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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
CHAPTER.1「死にたがりの悪役人生」
4/51

01-03:空想狩りにいこーよっ!


 新日本アルカナ皇国、首都。

 第3新日本都市───通称“魔都アルカナ”、その外縁部に広がる廃墟地帯は、昔に打ち捨てられた第2新日本都市の名残。旧世界由来の特区の半分が沈没した状態でずーっと放置されたままの、人が住めない人工の荒野。

 崩落した旧社会の名残は今も形を保っている。

 ……つまり、そこには危険が集まりやすいということ。裏社会の住人や国内外からこっそり来た空想が好き勝手に闊歩している魔境でもある。

 そんな場所に入り浸ってるニンゲンはだいたい変なのかやべーやつだ。


 んまぁ、異能部にとっては最早見慣れた狩場だれど。


「真宵ちゃーん、任務場所isどこ」

「6区の───あれだよ、自然公園跡地。地盤隆起とかでおもしろい地形になってるあそこ」

「あぁ〜、よく門開くよね、あそこ───やっぱ遠いッ! わかってたけど遠いよ!」

「仕方ないね」


 人っ子一人誰もいない、ヒビ割れた古い高速道路の上を駆ける学院支給の送迎バス───悪路を安全に走行できる無人運転車に乗ったボクたちは、荒廃した廃墟地帯の上を急ぎめで進んでいた。

 そしてボクは音楽プレイヤーを耳に嵌めて雑音を遮断。ついでに悲痛な叫びをあげる親友もシャットアウト。

 今から瞑想するから喋りかけないでもろて。

 そんな行動表示が不満なのか、日葵は頬袋をぷく〜っと膨らませてわかりやすく不満を顕にしている。なに文句? うるさいですね……

 ……無視だ無視。構ったら日葵の思うつぼだ。


 さて、なんでボクと日葵が……あと無言で夕日を眺める弥勒先輩も含めた三人が、帰る訳でもなくバスに揺られて何処かに運ばれているのか。

 その理由は単純明快───そう、異能部の活動だ。

 本当なら今日は基礎練の時間だったんだけどね……こればっかりは仕方ない。不定期の任務なんてザラにあるのが異能部なのだから。

 時を遡って、今から20分ぐらい前。

 うちの副部長星見廻が空想が現れる《門》の顕現を突然観測した。先輩の異能は占星術に似通ったモノで、空想の突発的な襲来を予知できるのだ。まぁ精度100%とは断言できないけど。それに練度不足かなんかなのか、いきなり発動して予知るのがダメ。

 今日みたいな緊急告知☆当日限定とかがね。

 定期的にこーゆー急がせるのがあるの、割とマジでよくないと思う。


 それも32分後とかさぁ。めちゃくちゃ急かすじゃん?


 はー、もっとゆとりを持つべきだよ。皆、なにもかもを急すぎる。というか魔物来んなよ。大人しく異世界にいてのんびりしてろ。

 そこまで気性荒いわけじゃないんだから。

 ……異世界を渡る《門》のせいで、機嫌とかが諸々悪くなっちゃうのには目を瞑る。


 廻先輩の異能でわかったのは、この拾い廃墟地帯───第2新日本都市というすんげー昔に廃棄された旧首都に、空間の亀裂が2つも開くということ。ちなみに今の首都は第3ね。あと何回遷都するんだろうねぇ……

 で、2箇所同時攻略を手分けして行う、ってのが今回の作戦だ。


 到着には……道路交通法違反しまくって20分かな。馬力すごいから早く着く。

 

「14区の臨海公園の方が良かった?」

「姉妹水入らずって言うじゃん。割って入るなんて私には無理だよ」

「ふーん?」


 ちなみに14区には玲華部長と少し遅れてやってきた妹が出動した。遅刻して申し訳なさそうに入室した瞬間に外へ連れてかれるの、本当に可哀想だった。

 ……あ、廻先輩は基本部室にある司令室で待機だ。

 予言者が現場に出て万が一あったら困るってのが理由。魔都の生命線と言われてる人が攫われたり死んだりしたら人力の《門》観測がまず不可能になる。機械技術で多少、ちょっとはできるように? なったらしいけどね? 精度は言うまでもないだろう。


 はぁ〜、んまぁ戦闘職が少ないのはこの際構わん。愚痴言ったって仕方ないし。


「とーいよー! 走った方が速いってー!」

「イヤホン取んな……」

「だってぇ〜」

「……はぁ………軽率に人間やめてる発言は、やめた方が身のためだよ」


 一応、日葵の愚痴は正論っちゃ正論なんだ。ぶっちゃけこんなの使うよりも自分の足で走った方が速く到着する。なにせ純粋な身体能力が人間やめてるからさボクたち。

 ……異能部の移動方法はバスだけじゃないけど。

 異世界が由来の道具に“魔導具”ってのがあるんだけど、うちの組織にもそれが卸されている。ブーツの形をしてるこれは空中機動が可能で、ビルとビルを飛んで跳ねて移動することができる───なんてのが主流だ。ちなみに今も履いてる。ぴょんぴょん飛んで移動できて楽なんだ。

 機械的な質感の黒い靴で踵をトントンと、今も履いてるアピールをしてみる。うんうん、クッション入れてるから痛くならない。これで靴擦れするの一番イヤだ。

 高所恐怖症と三半規管が弱い人はこの魔導靴で空中移動できないから、異能部には向いてない。入部試験の時点で弾かれる。速度が重視されるからね仕方ないね。

 でも今回は平地移動。バスでススーッと行った方がまず安全だし充分。急いでると言っても、このバスなら普通に間に合う速度だから問題ない。

 日葵が言う走るは魔導具関係ない人力だからダメ。

 人間卒業認定されちゃうじゃん? 下手に勘繰られて勇者だってバレたら面倒……芋づる式でボクが魔王だなんだと気付かれるのも面倒じゃん? 300年経ったとはいえ、このネームバリューは馬鹿にできない。今も生き証人が複数はいるしね。


 人類の敵対種バレしたら、終わるだろ。ボクの安寧が。


 あー、本当に面倒臭い。転生特典───知らんけど多分そんな扱いの───によるチートである程度の誤魔化しは効いてるけど、これも完璧じゃないからね。

 油断するとバレるし。

 気付かれたらどうするのって? 殺すよ。必要のないヤツだったらまず消すよ。だっていらないもん。吹聴されたら困るじゃんか。いらんのボッシュートは当たり前でしょ?

 まぁ、最近は記憶を消すに留まって、殺意を振りかざすことは自嘲したけど。自画自賛しようか。ボク偉くない? この無意味に血を出させない努力……!

 絶対楽園平和賞取れるよ。消えんのは記憶だけだもん。


「どっちにしろアウトだと思うな(ボソッ)」

「ボクが正義だ」

「悪役のセリフぅ〜」

「正義も悪も一側面。つまりボクは正義!」

「いや悪寄りの悪だと思うよ? うん、絶対そうだ」

「風評被害ですやめろください」

「人間目線だと世間一般的に魔王ってまだ悪なんだよね。所業も完全に擁護できないし。それに気に入らない相手を即座に滅するのは嘘偽りなく悪だと思うよ? それでも真宵ちゃんは光側の正義だって言うのかにゃ……?」

「うん」

「わぁ、曇りなき眼……」


 正義とは勝者が決めるモノだ───前世で勝ちまくったボクに死角はない。つまりボクは好きなように正義を定義できる立場にあるってわけだ。

 別に光の正義じゃないけどね? 完全に闇だけどさ。

 ……何の話してんだろ。取り敢えず敗者さんは人の思考読み取んのやめてね? そんなスキルは、いや異能は持ってないでしょキミ。分類不能パワーってか?

 まったく。読心なんて性格悪いヤツの真骨頂だろ。

 偏見だけど、関わってきたのがそーゆー連中ばっかだと仕方なくない? 揃いも揃ってクズばっかでアタシ耐え切れないリスカしよ……


「全力で止めるね」

「だから心読むな」


 やっぱり面倒だなぁ、この勇者。人様の数少ない趣味を全力妨害してきやがる。なんで転生してんだよ。するならボクが死んだ後に転生しろや。

 勇者と一緒に連んでいるってバレたくねぇぞボク。

 ……魔王という超害悪が自分から死ぬのを選ぶのって、世界的に見ればメリットしかないと思うんだけど……でもキミはそんなの認めずに、否定するんだろうなぁ。

 でも死ぬよ。いくらキミが止めたってボクは死ぬ。

 ほら、なにせボク、異世界を滅ぼした()って有言実行の塊なので?


 ……こんなのが趣味で日課とか、自分で言うまでもなく人間性終わってんよねぇ。


「ん。真宵。日葵」

「あい?」

「なんです?」

「ん……魔王、って言った? 何の話?」

「へ? 魔王……ですか? どうしたんですか、いきなり。言ってませんけど……あ、真宵ちゃんが魔王よりも強くて賢くて可愛いって話します?」

「言ってないねぇ。先輩の聞き間違いでは?」

「ん。んー、そっか」


 危ねぇ。そういや居るんだったこの人。気配ゼロで半分忘れかけてたわ。

 日葵がいつものテンションで乗り切ったけども。

 危うく消すリストに一人増えるとこだった。何故こうも勘が鋭いのか……いや、耳がいいのか、この人は。ずっと黄昏てろよ。


 身バレ回避のPPは必須だ。平静を装って誤魔化す技能は今世でめちゃくちゃ鍛えられたと思う。


「ふぅ〜……」


 でも冷や汗かく日葵は後でぶん殴ると決めた。残念だが決定事項だ。いやまるでボクが悪いみたいな目で見んな。悪いのお前だろ。なに気安く役職名漏らしてんのさ。

 ……目を逸らすな。命奪うぞ。

 これ以上殺意を滲ませても無駄だろと内心思いながらも考えを止められない。


 高速で移り変わる景色を眺めながら、溜息を一つ。

 目的地である自然公園はすぐ目の前……廃棄されて舗装工事を止めた高速道路を走るのは乗り心地最悪でちょっと臀部が痛いが、それももう終わり。

 ここからは徒歩、いや魔導靴で立体機動の移動だ。

 めんどい……さっきは楽だって言ったけど、前言撤回。ワープゲート欲しい。


 つーかこんな道走んなよなぁ。ガタガタすぎじゃんいつ倒壊してもおかしくないよ。仕方ないとはいえこんな危険地帯を子供に走らせるとか……終わってんなこの世界。

 万年非常時だから許されてる節あるよね。

 ……あ、ねぇ。なんか視界から外してたらいつの間にか日葵が引っ付いてたんだけど。なんなのこいつ……

 軽率に殺意振り回してやろうかな。おい離れるな。


「あっ、あ! そろそろ着くみたいだよ!」

「誤魔化されねぇぞ……」

「ん。わかった……二人とも、準備できてる?」

「大丈夫です」

「へーきです! ……あ、でも先にお花摘みに行ってもいいですか?」

「ダメです」

「ん。ダメ」

「えぇ!?」


 元とはいえ勇者だろう。尿意と戦え。それぐらい耐えろ頑張って。






◆◆◆






 旧6区の自然公園。再び遷都する前のアルカナでは最大規模の、花と緑で美しく彩られていた場所。今やその姿は見る影もなく、地面が剥き出しの荒れ果てた緑地がずっと広がっている。

 かつての名残として多少人工物が散見できるが、殆どが薙ぎ倒されてしまっていて見るに無残だ。

 剪定されてない低木、管理されていないせいで草の海。

 うんうん……自然に飲まれるって、こういうのを言うんだろうね。


 さてさて、そんなわけで。任務でここを訪れたボクは、下水道が機能しているのかもわからない公衆トイレにすぐ駆け込んでいった日葵を置き去り、廻先輩が予知した《門》の出現予定場所に弥勒先輩と共に向かう。いやもう着いた。ぴょんぴょん跳ねて来た。結構楽しかった。

 場所は遊具が点在する広場。錆び付いてるし壊れてるし基本触りたくないけど……高いところは好きなので、少し我慢してめっちゃ長いローラーがついている滑り台の頂点に登り、夕焼けを眺める作業に入る。

 決してバカと煙は高いところが好きとかではない。


 あーあ。空想も可哀想に。勇者と魔王と死神が揃ってる場所にポップするなんて。


「先輩、鴉の群れですよ。不吉ですね」

「ん。狩らなきゃ……行くよ、真宵」

「その前に空想狩りですね〜。あっ、こら! 言った傍から暴れに行かない!」


 言わなきゃ良かった! なんでこんなにも猪突猛進なんだこの人おかしいだろ!


 夕焼け空を泳ぐ影を跳んで切り裂こうとするバカ狩人を異能の影でなんとか押し止めていると、部室で司令塔……オペレーターやってる廻先輩との通信が繋がった。

 ナイスタイミング! 危うく先輩絞め殺すとこだった!


『───お前たち、そろそろだ』

「ん、んん……仕方ない……準備完了。日葵以外は」

「はーい。了解です副部長……マジで疲れた。ホントに、余計なことは言うもんじゃないね……」

『?』


 ま、オペレーターって言ってもなにか指令するわけじゃないんだけどねぇ……やることは次の任地の座標とか経路とかを指示したり、予知で空想の追加投入があるか有無を確認したりとか。本当に裏方の仕事。あとボクたち部員の戦闘記録とかを撮るのも副部長の仕事だ。

 特務局っていう大人異能部の部署と中継して、高頻度で連絡係やったりとかもあるけど……いやどっちにしろ全部裏方だな?

 いないよりはいてくれた方が戦闘に集中できるから便利だけど。


 纏め役としては部長より優秀なんだよねぇ……カリスマ足りてないけど。


 ちなみに撮影は魔法工学製無音ドローンが画面共有して廻先輩にデータを送っている。今もボクたちの後ろを常にふよふよ着いてきてるし。

 これで透明化も使える機械……進歩したねぇ。

 通話は耳に付けた高性能イヤホンがないと無理だけど。音を拾う機能はあるけど、集音機構はそこまですごくないらしい。


 んまぁ、戦闘記録集める分には充分でしょ。実際あんま困ってないみたいだし。


『……琴晴はどうした』

「下半身が死にそうらしいです」

「ん。トイレ」

『お前たちはオブラートという言葉を知らんないのか……男だぞ俺』


 事実を言ったまでなのに。男だろうが関係ないよ。

 というか、任務前に片付けなかった日葵が全面的に悪いでしょこれ。悪いのは日葵じゃん? オブラートに包むとか人のやることじゃないでしょ!

 ここは大胆にオープンすべきなんだよ日葵の恥ずかしい全てを。そのまま恥ずか死ね。


「わ〜、お待たせしましたー。ごめんなさーい」


 あ、来た。

 ハンカチで手を拭きながら駆け寄る日葵に、ここの上下水道が機能してるか聞いてみよう……どんな返事が返って来るんだろ。気になるぅ。

 滑り台の上で黄昏れるのをやめて、高台から飛び降りて華麗に着地する。

 そして、振り向きざまに日葵の方を見る。笑顔だ。


「大っきいの流せた?」

「言語化しないの。まだ使えたよ……何故か」

「ふーん」

「……あと、そういうの二度と言わないで。真宵ちゃんのキャラが崩れる」

「はぁ?」


 オマエはボクの監修かなんかか……?

 ……わかったわかった。もうこの話しない。金輪際下品なのはやめるよ。やめるから凄むな。圧がすごい顔が近いやめろやめろ鼻息が荒いッ!

 やはりわかり合えない。なんで説教のタイミングで興奮すんだこいつ……


 今日の戦闘中、どさくさに紛れてやられても困るから、極力離れて頑張ろう。うん。貞操の危機。



〜〜〜♪ 〜〜〜♪ 〜〜〜♪



「ん? ……あぁ」

「……あーもうこんな時間かぁ。早めに片付けて、色々とやんないと」

「めんど」


 改めて脱日葵の決意を固めていると、昔と変わりのない夕焼けの放送が遠くから鳴り響いているのが自然公園にも聴こえてきた。ここでも聴こえんだ。結構距離あるのに。

 でもまぁ……いい音色だよね。郷愁を感じる。

 世界が変われど求められる音楽は変わらないか……いやこれはまた違うか?


 それにしても……もう夕焼け小焼け鳴ったのに、大人は子供を働かせている。そう、ボクたち異能部を。異能者といえどもまだ学生なんだからさぁ……こんな活動はさせるべきじゃないと思うんだよ。

 何回でも抗議するぞ。勤務体制の改善を求める。

 特務局のおじおばには是非とも子供の代わりに頑張ってもらいたい所存。


「それにしても……本当に便利ですね、廻先輩の異能!」

『褒め言葉は素直に受け取っておこう。無論、完璧な代物ではないがな』

「素直に受け取ってくださいよ」

「過小評価乙」


 日葵の賛辞は本音100%なのに……受け取らないなんてひねくれてんなぁ……気持ちはわかるけど。


 ボクら異能部の対空想戦闘スタイルは基本出待ち。

 廻先輩の異能で“空想の出現時間と位置”を予測してからそこに出向き、やってくるのを待つ。来たら総攻撃で皆殺一網打尽ってのが恒例だ。

 最早ルーティンだね。

 位置を特定できる人がいるだけで随分と楽になるんだ。副部長がいなけりゃできなかった戦法だ。死なれたら結構困る。楽できないから。


 ……そう、味方でいるうちは生かしておきたいところ。つまり、敵対したら真っ先に殺す対象だ。予知能力なんて面倒極まりないもの。

 

 ……おっと、そろそろかな。戦の鬨を上げよう。


『ッ───反応確認。来るぞ!』


 司令塔している廻先輩の怒声と共に、オレンジ色の空に亀裂が走る。バリバリバリッと不快な音を立てて、空間がひび割れていく。

 次いで耳を劈くのは、悲鳴のような世界が壊れる音。

 非現実的なその光景、現実とは認めがたい“それ”に脳が拒絶反応を引き起こす。


 開かれた空洞の向こう側───白一色の虚な異界から、辺り一帯目掛けて魔力が溢れ出す。

 世界の壁を越えて……ヤツらが、空想がやってくる。


「「「「───ギャッ! ギャギャッギャッ!」」」」


 それは、空想の代表格。ちいさな緑色の肌に尖った耳、汚い布切れのみを下半身に巻いた───ゴブリンの群れ。


「ん。《洞哭門(アビスゲート)》の界放確認。いっぱい出た」

「うわぁ、大量だ」

「ご、ゴブリンの集団!? 負けたらヤバいッ! エロ同人みたいになっちゃう!!」

「黙れオマエ」


 そーゆーのの見過ぎ。ゴブリンくんって、別にそこまで低俗なのじゃねぇーから。風評被害。エーテル世界、特に異世界のゴブリンは、結構紳士なんだ、ぞ……

 ごめん、これ知能あるタイプ限定の話だったわ。

 馬鹿言ってる煩悩まみれは置いといて、やってきた緑の肌を持つ小人たちを見る。うん、これは絶対知能無いな。ニンゲン様より馬鹿な方の下級ゴブリンだ。


 つか、またこいつらかよ。今日の授業でも題材になってなかったか?


 ゴブリンはだいたい集団で行動するの。一匹狼は滅多にいない。粗末とはいえ武器を持っている辺り、食料探しかなにかの襲撃中に《門》と接触したのかな。

 それにしても数多いな。普通5〜7だぞ? 見た感じ30はいるっぽいよ?


『ッ、数は52! また大漁だな……なにっ!? 玲華の所はオーガの武装集団、だと? チッ……界放頻度といい空想の脅威度といい……どうなってるんだ! キレるぞ!?』

「知るか……いやホント群れすぎでしょ」

「最近物騒だもんねぇ」

「ん。面倒」


 数え間違えたわ。52でした。いやー、すごい数。

 廻先輩の予知で敵が集団で来ることはわかってたけど、まさかの大群。思ってた以上に、なんならあんまり見ない規模だ。別に異能が外れたってわけじゃないけど、流石にこれは酷い。主にボクたちの負担が酷くなって酷い。

 てかぶちょーんとこはオーガ軍か。それも武装した……何気にヤバいな。組織だってるってことでしょ? 一体なに起きてんだあっち側……

 んまぁ、あの姉妹ならまず問題なく殲滅できるでしょ。比較しちゃうとこっち楽すぎるけど。

 人数はあっちに割くべきだったねぇ、これは。


「んー、閉じるのが早い」

「……あの時を思い出すね」

「やめろバカ」


 《洞哭門(アビスゲート)》───世界の壁を突き破って異世界と地球を繋ぐ通り道は、早くも閉じた。時間が巻き戻るかのように亀裂が消える光景は何処か気持ち悪い。

 原理不明、存在理由も不明。全て理解不能な超常現象が日常的に起きるのがこの世界なのだ。物騒極まりない。

 さて、これでもう増援援軍の心配は無くなった。

 そして、あいつらゴブリンたちの帰り道も無くなった。可哀想に……それに気付いてないところも可哀想だ。あのやばい《門》は意図的に開けられる代物じゃないからね、もう望み薄だ。こっちに命乞いして監視されてる廃ビルに押し込まれたらワンチャン生存ルート獲得だけど……無理そうだね。

 取り敢えず、突然開通して魔物を誘い込んで連れてくる謎めいた穴に真理を求めてはいけない。


 日葵の発言? 無視でいいよ。もう終わった話だし。


「はぁ〜……だるい」


 それはそれとしてさ、数多すぎだよなぁ。自重しろよ。こんな時間帯に働かせやがって。完全にブラック企業認定だよ労基に訴えるぞ。部活だろって? 一応給料も出るから実質企業だ。日によっては早朝と深夜出勤もあるからね?

 マジでおかしいよ異能部。ブラック部活動じゃん。

 はぁーぁ、これから裏の仕事もあるっつーのに……疲労困憊で倒れちゃいそう……


 これまた過労死の予感。ヤダな。頑張って避けないと。


 ……さて、愚痴を零すのもここまで。

 とやかく言ったけど、そこまで問題視する必要はないんだよね……なにせこの三人がいる時点でねぇ。蹂躙にしかならないだろう。

 異能部の大半は脳筋の集まりだぞ?

 こんな雑魚共に敗北するとでも? フラグじゃないよ? そもそも負ける要素ないし。


 あと同人云々言ってるオマエ、精神攻撃切り払えるだろ何言ってんだ。

 

 うん、まぁいいや……ちゃっちゃっと終わらせますか。


『……俺が幾ら叫ぼうとも仕方ない話、だな。三人とも、悪いがここは任せたぞ』

「ん。問題皆無───【死之狩鎌(デスサイズ)】、起動」

「はいほーい、52名様いらっしゃーい」

「バッチコーイ!」


 さて、そんなわけで命令を受けたボクあたは駆け出す。迷いなく先手を打ったのは弥勒先輩。異能発動と共にその右手に闇色の粒子が集まり……やがて死神を彷彿とさせる銀の大鎌が世界に顕現した。

 魔力で大鎌を作り上げる異能───【死之狩鎌(デスサイズ)】。

 それが八十谷弥勒の異能。殺意に満ちた死神の鎌という超限定的な物質形成の異能である。

 単純だけど、絶対に殺すという意思が垣間見えるよね。

 細身な長身体躯には見合わぬ武器……いや相応しいか。相応しすぎるな? 取り敢えずいつも不思議ちゃんな先輩の主武装が大鎌なのはこれが理由。目では追いづらい速度で駆け出した彼女は、ゴブリンたちの群れに猪突猛進、早速突撃していく。

 これは計画性のない戦車突撃。惚れ惚れしちゃうね。


「ギャッ!!」

「ん。近所迷惑。黙って」

「ギギィッー!?」


 あの大鎌生成の力は、空気中に漂っている異世界由来の不思議粒子こと魔素を原材料にしていふ。この異能の鎌は強度や鋭さ、硬度の全てが先輩の意思一つで決まる。

 魔素がある場所───ここ新世界では、至る所に空気と同じようにあるのだが、そこで使えばいつでも強襲奇襲が可能になる。なんと暗殺向きな異能か。

 いつでもどこでも武器錬成が可能とか、チートだ。

 掃除屋やってる身としてはこれすごい欲しい。あ、別に異能が欲しいんじゃなくて部下として欲しい。無手で要人暗殺し放題じゃん? ……んまぁぶっちゃけどんな異能でもそれが可能になるのが、異能共生社会の闇である。

 異能犯罪者が多い理由がよくわかるよねぇ。

 ボクも人のこと言えないけどね。私的利用ダメ絶対ってヤツだ。


「ん。遅い。雑兵ばかり」

「ゴッ……!?」


 これぞ正しく蹂躙……やはり暴力は全てを解決する……強いねホント。弱いゴブリンたちも頑張って短刀とか槍で応戦してるけど、多勢に無勢かなぁ……武器全部錆びてて手入れされてないのも問題ありすぎる。

 大人しく“界域”で集落してればいいものを……

 それだけ貧困なのかもね、こいつらの集落は。全盛期の魔界村とは大違いだ。


「仕事取られちゃうなぁ、これ」

「楽できていーじゃん……うわこっち来んな。あっち行けシッシッ」

「寄越さないで!?」


 鎌の一振りで首がパーンッ! 見るも無惨な亡骸が、土に積もる積もる。マジでボク出番ないんじゃないかな……と思った矢先に襲われた。まぁ影で足掬ってうるさいヤツにポイしたけど。

 単純な物理攻撃できる異能っていいよねぇ。

 爽快感がダンチで気持ちよさそう。ボクみたいな陰湿でなんか蠢動してる異能ではとても味わえない快感だろう。こんなのが転生特典とかバグでしょ。もっと乙女な不思議パワーをください。


 それに魔導具の靴───立体機動六番兵装だったっけ? 堅っ苦しい名前のそれを履いてる先輩は、持ち前の脚力と素早さに加え、靴に付与された軽量魔法の効果で多角的なパルクールが可能になっている。

 つまり、四方八方を足軽うさぎのように飛び回りながらゴブリンの首を狩っているのだ。

 足場になった元遊具がめっちゃ軋んどる。

 あの靴も魔力さえあれば理論上無限に使えるから、もう異能部には欠かせない武器の一つだ。採用されてから便利すぎてすごい重宝されてる。移動楽だもん。


 ……ん、そろそろボクも戦うか。処理作業になるけど。


「ッ───ギャギャッ!」

「はいはい、とりま───死ね。<暗寧(あんねい)の一刺し>」

「グギっ、!?」

「くふっ、くふふっ……心臓もーらい♪ もう返さないよ。死んでもね」


 うん、人型でも魔物相手じゃなーんも感じない。殺人の実感が湧かないねぇ。


 背後から不意打ちを狙ったゴブリンの胸、心臓を貫く。痙攣する死体から伸びる、真っ黒な槍───ボクの異能で物質化した影が、死体の影から伸びていた。

 槍っていうより棘かな。綺麗に貫通してる。暇だし他の個体も刺しとこ。今度は脳天ね───はい貫通貫通。頭の骨柔らかすぎ。


 小穴が空いた小鬼の心臓を影の先っちょで弄びながら、果敢に、いや無謀にもまた群がってくる他のゴブリン共も蹴散らそうと決める。

 ボクの足元から伸びて形を与えられた影が、鞭となって横薙ぎに振るわれた。


「ギッ───」

「くふふ、ばぁーか……逃がさないよ? キミら如きじゃ、逆立ちしたってボクの闇には勝てないぜ? あ、そうだ……見逃してあげてもいいよ? 逃げ切れたら、の話だけど」

「ごふっ」

「ぐぎゃ」


 うーん、やっぱこの心臓いらないや。なにせ内蔵魔素が基準値を下回ってやかる。これならそこらの一般人の死体から頂戴したのの方が品質がいい。

 ……だいぶヤバいこと言ってんな自分。今更か。

 ノリと勢いで奪ったけど、返すか。どの死体のかはもうわかんないけど。


「っと……あっ、手が滑っ───危ねぇ汚ぇ!」


 血が垂れないように注意して頭上にあげて見ていたら、突然手からツルリと滑った心臓が落ちてきた。慌てて首を逸らして避けたからギリ当たらなかった……あっぶなぁ。避けるの遅れてたら頭から臓物を被るところだった。

 地面にベチャッと落ちた心臓を睨み、溜息を一つ。

 何気なく持ってたけど、手が血濡れだ。闇で拭って証拠隠滅、と。


 ……こんなときに不運発動すんのやめてくんないかな。


 だいぶ倫理観のない言動してたのは認めるけどさぁ……ちょっとサイコパスキャラになって吟じてみたいなーってなっただけなのに……

 異能部がそんなことするなって?


 それはそう。


 とはいえ蹂躙は楽しい。二律背反、これは雑魚狩り厨に多少共感しちゃうな。うん、偶にはこーゆーのもありか。はぁー、でも最後に不運来たのは萎えたな。あんな機会を伺って落とすとか、人為的なナニカを勘繰ってしまう。

 ……取り敢えず、心臓なんか持つんじゃなかった。もうやらない。


 ……あ、あと一つ嘘言った。少なくともゴブリン狩りは楽しくない。


「やっぱり、ただのゴブリンじゃ話にならないよねぇ……本当にツマラナイ」


 テンションのアップダウンが激しい魔王で、ごめんね。こういうのキライかな? 全国の魔王ファンに問う。情緒が完成してないとダメとか、女なのはダメとか言われそう。

 ………。

 えいっ。

 今度は死骸を影で轢き払ってみた。赤くぐちゃぐちゃになったのを見届ける。衝動的にやっちゃった。ぐろーい。でもツマンナイのが悪くない?

 もっとボクを楽しませろ。なんかすんごいの来い。


「……あっ、まだ一匹残ってる」


 さて、話を戻して。この操ってる影がボクの異能力だ。名を【黒哭蝕絵(ドールアート)】───前世で魔王だった時から、そして今世でもボクと共にある闇属性最凶である究極スキル。

 あらゆる影を操り、物質化させ、拡げ、支配する。

 自分の影限定ではない。視認している影ならば、どんな影であろうとも支配の対象となる。建物も他人の影も……雲の影だって。この世全ての影は等しくボクのモノだ。

 ……厳密には影を操る異能じゃないけど……別にいい。

 できすぎるといらん問題が這いずってくるからね。まぁ大人しく黙ってるさ。


 異能部や異能特務局といった、国に公表・報告している能力の全体像はこの影のことだけだ。スキルの真髄真価は言わない。それこそがボクの安全に繋がる。

 ったく、国が真名看破の魔道具を所有してなきゃ名称も変えて申請書提出してたのに。お陰様で魔王軍のヤツらに名を知られた瞬間、洞月真宵=魔王カーラだと勘づかれる確率がひっじょーに高くなった。最悪だ。他のチート異能使って騙し騙し隠蔽できてはいるけど。

 申請した後に気付いたよね。その時点で手遅れだった。


 ……でもあの異能名判別機械くん、複数持ちを想定してない設計なのはいただけない。

 ボクと日葵には有利に働いたから別に良いけども。


 あ、ちなみにいつもの不運事象はまた別の異能が転生で暴走してる結果だ。一回死んだせいでバグった? みたい。治療の手立てはありません。

 今世では一生付き合う病気だと思えば……まぁ。昔のでそういうのは慣れてるしね……

 納得はしたくないけど、納得するしかないから諦める。ボク、大人だから。


「ギュペッ」

「はぁ……」


 死角にいた最後の一匹を適当に屠って、感慨なくボクの業務を終わらせる。


「───よし、こんなもんか。飽きたな……あとは二人に押し付けよ、と?」


 息が止まる。浮世離れした光が漂うその光景に、宿敵の戦舞踏に魅入られる。まるで煌びやかな品のある社交界。幻覚剤でも盛られたかなって気分になる。

 踊るように舞うように、唄を紡ぎながら戦う日葵の姿。

 戦場とは思えない光景……けれど周囲に飛び散る鮮血がここを戦場であると肯定する。


 光が舞う戦場は、日葵ただ一人の為に用意された舞台。緑の小鬼はやられ役のエキストラ、かな。


「《───♪》《───♪》」


 常人には聞き取れない、異世界の言語で唄を口ずさむ。普段とはまったく異なる雰囲気の日葵は、何処か静かで、冷たすぎる鋭さと、両立する勇ましさも感じられる───そう、かつての威を彷彿とさせる戦闘風景。

 あぁ……やっぱり。その勇姿がキミには一番似合う。

 戦場にいるキミの方が、表社会で日常を生きているより似合ってる。

 ……使っている異能の一点を除けば、ね。マジで別のに取り替えて欲しい。


「《─♪》《────♪》……はい、おしまい」

「ィギッ」

「ギッ……!?」


 口ずさまれた美しい音色、言霊が光となって空を舞う。まるで雪のように宙に浮かぶ光の玉は、光輝く刃となってゴブリンたちの身体を切り刻む。

 そして、歌い終わりと共に日葵の手に光が収束して……大きな光の剣が形成された。

  刀身も柄も、全ての構成物質が白く眩い光そのもので作られた光剣。美しき天使の唄によって世に現れる、悪を断罪する裁きの剣が傷ついたゴブリンたちに振るわれた。

───軽い一閃は、呆気なく幕引きを演じる。

 そして、役目を終えた光剣はすぐに輝きを失い、閃光を伴って消滅する。


 最後に残ったのは、残心で息を吐く日葵のみ。

 青空を舞う光の粒子が天へと返っていく中、一つの劇を演じ終えた日葵がボクの方を振り向いて……にぱっ☆と、かわいらしく微笑んだ。

 んー、返して。さっきまでのイケメンを返して。


 ……ありゃ、ゴブリン全滅じゃん。結局6体ぐらいしかやれなかったぜボク。


「見てみて、勝ったよ私!」

「負ける方が不自然だよ」

「えぇ〜、そこは褒めてよ。私、褒められたら褒められたぶんだけ伸びる子だよ?」

「知ーらね」


 光の粒子が舞う様は随分と過剰演出だなと言いたいが、あれが普通だと知ってる分タチが悪い。

 【天使言語エンジェリック・オラクル】。

 かつてボクらが生きていた異世界で、たった一人を除き全滅した天使族が使っていた固有魔法の一つ。種族固有の言語で唄を紡ぐことで光を操れる───ニンゲンなんかが到底扱えない筈の異能。

 何故か日葵は使えているけど。そも何故持ってるのか。

 言葉は歌として出力しなきゃだけど……こいつの真髄は光の掌握。様々な形状、種類の武器を光で作り出せるのと同時に、仮に致死量の怪我であろうとも大抵ならば治せる規格外の治癒の歌、他にも空を飛べる羽を生やす唄など、オールマイティに要所要所で活躍できるスキルだ。

 光を意のままに、唄を歌って敵を討つとか……どっかの主人公にいそうだな。


 実は日葵、他にも異能を持ってるんだけど……表向きはこの天使の異能だけを公表している。そもそもこの異能が後付けの異能だからね。

 個人的には気に食わない力だ。

 その、諸事情で嫌いになりかけてる。唾棄する程じゃあないけど……なんかこう、いつ見ても羽根を毟りたくなる衝動にかられてしまう。

 本能ってヤツだろう。仕方ない。改善の余地もない。


 んまぁ、この異能で日葵が勇者バレすることはないのが幸いか。疑われても別方面で、当時隣にいた天使の転生と勘繰られるぐらいだろう。うん、大分遠回りになるから、万事オーライってヤツだね。よかったよかった。

 国のミスでこっちは合法的に隠れられるのって最高だ。いちいち気にしていられないし。


 ボクたちを見つけるなど不可能なのだよ。ふふん。


「でもまぁ……よく使えこなせるよね、それ」

「んー、そだね。でも、旅してる時いっぱい聞いてたのもあるんじゃないかなぁ……あとは歌のセンス? うん、私が音痴じゃなくて良かった。本当に」

「切実だね……でも後半も大事だもんね。キミが無自覚でダミ声リサイタルじゃなくて良かった」

「ね」


 彼女にとってこの異能は形見でもあり、今は手元にない───転生してから居場所不明な“聖剣”の代わりとして、天使の光剣を使ってる感じだ。光に形を与えて作るそれが今の日葵にとっての主武装なのだ。

 歌わないといけない───というよりも、天使の言語を完全にマスターしてないと使えないのが欠点。

 でも日葵には関係ない話。なにせ前世の旅の仲間がその天使だったから。


 ……今世でバフ・デバフ能力を手に入れた日葵だけど、やっぱり脳筋が否めない。なにせ光で撹乱とかよりも早く武器作って殴ってくんだもん。

 前世なんかと同じだ。

 最終決戦、軽装備で空に浮かんだ魔王城に乗り込んで、あらゆる障害を無傷で単独突破したのがこの女だ。他にも世界滅亡を企てる神を数分で殺戮して消し飛ばしたり……

 うん、勇者という名の生物兵器ですねぇ、これは。

 今は【天使言語エンジェリック・オラクル】があるから、余計終末の天使を想起させて……日葵の規格外化が止まらない。


「なんか不名誉なこと考えてない?」

「生物兵器乙」

「やめなよポンコツ女神様罵んの!」

「ん。何の話?」

「「お気になさらず♡」」

「ん……」


 全てのゴブリンを肉片に変え終えた弥勒先輩もこっちにやって来て会話に混ざる。

 ……ちょっと疎外感与えちゃったかな?

 うん、ごめんね。無理な会話逸らしはやめるよ……反省反省。でも聞かれちゃ不味いからねぇ。イヤだよ、職場の先輩まで消すの。嫌い嫌い言ってるけど、消すほどまではキライじゃないし。


 どよ〜んと露骨に暗い空気を振り撒く弥勒先輩……あぁもう見てられない。仕方ないから慰めの気持ちで撫でたりイチャついたりしてあげる。手を握ったりとかとやって、我慢してやってやる……うん、戻ってきた戻ってきた。

 そんなにぼっちイヤか……?

 っと、廻先輩との通信が繋がった。今まで神室姉妹側と会話していたらしい。こっちとあっちの両方繋げていれば行き来しなくていいんじゃないの?

 わざわざ分ける意味よ。


『三人ともご苦労だったな。やはり、戦闘特化型の異能は格が違うな……しみじみ思うよ。一先ず、真宵のは置いておくとして』

「なんでボクだけハブなんです???」

『いやだって……なぁ?』

「うん」

「ん。ん……」

「なに? なんなの?」

「ごめんね」

「???」


 なに、ボクが何をしたって言うんだ……!?


 確かに操ってる影が生物チックでキモイかもだけどさ? そんな露骨に気味悪がらくても……いや困惑が勝ってどういうもんか理解できてないだけだな?

 そうだね、不理解の恐怖はわかるよ。でもボクにそれを向けないで欲しいけど。

 ……ぇ、それも違う? じゃあなんなの?


 日葵までその反応はなんなのかね。キミはある程度詳細知ってるでしょ。なんならボク以上に謎に把握してるとこあるだろ。おかしくなぁい?

 はぁ〜ぁ……色々と言いたいこと聞きたいことは多々とあるが、とにかく。

 これで異能部恒例の出待ち作戦は無事終了した。

 ものの数分で片付いちゃったねぇ。ま、異能部の戦力が三人も集まればこうなるのも自明の理か。ゴブリンなんて雑魚、話にならない。

 自惚れだけど、ボクたちってば強───あ゛ぁ?


 振り向いた後、震撼する空気に肌が粟立つ。バッと目を発生源に向ければ、先程閉じた筈の位置にまた《門》が、ボクが振り向いてから再び開いた。

 何故。何故気付けなかった……? ボクだけじゃなくて、日葵までもが?


『───なにっ!?』

「ッ……もう廻先輩無能説を流布すべきですね、これは。首洗って待っててください」

「ん。ごみ」

「非合法のゴミ処理場の座標、教えてあげよっか?」

「死体遺棄かぁ〜」

『さり気なく繋がりを見せるな。あと殺すな……はぁ……すまん』


 一斉に廻先輩を罵る。パターン2開くなんて、ボクたち聞いてませんからねぇ???


「まーた《門》開くとか……どうなってんだ世界」


 そんなわけで。第二ラウンド、はっじまるよー。


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