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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
幕間

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21/51

01→02:無垢なる悪意


「……懐かしい、夢だな」


 夕方17時。

 無断で添い寝してる変態を押し退けて目覚めたボクは、ぐーっと背伸びをして凝り固まった身体を鳴らす。ん……夢を見たのは久しぶりだ。内容は前世の濃厚な……後半はだいぶ虚無ってるのだったけど。

 なんで見たんだろ。直近で想起するような話題とかってあったかな。


 ……だいぶ暗くなってきた。寝過ぎちゃったな。

 夜寝れるか心配、に……熟睡選手権一位経験者なら多分大丈夫か。


「むにゃ……」

「……」


 一々可愛いなこいつ……あれ、そういやボク、こいつに膝枕されてたんだっけ。罵倒とか文句言える立場じゃないみたいだね。困ったなぁ。衝動的に蹴り出せない。

 やっぱ精神的不調はよくない。心ケアしなきゃ。

 スパとか行こーかな。有り金叩いて貸切りにして寛ぐ、あっ、蜘蛛が仕切ってる遊廓の按摩とかどうだろ。空気が悪そうだけど、下手なマッサージ店よりは安心できる。

 ……いや、手癖酷そうだからやめとこ。アイツのことだ成人ビデオに無断出演させそうだもんなぁ。やめやめ。

 そうなると安心して寛げるの、が……ないんだよなぁ。


 ……風に当たってこよ。気分が悪い。精神的によくない夢を見たからかな。


「煙草……」


 あとついでに吸お。我慢できない。懐から愛用しているタバコケースを取り出して、お気にのライターも持って窓からバルコニーに出る。

 ……ぇ、未成年喫煙? いやいや中身7000ちゃいだから大丈夫。


 萌え着火。うーん、悪くない匂い。こんぐらいが好き。


「ふぅー──…」


 生まれ変わってから、や、生まれ変わってからも色々と面倒なことに巻き込まれてるのは……神が大好きそうな、運命とか形式美とか、そういったもので片付けられそうな理由に過ぎない。そう思いたい。

 もう諦めた。

 ボクはそういう星の下に生まれて、死んでも生き返って邪神の操り人形であり、舞台の上を踊る役者でしかない。

 それを悟ってからは、流れに身を任せて生きるのがもうベストだと気付いた。自分の意見も言うけど、相手の言に委ねて動けば、気楽に生きれるもんだと知れた。

 受動的な生き方を受け入れ、積極的に死を求める。

 それがボクだ。洞月真宵という欠完全落したニンゲン。ニンゲンの成り損ない。


 愛用する煙草の銘柄、“クローズin月羽”のかわいらしい文字列を指でなぞって煙を嗜む。自分好みに調整を重ねた特注品。第二団の同僚に教えてもらったのが始まり。

 わるーい大人の影響、だいぶ受けてんな……うん、まぁこれも変化だ。いつの日かのように、魔王がこんな非常識犯罪者に零落れるみたいに、人は変わるもんだ。

 誰かの影響を受けて己の生き方を変える生き物。それがニンゲンだ。


「死にてぇ……今日はなにを試そっかな」


 そこら辺にいるモブ操って、絞殺してもらおうか。

 首絞めってキツいんだよ。今まで色々な方法で死に方を試してきたからわかる。苦しくて、涙が出て、怖くなって震えてしまう。呼吸ができなくなって、意識が朦朧と掻き消えていくのは最早慣れたモノだ。

 とはいえ痛いのはイヤだ。苦しいのもイヤだ。

 でも、それが積み重なった罪や咎を赦してくれる唯一の救いだとボクは思ってる。

 救われるわけなんてないから、ただの自己満足だけど。


 ……でも、赤の他人を殺人犯に仕立てあげるのは、よくないよなぁ。


「どうしよーもないね、ボク。飲酒に喫煙、無免許運転、殺人に窃盗、不法侵入も公務執行妨害も、テロも人攫いもやってるとか、ねぇ……前半と後半の温度差キツイな」


 煙草の灰を缶ビールの即席灰皿に落とす。部屋の棚まで取りに行けばすぐだけど、生憎そこまで動かす労力が……ちょっとね。

 あー、うま。こういう身体をダメにするのに限って人生プラスするんだよね。金銭的にはマイナスだけど、ボクに限ってはそれもないし。

 表と裏の仕事で金なら山程あるし……出費もかなり抑えてるから、資金難に陥ることもそうそうないし。お陰様でマネーロンダリングも手馴れたものだ。

 ……なんだろ、生きていくならいらない知識ばっか身につけてる気がする。


 やだなぁ、こんな娯楽が後暗いのばっかなの。


 新しい趣味でも見つけるかぁ……いいのあるかな。でも探してる時ってなかなか見つけれないよねぇ。物騒極まりないのばっかなら幾らでも視界に入るんだけど。

 廃墟探索は、前々世の郷愁から胸が苦しくなってきて、そうそうに打ち切った。

 斬音みたいな殺人衝動を抑える仕方がない殺人とかは、参考にしたくない実例だ。


 ……前世も今世もろくなもんじゃない。もうちょっとは幸せってのがあっていいんじゃないか?


「あづっ」


 灰が手の甲に落ちた。擬似根性焼き……これも不運か。


「これも邪神の思し召し……ってヤツか」


 心底腹立たしいが、今のボクを構築する───転生する羽目になったのは100割型あの幼女が関わっているから、別に間違ってない。

 ……思い出す度に殴りたくなるな。なんだこの衝動……これが、恋……?


───…


 不整脈だな、完全に。あれに恋するなら日葵に……いやないな。


───…


 日葵がボクに愛を囁くのは、一重に言ってあの100年が吊り橋効果とかストックホルム症候群とか、そういうのが働いた結果だろう。

 孤独を癒す為に、心が防衛線を張った。もしくは魔王を懐柔しようとしたのが裏目に出て……でも、そーゆーのがあいつにあるとは思えないんだよな。

 なんでボクなんかに恋したんだろ、あいつ。


「───ん、ぅ?」


 そう自分に懸想する元宿敵の恋に思いを馳せていると、突然視界がぐらりと揺れた。足元がおぼつかず、必然的に倒れてしまう。

 手元から零れ落ちる煙草の火を影の刃で鎮火させるが、それだけ。


───!


 自由を失った身体は、たたらを踏んでふらりふらり。


「ぐッ、ぅ…なにが……」


 煙草の吸いすぎ? 心不全? 二日酔い? いや、それじゃ理由にならないふらつき……これは、なんだ。歪む視界に吐き気がする。気持ちが悪い。

 明滅する。意識が落ちていく。辛うじて外に置いてあるロッキングチェアに掴まって、ズルズルと背を預けて空を見上げる。


───…


 この感覚は覚えがある。意識に干渉される、精神干渉に稀にある酩酊感だ。


───♪


 吐き気を我慢して、ロッキングチェアに全身をだらりと投げ打つ。経験上ここからの奪回は無理だ。やるにも少し遅すぎた……できないこともないが、ちょっと気になる。

 このボクに精神干渉する誰かが。

 ……さっきから耳朶に反芻する音にならない声が、もう相手を物語っているが。


 あぁ、本当に。懐かしい───前々世、死ぬ寸前も……こんなふうに、話しかけられたっけ。


───おねーさん、あーそぼっ♪


 愉快気な声色に、顔が引き攣ったのは言うまでもない。



























































 





















「あっはぁ、ねぇね、そろそろ起きてよぉ───ワタシのニンゲンちゃん!!」


 起きたら腹の上に幼女()が座ってた時の感想を述べよ。


「っ、ぁ……」

「2000年〜、いや、7000年だっけ? ニンゲンちゃんの生き様をずーっと見てたけど……思ってたより、すっごい楽しめたよ! ワタシを楽しませるとか、久々の快挙だよ? 誇っていーよ? 傲っていーよ? オモシロイからさ!」

「……何の、用」

「ぇーん、冷たいよぉ」


 ボクが転生した原因───忌まわしき邪神が、動けないこちらを無視して話しかけてくる。無邪気さとトラウマで肌が粟立つが、逃げられない。地面に仰向きに寝かされ、その腹の上にこいつが乗ってるから。

 あなた、○○ってゆーのね! ごっこでもする気か?

 ……ダメだ、現実逃避も落ち着いてできない。怖いとか恐ろしいとかはないけど、生理的に無理。会話すんなよ、口開くなよ……なんで今更出てくるんだよ……つか、ここどこだよ……

 辛うじて動く目で見渡せば、ここは全てが黒い異空間。

 あの白い異空間とは真反対の黒い世界。ボクの影底より暗い、命を感じられない領域。


 ……正しく邪神の神域。そういや前々世で死んだ後も、魂の状態でここに連れて来られた気がする。


「いやね、暇ってのもあるんだけど、最近弛んできたからテコ入れしてあげたいな〜って……だってもーっともっとオモシロクなった方が、ニンゲンちゃんもいいでしょ?」

「いら、ない……」

「いるよ。それに、ワタシが課した悪役の運命をここまで成し遂げたのは、ニンゲンちゃんで二人目なんだよ? 折角ここまでやってみせてくれたんだから……もっとワタシを楽しませて?」

「ッ」


 ……嫌いだ。こんなヤツ。なんでこんなのの言いなりにならなきゃなんだ。


 無理難題を与えて実行させるとか、やっぱ神は畜生だ。


「───暴れちゃダメだよ」

「こひゅ」


 衝動的に動かそうとした腕を抑えられ、首に、頸動脈に手を添えられる。気付かれた。何故。不味い。殺される。消される。終わってしまう───こんな外野にいるヤツに殺されるなんて、ヤダ。夢を叶えられるのは、イヤだ。

 普段のボクなら感じない、死への恐怖。

 圧倒的上位者の、今まで殺してきた神よりも高みにいるこいつに、いいようにされるボク。

 惨めだなぁ。イヤだなぁ。

 力を与えた者に、与えられた者は勝てない。今こうして力の差を見せつけられてるのがいい例だ。


「すごいね。この短時間でワタシの拘束解いて、こっそり空間そのものを自分のモノにしようとして……空間圧縮でワタシのこと攻撃しようなんて」

「……」

「ダメだよー、ダメなんだよー? ニンゲンちゃんはねぇ、神様の玩具なんだよ?」

「ッ、ちが、ボクは」

「違くないよ?」


───なにも映さぬ黒い瞳が、ボクを覗き込んでいる。


 全てを見透かされ、心を絡め取られる。言いようのない痛みと苦しみに叫びたくなる……やっぱり別格だ。今まで対峙した神よりも、遥か高みにいて、底が見えない。

 戦いにならない。

 抵抗もできない。

 クソっ、なんでボクなんだよ。他にもいいのいただろ。こっちは望んでもいないのに。そういうのは望んでる人にやれよ。


 ……考えれば考えるほど、ボクが落魄れた原因はこいつなのだという実感が湧いてくる。

 人外の怪物に転生したのも、魔王になったのも、人間の犯罪者やってるのも……全部こいつが裏から糸を引いて、人形劇を楽しんでるからだ。

 役者はボク、舞台は世界。なんて悪趣味なお遊戯会。

 そう、悪いのは全部こいつ。ボクじゃない、ボクのせいなんかじゃない。


 ッ、はぁ……悪態ついてみたが、現状は変わらないし、打開策も思いつかない。


 確かに指クイってやってこの黒い空間を畳んで潰そうと思ったけれど。そもオマエが与えた権能が悪いんだから、警戒しないのが悪くて。封じていないのが悪くて。

 反撃もなにも、神が認める行動以外は認められない。

 なんて……なんてクソみたいな人生なのか。束縛なんかキャラじゃないでしょ。


 ……そもそもなんでボクを呼んだんだ? こんな場所に。面白いのテコ入れの為だけ……まさか、またボクを使ってなにか企んでるとかじゃないよな。

 まさかと思って腹上にいる初代諸悪の根源を睨む。


「そうだよ!」


 心を読むなクソ幼女。まだ何も言ってないだろうが。


「うんうん……でも、その前に。これはお仕置かなぁ……神様の言うこと聴かない悪い子は、キツーイお仕置して、わからせなきゃだよね?」

「悪くないんだけど」

「悪だよ? 悪悪の悪だよ?」

「死ね」

「あー」


 立場的には逆なんじゃ……普通ボクじゃなくてオマエがわからせ喰らうのが定番なんじゃないの?

 ……やだなぁ、こんなヤツのお仕置とか。

 絶対ろくなもんじゃない……ボク帰って来れるかなぁ。遺言用意してないんだけど。帰って来なかったら、日葵はどう思うのかな。怒るのかな、泣くのかな。

 やるんなら一撃で終わらせて欲しいんだけど。痛いのもイヤだし。


 いやなんで受け入れかけてんだボク。従順すぎない?


「んー、んー、痛いのと気持ちいいのどっちがいい?」


 えっ、なにそのR展開にありそうな台詞回し……もっと他に言い方なかったわけ?


「えー、んじゃあ痛いのと痛くないのってことで。

 ニンゲンちゃんはドMのおバカさんだから、どっちでもいーよね?」

「Mじゃないが???」

「無駄なのに毎日死のうと頑張って自分を虐めてるのに? 勇者のニンゲンちゃんとか魔女ちゃんに好き勝手されても内心喜んでるのに?」

「やめよこの話」


 いや、あのその……あれは喜んでるんじゃなくてだね。こう、スキンシップされるのが嫌いなわけじゃないだけで喜んでるわけじゃ……

 ダメだ。何言っても自論展開で押し潰される。

 こいつ自分の意見は全て罷り通ると思ってるタイプだ。邪神ヤバい。


 ……諦めてお仕置とやらを選ぼう。

 そんで、痛いのと痛くないの、か。そりゃ一択でしょ。誰が好き好んで激痛を選ぶか。虐められて喜ぶ人とボクを同列に扱うのは今後限りでやめてくれ。


「痛くないので」

「いーよ! じゃあ24時間こちょこちょの刑ね!」

「待って」


 待って♡


「だいじょーぶ! 安心していーよ! なにせ現実世界じゃ24秒しか経たないからね♪」

「待ってよ」

「いくよー!」

「やだぁッ!!! ねっ、ねっ、もっとこう、なんかさ……なんか他にもあるじゃん! 痛くないの! 違うのにしよ? あっあっ、ほら! 痛いのだったらどんなのだったの!?」

「知りたい?」

「うん!」

「部位ごとに肉体を分解、眼球に針刺して穴に神酸かけてドロッドロにして、内臓茹でてぐちゃぐちゃにして、指も舌も丁寧に切ってって、自分で自分を食べさせて……」

「ひゅ」

「を全部」

「こちょこちょでお願いします」

「はーい」


 な、差が激しい。怖いよ、怖い……なんでボクがこんな目に遭わなきゃなんだよぉ……


「それじゃ、ニンゲンちゃん」

「拘束までして───おい待てなんで胸触って!? そこは違うだろ!?」

「前々世よりも成長してるね……ここも含めて、ぜーんぶこちょこちょしてあげるからね!!」

「やっ、やめ……」



───あははははははッ、あひっ、おっ、はひっ、はは、やめっ、やっぱやめっ、あははははッ、おっ、そこ、はっあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?








◆◆◆






「はぁー、はぁー……こひゅ、はひ……ぅ、はぁ……ぅ、ふぇっ……」


 死ぬ。死んだ……死んだよボク……お嫁にいけない……

 真っ黒な地面の上で、仰向けに倒れて、過呼吸になって悶えるボク……傍から見たらどんだけ滑稽なんだろ……

 脳みそ茹だったし、呼吸困難だし、全身麻痺して上手く動かせないし……


 酷い拷問だぁこれ……痛いのより辛い……笑い死ぬってホントにあるんかなぁ……


「かわいー顔」

「……やめ、撮るな……」

「罰だよ☆」


 パシャパシャ連射すんな。随分と現代的なカメラだな。神も俗世に被れるってか……おい、撮るなって。紅潮した顔撮られて喜ぶヤツなんているかよ。

 ……上位者だからっていい気になりやがって。

 調子に乗るなの意味も込めてレンズを掴み、握り潰して押し退ける。


「キメェ……」

「もっかい行く?」

「ごめんなさい」


 学習しないバカでごめんなさい。だからワキワキするのやめてくだしあ……


「んふふ、生意気になったねぇー。昔はビクビク怯えて、近付いたらビャッて逃げちゃってたのに……魔王になって鼻高々になったのかな?」

「……話すことは無い」

「なんでぇ。24時間付きっきりで遊んだ仲じゃんかぁ……かわいくないよぉ?」

「求めてない」

「ぶーぶー」


 ……本当に、何を考えてるんだ、こいつは。

 前世では一切関わって来なかった癖に。悪役の人生なる運命を押し付けるだけ押し付けて、2000年接触も干渉も無かったのに。

 今更。今更になって……ニンゲンに戻ってから接触とかナメてんのか。

 苛立ちが募るが、ここで逆らってもさっきの二の舞だ。諦めてこいつの出方を伺う。警戒はするが、それだけしかできない。何言っても無駄だろうし……このタイミングで損切りされるとか、いらないって捨てられるわけとかでもないとは思うし。

 幾ら気分屋だとしても……気分屋じゃないかもだけど、多分ないと確信はある。


 ……もしいらないで消されても、そんな人生だったかと諦められる下地はある。


「まだ噛みごたえあるから捨てないよ?」


 だれがスルメだよ。ふざけんな。


「んふふ、あっ、そーそー。前にテコ入れって言ったの、覚えてるー?」

「……そういえば」

「見てると刺激が足んないからさ☆ニンゲンちゃんがいた世界から別の人間を連れてこようかと思います☆」

「は?」


 とんでもないこと言い始めたぞこいつ。


「選出方法は勿論ランダム! ルーレットォ! 世界中から適正のある男女を勝手に見繕って、そっちに送るよ! 実はもう準備できてて、後は回すだけだったり!」

「クソかな」

「ワタシはやさしーからね! 当選したニンゲンが死なない最低限の保証はしなきゃなんです…………そこで!」

「イヤだよ」

「拒否権なんて高尚なモノはないよ?」

「酷」


 ちなみにまだこいつは人様の腹の上に乗って喋ってる。降りろや。


 ……こんなのに目をつけられるとか、可哀想なヤツだ。

 まだ見ぬ被害者に黙祷を捧げ、そしてこいつのお遊びに巻き込まれる、若しくは組み込まれた己の運命を憂いる。逆らってもいいことはない。抗っても面倒臭い。

 あー、クソ。


 詰みだ。


「───ワタシの新しい玩具を、だーいじにてね♪」


 ニンゲンちゃん♪



































































「───真宵ちゃん、起きて」


 意識が覚醒する。やさしく頭を撫でられて、聞き慣れた心地よい音色に目が覚める。

 んぅ……

 ショボショボする目を見開けば、心配そうにボクを見る日葵の顔があった。


 あぁ……そっか。戻ってきたんだ。


「ぉあよ」

「おはよ……魘されてたよ」

「……うん」


 体感24時間の地獄から放り出されて、どうやら五体満足過不足無しに生還できたようだ。意識だけ連れてっただの言ってたけど、信用ならないからね。

 ……うん、ちゃんと無事。ちょっと肌寒いのは、ずっと外にいたからだろう。

 身体だけ現実世界にあって、無防備を晒す……

 場所が場所だったらイケナイことされてたな。殺される未来もあったかも。そう考えれば……場所と時間を考えて誘拐したことを感謝すべきかな?

 いや、ないな。あのクソ幼女がそんなこと考えてるわけない。


「ひま」

「うん?」

「……これから、また一波乱あるってさ」

「ぇ」


 また膝枕をされていることに思うところはあるけど……今、それを突っ込むのは野暮というモノ。

 責める気分では……ない。

 邪神のお告げに、これからの身の振り方に不安ばかりが溢れてくる。


 どうしようか、どうしようもないのか。


 ……まぁ、なんとかなるか。あの邪神のことだ。性格が本当に救いようがないゴミは送ってこない筈。運任せとかほざいていたが、多分操作するだろうし。

 あの性格だ。気に入ったのが出てくるまで回す筈。


 「大事にしてね」だったっけ……でも、律儀に守んのはボクのサガじゃないよなぁ。


 あーあ。悩む。困る。なんでボクがこんな目に遭うのかわからない。わかりたくもない。説明できない未来予知に無数の?を浮かべる日葵には悪いけど……ここから先は、生贄が決まったその時にわかること。

 ボクにできるのは待つことのみ。

 テコ入れ、か。いらないよそんなの。人生に刺激なんてもういらない。充分刺激されたもん。やっぱり上位者の、いや、脚本家気取りの考え方はわからない。

 盤面にプレイヤーを置いて、動くのを見て楽しみ、偶に手を加える。


 そんなことするなら、舞台に立てよ。いや、やっぱダメ立たないで。

 来ないで。


 ……ボクはただ、今世こそ、日葵と……リエラと一緒に生きていたいだけなのに。


 はぁ〜……本当に。世界ってのは、ボクに優しくない。


 そうだ、こんなときは魔法の言葉を唱えるんだ。キット未来の自分がなんとかしてくれると期待して、希望して、押し付けて、後回しにする言い慣れた呪文。

 やー、もう唱えに唱えて禁句になりかけてるけど。

 言わなきゃ損! そんな気分で、またいつも通り現実から逃避するのだ。


「真宵ちゃ?」

「絶望だぁ……心構えはちゃんとやってね、ひまちゃん」

「ぅぇぇ???」


 困惑してるところ悪いが、これ以上の説明は無理なの。本当に悪いとは思ってるけど……無理は無理だ。ボクではどうしようもない。

 いつの日か、絶対に話すよ……あれ、そういやリエラに前々世人間でしたって言ったことあったっけ……


 ………今はそんなことより、恒例の呪文を唱えようか! 頭抱えるのは未来のボク!


 はいせーの!


「もう、どうにでもなーれッ!」


 なってくれ。


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― 新着の感想 ―
前より過去編が詳しく書かれていて、とても面白いです。また読ませていただきます。
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