02-24:非道合法、勝つから官軍
マフィアの生き残り、ジョム、ユン、オーケンは死んだ仲間たちの無念を胸に抱いて、濃密な死の経験を連続して生き抜いた。
メーヴィスの方舟第二団“王冠”率いる支配の軍勢。
地元警察、及び国際警察による追跡。行く先々に現れる犯罪者狩りなど正義面した襲撃者の数々。
そして、月夜に照らされ死刀を振るう、少女の形をした怪異。
……敗残兵である彼らに迫る次なる試練は、異能部。
彼らに残された道は少ない。逃亡なんて以ての外、実質不可能。目の前の正義気取りの子供だけが自分たちの身柄を狙っているわけがない。廃工場の外や想定していた逃走ルートなど、見えないところに他の人員が配置されている可能性は考えなくともわかる。
ここで勝てば次がある、負ければ次はない。
それでもジョムとユンは、プライドに賭けて戦うことを選んだ。敗走など、無様に這うのも嫌だと意地を張って、捕まってたまるかと虚勢を張る。
……だが。
『あ、兄貴ィ!?』
『……テメェは邪魔だ。荷物持って逃げてろ! 終わったら合流すんぞ! わかったな!?』
『ッ……』
『安心しろ、ジョムの兄貴は俺が守ってやるからさ』
『何様目線だテメェ』
『わかったかオーケン!』
『ッ、うす!』
拳銃以外の武器がない臆病なオーケンだけは遠ざけて、ジョムは異能で操った砂の濁流で後方に放り、荷物持ちの弟分に一塁の望みを託してこの場から逃がす。
逃げに徹すれば必ず生き残る、運だけは良い男だ。
邪魔だからどっかに行けという意味もあったが、戦闘に巻き込まれて死ぬよりはマシだろう。
「行かせるか───む」
『悪ぃな嬢ちゃん。足止めだぜ』
オーケンの逃亡を阻止しようと玲華が一歩踏み込むが、それを遮るようにユンが研ぎ澄まさた異能の刃を振るって妨害する。
それを契機に、ジョムもまた本格的な攻撃を開始する。
『砂に呑まれて、派手に死になァ! アルカナのガキ共!』
坊主頭を掻いて、ジョムは大きく足を踏み込む。外から工場に掻き集めた砂は、全て彼の操作対象。砂浜や砂漠であればその脅威度は国会規模にまで跳ね上がる砂の支配、【砂塵操作】による先制攻撃。
蠢動する砂粒は濁流となり、宙に浮き、流動する砂塊となって振るわれる。
『こーゆーのもなんだけど、切り刻まれてくれ!』
ホストクラブにいそうな顔立ちのユンは、柔和な笑みで余裕を取り繕いながら、風を纏わせた両腕を振るう。
縦と横、腕から真空の刃が射出された。
直線上の全てを切り裂く【風切包丁】は、斬撃性のある風を作る。腕を振るう、拳に纏わせて殴ると同時に、敵を斬り殺す殺傷性のある異能である。
己の異能を知り尽くしていると自賛するユンは、目にも止まらぬ速さで腕を振るい、風の刃を量産する。
「ん。無駄」
「遅いな───<雷網>!」
『な、にっ!?』
『oh…』
だが、2人が放った砂と風の攻撃を、前線にいた玲華と弥勒は難なく跳ね除けた。
死神の鎌は砂の暴流を切り裂き、道を妨げさせず。
刀から迸った紫電が網のように手を広げて、十を越える風の刃を包むように収束、瞬く間に消失させた。
対異能に慣れた対処は、熟練の戦士のそれを感じる。
『チッ、だがまぁ……斬られただけなら問題ねェ』
『オレ結構不利じゃね???』
驚愕で一瞬硬直したジョムは、斬られた砂粒の主導権が奪われていないことから、弥勒の鎌は普通のモノだろうと即座に看破。両断させて動きを止める所業は普通離れしているが、異能相手にそれを気にする意味はない。
二つに切断された砂の塊を一旦引っ込めて、再び手元に掻き集める。
対してユンは意気消沈。だって雷。轟く音も凄まじい。完全に戦意を削がれたわけではないが、何度も襲ってくる強敵の連続に、早くも心が折れかけていた。
それを見兼ねたジョムは、力強くユンを叱咤する。
『ひよってんじゃねぇ! オラ、さっさと終わらせんぞ!』
『……あーぁ、はいはい。やってやりますよォ! やりゃーいいんでしょう!?』
部下を鼓舞したジョムは、集めた砂で巨大な拳を作り、異能部に振り下ろす。
当たれば大地を陥没させる、砂塊の一撃が決まる。
───その寸前に、今の今まで心の準備をしていた彼が、意を決して迎え撃つ。
「ウンディーネ! <水浴び>!」
『ーー!』
『チッ、水使いか……いや、なんだそのちっこいの』
「ん。ナイス一絆」
「良いぞ、その調子だ!」
「うっす!」
ジョムの操る砂は水に弱いのか、精霊の水攻撃を浴びた砂拳は湿って、濡れたところから浮遊が解け溶け落ちる。あっという間に地面に崩れ落ちて、無力化される。
虚空から生み出された水の一撃は、一絆の新しい戦法。
新たに契約した水の精霊の力を借りて、一絆はジョムを徹底的に妨害する。
相手の顔に水の塊を投げつけて冷静さを失わせたのは、決してマグレではない。
『チィィ……よしユン。テメェはあのチッセェの連れてる坊主狙え。嬢ちゃんらと比べてかなり練度が低い。大した脅威に成り得ねぇ』
『あー、さっきのは忘れたふりね? まぁー雷ちゃんよりは通じるかな?』
『恐らくルーキーだ。ド派手に可愛がってやれ』
『兄貴の敵討ちだァ!!』
『ぶっ殺すぞテメェ!!』
『いでッ』
一目で一絆の未熟さを見抜いたジョムは、己との相性の悪さを考えて計画を立案。ユンに一絆を任せて、ジョムは玲華と弥勒を同時に相手取るという。
無茶無謀にも思える作戦だが、今はそれ以上にない。
ユンは嬉々として上司に従う。
風の刃が効かなさそうな女傑を相手取るより、自分より弱そうな男を狙った方が楽だ。
『悪ぃな幼女使い、 オレと死合ってくれ!』
「ッ、だよな、俺んとこ来るよな! 俺弱いもん! 先輩、こっちなんとかしますッ!」
『ーー!』
『ハハッ、可愛いなぁそのちっこいの! 売ったらどれだけ金になるッ!?』
天井を蹴り、壁を走って撹乱しながらユンは駆け出す。風の刃と共に一絆へと、一直線に突き進む。人間が有する機動力では不可能な移動で接近する敵に叫び声を上げて、一絆は遁走を選択。
玲華と弥勒はジョムの流砂に邪魔されて、ユンの接近を許してしまう。
「しまったッ!」
「ん、邪魔」
『悪ぃな嬢ちゃん達。アンタら2人は俺が相手だ』
「ぅお!?」
『へへっ、流石兄貴』
ジョムが指を弾くと、地面から砂が突き上げ壁を作り、戦場を二分する。
戦いは二対一と三(精霊含む)対一に遷った。
砂塵が舞い、雷が響鳴し、死神の鎌が切り裂き、精霊は踊り、風の刃が飛び交う戦場。誰が死んでもおかしくない攻撃の数々を浴びせ合う中、一絆は魔力を駆使して戦いに専念していた。
ちなみに、砂の壁を濡らしてもらって破壊する戦法は、何故かやっちゃダメだという直感を信じた一絆が、納得はいっていないものの己の勘に従って実行するのはやめた。
……使った瞬間、水を含んだ砂が一絆側に倒れてくる、そんな妙手が仕込まれていたのだが、どうやら使われずに済みそうだ。
「なんかこう、水圧縮して撃てるか!?」
『〜♪』
『うおっ!?』
「ナイス!」
土壇場で新技を作って、一絆は迫り来るユンと相対……精霊たちと共に倒す方法を模索する。ウンディーネの両手から水の弾丸を連射する新技、大水を浴びさせる水責め、まだ使っていない光の盾、杖を使う棒術、格闘技。
それが今の一絆にできる戦術。
少ない技を使って、彼はたった一人で敵と戦わなければならない。
「ッ、望橋くん、なんとか耐え……、いや、君の力だけで倒せるか!?」
「はぁー、ふぅー……大丈夫です! やれます!」
「そうかッ! なら任せたぞ!」
「はい! スゥー……来いや外国人!」
『ハハッ! 良いぜ、その威勢は好きだ! 何言ってんだかわかんねぇけど!』
普通ならば力不足の後輩を支えるべきだが……
その成長しようと意気込む一絆の姿を、やる気に溢れる意志の強さを見て、玲華は信じると決めた。
慣れない戦いだろうが、一絆なら勝てると信じて。
信じたからには、自分たちは目の前の敵を必ず倒さんと気合を入れ直す。
ついでに、相手が使っている外国語がわかるように後で教えようとも心の中で決めた。通信機に翻訳機能をつける申請も出そう。
放課後、一絆が補習を受ける未来が確定した。通信機器作成担当である多世の残業も。
異能部の機械関係は、いやいや多世が作ったモノで八割占めている。
『ッ、ったく……ビリリとくるなァ!』
「ん。なに言ってるかわかんない」
「……日本語以外を覚える努力をしなさい、弥勒」
「ん。嫌。無駄だから」
『ァ゛……?』
更に弥勒も一絆と一緒に補習を受ける未来が確定した。
「……悪いがなァ、オレ日本語わかるからなッ! 軽々しく無駄とか言うんじゃねェーぞクソガキッ!!!」
「ん!? なんか、ごめん……」
「……私の友人がすまない」
「謝んなや! こっちがみじめな気持ちになるわ! テメェ覚悟しやがれッ!」
案の定、日本語が理解出来る上に話せるジョムが弥勒にブチ切れた。怒鳴って地団駄踏んで2人にキレ散らかす。その衝撃で砂塵が浮いて、怒りに反応して振動する。
ジョムの積もりに積もったこの殺意……ここで晴らさぬ道理はない。
「磨り潰してやらァ……!」
「ん。切り刻む」
「頼む、殺す方向に進むのはやめてくれ……だが、これは本気で行かないと、危なさそうだ」
覚悟と信念を胸に、雷神と死神は砂の竜を迎え撃つ。
◆◆◆
異能犯罪者、ユン・ストーリングは中流階級の生まれでありながら、御家騒動で裏社会のどん底まで滑落した……元は裕福な家庭の出身だった男だ。
程々に悪事を重ねて、程々に日銭を稼いで、自分なりの楽しみ方を見つけて、闇の世界を謳歌していた。
そんな不安定な生活が変わったのは、上司……ジョムと出会ったから。
強靭な身体能力と風刃の異能。生まれ持ったこの二つでユンは成り上がった。両腕から風の刃を出す、それだけの機能しかない異能ではあったが、もうすぐでも幹部に昇進できる下地ができるほど、ユンは強くなった。
……もう、その道は絶たれてしまったが。
持ち前の明るさと陽気さで誤魔化す彼は、これが最後と訴えてくる酷い直感に従って、恐らく人生最後の敵となる青年と対峙する。
『へぇー、水だけじゃねェのか……スゲェな!』
「今なんか褒められた気がする! 多分! フィーリングでなんとか!」
『……やっぱ言語通じねェの、辛ェな。ま〜でもいっか。楽しけりゃあなんでもヨシ!』
「うぉー!? なんかスピード上がってんだけどーッ!?」
現代の精霊術師───望橋一絆と、光の水の精霊たち。
「くぅッ……ほんとやべぇな、この世界ッ!」
『───望橋ッ、無理そうならすぐに言え! 今、魔女から転移装置を借りに行ってる! お前の魔力は計測済み、すぐ捕捉して回収できる!』
「廻先輩ッ……いや、大丈夫です! なんとかやります! 信じてくださいッ!」
『ッ……はァ、わかった。お前を信じる。裏取りチームも既に仕事は終えた。遊撃チームは……多分サボってるな。とにかく、あとはお前たちだ。頼んだぞ』
「うす!」
風の刃を避けて、盾で防ぎ、そして異能の杖で弾いては廃工場を駆け回る一絆。通信機越しの激励を受け、自分の実力で事態を突破する為に、思考を回す。
思考の片隅で不在の同居人たちが思い浮かんだが、もう気にしない。
「……わりと惨いが……いけるか?」
光と水の精霊二匹を見て、悪いことを思いついた。
「一か八か! 悩んでる暇はねぇ!」
『お? なーんか張り切ってらっしゃ……って、おいおい、なんで突っ込んで来るんだ!?』
思い浮かんだ案は、はっきり言って外道と言っても過言ではない。
だが、成功すれば嵌る。
勝つためには手段を選ぶな。この空想世界で生き抜くと決めたあの日から、一絆は色んなモノを学んできた。勿論その中には、日葵と真宵から教わった正攻法が、意識外の裏を突いた奇策や騙し討ちも含まれる。
それら全てを組み合わせ、一絆が思い付いた作戦。
土壇場で、突貫工事。光と水の力を合わせれば、最強と理論付ける為に。
『おいおい……近付けば恰好の的だぜ?』
まずは接近。あまり遠すぎると失敗する。ぶっつけ本番たった一度の大挑戦。己の未熟さを考慮して一絆は無理にでも駆けてユンに近付く。
勿論ユンは一絆の接近を訝しみ、床を蹴って後退。
腕を振るって風の刃を射出しながら、一絆の接近を牽制妨害する。
だが、一絆は光の精霊に盾を貼らせて防御、無理ならば頑張ってかすり傷程度に収める。
……まぁ、異常な身体能力持ちに短距離走を強いても、追いかける側が負けるのは自明の理。それをわかっているハズなのに、一絆は駆ける。
2人の彼我の差は広がるばかり。
ただ、空を飛ぶ精霊たちに走る速さなど関係ない。宙を泳ぐ彼女たちは、駆けるユンを追い抜いては魔法を放ち、嫌がらせのように妨害している。
『sitッ』
その苛立ちに重ねて、一絆の性格の悪さが露呈した。
「追いつけねぇ〜! ……あ、これ使お。えい!」
『いぶっ!?』
「ナイショーッ!」
斬撃で欠けた拳大の鉄くずを投擲。ユンの後頭部に見事クリティカルヒット。無意識の魔力乗せで瞬間強化された鉄の礫が、ユンのバランスを崩してたたらを踏ませる。
それを好機と見て、異能が届く距離ま近付き……
「通じねェーとは思うけどよ……<光の盾>はな、物質を貫通させねェんだ」
『ぐッ……な…んだ、シールド……?』
「この前遊んでた時に試したんだけどよ……水入れたら、水槽みたいになったんだよな」
光の精霊に無理を言って、自分ではなくユンに向かって盾を複数展開。それも囲むのではなく、包むようにユンを拘束する。
ハニカムタイル模様の結界の中に、たった一つの閃きで決まった生贄が閉じ込められる。
外界と閉ざされたことに気付いたユンが、慌てて光盾を叩くが、なにも起こらず。
そんな精霊の強固な盾に覆われた敵に、一絆は告げる。
「<水浴び>」
『……なっ!? まっ、ごぼっ、オマ、んぐッ……!』
「……あんたの斬撃はすごかった。真正面から浴びてたら絶対泣き別れしてた。だから掠るように調整したんだ……かすり傷の作り方は部長に教えてもらってたし。それと、俺の盾が斬られる様子もなかったのは幸いだったな……」
『ごぼぼぼッ……!』
「閉じ込めちまえば俺の勝ちだ。鉄くず、わざわざ武器を増やしてくれてありがとな」
その作戦とは、光の結界で敵を囲み、空いた空間に水を流し込む───つまり水責め。
空間を超えて虚空から溢れ出る精霊の水は、容易く中の人間を溺れさせて無力化する。現に手足をジタバタさせて藻掻くユンは非常に苦しそうである。
極悪非道。これには司令部の廻もドン引きである。
『おい、望橋おまえ……洞月の影響か……?』
……返答は沈黙である。肯定はしない。実は最初っから持ってますとは言えなかった。
無論、いつまでも水責めするわけにはいかない。
結界内が水で満タンになる前に能力を切り、ユンが溺死する前に解放する。ごほっごほっと辛そうに咳き込んで、倒れ伏すユンを見下ろしながら……
『げほっ! クッソ……!』
「トドメの一撃」
『えっ』
『ぐはっ!?』
一絆は心を鬼にして、異能の杖を振り下ろした。
……瀕死で苦しむユンの頭に。
『がふっ……』
「ふっ……勝利のVポーズ」
『『〜♪』』
『……まぁ、その……なんだ。おめでとう』
「あざっす!」
頭頂部にたんこぶを乗せ、水浸しのまま気絶するユン。その隣で、敵よりも傷だらけの一絆が勝利を祝う。
釈然としない廻も、まぁ勝ちは勝ちだと賞賛した。
条件付きで借りた転移装置は、また今度返そうと適当に流して。
『〜♪』
『ー!』
一緒に喜ぶ精霊たちと共に、腕を天に伸ばすVポーズ。足も左右に開いているせいで最早Xポーズだが……一絆は無事、異能犯罪者との初戦を制したのであった。
そして。
「ッ……砂の壁が……」
戦場を二分していたジョムの砂壁が、崩れ始めた。
◆◆◆
「ここは通さないぞ☆」
「えっ♡リーダー? なんでいるのぉ???」
「……知り合い?」
「部下」
「成程把握」
───同時刻。寒空の下、廃工場の屋根上にて。
「悪いけど帰ってくんね?」
「ぇー、やだ♡」
「クソガキがよ」
「だってぇ〜♡でもリーダーこそ良いのぉ♡?斬音にぃ♡表のお仕事バラしちゃってぇ♡♡♡」
「別に」
黒染め、死染め、愛染め───三怪揃って、黒彼岸。
「ふぅ〜ん?」
裏部隊“黒彼岸”隊長。第二団《楽園の黒十字》に潜む、夜明けを知らない11番目のイレギュラー。
終わりを、破滅を、瑕疵を司る無明の闇が、咲う。
死染めの片割れの肢体に影を絡みつかせ、魔蛇のように自由を奪う。
「帰って?」
「やーだ♡つまんないもーん……あっ、そだ。リーダー、そんなことより認知しよ?」
「ぇぁ?」
「待って待って斬音待って。まだそれ消化しきれてないの今すぐやめて」
……どうやら、ことはそう上手く進まないらしい。
「だってこーねちゃんが……」
「だ・か・ら!! ボクは! 孕んだ覚えも! 羽付きのガキ産んだ覚えもないって言ってるだろ!?」
「まよいちゃん……?」
「キミも真に受けないで!?」
「あはー♡」
何故か現場に接近する部下の殺人衝動を収めようとした魔王が、何気ない告げ口により勇者と修羅場になっているなど、地上で戦う面々が知る由もない。
詰問から誤解を解かないとと焦った真宵が影を緩ませ、斬音を自由にさせてしまったことも。
動揺で冷静になれず、真宵に詰め寄る日葵のことも。
「ままーって呼んでたよー♡」
「おいこら火に油注ぐなバカッッ」
「情報提供ありがとー。だれも殺さないでくれたら、まだ見逃してあげるよー?」
「無理かもー♡」
「そっかぁ……で、真宵ちゃん。私とお話、しよっか」
「今それどころじゃないでしょ!?」
「こっちの方が大事!!」
「ハァ!?」
静止を振り切った辻斬りが、夜闇の中に解き放たれた。




