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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
CHAPTER.2「ふたりぼっち+α」

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02-27:デッドダンスレボリューション


 黒伏斬音との死闘。それは、日葵の機転によって素早く決着がつくこととなる。


「……そろそろかな」

「わわ!?」


 ちらりと後ろに目をやって、作戦通り所定の位置にいる姫叶たちを確認した日葵は、光剣を連続生成して射出。

 剣が宙に浮いて飛んでくるなど思いもしなかったのか、斬音は慌てて回避。幾つか肌に掠るが、なんとか剣で天井に縫い付けられるのを回避する。


 その剣の群れが、誘導だと気付かずに。


「ふむ、痺らせた方が良いな」

「あぶっ!? もー、だからビリビリキライ!!」

「諦めてくれ」


 複雑な軌道を描いて襲いかかる指向性をもった雷撃をも回避する斬音は、徐々に徐々に、オーケンを殺した場所へ追い込まれていく。

 一度光の盾まで辿り着き、その結界を破壊しようと刃を突き立てたが、その寸前に日葵に止められて失敗。攻撃を捌いている内にイヤな予感をひしひしと感じ始めるが……時既に遅く。


 日葵は大詰めに入ったとして、戦いに終止符を打つ。


「真宵ちゃん! ゴー!」

「ラジャ」


 オーケンの死体から少し離れた斜め上……いつの間にか天井の梁に座って足をブラつかせていた真宵に合図する。以心伝心でやりたい事は把握していた為、真宵は悩むことなく異能を行使。

 闇で縛っていたオーケンの異能空間を解放する。


ドパッ!!! ガラガラガラ……!


 オーケンの右腕を起点として、空間の裂け目が出現……そこから、大量の収納物が溢れ出た。

 金塊や銃、札束の入った鞄などなどなど……

 異能【空間収納(エア・ポケット)】の異能空間な隠されていたそれらが、中身をひっくり返されたように吐き出されていく。

 床の上に山のように積み重なる財の山。

 荷物持ちとしてオーケンに集められてきた全てが、外に放り出された。


───異能力というモノは本来、持ち主の死後その効力を無くす。大半は死んですぐか、数分後には魔力を失う形で世界への影響力を失っていくのが通例である。

 燃やした箇所は鎮火し、凍ったモノは溶けていく。

 例外はあるものの、それが異能の一般常識だ。

 オーケンの異能空間もまた同じ。

 本来ならば死んだ後、すぐに異能が解けて入れていた物全てが溢れ出る筈であった。それを真宵が【黒哭蝕絵(ドールアート)】で細工して無理矢理堰き止めていた。

 直ら、空間干渉のタイプの異能は希少であり、持ち主の死後どうなるかは個人差で変わる。

 それを逆手に取り、日葵は真宵に異能を弄らせた。


 ……ただのアイコンタクトで。恐ろしき以心伝心。


「ぅえ!? なになになに!? なにこれ!?」


 死体の傍に着地しうとした斬音は、足元で溢れ出る山にたじろぐばかり。真上でめんごと手を合わせるリーダーのウザったい顔に殺意が湧いてくるが、ここで動くのは悪手だと諦める。空中を蹴る力は持ち合わせていない為、もう仕方がないと金属の山に飛び込む。

 ───それを狙っていた日葵が、再び合図する。


「姫叶くん! 今!」

「ぅおー!!!」

「……えっ、あれっさっきの女の子!?」


 砂山に埋もれた機械の物陰に隠れていた姫叶が、なんと全力ダッシュで斬音に接近。わー、すごいお金の山だーと思考停止していた斬音は、咄嗟に刀を翻すが……


「僕は男だ! 空まで吹っ飛べ! <巨大化(ビックサイズ)>!!」

「え!? 待っえ、ぅぐッ!?」


 触れた金の延べ棒に、異能【玉手菓子(ビスケット)】を発動。元とは比較にならないぐらい巨大化した金の延べ棒が、そのまま斬音に迫って腹に激突。

 上方向に向けて発動したのが功を奏したのか、天井へと押し飛ばすことに成功する。

 口から嗚咽と共に空気を吐き出して、意識を朦朧とさせながら斬音は吹き飛んだ。


「で、私が追撃ってことね……<滴雨(アクアショット)>」

「───あぐっ!?」


 そこにすかさず姫叶と同じ場所に隠れていた雫が現れ、液体の弾幕を放って斬音への攻撃を開始。オークの強固な頭蓋を貫く、あの強力な貫通力は抑えられているのか……全弾着弾した斬音の身体には、幸い穴は空かなかった。

 代わりに内出血や青あざができてしまったが……

 無論、その程度で済む技ではないのだが、そこは斬音。持ち前の耐久力でなんとか抑えた。


 お腹への痛恨の一撃と、加えて水弾の全身強打。

 流石の斬音もこれには参ったのか、心底辛そうな表情を浮かべて宙を舞う。

 痛みに悶えるが、それでも斬音は刀は手放さない。

 隙だらけの状態だが、近付けば即座に斬り捨てられる。逃げ場も足場もない空中であろうとどんな体勢であろうと斬り殺せる。その意志は未だ弱まっていない。

 だが、それを成すには近付かれなければ不可能だ。

 ……斬音の弱点は、戦闘術に遠距離攻撃を持っていないこと。御自慢の脚も使えない今、今の彼女は体のいい的でしかなかった。


「これでトドメだ───穿て、<雷槍>!」


 玲華が〆として放った攻撃も、避ける事は叶わず。


 左手から迸る雷光を、一本の槍のように束ねて造られた青い雷の一撃が、大振りの投擲によって上へ放たれて……

 光に目を焼かれ、茫然とする斬音を貫通した。


「ガッ!? ッァ、ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア゛!?」


 廃工場に絶叫が鳴り響く。感電した痛みを訴える肉体に然しもの斬音もあまりの苦痛に悶絶する。

 幾ら痛み苦しみを至上としても、限界はあるもの。

 生まれて初めて異能の雷を直に浴びた斬音は、なんとか意識は失わずに落下していく。


 背中から床にぶつかり、肺の中の空気を噎せ吐く。


「ごふっ……なる、ほど……ねぇ……♡♡♡」


 身体は重く、動かない。

 感電して痺れた死に体。

 雷撃を浴びる以前に切り刻まれた表皮から流れる血が、斬音の心身をより疲弊させる。


 それでも恍惚とした笑みを浮かべて、斬音は久方ぶりの敗北を味わう。


───異能部の辛勝である。


 日葵と玲華で接近戦に持ち込み、死を齎すという斬撃をなんとか避けながら攻撃……そこから搦手を加えて総攻撃するのが、日葵が立てた作戦であった。

 一連の流れを天井の梁から観戦して、極力手を出さずに気配を消していた真宵もこれには拍手した。なにせ異能を使わさぜに完封したのだ。逆に、あの2人でなければまず勝てなかった。敗北した自分の裏の部下の今後の改善点や対異能部戦を予測立てて、真宵は部下のご冥福を祈った。

 近距離の斬音、遠距離の蓮儀、万能型の真宵。

 それぞれに問題を抱えており、前者2名に至っては相反する弱点を持っている。

 最悪の事態を考え、対策しなきゃなと真宵は思った。

 そんなことよりも早く降りて異能部として活動すべきである。

 後でお叱りを受けるのは確定だ。


「ふぅ……拘束するわ」

「雫ちゃん、スライムにはならない方がいい。話通りなら確実に身体判定になるから」

「……面倒ね。死にたくないし、わかったわ」

「ちぇ」


 なんとか勝てたことを喜びながら雫は足を進める。

 日葵が直感で導いたアドバイスに従い、液体化をせずに接近。警戒しながら異能封じの鎖を取り出した。ジリジリにじみ寄る姿は、斬音への恐怖心が拭えていないのが見て取れる。

 ……日葵の助言は正解だ。雫と連結したままの液体だと致命の線を作られて斬殺されていただろう。


「ん。何もすることがなかった」

「次はあるわよ。きっと」

「ん。期待しとく」


 弥勒は姫叶と雫の護衛として動いた為、特になにかすることが無かったのが暇だったのか、ゆらゆらと揺れながら雫について行く。

 玲華と日葵と混ざって敵を攻撃しに行っても良かったのだが、連携的な問題で除外された。弥勒の速さだと2人に合わせずらかったのだ。

 できなくはないが、そこまでする必要もなかった。


「あーあ、あーあぁ……負けちゃったかぁ♡♡♡」

「ッ……大人しくお縄につきなさい」

「え〜? イヤだよ〜ッ、ゴホッゴホッ……あー、あはっ♡ これすっごい痛ぁい……リーダーの癇癪でイジメられた時ぐらい……♡♡♡」

「言ってることと表情がヤバいね」

「そのリーダーが何者なのかも、詳しくお聞かせ願いたいものだな……」

「やぁだ♡」

「ん。確保」


 包囲網ができあがる。刀を持つ腕を、右手首、更に足を踏み押えられ、斬音は鎖を巻かれてしまう。

 ガクンと抜ける力に目を見開き、ほんの少し焦る。

 更には弥勒の鎌も首に当てられ、行動不可能に。

 ……どうやって逃げようか。無理に動いて抜け出しても捕まる可能性が高い。ここで片腕を封じている雫を殺せば逃げ切れる手が使えるのだが、それをすると嫌にヘイトが溜まって今後の活動に支障ができそうだ……と、敗残兵は無言で思考する。

 ヘイト云々は別に構うことのない話。

 だが、仮にも組織に属する身なのだ。そこら辺は微かに残った理性で無為にしない。

 リーダーに面倒をかけさせるのも気が咎める。

 一応斬音にも黒彼岸に仲間意識はあるのだ。それはそれとして斬りに行くが。


(癇癪ぅ? えー、なんのこ……いやアレ? あれはオマエが全面的に悪かったろうが。あれは折檻って言うの。なんでボクが悪い扱いされてんの? はあ? 帰ったら覚えとけ)

(あ、良かった。癇癪してないのね。安心した)

(こっち見るな)

(声出した方がいい?)

(やめて。死ぬ)


 その頃、以心伝心する2人がいたことは誰も知らない。


「多世、異能で意識を奪え。今なら可能だろう」

「は、はい。いきます……!」


 そして、陰でこっそり異能を使って、意識誘導によって雫たちを斬音の思考から飛ばし、異能もズラして致命線ができないようにする工作に成功していた多世が、手に持つテレビのリモコンを斬音に向ける。

 赤色の電源スイッチは、思考停止で意識を奪うボタン。

 それに指を乗せ、押し込んで───…




(───やれ)

(───了解)




────…チュン!


 その瞬間、音を立てて多世のリモコンが吹き飛んだ。


「あぎっ!?」

「───!? なっ、狙撃だと!?」

「また新手かよ!!」


 そう、それは狙撃された音。撃たれた証拠。

 廃工場の二階の窓の、僅かに空いた隙間から射抜かれた光弾が、連続で異能部を襲撃する。

 度重なる乱入者に舌打ちしながら退避する。

 幾つかの弾丸は一絆とジョムたちを守る結界に着弾し、僅かにヒビを入れるまでダメージを与えた。


「あぶっ、嘘だろヒビ!?」

「おいガキ、伏せろ! どたまぶち抜かれんぞ!」

『oh、なんてバイオレンス!』

「狙撃とか生まれて初めて……怖……はっ! 皆、盾の中に裏から入って! 外より多分マシだから!」

「ごめん入れてありがとう!」

「助かるわ」

「ぅ、ぐすっ……」


 外殻のひび割れた結界はそのままに、内側から光の盾を張り直して補修。慌てて結界の中に逃げ込む姫叶も、雫に抱えられた多世も反対側から迎え入れる。

 守られた空間の中、止まぬ弾丸の嵐を睨むばかり。

 多世の手に包帯を巻く雫は、結界の中に入らず外にいる姉と弥勒、日葵を心配げに見つめた。

 あといつの間にかいなくなっていた真宵も、一応。


「無事か、弥勒、琴晴くん」

「ん。問題なし」

「そっちこそ……ま、この程度ならなんとか」

「流石だな」

「にしてもこれ……異能?」

「む……どうやらそのようだな」

「困った……」


 弾丸を剣で弾きながら会話する3人は、空から飛来する攻撃が全て異能による産物だと推測。事実銃痕はできても弾は転がっていないし、飛んでくる時に見える弾は、全て光の塊であった。

 普通は見えないその形まで見抜いた日葵は、視界の隅で斬音が動き出したのを見た。


「れーか先輩!」

「あはっ♡♡♡ ごめんね〜♡ 正直もっと遊びたいけど、お迎え来ちゃった♡♡♡」

「逃がさん……くっ、邪魔だ!」

「装填してないですよねこれ。無限弾幕かな?」

「現実逃避をするな琴晴!」

「あはは……」


 刀を鞘に戻してタタっと斬音は駆ける。

 先程までの悶絶した姿はそこになく、脂汗もない元気な姿で逃げていく。巻かれていた異能封じの鎖は切断され、地面に落とされていた。

 この僅か数秒で脱出、回復したとでもいうのか。

 それとも意地で走っているのか……後で知っている人に聞こうと思いながら、日葵はその背を見送る。


「まったね〜♡♡♡ 次は殺すね♡♡♡ 絶っ対♡♡♡」


 その言葉を最後に、斬音の姿は夜の闇に吸い込まれて、もう見えなくなってしまった。


「二度と来ないで」

「……これは無理だな。深追いできん」

「えぇ。囲まれてますし」

「ん……厄介」


 斬音を逃してしまった最大の理由は、廃工場周囲を囲う無数の気配に気付いたから。銃撃を浴びて気配を更に研ぎ澄ませなければ察知できない程、微弱な気配を持つ敵方に今、異能部は包囲されていた。

 恐らく、いやほぼ確実に敵の増援である。

 下手に動けば即座に襲われる……無理に動いてこれ以上被害を拡大させるわけにもいかず……黙って見過ごすしかなかった。


 玲華たちは忸怩に悔み、弥勒は無表情で眺める。

 日葵は「予定調和〜」と心の中で唱え、皆の邪魔をして申し訳なく思っていた。

 なにせ斬音も見方を変えれば真宵の味方。

 ……大好きな子の精神衛生上、及び社畜化を防ぐ為には生かして逃がさなければいけなかった。それはそれとして一絆をイジメたケジメをつけさせたが。

 金塊腹パンと雫の全身被弾、雷貫通がそれである。あと表皮の切り刻み。


「真宵ちゃん、お疲れ」

「……ボク、特に大したことしてないけどね」

「うおっ、今まで何処にいたんだ洞月……」

「ん。びっくり」


 突然天井から降ってきた真宵と談笑を始めれば、驚いた玲華と弥勒に二度見される。

 ヒラヒラと手を振る姿は、何処と無く疲れた様子。


「外回りのヤツらとちょっと」

「……その傷はそういうことか」

「え? あー……いつの間に」


 何処かでやられたのか、学院のスカートとタイツの隙間から除く足に擦れた痕がついていた。

 血はあまり流れておらず、痛みもそこまでない。

 ……怪我の原因は、不運の発動でトタンから落ちたり、移動中錆びた壁に擦ったせいであって、戦闘とは全く関係ないことは、真宵だけの秘密である。


 敵と戦った? 裏部隊の廃人集団を外縁部に配置しただけである。お迎え役の狙撃手を呼んだのも真宵だ。そもそも斬音がいなければ必要のない工作だったのだが……

 取り敢えず彼女が悪い。

 真宵の胃痛の種である。いなくなったらいなくなったで面倒なのだ。

 そろそろ監禁も視野に入れるべきかもしれない。いや、もう閉じ込めておくべきか……定期的に牢屋の中にゴミを放り込んで殺させれば、それで良さそうな気さえする。


「……いつの間にか、気配もいなくなった、な。はぁ……任務は失敗。全員を生かして連れ帰ることが特務局からの依頼だったんだが……」

「荷物持ちが死んじゃったしねぇ……ボクも想定外」

「本当に辛勝だな、これは……いや、敗北か……」

「そもそも半分以上死んでたみたいだけど」

「遺体探しも……いや、あの謎めいた集団が、既に遺体を回収しているか」


 額に手をやって天を仰いだ玲華は、事実上の任務失敗に溜息を吐く。もう少し上手くやれば問題ないだった筈だ、もっと考えられた筈だ……

 脳裏を駆け巡るもしたられば。

 だが、玲華はその思いに押し潰されるのではなく、次の教訓として生かそうと喝を入れ直す。


「学院に帰るぞ、皆───今日の失敗は、次に生かそう。これからまた、忙しくなるからな」

「はい!」

「ぅぅ〜……」

「よし……廻、帰りのバスは用意できてるか?」

『問題ない。既に配置済みだ』

「わかった。すぐに戻る」

「軽く治療しながら行こ。多世先輩の手がやばい」

「止血は一応しといたぜ」

「あぅ、ありがとう、ごがいます……」

「ありがとー!」


 様々な想いを胸に、異能部は学院への帰路に着く。

 ジョムとユンを縛る鎖を巻き直して立たせ、オーケンの遺体は真宵が影から出した遺体収納袋に入れて外へ運ぶ。異能空間にあった盗品や証拠品は、姫叶の異能でビー玉のサイズまで小さくして袋詰めして押収した。

 未だ痛みで泣き喚く多世の手の治療を日葵が施しながら一同は廃工場を撤収した。


「はぁ……ありがとな、お前たち」

『『〜♪』』

「おう、またよろしく」


 精霊たちにお休みを告げて、一絆も皆に続く。

 救えなかった命、組織的な動きを見せた不気味な集団、脅威的な異能の持ち主たち。

 未知を前に、弱さを前に、彼らは心を見つめ直す。

 また一歩、強くなる為に。


「おい跳ぶなんて聞いてねェぞ!!?」

『怖い怖い揺れる揺れる!!』

「うぅ、気持ちはわかります……」

「仕方ないよな」


 こうして。

 新学期初めての対異能犯罪者戦は、思いもよらぬ脅威の出現により、混迷を極めるのであった……














「で、ママって何?」

「誤解だってば。その話題もう畳もうよ」

「何の話だ?」

「あーほら話広がった!」


 帰りのバスの中、断片的な情報でまた一波乱あったのは別のお話。


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