊と同調できるエルフも数を激減させられ、救える者は一人たりともいない。

 それに、こっちの世界に迷い込んだ時点でねぇ。

 滅びる以外の救いが存在さない。かつてのボク───否、私のように。


「……ねぇ、真宵ちゃん。もしかしたらだけど……今ならあるかもしれないよ───ウンディーネを救える方法……なにかが、ある筈だよ」

「……はぁ?」


 だが、日葵だけは……不可避の結末に納得しなかった。ウンディーネの終わりを良しとしていなかった。このまま死なせるという未来を、選ぶことを拒んだ。

 ……いや、ボク以外の全員が納得していない、のか。


「曖昧としてんね……そのナニカってゆーのは?」

「今は異能共生社会。私たちの知らないスキル、異能が、それこそ精霊を癒せるような異能持ちが生まれていても、なんら不思議じゃない。可能性は無限大、っていうのは、ちょっとおかしいかもだけど……最近は“それあり?”ってすごい異能も増えてる、から……その……

 ……そういう人が見つかるまで、眠らせて……保護ってできないのかな」


 ……まぁ確かに、日葵の意見は一理ある。前世住んでた異世界と激突した挙句、半融合した今の地球なら……精霊特攻の異能持ちが現れてもおかしくはない。

 異能ってのはレパートリーが豊富で飽きがこない。

 属性やら魔法やら人体可変やら、概念系やら……大雑把だけど無数にある。これだって区別するのも難しいぐらい数がある。仮で良ければ枠組みがあるけど。

 ボクと日葵のは所謂概念系、弥勒先輩のが物質系なんていうように。


 でも、結局それが見つかるかどうかなんてわからない。

 廻先輩の預言者能力でもそんなことまでは占えない……アレは内容を限定しているからこそ強いのであって、他のことに力を割けば精度が落ちる。そもそも使えるのかすらわからない。

 それに……方法が見つかるまで保護だなんて。ボクには無意味に等しい愚策にしか見えない。


 そう否定する案も、論破する語彙も無数に浮かぶけど。


「………」


 なのに、それを口にする気にならない。視界にいる精神年齢年下の二人の目が、あまりにも覚悟を……高潔と言う強い意志で固めているからか。

 気圧される。いや、揺らされている。

 ……はぁ。そんな目で見んなよ。これじゃまるでボクが悪役みたいじゃないか。


 悪役だったわ。


「……はぁ。別に。決定権なんて端からボクにはない……決めんのは部長とか、特務局の連中だ。空想を内々に保護するってのはそういうこと」

「っ、じゃあ!」

「瀕死の精霊なんて恰好な研究材料……無関係の他所様に奪われないといいね」

「ありがと! 真宵ちゃん!」

「ん。さすが真宵」

「褒められる理由がわからないんだけど」

『そうだな。よしわかった。俺が上に直接報告しておく。お前たちはこれ以上の界放の可能性等の有無を警戒して、なにも無ければ学院に帰ってこい。それと、後───全部聞いていたな、玲華』

『───あぁ』

「おや」


 なに、繋げてたの? 先輩ちゃかりしてんねぇ……耳元の機械越しに部長の声が響く。うんうん、なんだろ。部長はカリスマ性ってのがあるよね……声に力がある。

 時代が時代なら将軍とかなってそーな声力。


『弥勒、琴晴くん、洞月くん───今、特別な護送任務を君たちに命じる』

「!」

『───ウンディーネを連れて帰還せよ、なんてな』

「護送任務、ねぇ……」

『現地にいない私が言うのもなんだが……必ずその精霊を助けよう。その為にもまずは、そこから連れ出さなければ意味がないだろう? だから、そっちは任せたよ!』

『そういうことだ。さっさと帰ってこい』

「はいっ!」

「ん!」


 あーあ、なんかカッコよく締められちゃったや。


 ……はぁ。つくづくボクも甘い。いや甘くなった、か。昔から身内判定したのには比較的甘いなどと、好き勝手に言われてきたが……

 こんな形で改めて納得したくなかった。

 なにせここにいる全員の、そして遠くにいる先輩たちの記憶操作なんて、ボクにとってはインターネットの機密に干渉するぐらい簡単すぎる。

 記憶を消すのも植え付けるのもお手の物。

 だけど黙る。わざわざそんな手段頼らずとも……多分、大丈夫だという確信があるから。


 堕ちたウンディーネ。もし仮に彼女を“死”以外の方法で助けられるのならば……もうそれは、奇跡でしかない筈。これは一種のギャンブルに等しい作戦だ。

 だってわかるんだ。

 ボクの影に似せた闇で縛ってるこいつから、加速度的に生命力が、活力が失われていることも。このまま数日でも放置してしまえば、すぐに死んでしまうことも。

 短すぎるタイムリミットの中、嘘偽りのない救いの手は現れるのか。


「責任は、ひまちゃんが全部取りなよ───もしこの子が死んだら……切腹ね?」

「お、重くない? 私、命天秤に乗せなきゃな感じ?」


 賭け金ってヤツさ。成功すれば御の字、失敗しても別に痛手はない───でも、そのナニカに賭けてみれば、かの運命ってのも応えてくれるかもしれないだろう?

 それにキミが死ぬんなら、その時はボクも死ぬからさ。

 一緒に死のうぜ?


 そう熱説しながら拘束していた、いや保護した水精霊を無人の自動送迎バスの後部座席へ放り込む。あーあ、もう身動きできないぐらい憔悴しちゃってるわ……可哀想。

 ……床掃除も大変そうだ。すごい粘液塗れだ。やばい。

 取り敢えず、精霊の拘束と運搬を兼用する係に強制任命されちゃったから……多少はお仕事しなきゃなんだよね? お給料の為にも頑張んないと……

 ……やっぱ、無駄だと思うんだけどなぁ。


「救えるといいね」

「さぁ、どうだか」


 命一つを助ける為に、死を先延ばしにする選択肢。その純情でまっすぐな想いと行いは、ウンディーネの苦しみをただただ増やすだけ。

 異能部のこの決定が、どんな結末を描いてくれるのか。


───今はただ、それだけが楽しみである。


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