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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
CHAPTER.2「ふたりぼっち+α」

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02-18:仲間はずれと拾い物


「……ねぇ」

「えーっと」

「仲間外れ……ってこと?」

「うん。ごめんね?」


 うわーんッ、ボク真宵! 気持ちよーく寝ていたら、同じ屋根の下に住んでるバカとアホが、マジで知らん内に謎の師弟関係を結んでいたぞ! ボクはッ!? ハブですか!?

 本当にわけがわからないよ。なんでどうして……キミ、属性増やしすぎだよ?


 異邦人で精霊術師で勇者の弟子で……しかも思いつきで鍛錬始めるとか。

 キミたちに計画性はないの?


「言ってよ」

「ごめんね……普通に熱中してて忘れてた」

「混ぜてよ」

「……! 私と真宵ちゃん愛の共同作業……!?」

「ごめんやっぱいいや」

「嘘嘘嘘嘘! じょーだんだから!」

「は?」


 庭が騒がしいな(当社比)と思って上から見てみれば、日葵が一絆くんの背中に乗って腕立て伏せさせたりとか、なんかボディタッチ激しめのトレーニングしてたりとか。なんか、こう。危うく脳が破壊されるとこだったぜ。

 魔王のハートは脆いんだぞ。大事にしろ。

 驚きのあまりベランダから飛び降りちゃったよ。眠気も吹き飛んだわ。


 え? その後? 日葵に抱き抱えられて怒られたけど……まーそこは別にいい。

 でも良い子は真似しちゃダメだぞ。


 とにかく、ボクは御立腹なのだ。怒り心頭なのだ。


「はぁ〜……で、実際どうなの?」

「モーマンタイだよ。私を誰だと思ってるの?」

「異常者」

「……あのね、シンプルな言葉って意外と傷つくんだよ。知ってた?」

「へ〜! 初めて知ったよ。参考にするね」

「しないで」


 言い争いはソファの上で。くだらない会話を延々と耳にぶつけて、汗と汚れを洗い流す為にシャワーを浴びている一絆くんがリビングに戻るのを待つ。

 朝ごはんを並べるのは彼が来てからだ。

 本来は住人全員で食べるのが我が家のルールだけど……生憎家主は今日も早出。というか帰ってきてない。養子を蔑ろにしすぎじゃなかろうか。

 鳥姉こと燕祇飛鳥は独り立ちしちゃったから不在。

 つまり3人でご飯だ。最近は一絆くんが加わったけど、前は2人だけでずーっと食べていた。おじさん帰ってくる頻度少なくない? もっと一緒にいようよ。


 ……お腹減ったんだけど。まだかな一絆くん。


「先食べていい?」

「早速とばかりに破るのやめな?」

「お家芸……」

「そんな芸嫌だよ」


 正味な話、従わなくてもいいのにね。日葵は善人だから律儀に守ってるけど……付き合わなくてもよくね? なんてボクは毎回思うわけ。これもダメな人の思考なのかな?

 まあ、仕方なくぼーっと待ち続ける。

 どうせ10分もかからない。湯船に浸かるわけでもなく、ただシャワーを浴びるだけなのだ。平気平気。


 ……それから3分ぐらい経って、少し。洗面所の方からドライヤーで髪を乾かす音が聞こえてきた。


「やっとかぁ」

「お皿に盛ってくるね」

「拭くのは……やらせるか」

「やりなさい」

「オカンか貴様は」

「ママとお呼び」

「ババア」

「は?」


 渋々テーブルクロスを手に取って、各々行動開始。丁度一絆くんがリビングに来たタイミングで、机の上に朝食が並び終わった。

 黒い学生服───学院指定のズボンとワイシャツを身につけた一絆くんが、乾かした髪の毛を指で荒く乱しながら椅子に座る。

 場所は俗に言う誕生日席。ボクの斜め右だ。


「シャワー助かったわ」

「ど〜いたしまして。ほら、ご飯できてるよ」

「早く座れ。食べれないだろボクが」

「おまえホント自分本位だな……んまぁ、嫌いじゃないぜそういうの」

「キミに好かれて何か得でも?」

「特にねぇな」

「「───“とく”だけに」」

「ごはん抜きでいい?」

「ごめんて」

「ゆるして」


 至極当然だが家庭内の最上位者は日葵だ。悲しいかな、基本的になにもしないボクには最下位の自負がある。

 下手に逆らって怒られると三食消えるからね。


 机の上にはマーガリンを焼いたパンとベーコンエッグ。そしてミルクとポタージュスープ……The普通。どうやら今日のメニューは洋食のようだ。

 三人でいただきますを言って、早速口に頬張る。

 ……うん、安定の味だ。美味しい。


「ん」

「うおっ……やっぱ慣れねぇなそれ」

「我慢して」


 ふとテレビが見たくなったので、コップから机に伸びる影を操ってリモコンを弄り、ボタンを操作。

 まんま怪奇現象なその光景を見て、ビクッと震えるのはわかるけど、この家では当たり前の光景だから、さっさと諦めて順応してほしい。


『───、──、──────』


 液晶に映る内容を次々と変えていくが、どれも面白味がないものばかり。

 時間帯の問題でニュースばっかなのは仕方ないか。

 天気予報ばっかだ……


「午後は雨……めんど」

「外、あんなに晴れてんのにか?」

「傘もってかなきゃだね」


 世界空想化(エーテルアウト)で滅茶苦茶になってるからねぇ、地球の空。そりゃ天気もすぐに変わる。気象予報できてる時点でもう御の字ってか、褒め称えてもいいレベルだ。

 雑談を交えながら朝食を平らげる。日葵が3人分の皿を重ねて片付けている横で、ボクは卵液に濡れた人差し指を舐める。うーん、うん。思ったより半熟でうまかった。

 真顔で同居人二人が凝視してくるけど、無視無視。

 ……そんな見ないでもらえます?なに、なんなの。要件言え。


「エッチだぁ」

「あぁ」

「正直者はすぐ殺せって格言知ってる?」

「悪ぃ。口が勝手に……」

「酷いよ真宵ちゃん……」

「ボク被害者。逆だぞ逆」


 同調すれば許されるとでも思ったのか、世迷い言を宣うバカ2人の頭にたんこぶの山を築く。

 まったく。せめて隠せ。隠す努力をしろ馬鹿共。

 溜息を吐きながら台所で汚れを洗い落として、ぐーっと腕を上に伸ばす。ついでに肩をボキボキ。

 すげぇ鳴る。酷いな、ストレスかな。チラッ。


「……まるで私が原因みたいな……」

「7割強」

「嘘でしょ?」


 実際の主原因は黒彼岸案件だと思うけどね。


プルプルプル……


 ……おや? 珍しい。滅多に電話なんて来ないスマホが、机の上で音を鳴らして振動している。

 うるさいな。朝から何の用……

 スマホを手に取り相手を確認してみれば、そこにはある人物を現す名称が。


 『R@同僚』


 ……まさかの黒彼岸案件。イヤだなぁ、出るの。


「ごめん電話だ。ちょっと外す」

「あーい」

「おう。いってらー」


 扉を開けて廊下に出て、まずリビングから距離をとる。聞かれては不味い。盗聴防止アプリを作動させ、同居人の気配もそれ以外もないことを確認して、画面をタップ。

 耳にスマホを当て、通話主を問い質す。


「……何の用かな、蓮儀」

『悪いな。急用だ───斬音が変なの連れて来た』

「はぁ?」


 通話相手は夜鷹蓮儀。そして件名は斬音の拾い物。あの斬殺キルキルハッピー人間が? 生物全般を斬り殺して喜ぶあの変態が? 拾い物……? なんで?

 まぁ確かに、急用だって連絡するのもわかる。

 斬殺衝動が出たってわけではなさそう……うーん、なに考えてんだあいつ。


「……わかった。場所は」

『いつもの拠点だ』

「りょ。今すぐ行く……拾い物ってナマモノ?」

『女の子』

「嘘でしょ?」


 マジで何を拾いやがった……! こりゃ早く確認せねば。


「ごめんひまちゃ! 学校遅刻するって言っといて!」

「えっ!? う、うんわかった!」

「……なんかあったのか?」

「バイト先で問題発生って言われてさ。空いてるのが丁度ボクしかいなかったんだよ」

「えっ、バイト……?」


 蓮儀との通話を切り、リビングに戻ってすぐに伝達を。ほぼ確実に遅刻だからねぇ、これは。今日は休むっていう選択肢もあるけど、それはそれで後が面倒。

 疑問符を浮かべる一絆くんには悪いが適当に法螺吹いて対応させてもらう。実際はバイトじゃなくて本職だけど、混乱の元なので黙っておく。

 ……マジでカモフラージュのバイト作ろう。後暗いのはなんとか除外して。

 言い訳の証拠大事。


「ボク、バイトリーダーなんだよ」

「異能部やってんのに……?」

「金があって困ること、ある?」

「ねぇけど……まぁなんだ。がんばれ」

「うん」


 釈然としない一絆くんから軽い労いの言葉を受け取り、ボクは玄関を飛び出したのだった。


 はい、そんで影移動! ちゃっちゃと行くぞ〜。






◆◆◆






 異能結社“メーヴィスの方舟”直下裏部隊『黒彼岸』。


 第3と第2新日本都市の沿岸部に立ち並ぶ、三百年も前の廃ビル群の一つ、旧東京都庁を拠点とする、裏社会最強の掃除屋集団。

 海に沈んだ建物、その一室の机影から這い出たボクは、やけに静かな休憩室の扉を開ける。

 勿論、コスチュームは着替え済みだ。身バレ防止大事。


「来たよ」


 声を出せば、鷹のように鋭い鮮血の瞳がボクを射抜く。中東部での紛争を生き抜いた元傭兵、黒彼岸のスナイパー夜鷹蓮儀に手を挙げて挨拶する。

 彼も律儀に片手を挙げて返答してくれた。


「早かったな」

「まぁね。で? 斬音ちゃ、ん…は……えぇ……?」

「……まぁ、そうなるよな」


 導かれるままに視線を向けた先には、なにやら黒い塊を抱き締めて体育座りする斬音の姿が。

 なにやら御満悦の表情で、黒い……羽毛かあれ。

 丸っこい黒烏の羽に包まれてるみたいな見た目だ。よく確認すれば鳥脚が見える。

 子供サイズの羽毛玉……いや違う、あれ女の子じゃん。


 つまりはニンゲンってこと……え、マジか。


 凝視してみれば、頭を羽毛の中に埋めている。どうやら両腕がカラスのような羽になっているようだ。

 ふむ。腕が鳥羽、足が鳥脚の……見るからに女児……


 取り敢えず聞いて、言おう。誘拐犯やめろください。


「斬音ちゃん……それ、なに」

「んー? あー♡♡♡ リーダー♡♡♡ 見てみてぇ♡♡♡ この子ねぇ、拾ったのぉ♡♡♡」

「そう。元いた場所に返してきなさい」

「やだ!!!」


 拒否する時だけ媚び声やめるのやめろ?

 疑問は尽きない。けどまぁ、取り敢えず糾弾はやめて、寝息を立てる羽毛玉に抱きつく斬音に、その子供を拾った経緯を聞く。

 人斬り万歳女が気に入るとか、何があったんだ。


「んーっとねぇ、あれはねぇ……」


 義務教育を受けずに育った斬音は、拙い語彙でその烏を拾った経緯を一から説明する。声の波長のせいで聞き辛いけど、許容範囲だから我慢する。

 事の発端は三時間ほど前。

 今日も今日とてお仕事を楽しんだ斬音は、ふらふら一人裏路地を散策していたらしい。なんでも殺害目標だけじゃ斬り殺し足りなくなって、辻斬りを画策していたとか。

 心底やめて欲しい。斬殺死体片付けんの誰だと思って、いや蓮儀がやるんだけども……


 やっぱ、洗脳改造は早めに解いとくべきか? 脳に電極が刺さってるようなもんだから、難しいけど……殺人衝動の制御が面倒臭くなってきたからなぁ。

 監視が緩いうちに処置しよ。技術不足で外部委託すると思うけど。


「いきなり抱き着かれたんだぁ♡♡♡」

「……はぁ?」


 魔都をふらりと歩いていたとき、突然、空から黒いのが降ってきて……その鴉娘を切り捨てずに、どういうわけか咄嗟に受け止めてしまった、らしい。

 ……なんで??? オマエが? 斬らないで……?

 わからん。急襲されたわけではないっぽいけど、ちょ、辻斬りの本能はどうした。


「で、なんか懐かれちゃった♡♡♡」

「なんで?」

「すまん。俺でもわからん」


 なんでそうなる。どうして。死臭が消えない辻斬り姫と仲良くなっちゃうわけ。抱き合って寝てるわけ。普通なら寝れないよ? 生存本能どうなってんだ……

 どこに懐く要素あんだよ。

 疑問が尽きない。なにがなにやらさっぱりである。あと説明が箇条書きすぎて内容が上手く掴めない。

 これは……拾われた女の子本人に聞くしかないな。

 そう、聞きたいんだけ、ど………


「すぴー……すぴー……」


 度胸あんなぁ、この子。何時になったら起きるんだろ。


2025/01/10/21:00

プロローグを分割しました。内容に変更はありません。

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