01-02:異能部の死にたがガール
本作はスマホ推奨作品です。
評価・感想お待ちしております。私、乞食なので……キャラにこんなことして欲しいなどでも構いません。本編に合わせて描写させていただきます。
是非是非よろしくお願い致します!
洞月真宵は死ぬのが好きだ。
否、死にに行くのが───自分が自分の意思で、これであれでそれで死んでみたいと思うことが、それらを試しに実行するのが好きだ。
「撲殺は当たり所で差ができる。刺殺は確実。絞殺は結構コスパがいい。服毒は楽だけど後遺症だけ残って謎の生還パターンもある。銃弾はジャムんなきゃおっけー。殴殺は相手がいなきゃ成立しない。いや撲殺もか。ぶっちゃけ、焼死でも溺死でも爆死でもいいんだよ。斬撃感電落下呪殺圧迫出血死。知ってる言葉並べても溢れるほど、こんなに死に方ってのはあるんだよ。すごいネ!」
「うんうん。それで? なにが言いたいの?」
「まぁ一通り試して来たけど、成功したことないんだよねふざけてんのか?」
惰性で続ける逃避行も、今では立派な趣味の一つ。
自ら公言する通り、真宵はふとした瞬間自死を選択するぐらいには自傷に躊躇いがない。死ねそうな場所があればここだ!と叫んで飛び込んでいく……どうしようもない、重度の死にたがり。
今現在、その趣味活動は失敗に終わっているが。
東に異能犯罪者───異能を用いて大小の罪を犯す生き汚い愚かな人間、つまり真宵の同族───の小競り合いがあれば笑顔で突撃。西に人の味を覚えた化け物がいれば、ボクをお食べよと呑気な顔して皿の上に乗り込んで。南に非合法の治験のお誘いがあれば、薬全てを飲み干す勢いでエントリー。北に某マフィア主催のロシアンルーレットが開催されれば、弾倉いっぱい夢いっぱいの大型拳銃二丁を両手持ちして引き金を引く。
常人ならば十回は死ねる。死ねる筈、なのだが……この死にたがりが望み通りに死ねたことなど一度もない。
全て、全て生還に成功───つまり、自殺の失敗を毎回繰り返している。
「まーぜてっ! ───いやこんなのに殺されてやられる程ボクの命軽くないな???」
「おいでおいで〜、ッ、痛いじゃんか死ね……あっ」
「不味ッ」
「よりにもよってジャムるってまー??? ダイスロールの女神に嫌われてんのかな自分」
「死ねねー!!」
肉体強度、再生能力、異能出力───その全てにおいて理の外にいる、まさしく人外の身体は、あらゆる死を宿主から遠ざける。
そもそも並の犯罪者に殺される程やわではなく。
人喰いの化け物は幾ら牙を立てようと、爪で引っ掻いて殺そうにも深手以上致命傷未満の弱い傷しか付けれない。なんなら痛みの反射で衝動的に殺し返してまう。毒は一時肉体を蝕めても、すぐに順応して気づいた時には毒耐性を獲得する始末。
運任せのゲームでは不運が本領発揮して必ず生還。
とことん死ねない。本人の意思など関係ない。どうにも運命とやらは真宵をただで死なせるつもりがないらしい。
死ねそうな場所に無計画で突っ込んだ結果、何の成果も得られずただ帰宅するばかり。勿論帰宅するにも一苦労。なにせ迷子なので。
死にたいのに死ねない女、それが洞月真宵なのだ。
「やだやだやーだ! やだーッ! ボクは死にたいの! もう死にたいんだよ! だからだから───邪魔ァすんじゃねェクソガキがァァァァァァ!!!」
「無☆理デェス!!」
「あああああああああやだああああああ毒薬混ぜに混ぜた特濃ドリンクがああああ!!?」
「そんな物騒なの作んないのッ!」
「調合は得意」
「使い道変えて」
「やーッ!!」
───ちなみに、自殺失敗のうちの八割は日葵がせっせと妨害しているからだったりする。
そんな真宵にも、唯一これだけはイヤだと忌避する死に方がある。
それは肉体酷使に定評のある日本ならではの死因。
異能部と掃除屋……他にも幾つかのアルバイト()を常時掛け持ちしている真宵にも、いつか訪れるかもしれない、頑張りすぎた果てに待ち受ける末路。
「過労死はダメ。なんか負けた気分になる」
「なにそのポリシー」
「……えっ、これってポリシー枠なん? 耳障りのいい言葉並べてんちゃうぞ?」
「えへへ」
「はぁ?」
日葵のお陰で健康を保てていることを真宵は心から感謝すべきである。
◆◆◆
新日本アルカナ皇国───時代を経ても、この国は未だ過労死大国という汚名を払拭することができず、その死は我が物顔で死因ランキングに誇らしげにいる。もう特質と言っても過言じゃないな。
本質って言うべきかな? 変わんないもんなんだね。
死にたいのは本望なんだけど、この死に方はちょっと、ちょっとなぁ……ってのが正直なところ。
あれかな、望まずともやってくるからかな。理由はまだわかりかねます。
閑話休題。ボクがワンチャン過労死する可能性など今は横に置いておく。
「やーっとついたね部室棟」
「はよ行こ」
「階段上んないよ」
「冗談だよ」
致命的なmissを連発して無駄に長引いたが、今日も無事異能部の部室棟───わざわざ異能部の為だけに造られた建物と校舎を繋ぐ渡り廊下を歩いて、日葵に手を引かれて進んでいく。
道中同級生の部員から片や遅刻と片やサボりをそれぞれ報告されたがきっと気の所為だ。
んー、うん、そうだね。異能部の話でもしよっか。
第3新日本都市───通称:魔都アルカナを中心に治安維持活動する部活ってのは、もう知っての通りだと思うんだけど……今の部員数、たったの8人なんだよね。
そもそも入部する人数が少ないってのと、もう三年生が軒並み就職したから仕方のない人数なんだけども。
この人数でそれもうち3人がサポート特化っていう現状なんだけど……きっとなんとかなるよね!
新入生募集中! 後輩待ってるよ! ボク楽したいんだ!
異能部は三年から部長と副部長を一人ずつ選んで、その下にほかの部員が追従する。外部依頼の任務も多いけど、それをさばくのは役職持ちの仕事だ。主に副部長のね。
空間の裂け目を通ってきた空想を狩ったり、上位組織の異能特務局ってのから犯罪者の捜索及び逮捕に協力したりなど、多岐にわたる活動をする。
するのだけど、なにせ仕事量が多い。
あとチームで分けて分担作業するのがルーティンだね。ボクはだいたい日葵とバディ組むよ。戦力過多だって毎回言われるけど。好き勝手に能力を使うには、気心の知れた相手と一緒の方がいいでしょ? 別にいいじゃんね?
なにかあったらすぐ応援に駆けつけてるんだし。わぁ、ボクってばやさしー。
つーか、アルカナが魔境なんだよ。特に首都が。なんで高頻度で空想がやってくるんですかね。それに至るとこに犯罪者が潜んでやがる……どっちかっていうと空想よりも裏社会案件が多い気がするのはきっと気の所為じゃない。
魔都は造られた経緯が経緯だからか犯罪者が多いんだ。
まず魔都の周りには、例の魔法震災で滅んで海に沈んだ旧東京二十三区と、200年ぐらい前にあった空想災害っていう異世界由来の現象で打ち捨てられた第2都市が未だに放置されたままでして。そんな廃墟が残っていれば、もうフナムシの如く犯罪者が集まる集まる。
そんでもって首都内部は《門》が開かないように特別な結界が張られてて、なんやかんや色々作用して廃墟の方に《門》が開くようになってるから、敵はそこに降り立つ。
魑魅魍魎百鬼夜行だ。犯罪者と魔物の坩堝である。
んでんで、異能部は首都内外を頑張って捜索して必死に対処しないといけないってわけ。
今の魔法チックな移動手段がなけりゃ、異能部はただのガキのお遊戯で終わって、今頃アルカナは悪の帝国(笑)に堕ちてただろうね……
ちなみに、ボクの入部理由は学院長の推薦だ。超絶断りたかったけど、言えるわけがなかったよね。普段お世話になってるからさ、文句垂れ流す口を噤むしかなかった。
相手にもよるけど、信頼には応えたい……じゃん?
「失礼しまーす! 百合コンビ来ましたー!」
「マジで頭狂ってんなこのカス」
「お、思っても言っちゃいけないこと、あると思います。はい……」
本音だもん。
さてさて、そんなわけでやって来たのは二階の談話室。ロッカーに鞄を投げ入れて、3人がけのソファを占領してくつろぐ。寝転んで足を投げ出せば、歩いて疲れた身体が少しは休まった気になれる。
……ねぇ、なんで日葵はナチュラルに上乗ってくんの? 体勢変えさせて無理矢理座らせようとするのもやめてくれない? これじゃあ寝転がれないじゃん……
いや膝をポンポン叩いて出迎えても無意味だから。
乗らないから。膝枕の誘惑やめろ。オマエの膝にボクの頭を乗っけるなんて未来、少なくともここでは絶ッッ対に起こらないから。
いつでもどこでもウェルカム状態でイチャイチャ求める姿勢、本当どうかしてると思う。なにがそこまでこいつを駆り立てるんだ。
不思議だ。脳みそ解剖したら理解るかな? 依頼する? 依頼してみちゃう?
「ねぇ今なんか危ないこと考えたでしょ!? 寒気がこう、ぞぞぞ〜って来たんだけど!!」
「別に。溶鉱炉に沈むシーンやって欲しいだけだよ」
「死ねと!?」
まずくっつく必要ないだろうが。マジで離れろ発情期。
「───はは、おはよう二人とも。今日もアツアツで私は安心しているよ」
「どこに安心する要素が???」
「れーか先輩、もうお昼過ぎてます。おはようの時間帯はとうの昔に過ぎてます!」
「む。確かに……また影響を受けてしまったか」
自然に会話をぶった切って現れたのは、大和撫子という美辞麗句が似合いそうな青色の髪をもつ三年生。王来山の制服に、普通ならばミスマッチになるであろう長身の刀を腰に差した……背の高い気品溢れる美女。
名を神室玲華。この異能部の部長、トップである。
編み込まれた青髪の一束を揺らして、苦笑と共に部長は此方へ近付いてくる。
「……はっ! 今、ぶちょーにアツアツって言われた!? つまり部活公認ってこと!? やったね、遂に認可下りたよ真宵ちゃん!」
「訴訟も辞さない」
「頼むから私を巻き込まないでくれ。いや本当に。全く、洞月くん相手だと……正直すぎると言うか、正当性確保に油断がないな、琴晴くんは」
「えへへ」
「褒められてないよ」
「えー?」
元宿敵の親友兼幼馴染が通常運転すぎて困る。
喜びの奇声を声高らかに上げて、ボクの右腕をブンブン縦振りしないでほしい。切に。
それと部長? 諦めの境地に達しないで? 怒るよ? ボクこんなに嫌がってるんだよ?
「ぶちょー、この変態をどうにかしてください」
「悪いがそれは無理な相談だな。力不足だ」
「そうだよ。もう諦めよう? 全てを……私を受け入れてよ真宵ちゃん」
「クソが」
何様目線なんだ貴様。ボクの肩を軽くポンと叩いて頷く日葵に、殺気を込めた睨みを効かせて牽制する。そう易々とボクがなびくと思うな。
その眉間に“影”ぶち込んでやろうか。
ちょーっと冷や汗垂らしてんじゃねぇーよ。今更危機感抱いてんじゃねぇーよ。部長もやれやれって雰囲気で首を振るな手を挙げるな。ブチギレるぞ。
「ん、んん……そう言えば、他の二年生はどうしたんだ? 来ていないみたいだが」
「チッ、露骨な話題転換め……」
「ははは。で、どうなんだ?」
「雫ちゃんは委員長の仕事で遅れるそうです」
「あのメスは男性恐怖症発病で早退しました」
「……琴晴くん」
「入院中のおねーさんのお見舞いらしいです」
「成程。だが、部長である私に一切の連絡がないのは何故なんだろうな?」
「「部長だからでは?」」
「おっと?」
二年生の部員はボクを含めて四人。
影とかを操って躊躇いなく殺傷するボクこと洞月真宵。歌と光を操る万能型の琴晴日葵。生きる伝説してる部長に近付きたい一心の妹ちゃん、あと、メスみたいな見た目のひ弱なチビ助。
名前紹介は後で。当人らが来たときにしよう。
……あ、もう二年生か。あの日々が懐かしい。まだまだ二人とも弱かったのに……今じゃただの雑魚だなんて口が裂けても言えないや。
今年の肉h……げふんげふん、部員はまだかなぁ。早く入部期間来ないかな。
「はて、私になにか不備でもあるのか……ん、まぁいい。疑問は置いておこう。二人とも、廻が来るまでは暫く暇になるだろうからな。好きに過ごしていなさい」
「はーい! よし、真宵ちゃん!」
「それ以上近付いたら泣くよ」
「舐めっ……拭いてあげるから安心して!」
「キッモ」
すごい、言動全てから気持ち悪さが滲み出てる。
口から一瞬だけ飛び出た舌の滑らかな動きをボクは一生忘れることはないだろう。今更ハンカチ取り出して必死に取り繕うとしても無駄だからな。なにもかもが遅い。
擦り寄るな。甘えてんじゃねーぞ。
ったく、なんで勇者ともあろうヤツが……こんな存在が危険物みたいなのになったんだ。
拗らせ方間違えてんだろ。そこらの犯罪者と同列に語る必要性あるぞ?
「お茶だぞ」
「あざー」
「ありがとうございまーす!」
で、わざわざ部長がお茶を淹れてくれたのでお礼を軽く済ませてから一口。ん、これ冷たくて美味しい……好きな風味のお茶だ。どこの茶葉だろ。
……これ部長がやる仕事じゃないな? 給仕はこの変態に任せればいいのに。
自分の机に戻って事務仕事を始めた部長を見ながらそう思った。自分でやれ? いややらないよ。もしやるなら死ぬギリギリまで放置するのがボクだ。理由はない。
ただたんに怠惰な女ではない。仕事の振り分けが上手い女なのだよボクは。ボクが動かなければ職にありつけない人が働くことができる。素晴らしい経済循環じゃないか。
……そんなことより、マジでキモイなこの阿婆擦れ……さっきから鼻息が荒い。
「スーハースーハー……!!」
「……ホントにキモイよ、ひまちゃん」
「……自重するね」
「うん。頑張れ?」
よく考えてみれば、キミの自制心って最初っから無いと同義だったよね。昔から壊れてた。そんでボクの予想だと30分ももたないと思う。過去の事例からも考えて。
だって今回も5分すら我慢できてないし。悪党の一人が言うことじゃないけど、ホントに困っちゃうよね。
もっと耐えろや。忍耐の精神はどうした。
んまぁこいつとは長い付き合いだ。変態の扱いにはもう慣れている。明言はしないが、それなりにある胸に日葵の顔を埋めさせ、頭を撫でて思考停止させる。
これで暫くは静かになる、筈。ボクの安寧の為にもこの阿呆には黙っててもらう。
……あれそういやこの女、いつの間にかボクの胸の中にいたな?
「──────!」
「─。───」
「─────!!!」
無意識に抱き締め返して、いた……? 精神操作を受けた気分だ。抱き着かれたから抱き締めた、のか? そんな事実この世にありません。
なんて現実逃避していたら、ボクらがいる談話室の扉の向こう側から、なにかを言い争う二つの声を耳が捉えた。
……いや、これ片方が片方を怒ってる雰囲気だな?
ってことは……
取り敢えずボクは、答え合わせをするように怒りの声が漏れ出る扉の方に目を向けた。
さて、扉を勢いよく開けて入って来たのは───…
「───カラス狩りは別にいい。もう何も言わん。だが、だかな。中庭の木ごと容赦なく斬り落とすのは絶ッッ対にやめろ金輪際やめろ迷惑なんだわかったな!?」
「ん。だから善処すると言っている」
「善処できてないから怒ってるんだろうが!!」
「ん。うるさい。メガネ触る」
「触らせるかァ! ッ、取るな! 指紋をつけるな!! や、やめろォ!!!」
ほらね、やっぱり。中庭で害鳥駆除に勤しんでた先輩とそれを遠目に監視していた副部長の来訪だ。まーた木ごと全部斬り落としたのか……相変わらずみたいだね。
そろそろ寄り付かなくなるんじゃない? カラスって結構知能高いし。学院に行ったら死ぬって覚えそう。
……ノンブレス説教する副部長も大変だな。相変わらず苦労人すぎる。
「こんにちは先輩方。またですか?」
「む、洞月か……あぁその通りだ。この阿呆、またカラスごと針葉樹を斬ってな……お陰で監視役の俺が大目玉だ。やったのはこいつなのに、何故俺が怒られるんだ?」
「ご愁傷様ですね、はい」
「ん。おはよう真宵───私のことも抱き締めて」
「いやです」
代わり扱いなのは言葉が通じるからじゃないですかね。なんて本音を飲み込んで、不憫な先輩と不快な変な先輩を談話室に迎え入れる。
何故抱き締めてもらえると思ったのか。
手垢で汚された眼鏡を力強めに吹いている、緑の地毛をオールバックにした可哀想な先輩が、異能部の副部長こと星見廻。なんで抱擁を拒絶されたのか本気でわかってないシルバーアッシュの不思議ちゃんは、八十谷弥勒という。どちらも三年の先輩で、二人揃って高身長の細身。
お互いどうにも相性の悪い二人なんだよねぇ……
生真面目すぎて厳しい廻先輩と、我が道をゆく猪突猛進暴走特急戦車の弥勒先輩。反りが合うわけがない。加えてボクとの相性も悪いのがこの二人。なにせこちとら部室で喫煙飲酒を堂々とする女だぞ。廻先輩がキレるのは自明の理だ。
弥勒先輩? 付き合ったら最後、このボクがただ理不尽に引き摺り回されて酷い目に遭うから、あんまり好きな相手じゃない。今だってボクから日葵を引き剥がして、場所を寄越せと無言で訴えかけてるし。
……ボクが彼女から好意を持たれている理由は、本当にわからない。わかりたくもないが。
あとね弥勒先輩、時間帯的にはもう“こんにちは”の挨拶なんだよね。四六時中“おはよう”で統一してるせいで玲華先輩までおはようって言い出す始末なんだよ。あーもう、これがしっちゃかめっちゃかってヤツなんだね。わかる?
午前午後とかの時間概念って知ってます?
知らないんだろうなぁ……煽りとか関係なく日時に興味無さそうっていうか把握してなさそうなんだよねこの人。なんでカレンダーが去年の六月で止まってんのかな。今は梅雨じゃないでしょ。桜咲いてるよ今。外見て。
……言っても無駄か。この女はそういうとこある。ここ嫌いです。
「いーッ!」
「ん、起きろ。どけ」
「ボクで争うな」
人が考えてるときにうるさいなマジで。
人の胸元でくぐもった奇声をあげる日葵には拳骨を一つプレゼントする。なんかくすぐったい。そしてどけ。また入れ替わろうとするな。日葵は占領するな。
……おい、服の中は領土侵犯だろ。消し飛ばすよ。
「お疲れ様、廻。任せっきりで済まないな……そうだな、次は私が弥勒に付き添うよ」
「構わん、と言いたい所だが……是非そうしてくれ」
「ん。心外」
日葵の手をへし折っているうちに、玲華先輩が廻先輩に会話を振っていた。弥勒先輩も二人の会話に興味を持ってくれたのかその輪に飛び込んでいく。
同級生で仲が良くてなにより。
そして離れてくれてなにより。ほ、無意味な攻防戦からようやく開放されたぜ……
「悪いな。弥勒の腕の良さは皆が知っているが……誰かが見てないと危ないだろう? 万が一誰かに当たったら大事だからなぁ……こら、ちゃんと耳を貸しなさい」
「ん。耳は私のモノ」
「違うそうじゃない」
「はぁ……落ち着きを持てと俺たちは言ってるんだ」
「ん。玲華はいい人間。そして廻はわるい人間……だから大丈夫。安心して」
「なにが?」
「なにを?」
悪い人間判定ゆるくなーい? 基準値が自己中すぎない? 返答にも脈絡無さすぎでしょ。不思議だ。言っちゃ悪いがこんなんでも副部長と一緒になって部長を支えれてるっていう衝撃は……控えめに言っても、タチの悪い冗談にしか聞こえないのは、もう仕方ないよね。
あ、本当はもう一人三年いるけど……あの人だけは除外案件かな? まず今日来てないしサボってるし。
弥勒先輩より社不でいい加減なんだよねあの先輩。
引きこもりめ。あーあ、今日はいもしない叔父の葬儀に行ってくるってRINEで呟いてる。何回叔父殺してんの?
まったく……んまぁボクも人のこと言えないけど。
そんないない先輩は三年生の中で唯一の低身長で、常に高身長に囲まれているせいか、いつも居心地悪そうに顔を伏せている。愛と敬意と真心と侮蔑の意を込めて、ボクは陰キャ喪女のコミュ障ヒキニートと快く呼ばせてもらっている。
オタクは好きだけどさぁ……仕事サボんのはよくないと思うんだよね。
……あれ、弥勒先輩が戻ってきた。おかえり帰って回れ180度して。
「ん。真宵もカラス狩り、しよ?」
「しません」
なんでだ。最早恒例だけど、そうやって頻繁にカラスのお誘いすんの本当にやめてほしい。カラス狩りなんてボクやりたくないよ。狩猟権持ってないし。
……この人も持ってないよな? 考えるのやめよう。
はぁ〜、なんでこんなに懐かれてるんだのボクは。特に際立って関わったことなんてないんだけど。好感度が高い相手にしかカラス狩り誘わない辺り、先輩の些細な好悪が垣間見える。ちなみに部長とか日葵とかも誘われてる。
廻先輩? あの人は、ほら。いじられキャラだから。
そろそろ憤死すんじゃないかな。お目付け役で毎回自主見学しては血管プッツンしてるんだもん。
「ん。カラスは全滅すべき。いやさせる」
「宣言しちゃったよこの人」
「むにゃむにゃ……高望みはよくないにゃぁ………諦めて案山子にでもなるにゃぁ……zzz」
「語尾キモ───あっあっ先輩待って待ってやめ止まってお願いだから止まれェ!!」
「ん。真宵どいて。そいつ斬れない」
「無理ぃ!!」
寝ながら喧嘩売んなよなぁ……それにしても、この人のカラスへの殺意の根源ってなんなんだろうね? あれかな、親でも殺されたのかな? ……まさかね。
そんなことよりボクの上で暴れるのやめろッ! この場で鏖殺パーティー始めんぞこら!!
弥勒先輩のシルバーアッシュの綺麗な長髪を軽く撫でて落ち着かせて、胸の中で寝たフリをする日葵の茶髪を強く引っ張っ───あれこいつマジで寝てない?
驚愕だわ。この状態で寝れるってマ? どいてくれ?
落ち着かせた凶暴犬のこれ以上の対処はもう諦めよう。疲れる。大人しく頭を包まれてるさ。いやホント、なんで抱き締められてるんだろうねボク。
切に離れて欲しい……あっあっこれすごい。おっぱいがおっぱいしてる……羨ま死。
「あぁ、そうだ。玲華、お前の妹から予定していた時間をオーバーしても事が進まないから、先に初めてほしいとの言伝を貰ってきたんだが」
「あぁ、わかっ……なぜ私に連絡が来ない?」
「……おまえら姉妹の問題だ。俺は知らん」
「いや、お前も介入しろ。はっきり言って私には何が問題なのか検討もつかんのだ……RINEで伝えてくれてもいいと思うんだが」
「そもそも交換してるのか?」
「何故していないと思った?」
いやそれ、どっちかというと雫ちゃんの問題だから……部長が気にしなくても良いと思います。
だからって廻先輩に連絡するのも変だけどね。
姉妹で拗らせてんじゃねぇーよ。これだからニンゲンはめんどくさい。
で? そんなことより───今日の部活なにするん? 活動内容ははなんじゃらほい。
内容次第によってはサボるが。基礎練はしないゾ。
《門》の“界放”がなければ、緊急出現がなければ、特になんともない平和な一日になると思うけど。
それだと普通にトレーニングとか体作りになるのかぁ。なら別に必要ないな。ボクと日葵に限っては……最初から身体ができあがってるからなぁ。
帰るか?
「……く、仕方あるまい。雫とは後で話し合うとしよう。取り敢えず活動を始めるぞ」
「会話できるかどうかだがな」
「なんだと……?」
「そんなことより……枢屋はどうした。どこいった。また引きこもってるのか?」
「新作の発売日らしくてな。朝から見かけていない」
「……ゴミめ」
「ん。真宵、日葵起こす?」
「あと5000年は寝させてあげましょう。そんでそのまま永眠させてやります」
「むにゃむにゃ……」
あぁもう。一度会話が始まると止まらない。ニンゲンの悪いところだよ。でも家族問題に困惑していた玲華先輩は一先ずそれを棚に上げて本題に入ってくれるようだ。
もう一人のオタ活に励む喪女先輩にブチ切れた廻先輩も頭を振り、居住まいを正して真面目な顔に。寝てる日葵と抱き着いたままの弥勒先輩はなんとか剥がしてどかす。
……いや起きろよ。うん、おはよう。始まるよ。
「───さて、無駄話もそこそこに。今日の活動も元気にやっていこうか!」