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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
CHAPTER.2「ふたりぼっち+α」

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02-13:どこにでもいる生き証人


───あー、死ぬかと思った。

 幾ら死にたい連呼しててもさ、執拗に首狙ってくんのはよくないと思うんだよね。


 危うく背骨を折られかけるは、喉仏が気管を貫通するはうなじを衝撃打で破壊されかけるは、抱っこされて辱めを受けるは、散々な目に遭った体力測定は終わりを迎えた。

 喜屋武先生から多少お叱りを受けたり、女子の連中から遊んでんなだの言われたりしたが……いつものことなので横に置いておく。

 取り敢えず今はお昼休みだ。ごはんごはん。


「ひまちゃー、お弁当」

「はい、これね」

「やった……んーこれなに?」

「つけ麺」

「……」


 手作り弁当が、つけ麺、だと?

 日葵に手渡された弁当箱と水筒、その蓋を開けてみれば上段に卵やらネギやらの具材が入っていて、下段には麺が入っていた。水筒の中身は……麺つゆが並々と。

 ……お弁当に麺? マジか。知らん発想だ。わけわかめ。お米は?


 うちのご飯作り担当は日葵だ。毎日のご飯朝昼晩全ては日葵の気分で内容が左右される……そして今日は、麺類の気分だったらしい。

 真夏にやれよ。素麺とか。

 この時期にこんなお弁当出すとか。夏だったら食中毒で頭やられたのか心配してたよ。

 ……そういう日もあるかと箸を持ち、麺をつゆに浸して啜ってみる。


 ……んー、手抜きの味だ。納得いかぬ。


「ねぇ、美味しくない」

「作らせといてその言いよう? 酷くない?」

「だって……」


 ぶっちゃけ最近の楽しみってご飯だけなんだよね。

 三大欲求で満足に働いてるの、食欲と睡眠欲だけだよ? 性欲なんかは下も下だ。そっちは希薄と言っても過言ではないと思う。

 なにせこちとら2000しゃいのまおー様なので。

 欲情とか性的好奇心、興奮だとかはない。それに比べて日葵と来たら……


 やっぱり精神年齢の差か? 百と数千っていう差から?


 思考回路があらぬ方向に空回りしていたボクだったが、日葵の一言で元の場所に帰ってくる。

 尚、麺を啜る手は止めていない。ズルズル。うん微妙。


「……わかった、わかったよ。明日からはちゃ〜んとしたお弁当作るから」

「わーい!」

「その代わり……」

「ん?」

「家事、ちゃんと手伝ってね」

「一絆くんがいるじゃん」

「かーくんにはかーくんの仕事があるから」

「えぇ……」


 困る。家事掃除洗濯は日葵に一任してる分、今のボクの家事レベルはたったの1だ。いやできないなんてこたぁ、うん、この話やめよ。なにかしら失敗しそうな気がする。

 こーゆー予感は外れない。

 でもまぁ、するしかないんだろう。なにせ美味いご飯にありつく為だ。

 疲労も寝不足も我慢して働くとしよう。脱ニート。


 ……いや、黒彼岸してるしニートじゃないわ。異能部もやってるじゃんね。


 そういえば、さっき最近の楽しみは一つだけ〜だなんて言ったけど、少し語弊があった。今はね、新しい楽しみが増えたからそれなりに充実している筈、だ。

 具体的に言うと一絆くん。

 この子は来てからまだ日は浅いけど、やることなすこと新鮮で、とにかく見てて楽しいのだ。

 こう、観察的な意味で毎日楽しまさせてもらっている。


「ん? なんだよ真宵」

「……その麺、美味しい?」

「美味しいけど……」

「かーくんは良い子。はっきりわかんだね」

「いや普通に美味いだろ」

「……」


 えー、どうも一絆くんとは食の好みが合わないようだ。絶賛とまではいかないでも、そんな褒めるほど美味いとは思えないんだけど。

 ……文句言うのもここまでにしとくか。

 作って養ってもらってるの、ボクだし。どの口が〜とか言われたら立ち直れそうにない。


 ちゅるちゅるとつけ麺を啜って、ごちそーさまで食事を終えれば……後は自由時間だ。

 五時間目まではまだまだ暇がある。

 いつもどーり、のんびり……あっ、そうだ。

 くっそ暇だしおじさんのとこ行こ。なんか仕事してたら邪魔してやる。


 思い立ったが吉日。早速ボクは廊下に出た。


ふらふら〜……


「あっ、やばっ。ごめんかーくん、私迷子の真宵ちゃんの面倒見なきゃだから……」

「過保護……やっぱ迷子になんのか?」

「うん。なる」

「断言か」

「するよ」

「……がんば」

「うん!」


 不名誉な会話には耳を塞いでおくとする。

 そんな毎回迷子になるわけないだろ。宇宙次元的迷子なわけがない。


 まったく。そこまでボクに信用がないのかね? 学院長の部屋ぐらい覚えてるっつーの。


「あると思ってるの……?」

「神妙な顔やめろ」


 泣くぞ。






◆◆◆






「やーい、オマエの娘でーべぞッ!」

「それどっちだい? 内容次第じゃ自爆になるよ?」

「ひまちゃ」

「んんっ……だ、そうだよ。日葵」

「御用改である!」

「やべ」


 突撃お昼の学院長室。ホットハープンのステーキ弁当をゆっくり堪能していた養父ことおじさんに、笑顔の腹パン飛び膝蹴りを食らわせたが、異能で避けられ失敗した。

 ついでに日葵のお仕置も食らって、蹲る羽目になった。

 痛いよぉ。こんなにボクを虐めるなんて、酷いよぉ……体育ん時の分も合わせて、いつか仕返してやるからなクソ女が。


「それで? 今日はどうしたんだい」

「構え」

「甘えん坊さんめ……ごめんね、いつも忙しくて。今夜も会合があって帰れそうにないんだ」

「議員さんと?」

「そう」


 円卓会のお偉いさんかな。それともまた別の政治家か。おじさんが関わってる議員っていうのは、だいたい真っ白だから安心できる。経歴総洗いしたもんね。父親が他者に利用されないようにするのは娘の務めだ。

 ……たまに黒彼岸におじさんの暗殺依頼来るの、本当にやめてほしい。


「ねぇ、迷わず来れたよ。褒めて」

「すごいねぇ、この調子で脱迷子目指そうね。いつまでも日葵の介護ありきで生活してちゃ、自立なんてもっての他だからね」

「自立なんてさせないよ」

「ひぇ」

「わぁ」


 養父と養子の方針が真反対すぎて困る。ここは真っ当を選ぶべきか、怠惰を選ぶべきか……介護って言われるのは癪だけど、否定はできないし。かといって日葵の世話に、うーん。悩む。悩ましい問題ですね。

 道楽に生きるなら後者なんだけど、いい歳した転生者がそこまでされるのは、ちょっと……

 この話ここでやめね?


 “都祁原時成”と書かれたプレートを起き上がり小法師の要領で弄り回す。無駄に長ったらしい名前しやがって……それならボクも都祁原にすべきではないだろうか。

 洞月と琴晴、あと燕祇のままなのは……なんでだっけ。聞いたことないね?

 ……別にいっか。生涯独身で死ぬって豪語してる人だ。苗字にこだわりなんてないんだろう。


「真宵ちゃん、そろそろ授業だよ。行こ?」

「いーよ、サボろうよ。学院長で拘束されてました〜ってあることないこと言お」

「それ私が社会的に死ぬやつ」

「叫ぶ準備はできてる」

「見た目が見た目だから誤解されたら最後なんだよねぇ。是非ともやめてほしい」

「誠意は寿司の形をしている」

「回るのでいいかい?」

「ケチッ!」

「ケチー!」

「うぬぬ」


 困るんなら痩せる努力しろや。魔王式ブートキャンプで脂肪燃やそか? 直火で無理にでも溶かしてやんよ。ボクを信じて任せるこった。

 回らない寿司を食べたいお年頃。食べたい食べたーい。

 次の休みに連れてってくれると約束を取り付けさせた。うんうん、娘を大事にするいいパパだ。癪だが父と認めてやってもいいぞ。

 なんて喜んでいると、痺れを切らした日葵に捕まった。なにをするッ、そのまま連れてくきか!?

 やだー! お勉強やだー! 楽しくないよーッ!


「行っくよー!」

「やーッ」

「気をつけるんだよー。それと真宵〜。一絆くんのことをいじめるのも、程々にするんだよー」


 みぎゃー! 見破られてるー! ボクいい子だからー!






◆◆◆






 時を少し遡り。

 ふらふらと教室の外に旅立った真宵と、迷子防止の為に追いかけて行った日葵を他所に、つけ麺弁当という新感覚お昼ご飯を啜っていた俺。

 真宵はだいぶぶつくさ愚痴ってたが……普通に美味いと思うんだが。確かに弁当と言ったら米とかパンとかが主流だけど、こういうのも偶には悪くないと思うぞ?

 ……本音を言えば、俺も麺より米の方が好きだけどな。

 養ってる身分なんだ。文句なんて言わねぇーよ。極稀に炸裂するが。


「おーい望橋、ちょっと良いか?」


 某料理レシピサービスを参考にした日葵がお試し感覚で作ってみたというつけ麺弁当を食べ終えたタイミングで、同級生となった男たちに声をかけられた。

 反応して顔を上げれば、どいつもこいつも体育で仲良くなったヤツらばかり。一緒に飯を食べてた寝住も、何故か訳あり顔であちら側についている。

 おい待て、どうした。わざわざ席離れる必要あったか? 訝しむも理由がわからない。


「なんだ?」

「ちーっとばかし聞きてぇんだけどよ」

「お、おう」


 肩を掴まれた。こいつは確か……瀬芭遥馬、だったか。三つ編みを頭頂部でやってる……マン・ブレイズっていう髪型のヤツだ。背丈もあるから威圧感がすごいが……

 なにか野蛮なことでもされるのかなーなんて思ったが、敵意は感じない。

 なんか、どっちかと言うと……嫉妬とかそういう感じ。

 何故だ。身に覚えがな───待て、そんなバナナ。俺の予測はよく外れる、ってことにならないか?

 内心戦々恐々していると、遥馬は現実を拒むかのような鬼気迫る顔で聞いてきた。


「お前、琴晴さんと洞月さんと同じ屋根の下にいる、ってマジなのか!?」

「ぇ、はっ? 嘘だろなんで知ってんだ」

「はい、新聞部」

「情報漏洩ッ」

「盛大に曝露されてっぞ。今日の朝刊だよ。なぁ、俺らが言いたいこと、わかるよな……?」

「わかりたくねぇなぁ」


 マジで書かれてて草。しかも写真付きかよ。

 なにがDead or Aliveだよ。誰だ手配書っぽく俺の写真切り取ったヤツ。肖像権で訴えるぞ。この世界の住人共はプライバシーってのを知らねぇのかよ。

 新聞部といい、あの数学教師といい……

 悶々とした苛立ちを胸の内に隠して、怨嗟の声を上げる嫉妬心の塊共を捌く。


 不可抗力なんだよッ、俺は悪くねぇんだって! 信じろ!


「羨ましいぞお前ぇぇ!!」

「ククッ、実に愉快。あの野蛮人共がなぁ……俺らなんて見向きもされないのに」

「キャラズレてるよ……気持ちはわかるけど」

「処す? 処す?」

「男女屋根の下なんて許されるわけないっぺ。そして皆、ここに火刑セットがある」

「採用」

「待て」


 主題となる2人がいないからか、寄って集る思春期共の羨望嫉妬は収まらない。

 わかる。俺も同じ立場だったらそういうこと言う。

 言われる立場になったから何も言えねぇけど。なんだか場違い感ある申し訳なさが湧いてくる。ごめんな、俺だけ美少女とお近付きになれて。そうだよな、日葵と真宵って贔屓目なしに美少女だもんな……男としては会話できれば御の字、お近付きになれたら最高みたいな、見た目だけは高嶺の花を体現してるヤツらなんだよな、あの2人って。

 マジの美少女なんだよな。

 その二人とお近付き所か、同じ屋根の下にいる俺。

 確かに羨ましいわ。俺ってもしかして幸せ者?

 ……いや、世界跳んじまってるから不幸せだわ。2人と異能部との出会いが九死に一生だっだだけだ。

 いや幸運だな?


 色んな人のお陰で今の俺がある。この言葉は今こうして実感できる。いや、できるようになった。本当に感謝しかないよ、異能部や大人の皆さんには。

 厄ネタがポロリポロリと出てくるけどさ。

 悲観せずに楽しい並行世界生活をさせてもらえるのは、彼女たちのお陰だ。

 恩返し、いつかちゃんとしなきゃだよな。大変だけど、恩を仇で返すのはな。


 ……それはそれとして、今のこの状況は困るけど。

 誰か助けて。


「ご、ごめん望橋くん、僕の力じゃ止められない……」

「寝住はどいてろ。おめー洞月に顔も名前も覚えられてるだろうが。仲間じゃねぇ……ッ!」

「「「そーだそーだ!!」」」

「こ、こっちにも飛び火した!? ご、ごめんね望橋くん、逃げるね!」

「おいッ」


 助け舟は吹き飛んだ。見るからに陽キャなヤツの群れに何食わぬ顔で混ざり、声撃の的になったらすぐに逃げれるところとか、普通にすごいよ、お前。

 見捨てるスピード早いけど。

 真宵が推薦するぐらいはある。後で置いてったの責めてやるからな。


 つーか、真宵ってそんな言われるぐらい他人に興味ないヤツなのか。

 知ってたけど。なんとなくわかってたけど。

 ……うん、俺処されても文句言えねぇ立場だな。絶対に負けねぇけど。百合に挟まる男云々と同等扱いされたら、もうなにもできないけど。

 絶許案件…………ま、まぁ俺は天才だ。なんとかなる。


「そういや望橋って……百合の間に挟まる男じゃね?」


 はい、終わったーー!!!!!!






◆◆◆






 喧騒に包まれた昼休みの時間は無慈悲に終わりを告げ、気怠げな五時間目の授業がやってくる。何故か荒れている教室が整頓されつつあるのを横目に、ボクと日葵は座席へ腰を下ろす。

 ……なんでも、おじさんのとこに遊びに行ってる間に、男子たちの乱闘があったんだとか。それも一絆くんvsって多勢に無勢且つ入学初日になにしてんだって話のヤツだ。教室の男子の大半が参加してたらしい。道理で怪我してるヤツばっかなわけだ。

 お遊びの範疇とはいえ、こうも素早く湿布とかガーゼで傷を隠せるのは、なんか慣れてるなとしか言えない。

 後でお然りを受けないといいね。多分密告されてるから無理だけど。


 ついでに言うと、これ、一絆くんが勝ったんだってさ。


 教室に入った時、ちょうど「俺の勝ち。なんで負けたか明日までに考えておけ」って満足気に勝ち誇ってたから。なんかドヤッてるのムカついて臀を蹴ったのはご愛嬌だ。

 その流れで日葵にも叱られるのは何時ものパターン。

 いやほんと、なにがあって喧嘩になった? 理由を聞くも知らんぷりされるんだよねぇ。


「言えねぇ」

「言えるわけないよな」

「黙秘権を行使する」

「なんのことだ?」


 揃いも揃って目を逸らすな。


 さて、まあそんな騒々しさはいつも通りなのだ。とりま横に置いてといて。


───5時限目、空想学の授業である。


「空想を学ぶに最も重要なのは、その根源たる“異世界”を知ることだ。故に、今日はかの空想の大地───エーテル界域について知見を深める授業を執り行う」


 空想学の第一人者、ボートライ・レフライ先生。陰湿な風貌とは裏腹に、生徒一人一人と真正面から向き合う……なーんて意外とちゃんとしてる情の厚い男だ。

 イケおじってやつ? まぁ知らんけど。

 そんなライライ先生の授業は結構濃密。講義と言っても謙遜ない、というかしろってレベルの代物である。

 なにせこの人、教授職を蹴ってまで教師の道を邁進した奇人なので。


 奇人しかいねぇな、ここの教師共。


「今から300年以上も昔、界域と称される前のエーテルは長きに渡る戦争で荒れていたのは、諸君らも知っての通りだろう。そう、“楽園戦争”だ。100年にも及んだ、世界の存亡を懸けた最終決戦には、幾つもの物語が存在する」


 成程、あの日の振り返りってわけね。まったく、先生も人が悪い。なんで当事者の前でその話するのさ。黒歴史を大衆の前で曝露するのと同じくらい悪質だぞ。

 学習する意味ないからさ、ボクと日葵は抜けていい?

 ダメ? ダメなの? ダメかー。視線で制された。察知力高すぎんだろせんせー。


───楽園戦争。勃発当初は魔王軍侵攻だなんて言われていたのに、いつの間にか何処か仰々しい、神秘さえ感じる名称で呼ばれ出した大戦。

 人類と魔族の最後の生存競争にして、世界の落命。

 最後にして最新の、そして最強の勇者が現れない限り、ビターエンドにすら辿り着けなかった失楽園。地球すらも巻き込んで、盛大に爆発した百年戦争だ。


 ……はい、ボクが引き金を引いたも同然の戦争ですね。


 むしゃくしゃしてやった。やってやった。反省の色とか無いけれど、申し訳なさはある。後悔なんてないけれど。あれが最善であったと、全てを知る当事者だから言える。

 勿論責任を取るつもりはない……ごめんて。

 文句あるならあの白いのに言ってよ。人様の身体で世界ぶち滅ぼしたカミサマにさ。


「戦争の発端は諸説あるが、一番有力とされるのは神々が魔王に手を出したから、というものだ。荒唐無稽に思える理由だが……これを真実とすることで説明のつく出来事が幾つもあることから、最有力候補として名を挙げている。去年の授業範囲内で習ったモノ……例えば“花園”や“首”がその証明となる」


 いや合ってます。バリバリに喧嘩売られましたねぇ……残念なことに、真実だ。

 今のボクと当時のボクはかなり違う。

 そもそも前々世の、ニンゲンだった時代の記憶途中までなかったからね。更には一人称“私”でやってたし。表情は無表情で固定されてたし。

 魔王なんかになってたけどさ、別にボクって悪いこと、全然してなかったんだよね。なーんも考えないで、魔界でボーッとしてたら、ボクを危険視した神々のクソ野郎共に意味不明な呪いをかけられたんだ。元より死ってのがほぼなかったのに、余計に死にづらくなったんだよねぇ。

 そのせいで自暴自棄になって、一応進めてた例の計画を起動させ、あいつら憎き神々を信仰する地上人類に戦争を吹っかけた。

 そんで最後は勇者と相討ちになって、死んだ。死ねた。

 うーん、なんというか。死ぬ為に生きた〜、てか、もう駆け抜けたって感じの人生だったよね。

 いや、死ぬ為に迷惑かけて死んだ、ってのが正しいか。


 んまぁ〜ね、今のボクは表情豊かなプリティガールッ、だけどね!!

 ある意味生き返って現世に舞い降りた、悪魔面天使さ!


 それはそれとして死にに逝くけど。


 ……何度でも弁明するけど。世界をぶっ壊〜すの決めた時点で、ニンゲン時代の記憶や感性等はなくなっていた。邪神のことは薄ら覚えてたけど。

 全てを思い出したのは戦争終盤。

 勇者リエラが活躍し始めた、そーゆーののタイミングでやっと“私”は“ボク”を思い出したのだ。

 致命的に遅すぎる……

 結果論になるけど、神々が呪いをかけてくるよりも前に思い出せていれば、また違う未来があったかもしれない。世界規模の戦争は確定事項だから変わんないけど……まぁそこは仕方ない。


 思い出した時は本当にびっくりした。なにせ魔王なのに前世ニンゲンですとは思わんじゃん? 常時死にかけの通院病弱女が魔王なんてよくやってるな、なーんて苦笑いした記憶は権能関係なく色濃く残っている。

 あと自分の所業にドン引き&絶望、詰み確信のウェイ。

 発狂寸前にまで陥ったのは、どうか許してほしい。

 ……はぁーほんと。世の中ってままならないものだね。生きるのが辛い。


「後は……そうだな。真相を知りたければ当時の生き証人である者たちに聴いた方が一番だろう。Dの仇白とかな。彼奴ならば誰よりも詳しいだろう」

「せんせーそれ、実験体にされませんか?」

「まぁ」


 そらそーよ。ライライ先生が空想学の、つまりエーテル世界について教鞭とれるぐらい優れてるからって、実際にあの場を生きた者たちには敵わない。

 特にドミナ……仇白悦なら尚のこと。

 でもなぁ。教えてって言っても、教えてくれるかどうかわかんないよ。あいつ例に漏れずに性格悪いし。高値とか吹っかけてくることはないだろうけど、被検体になれとは笑顔で言ってくると思うよ。多分。


 国内外問わず情報開示請求が絶えない有名人だからね、時間取れるかわかんないけど。ボクはほら、あれだ。友人価格でコンタクト早いだけだから。

 ただ、ドミィが有名になる度に、こいつ制御してた魔王すげぇってなるの、本当に不思議でしかない。いやマジでそこで評価上がんのなんなの?

 武勇伝風に機密もペラペラ喋ってるから、魔王の印象が徐々に変わってんのなんなの?

 ……うん、まぁ。楽しめてるなら、それでいっか。


「なんで悦に聴くんだ……?」

「アイツ転生体。元魔王軍の幹部。なんなら側近」

「……………嘘だろ?」

「周知の事実」

「マジかよ」


 衝撃の真実〜ッて感じかな。一絆くんの中ではだけど。悪いけどね、キミの隣と前にいる2人は、は揃いも揃って転生体だぞ。

 それをキミが知ることは金輪際ありえないがなぁ!


 ていうか、仮にバラす未来があるとして……や、そんなタイミングないな。どんな奇跡だっつーの。ボクがボクと知れるヤツなんていない。

 一絆くんなら特に。その真実に辿り着くことはない。

 バレたらバレたでボクの活動に支障が出るだけなんだ。メリットもないしね。知ってる人は最期まで極僅かな方がいい。


 今のところ、エーテル関係者以外でボクと日葵の正体を認知してんのは……おじさんと、異能で看破してきたこのライライ先生ぐらいか。

 おっさんしかいねぇじゃん。


「───ざっとした経緯は以上の通りだ。かの戦における勇者は七人もいたが、一人でも欠けていれば戦況は大きく変わっていた筈だ。より多くの被害が、大きな絶望が……巡り巡って、今を生きる我々が生まれていない未来さえもあったかもしれん。勇者リエラの存在もまた、魔王討伐や戦争終結の結果以上の、我々が思う以上の意味があった」


 うん、勇者×7もいらない。エルフとドワーフの古株共がいつまでも上にいるから5人にならないんだ。勇者の中に人外混ざってるよ。公的には人類の仲間内だけど。

 ……んまぁ、ボクが対面したことある勇者、リエラだけなんですけどね。

 正確には名乗られた、だけど。

 もしかしたら知らないうちに遭遇接敵してたのかも……覚えてないなんてことはないから、本当に意識の外にいたヤツらなんだと思う。


 ……おさらいがてらどんな勇者がいたか挙げとくか。


 リベライト王国生まれの村娘、“明空(あけぞら)”。ヴェメドラゴの革命家、“叛逆(はんぎゃく)”。星の塔にある天文台の観測者、“翠星(すいせい)”。新・教皇領の異端審問官、“神仰(しんこう)”。山一つ先の獲物を穿つ弓の英雄、“天眼(てんがん)”。大地を操る鍛治職人、“戦鎚(せんつい)”。

 そして流浪の民であり、謎に満ちた封印術師、“黄昏(たそがれ)”。

 うん、記録してるのはこんなもんかな。確かこれ。全て彼ら彼女らの偉業や特徴から付けられた勇者の二つ名だ。

 日葵ことリエラの場合、ボクが嫌がらせで奪った青空を取り返したから“明空”って勲章代わりの異名を拝命した。

 あの時は本当に焦ったよ。なにせ不壊の空だぜ、あれ。

 四天王最強のあいつ以外に壊せるヤツがいるだなんて、思ってもいなかった。


 んまぁとにかく、勇者が七人もいたからボクら魔王軍は負けたってわけ。あいつら尽く計画邪魔しに来たからね。報告書に毎回名前載ってたし。

 いや、世界壊せたから実質ボクらの勝ちになるのか?

 劣勢になったのは確かだけど、トドメはリエラ。明空が最大の脅威だったからなぁ。でも、悪役は負けるっていう世界の真理みたいなのが働いたのかね。

 勿論、もし次があったら……負けるつもりはないけど。勝てない理由もないしね。


「へぇ〜……」


 そんなライライ先生の説明8割の授業を人一倍真面目に取り組んでいるのが一絆くん。だいぶ熱中して、メモまでちゃんとしている。

 普通の地球出身からすれば、授業中にファンタジーとかゲームの話をされているようなものだ。ボクも最初はそう思ったし、今も思ってる。

 伝記とか歴史とか好きそうだよね、一絆くんって。


 ……後で見繕ってあげるか。


「……む、……時間か。では、以上をもって本日の授業は終わりとする。課題はない。それと諸君らは知っていると思うが、先日の空想騒ぎにより、明日まではこの時間帯で学校は強制下校となる。部活や大会練習、そして異能部は除外となるな。ではお前たち、速やかに下校するように」

「へーいっ」

「らじゃ」

「にによんいこー。あそこの新作スムージー飲みたい!」

「贅沢バナナが至高」

「まよちんが絶賛してるんだから相当でしょ。バレる前に買い行こ」

「聞こえてるが」

「幻聴ー!」

「難聴ー!」

「悪霊退散ー!」

「おい」


 ボクのお陰で六時間目はない。感謝したまえ雑魚ども。英語なんてやりたくなかったから幸いだ。仕事増えたからいいことばっかじゃないんだけど。

 ……今度異能部の皆にスイーツ奢ろ。にによんのヤツ。


 帰りのホームルームも程々に、ライライ先生や他の生徒たちは教室を出ていく。一絆くんと仲良くなった寝住くんやその他諸々も挨拶を返して帰っていく。

 それを横目に、ボクと日葵は一絆くんを両側から捕獲。


「よ〜し、じゃ、異能部行こっか、かーくん!」

「今日から部員だぞ。がんばれ───ここがキミの墓場。歓迎するよ、このボクがね」

「物騒だなおい」


 キミの異能発現はボクのお陰と言っても過言じゃない。それはわかるね?


「そういやかーくん、どうだった? 初めての授業」

「ん? おー……楽しかったぜ」

「えーホントに?」

「おう。新鮮味もあったし、内心色々と楽しめたからな。先生たちのアレなとこが目立つけど」

「それは目を瞑ろっか」

「……ま、それなら良かった! 馴染めそうになかったら、通わせない未来もあったしねっ!」

「そこまでしなくていいぞ」

「優しいね」


 保護観察の行き過ぎで監禁に手が届きそうだねぇ。でもそっちはそっちで楽しかったかもね。新鮮味はなかったと思うけど。

 2人の会話につられて笑顔になる。

 うん、良かった良かった。

 どうやら一絆くんも無事学院生活を送れそうだ。なんか安心した。


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