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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
CHAPTER.2「ふたりぼっち+α」

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02-22:投げられたブーメラン


『───速報ッ、速報ですッ! MecDonyal(メクドニャルド)d窯騒(かまざわ)支店で強盗事件が発生しました───ッ!』


 3日前に起きたその事件が、あんなことになるなんて。当時のボクも、日葵も、やらかしやがった辻斬りも、一切思っていなかった。

 度々放送される連続強盗事件は、この日を境に静まり、束の間の平穏が訪れる───…


 わけもない。






◆◆◆






「はいかーくん頑張れ頑張れ〜」

「ぅ、おぉぉお……!」

「……なにやってんのこれ」


 放課後、異能部の部室にて。補習終わってやったー!な気分のまま入室したら、何故か日葵を背に乗せた……いや乗っかられた一絆くんがいた。

 よくみれば腕立て伏せだった。重りつきの。

 好きだよね、それ。そんなに私重いんですよアピしたいヤツだったっけ?


「こんちゃーす。姫叶宅急び……なにやってるの?」

「え、見てわからない?」

「わかった上で聞いてるんだよ」

「それな」


 ダンボールを抱えて颯爽と現れた姫叶も、日葵が重りを担うトレーニングに困惑する。わかるよ。ついでにいうと日葵と一絆くんの師弟関係も初耳だった為、その分余計に困惑しているみたい。青色の目を白黒瞬かせている。

 わかるよその気持ち。ボクもそう思う。


 ところでそのダンボールはなんなんです???


「普通にトレーニングルーム使いなよ……」

「余った時間の有効活用だよ。ねー?」

「お、おう。そうだな、そうなんだと思うぞ俺も」

「言わされてんじゃん」


 やっぱり思いつきじゃん。転移してすぐだけど、だいぶ一絆くんも振り回されてんね……でも、前より身体が少し引き締まってるように見える。成果は出てるっぽい?

 これが勇者を鍛えたスパルタの鍛錬か……


 なんで歌ったら重くなるん? 魔法っていうか、天使ってすごいね。怖っ。


「で、なに宅配したん?」

「あー、これね、副部長に持ってけって言われちゃって。すれ違いざまに押し付けられたんだ」

「ふーん……開けていい?」

「だめ〜」


 拒否られた。つーかなにかわいこぶってんだよキミぃ。そんなんだからメス扱いされんだぞ……

 ……いや無意識かい。

 無自覚爆発でガチ照れすんな。そんな顔赤らめてさ……恥ずかしがってんじゃねぇよ。それでも男か。そんなんで男名乗んな。死ぬまで女装させんぞ。

 あはっ、みんなが姫叶見る目が変わっちゃうねぇ?


「やめてくれ。後生だから」

「世間の性hんん、ニーズに合ってるのが悪い」

「ニーズって言うのもやめよ?」

「……なに話してるのよ貴女たち」

「あ、雫ちゃん」


 足蹴り入室する態度の悪い雫ちゃんの冷めた目付きに、思わず悶え死ぬ姫叶。取り敢えず床に捨てておこう。そのダンボールはボクが貰うね。勝手に開封させてもーらお。

 どーせ部費で買った備品とかでしょ……お?


 おお??


「なにこれ……調査報告書?」

「え、そうなの?」

「私にも見せなさい」

「……この前のメックのヤツじゃん」

「あら」


 ダンボールに入っていたのは堅苦しい文字が並ぶ紙束。それと用途不明のよくわからない器具の数々。手に取って読んでみれば、書かれてあるのは最近起きたとある事件についての調査報告書であった。

 なになに〜……あぁー、連続強盗事件のヤツか。なに、まだ解決してなかっ……ん?


「生き残りいたんだ」

「「え」」

「……あー、いな。前に噂で、実行犯が死んだ〜って話を小耳に挟んだんだけど……知らない感じ?」

「うん。知らない」

「どこ情報よ……」

「じゃあデマか……いや別の話かな?」

「それはそれで怖い」

「仕事が増えるわ」


 っとぉ。危ない危ない。斬音が辻斬りしましたとは口が裂けても言えないねこれは。

 お口チャック。まったく全滅させとけよ……


 ……記載されている通りだと、実行犯の数は7人。確か斬音が辻斬ったのが3日前の話で……証拠隠滅で処理った死体の数は4つだった筈。

 と、いうことは……今生き残ってんのは、3人か。


「……ねぇ、これ。まさかだけどさ」

「あっは……ここ見てみ。特務局からの依頼っておっきく書いてあるわ」

「完全に押し付けじゃない」

「クソが代」

「歌う?」


 ちょ、国家改変はよくないッ! せめて議事堂で叫べ!


「───斡旋、もしくは適材適所と言え。まったく」


 やいのやいのと仕事を押し付ける薄汚い大人のやり方に文句を言い合っていたら、顰めっ面の廻先輩に叱られた。

 おっ、よくみれば後ろに玲華部長いるじゃん。

 眠そうな顔で近付く弥勒先輩も、あとはキョドって呻く多世先輩も続々と入室してきた。三年生が勢揃いだぁ……今日は来るの遅いね。


「すまない、待たせたかな」

「ん。おはよう」

「ふぇ……ここ、こんにちは……」


 うん、多世先輩が正しい。時間帯を無視しないで。


「よっと。かーくん終わりにしよっか」

「りょ……っと、すまん汗頼む」

「は〜い。えーっと……これでいいかな。《────♪》《─────♪》───ほいっ、<浄化>っと」

「サンキュ」


 三年生の入室に日葵たちも暇潰しの突発トレーニングを中断。ついでに一絆くんに清浄の歌を届けてから話の輪に飛び込んできた。

 歌一つで汗消えるとか、やっぱ変なスキルだ。

 いやぁ、世界の書き換えって怖いね〜(どの面)。てか一絆くんってば、日葵の扱いがこなれてきたね。どんどん馴染めてる証拠かな……今更か。


「今日はなにするんですか?」

「あぁ、今から説明する……その紙を見れば、察せるとは思うが……」

「やっぱりぃ?」

「ボク帰っていい?」

「ダメよ」

「はい座れ座れ。部会議の時間だ」

「ん。逃亡阻止」

「抱くな」


 廻先輩に促されて、皆で好きな場所に腰を落ち着ける。ここはソファやらダイニングチェアやら色んな種類の椅子が置いてあるから、各々が気に入っている椅子に座れる。

 格式もなにもない、自由である。

 ほんと、なんでこんなバリエーション豊かなんだか。

 取り敢えずボクはソファの右側に座る。どうせ、ほら。日葵が隣に来るからね。


 ……まぁ、今回は一足早く弥勒先輩に確保されて、膝に乗せられてるんだけど。

 どうして???


「ぶっ、どっ、とらっ、どられだッ……」

「血涙……」

「正気かお前」


 ほら、同担拒否過激派が呻いてるよ。マヌケで無様で、いやほんと見てて怖い。部員全員からドン引かれてるの、自覚持とう?


 仕方ないから先輩の膝の上で体育座り。膝で口を隠して黙っていれば、話は勝手に進んでいく。諦めた日葵からの怨嗟の声も鳴り止んだし。妥協なのか知らないけどボクの片腕は犠牲になったとだけ伝えておく。

 他のヤツらの目線も痛いけど。

 ダイニングチェアに座った一絆くんはどうしようもないヤツらを見る目で、壁際のベンチに座った姫叶と雫ちゃん凡才コンビは我関せず、カーペットに体育座りでこちらを見ている多世先輩。なんだよ、なに見てんだよ。

 突っ立ってる部長副部長見てやれよ。所在なさげでもう可哀想だろうが。


「んんっ……今夜の任務は、とある強盗集団の捕縛だ」


 気を取り直して、任務概要を片手に部長が説明する。


「最初の犯行は3週間前。斧土城銀行が覆面集団によって襲撃された事件があったんだ。死者は幸いいないが、以降アルカナ各地で強盗事件を起こしている。転移系の異能があるのは確かだろうな……まんまと逃げられてるようだ」

「仕事しろよ警察」

「姫叶くん黙って」

「……先日、各現場にて破壊されていた監視カメラの復旧作業が終わってな。解析の結果……あっ」

「っ、あー……はぁ」


 そこで部長は一旦区切り、後ろのホワイトボードに解析結果を貼ろうとした。でもダメだった。なにせ貼ろうにもホワイトボードがそこにないのだから。準備不足すぎる。

 顔を顰めたまま席を立つ廻先輩。準備の悪さを愚痴って壁際に寄り、ガラガラ音を立ててホワイトボードを運んで設置した。お疲れ様です。

 玲華部長はすまんと一言告げ、苦笑しながら写真を七枚ホワイトボードに貼っていく。


 写真は全て、成人男性が写った顔写真であった。


「覆面のせいで特定が難しかったが、確認された異能から犯人を推測、国内外の指名手配犯の情報と照らし合わせた結果、特定に成功した」

「……後はアジトの場所もな」

「では情報解析班の多世くん、どうぞ」

「わ、私が頑張って……かか解析しましたぁ……! 今すぐ褒めてくださぃぃぃ」


 なんだ図々しいなこいつ。


 無視して調査報告書を見る。実行犯は7人。黒人白人の混成で、どいつもこいつも外国籍。なんなら密入国者んん成程、国外の指名手配書は優秀だったようだ。

 名前や性別、異能の特徴まで掲載されている。ここまで書かれたら整形しても逃げきれんな。

 んまぁ、もう4人死んでるんですけど。3日前に死体顔でご対面したのがちゃんといる。抵抗虚しく辻斬られてさ、可哀想だね。


 ……そういや、辻斬り前から見たことあるんだよなぁ、こいつら。


「こいつらってどんな集まりだったか、わかってるの?」


 現実逃避も兼ねて問う。んまぁ、こんなの最終確認だ。当たってほしくないなぁっていう気持ちと、僕の完全記憶すごいなぁ、って想いに板挟みにされてるけど。

 今ばっかりは忘れていたかった。

 邪神仕込みの記憶力が……憎い……忘れたい……! 別に記憶削除されたっていいんだから。

 いないかな、そんな都合のいい異能持ち。いないか。


「あぁ、それも話そう。といっても、わかっていることは少ないんだが。彼らは4ヶ月前、とある異能結社との間で勃発した抗争に敗れ、壊滅してしまった異国のマフィア。その生き残りだ」

「マフィアってまだいるんだ」

「てか、異能結社って言ったらあれしかないじゃん。もう確定じゃん」

「……ふーん?」


 固有名詞だもんなぁ、それ。その四文字でボクの本当の職場が関わっていることが確定するんだけど。幸いボクは招集されてなかったから、無関係を貫けるからいいけど。

 ……あれだけ意気揚々とやっといて、生存者出すとか。仕事ナメてんのかあいつ。

 今度の定例会議でいじめてやろ。


「そいつらがなんで僕らの国に?」

「……敵討ちだろう。自暴自棄になっているがな」

「あー、だからか……」

「成程ね」


 無謀だよねぇ。決死の覚悟で企んだ結果、横槍やられて辻斬られるんだから。んまぁ、斬音も方舟のニンゲンだ。仇と同じ所属のガキンチョに殺られんの、可哀想だよね。

 だからね日葵、ボクじゃないの。アイム無関係。

 でも不運だよねぇ、本当に。なんで興奮してる辻斬りにエンカウントしちゃってるのさ。

 ……でも、この戦力じゃ、木船をひっくり返すのも無理でしょ。


「えーっと? その勝った方の……異能結社? っていうの、なんだ、そんなに有名なヤツらなのか?」

「そうか、望橋くんは知らなかったな……教えるよ」

「異能結社“メーヴィスの方舟”、だよ」

「琴晴くん、私の台詞を取らないでくれ……私が教えると言ったんだぞ……」

「あはは」


 並行世界生活1ヶ月未満の一絆くんにはわからない話。そりゃそうだ。無知から来る疑問は聞き取った玲華部長が答えようとしたが、日葵が遮って答えやがった。

 はぁ〜、一絆くんに職場の存在を知られてしまった。

 なんだろ、この胸を燻る衝動は。知らないでほしかった想いと、逆に知ってもらいたかった想いのせめぎあいが。

 自己顕示欲……とは違うか。なんなんだろうね。

 そんなにボクの情緒掻き乱したけりゃ、死なない程度にやってくれ。それなら些事だから。


「300年も前から続くやべー組織だよ」

「ん。危険」

「歴史すげぇな……」


 まっ、よーするに。あいつらはボクの職場の……同僚が配下引き連れて蹂躙したのに、殺し尽くせなかったせいでアルカナにまで来られちゃったって話だ。

 巻き込まれだね、完全に。

 責任問題とか問われないでほしいなぁ。これで本職だとバレてたら追及されてたかもしれない。なんかこう、連帯責任みたいな感じで。


「恐らく、これまでの犯行は、全て復讐計画の活動資金に充てるモノだったのだろう。銀行だけでなく、一般家屋も襲われていてな……これ以上の被害は看過できん。正体も居場所も割れた今、早急に捕らえるべきだ」

「これ以上時間をかけるわけにもいかないもんね」

「あぁ、それと……この面々以外の残党らも潜伏している可能性が僅かにある。補佐に回っているやもしれん。最悪総力戦になることも視野に入れるべきだな」

「人数足りる?」

「根性」

「嘘ぉ」


 ふむ……どうやら今回の任務は異能部全員で挑む羽目になりそうだね。

 と言っても廻先輩は部室棟で待機だろうけど。

 気迫さえ感じる異能部トップ2のやる気を見た同級生はより真剣な顔つきとなり、本気で挑もうと気を引き締めている。


 空想だけでなく、異能犯罪者を相手にすることはもっと危険だ。ある意味獣の空想も危険だけど、ニンゲン相手はより難易度が上がる。なにせ罪を犯す思考があるからね。

 部員たちの心意気は大変好ましく、応援したくなるモノである。


 まっ、もう残ってるの3人しかいないんですけどね。


 ……教えないよ? だって教えたら教えたでなんでオマエ知ってんだ? って話になるじゃん。さっきは噂話って体ではぐらかしたけど、二度目三度目は流石に難しいだろう。

 だから黙る。今回の任務、クソ楽ですよとは。


 はぁ〜……まったく。何度でも言うけど、辻斬りも別にいいから、やるなら全滅させてくれよなぁ……逃がすな。徹底的にやれ。

 なんでボクが尻拭いしてんだよ。過労死しちゃう……


「特務局の連中は今、別件に追われている。俺たちにこの任務が来たのはそれが理由だ」

「つまり楽ってことね」

「一気に気を抜くな神室妹」

「その呼び方やめて」


 大人たち……特務局の捜査官共は今回の強盗集団よりも派手に面倒なヤツらを相手にしているらしい。

 良かった、それがこっちに来なくて。

 ……あ、そっか。三年が遅れてやって来た理由それか。多分だけど、鳥姉とかがわざわざ足を運んでまで依頼してきたんだと思う。もしくは社畜局長さん。

 ボクの周りの大人、さては社畜しかいないな? あの人もいつ休んでるんだろ。


「何時に帰れるかな、これ」

「アジトは第2都市の工場地帯……この入り組み様だと、深夜まで行くかもね」

「嘘だどんどこどーん」

「それ古いよ多分」

「ネタに鮮度なんて求めてませーん!」


 説明がだいたい終わった辺りで姫叶がボケ始めたので、適当に突っついたら怒鳴られた。酷い。でもネタに鮮度が無かったら世の中から芸能人は消えてないよ。

 まぁ往年の面白いネタってのはあるだろうけどさ。

 なんだろ、具体的には上がんないけど。最近お笑いとか見てないし……帰ったら見てみよっかな……テレビを見る元気があれば、だけど。


 そう捕縛任務とは無関係なことを思い浮かべていたら、あまり会議に参加していなかった日葵がまっすぐに片手を挙げた。

 頭の中で情報が完結していない弟子を指しながら。


「……これ、かーくんの初戦になるけど、大丈夫?」

「「「……あっ」」」

「……えーっと、その……」

「よしわかった。すまない短時間で対人戦の説明を……、いや、移動しながらの方がいいな。総員、取り敢えず準備開始!」


 ワロタ。よく考えたら一絆くんまだ空想の単独討伐とか経験ないじゃん。虚禍獣に襲われあり鹿を眺めたりして、まんま研修期間中だったわ。んで、いきなり異能犯罪者を相手に、と……

 いやぁ、不憫不憫。一絆くん不憫だねぇ。

 ま、そーゆー運命の元にいるとしか言えねぇわ。

 ボクたち全員出動の気持ちだったから、普通に彼のこと戦力に加えて見てるの、キミは気付いているのかな?


「あれ、僕の手袋どこ」

「そこに引っかかって……ないわね」

「どこだー!?」


 メスがうるせぇ。そろそろ口枷つけさせるか。

 部長の号令と共に立ち上がり、各々武器を持ったり服を着替えたりする部員たち。王来山の学生服は赤と黒二色を基調としてるんだけど、異能部の制服はそれの流用だ。

 ……と言っても、見た目が同じなだけで性能は違う。

 普通の学生服では有り得ない戦闘補助機能があるんだ。やれ防御力だの、寒暖耐性だの……色々。

 ぶっちゃけ恩恵を感じた事は個人的にないけど。

 なにせ素で防御力高いんでボク。幼少期に結社でやった人体実験とかの影響だね。

 後は前世の補正かな。癪だけど。魔王の生まれ変わりが弱いわけないだろう?


 っと、そうだそうだ。皆でアジトに向かう前に……


「たーよせーんぱい♪」

「ふぇ!? な、なな……ううう洞月ちゃん……わ、わた、私なんかに何の用ですかぁ……?」

「先輩に追加で調べ物してほしいなぁ〜って」

「ぇ、えぇぇぇ……」


 枢屋多世。陰気要素を煮詰めた見た目の、前髪キノコな尊敬できないタイプの先輩。後ろ髪は無造作に伸びてて、前髪で顔を覆ってるタイプの見た目だから仕方ない。

 っとと、そんな風貌なんて別にいいんだ。

 この人のすごいところは、卓越したハッキング技術から情報戦のエキスパートとして名を上げているとこ、なんてちょっと危ない雰囲気の特技があることだ。

 はてさて、いったい何処で得た技術なんだろうね?

 詮索するつもりはないけど、知れたらおもしろいよね。揺さぶるネタが増える。


「そいつらって元を辿れば方舟に潰された雑魚マフィアの残党なんでしょ? ならさ、ワンチャンアルカナに来てないヤツもいるのかな〜って思って。先輩なら、そーゆーのを調べるのは専売特許じゃん? 調べてほしいなぁ、ボク」

「ぅぇぇ……や、やる気ないですよぉ」

「え?」

「やりますぅ!?」


 いやあの。まだ凄んですらないんだけど。まるでボクが脅したみたいな反応はやめてほしい。心外なんだけど……ちょっと気になったから調べてもらうだけなのに。

 んま、これで他にも残党が生き残ってるってわかれば、殲滅戦に参加した第二団の連中を煽れるし。作戦指揮して王様気取ってたガキも弄り倒せる。

 格下の分際でボクの上に立とうとかさぁ。虐められてもしょーがないよね。仕方ない、あと第三団にいる元配下も前世ぶりのパワハラをお見舞いせねばなるまい。

 楽しみ楽しみ。吐いて泣き喚くまで体罰してやっからな逃げんなよ。


「お願いね先輩♡」

「ぅぅ……」


 そんなビビらんでも……あー、対価がなけりゃ、そりゃやる気になんないか。


「……やってくれたら天十字竜士団のフィギュア、ないのあげるけど」

「やります。グラート様とリーンリット様ください」

「めっちゃ饒舌じゃん。いいよ」

「ふひひ……」


 最近多世先輩がハマってるアニメの敵キャラのお人形を対価に提示したら、すごい勢いで食いついてきた。わぁ、目が本気になっとる。

 成程、これがアニオタのパワーか。正直ナメてたわ。

 任務そっちのけでパソコンを叩いている。いや、流石に任務優先でいいのよ?


「これでコンプリートッ、ぐふふ、これで顔面崩壊仮面を黙らせられるッ! なーにが至高のオタクですか。私よりも上なわけないでしょ。二度と私に楯突けない残念脳みそに作り替えてやりますからねクソアマがぁ……どうせ犯罪に加担してる女なんです、なにやっても私が正義ッ!!」

「なんかトリップしてる……」

「怖っ」


 想像してたよりハイテンションだぁ。趣味や推しがいる人の生命力っていうか、生きる力ってすごいんだなぁ……ただ只管にドン引くだけだけど。

 ……そういや、後でやってとは伝えてなかったっけ。

 でも今言っても聞く耳あるかな、この人。暴走してるし無理かもしれん。


「ん。多世、行く」

「ぁう!? ま、待って待って待って〜……!」

「……大丈夫そうだな」


 弥勒先輩が担いでった……あの人も筋力凄いよね。でも長時間ボクを拘束していた罪は重い。頭をアゴ置きにした不敬は後で償わせてやる。

 ……なんか抵抗できなくなるの、なんでなんだろうね。


「真宵ちゃーん、はよはよ〜」

「はーい」


 んま、取り敢えず生き残り三人、狩りに行きますか。


「よーし、犯罪者なんて皆殺しだぁ〜」

「どの面下げて……」

「なに、下げてあげよっか?」

「揚げ足取らない〜」


 犯罪者許せねーって話してるだけじゃんか。ねぇ?


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