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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
CHAPTER.1「死にたがりの悪役人生」

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10/51

01-09:まおーの親友はナマケモノ


 下駄箱まで疾走して、二階の教室までは徒歩移動した。勿論迷子になりかけたけどちゃんと日葵が手を引っ張ってくれたから大事はなかった。

 もう敵はいないからね。

 ……隣にも居たわ。いつも。処す? 処すか? 処そう。もう首刎ねるか。


「真宵ちゃん宿題やった?」

「なんの」

「空想学」

「はぁ???」


 あるの? なんで教えてくれてないんですか───?


「ごめん、教えたつもりになってた」


 申し訳なさそうに謝る日葵。さては貴様……ボクが昨晩出稼ぎに行ってる間に一人黙々と終わらせたな!?

 裏切り者め……ちょっと答え見せてよ。嘘嘘冗談。


 我慢できずに歯ぎしりをしながら、教科書の指定された問題を解く。なんでこんなに問い多いんだよ。最先端とはただの謳い文句じゃないってか。

 空想学の中身、それは最早ファンタジーだ。

 有名ゲームを幾つかやってれば自然と身につく内容だ。異世界に君臨した王として、魔族全てを率いる覇者だったボクに答えられない問題はない。


 ……あれ。


「勇者の名前とか覚えてないんだけど」

「うっそでしょ泣くよ?」


 答えられない問題あったわ。勇者七人もいらんよ。


 ごめんて。拗ねないでよ。仕方ないじゃんあんまり興味なかったんだから。クソ神に勇者がお前を殺すだろうって預言されても信用のしの字も無かったし。

 そも勇者と認識して会ったのキミだけだもん。

 他のヤツらは……会ったことがあることさえ知らない。会ってたのかもしれないし、会ってないかもしれない……その程度だ。他の勇者への認識なんて。


 ツンとそっぽを向いて解答を教えてくれない仲間思いをなんとか宥めて、答えを聞き出すことに専念する。

 別に前のページ見ちゃえば解決なんだけどねぇ……

 早めにこいつの機嫌を治さないと、後がめんどくさい。本当に。


「……このままにすればセクハラされないのでは?」

「過激なのがお好み?」

「ワー! ひまちゃんゴメンネ〜ユルシテー」

「誠意は焼肉の形をしてるんだよ。知ってた?」

「奢れと?」


 それボクが好き好んで言うヤツじゃん。盗用すんなよ。


 そうやって言い争いながらも課題に取り組んでいると、日葵の前の空いた椅子に誰かが座る。

 その人物は、ピンク色という変な髪色の美少年だった。


「あれれ。宿題やってないの?」

「……なんだメスか」

「ぶち転がすぞ万年不良幼児」

「幼児w」

「笑うな」


 いきなり煽ってきた挙句、本音事実を言うと拳を握ってブチ切れてプルプル震え始めた。なんなんだこいつ。身長ボクより低いくせに生意気な……いつか性転換させるぞ。

 てか誰が不良だ。ボク程品行方正な女はいないぞ?

 あと赤ちゃんでもない。笑うな日葵。殺すぞ。幼児要素どこだよ。


「これだから口だけのメスは……」

「っ……っ……!!」

「わぁ、ほっぺやわらか……」

「ちょっ、触るなぁ!」

「ッ、はぁ? あぁ? お、オマエ……なに日葵にほっぺ指つんされてんの? 殺すよ? 殺すね? 死ねよ。その恋路、叶わなようにしてやろーか」

「マズイこっちも過激派だった!」

「真宵ちゃんどうどう」


 暴力で訴えようにもすぐに反撃されることを身をもって知っているからか、怒りを押し殺してプルプルと振動する桃色の美少年。

 低身長で女声、女装させれば絶対間違えられる男。

 小鳥遊姫叶(たかなしひなと)。その名前からして女と間違ってくださいと言ってるようなもんだろう。髪の毛も伸ばしやがって……なんでサイドテールにしてんだよ。性別間違えられるのがイヤならやめろよな。

 ついでに言うと、こいつも異能部の一員だ。この前のは入院してる姉の見舞いに行って不参加だった。


 ところでなんでほっぺつつかれてるんです???


「……姫叶くんおはよう。おねーさんどうだった?」

「ぜぇ……ぜぇ……はぁ、ふぅ……し、死ぬかと思った。ん、あー、姉さんはまだベッドの上だよ。ずーっとずっとスヤスヤしてる。目覚める気配はないってさ……」

「植物状態だっけ……まぁ、その……頑張れ」

「君に応援されるのってなんか変な気分だよね」

「喧嘩売ってんのか」

「どうどう」


 本気で殴ろうとしたら日葵に止められた。解せぬ。


 小鳥遊姉は植物状態───かれこれ3年かな? たまーに意識が戻りそうになるらしいけど、結局眠ったままで全然起きないままらしい。

 確か空想生物の襲来で家が潰れてそのときに……

 うん、魔都というか、新世界ではありふれた悲劇だね。それを少しでも無くすってのが異能部の仕事だ。廻先輩の異能で出待ち作戦が通用するようになってからは、不憫な犠牲者がかなり少なくなってるから……今はいい傾向か。

 どちらにせよボクらの……いや、彼らの頑張り次第ってことだ。


 姫叶も大変だよねぇ。稼いだお金、大半は姉の治療費と入院費に充ててるみたいからなぁ……いや、多少は趣味に使ってたか。お金目当てとはいえ部活もよく頑張る。

 ま、正義感で異能部やってない仲間の一人だね。


「あっ、そうだ! 昨日僕いなかったじゃん。そのときに、なんか拾ったって聞いたんだけど……」

「あぁ、ウンディーネs、んんっ…のこと?」

「そうそうそれ!」

「……ボクは殺そうって言ったんだけどね。皆善性高くて意見封殺されちゃったよ」

「血も涙もない奴め」

「ひでぇ」


 同意を求めたわけじゃないけど酷いな。

 別に姫叶の目の前で殺人とかしたことないのに。なんでこうも言われなきゃいけないの?

 直感? 勘でボクの悪性を見抜いたのか? 怖くね?

 異能部って平気な顔だこーゆーヤツが多いのが本当厄介なんだよね。


 まだ殺そうとは思えないから、こいつら異能部はボクにとって───そう、黒彼岸にとっても、その程度しかない存在なのだろう。

 不安要素は排除するに限るけど……今はまだ。

 異能部は都合のいい隠れ蓑として最適なんだ。正義面でマトモを装える。潰すのも惜しい。というか、死ぬ予定を度外視しても、表社会のヤツを殺しまくったら無駄に孤立するから却下。

 日葵は殺せないとして、面倒なのは面倒だ。

 5つある異能は影以外あんま使いたくないから、うん。暫くは様子見だな。


「病んでいいってこと?」

「あー……いきなりどうしたの琴晴さんは」

「持病です。気にしなくていいよ」

「ふ、ふーん」

「自分で言うんだ……」


 ……怖いから近付かんとこ、って小さく呟いたの、全部聞こえてんだからな。怖い怖い、じゃねぇーよ。オマエも巻き込んでやろうか?

 適当に気付かないフリして難を逃れようとするな。

 つーか、割とマジめに怖い。なんでこいつは毎回ボクの読心に成功してんの。意味不明理解不能なんですけど。

 そろそろ精神にも“黒”張って読心妨害するか?


「ところで今日は出るの?」

「まぁね。僕の異能が火を噴くよ」

「潮?」

「殺すぞ」

「姫叶くんの異能的に火は出ないんじゃ?」

「マジ論破やめない?」


 日葵の高火力が姫叶を襲う! メスは泣いた!

 日葵の変態度が1上がった。


「レベルじゃなくて!?」

「もうカンストしてるじゃん」

「確かに」





◆◆◆






 あの後、ぐずぐず半泣きになったクソザコ癖塊を日葵が泣き止ましたり、筆跡が若い宿題をなに食わぬ顔で先生に提出したりあったけど……

 特にこれといったイベントはなく昼になった。

 この時、結構な頻度で異能部招集からの緊急出動があるから、本当に大変だよ。その「」代わりに授業免除になるから心情的に楽だしあんま困ってないんだけど。

 自分の時間が無くなるって意味では困ってるかな?


「じゃ、ボク用あるから」

「えぇ!? 一緒にご飯食べないの!?」

「先約がある」


 あーーーッ!!! と汚い慟哭をあげて床を這いずり回り足を掴んで、移動を阻害してくるバカの手を踏み潰して、何事もなかったかのような顔で弁当を手に廊下へ出る。

 後ろからガチ目の悲鳴が聞こえたけど気の所為だ。全部無視無視。


 昼時だからか、学院内は生徒たちの賑やかな声と空気でいっぱいだ。そんな喧騒を全て無視して、ボクはこの日に約束した目的地を目指して歩く。

 進めば進むほど人気はなくなる。“研究棟”と呼ばれてるその場所まで。


「……ここどこだ???」


 ありゃ、道間違えた。上るんじゃない、下りるんだか。


 階段を下りてやっとこさ見つけた外渡り廊下を歩いて、 なんとか辿り着いたのは……“魔法研究部”と名が書かれたプレートが掛けられた、一つの部室。

 棟の凡そ四割を占領するその大きな部室は、久しぶりにお昼を食べる約束をしていた、ボクの古い親友の居城。

 ……いるかな。ワンチャン約束すっぽかしてそう。


「来ったよー」


 トントンとノックをしてから両扉を開ける。

 長年の経験上、この場面で返答なんて来ないことぐらいわかっているから、そのまま気にせず勝手に侵入、と……あっ、いたいた。

 おー、超熟睡しとる。

 やっぱり寝てたね。よれよれの白衣を着の身着のまま、床に倒れ伏す少女を見下ろす。


「ぐぅ……んにゅ……」

「起きろ悦。ボクが来たよ」

「んぅ……」


 起きない。幾ら揺すっても起きない。

 さてはこいつ徹夜したな。いや、こいつの場合は学院に勝手に寝泊まりしてるからアレなんだけど……

 あーでも、昨日は不在だったんだっけ。

 ……授業とか全部サボってんの羨ましいね。国から許可取ってるらしいしよ。学院に通ってる理由は年齢っていう体裁の為だって言うし。

 なんだかなぁ……これだから魔女ってヤツは。


 手っ取り早く叩き起こす方法……これだな。腹を出して寝てるバカを睨んで、魔力を込める。


「……起きろドミィ。私を待たせる気か?」

「ふゅっ! ……んあー? ぁ、闇ちゃんか。はよ〜。よーく寝た寝た寝た」

「おそよう」


 多少の殺気を込めて前世の愛称を呼べば、白いそいつはガバッと勢いよく起き上がる。すんごい飛び上がって頭が天井と衝突した。

 ふわふわの白い髪を床全体に広げる白衣の白いヤツは、寝惚け眼の赤い瞳をボーッとボクに向けている。

 ……痛くなかったのか?


「ふわぁ……あー、実験中に寝ちゃったや。反省反省」


 彼女の名は仇白悦(あだしろえつ)。今は王来山学院の2年であり、ここ魔法研究部の部長をやっているボクの最初の親友である。前世から付き合いの深い悪名高き魔女にして、このボクが魔王になる前、私にできた最初の友達───または家族。

 あらゆる面で魔王より非常識の塊であり、天上の神々が定めた天の方程式を、全て己に都合のいい形に書き換えて乗っ取った、不可能を可能に変えた魔法使いだ。

 加えて魔王の側近という地位を手にもした悪友。

 通称“領域外の魔女”───魔王軍では“狂儀(きょうぎ)”と呼ばれた魔女、ドミナ・オープレスの転生体。それが仇白悦の正体である。

 前世も今世もロリっ子とか、界隈属性の塊かな?


 今世のドミィは魔法研究部と、異能特務局の似たような部署の二つを根城にして、あっちこっちを行ったり来たり寝泊まりして摩訶不思議な魔導具の発明、開発研究を日夜楽しんでいる。

 ついでに言うとこいつ自身は正体を隠していない。

 正式に魔王の側近なんです〜って公言してんの。どんな方法使って真実だと証明できたのかはよく知らない。そも人類の敵宣言してて信用されてるのも意味がわからない。

 そんなんだから国も遠慮なく、今は未成年の悦に頼って色々と依頼して、その分融通を効かせてるらしい。時にはエーテル世界繋がりの質問や疑問を、特務局や皇国上層部から受け付けている。御意見番っていうか、御意見番っていうか。そういうポジションにいる。

 まったく……アルカナもダメだね。こいつに頼る必要がある国政とか、どうかしてるよ。

 異世界の魔女に頼りっきりな場面があるとかマジ?


「お腹減ったよ闇ちゃ〜ん」

「真宵です」

「あー、そだったそだった……でで、闇ちゃんや。今日のメニューはな〜んじゃ〜らほい!」

「うるさ」


 理科室定番のあの机に弁当箱を広げて、欠伸をしながら真横に座ってきた悦にシラケた目を向けながら木製の箸を手渡す。あ、フォークじゃないとダメ? そろそろ覚えろよ叡智の塊なんだろ魔女サマがよぉ……

 んで、今日のお昼ご飯は日葵の手作り弁当だ。

 二人で一緒に食べる。元々一人で食べる前提だったから量的に心許ないかもだけど、お互い少食だから別に問題はない。

 ……なんでこんな食べ合いっこするのかって?

 こうやって定期的に食わせないと、悦が餓死しかねないからだ。つまり要介護必須ババアなのである。


 日葵も混ぜて、3人で一緒に食べてもいいんだけど……こう、ね? たまには旧友2人だけで談議したくなるじゃんわかるでしょ?

 それをわかっているから、日葵を説き伏せる必要もなく突き放せたんだけど。


「悪いね〜今日も」

「昨日は珍しく帰ってたけど……結局寝たん?」

「……えへ?」

「バカ」


 箸を使って卵焼きを口に頬張る……うん、甘すぎ。

 ちなみにこいつの家をボクは知らない。学院と特務局の研究室にいるのは知ってるけど、住処はまでは知らない。そろそろ教えろ。


「それも美味しそう。ちょーだい」

「はい」

「……めっちゃ美味いじゃん」

「日葵の料理」

「明空の子か」


 こいつ味覚音痴か? ……いやただの極々甘党だったわ。研究の合間に生クリーム吸ってる変人だった。そこは前世も今世も変わんない。ボクには理解できません。

 甘ったるすぎてボクの胃が死ぬ事件は週1回あった。

 というか、知らないうちに過労寸前になったドミナには絶対近付くなっていう暗黙の了解が魔王国にできてたのは心の中で大爆笑したのはもう懐かしい。

 お陰で犠牲者はボクだけだった。なんのお陰だ。


 ……そんなに好きなら全部あげるよ。ほら、食べなよ。実は甘ったるすぎてそんなに食べたくない。


「うまうま……」

「で、あのウンディーネ。どうだった?」

「あ〜ね。アレね」


 さて、早速とばかりに本題に入ろう。

 昨日殺処分されずに保護された、魔物に堕ちた水の精霊ウンディーネ。なにかしらの要因で、悪堕ちスピリットになってたヤツだ。

 大人の事情でこの魔法研究部に送られたけど……


「そこ」

「……けっこう大人しいんだね」

「んぅ〜ねっ!」


 液体で満タンな円状の筒の中に、青く濁ったスライムのそっくりさんが静かに浮かんでいる。

 特に暴れず、液体と混じるわけでも無く……

 普通だったらバカデカい女の子なんだろうけど、今じゃスライム形態……意外とかわいいな。やっぱし、不定形のぷるぷるボディが一番だよ。カーバンクルの次にかわいい魔物だと思う。

 うん、カーバンクルが一番だ。異論は認めない。


「んま、ちょーっとだけ延命処置しといたよ。余計なのは全部省いといた。えっとっと……救命とかはしない方針でよかったんだよね?」

「それでいい。そも、精霊は我々の敵だからね」

「正確には“君”が、だけどねぇ〜───キシシ、大自然に嫌われてやんの」

「至極当然だろう」

「ふーん?」


───魔王軍の野望。そこには世界征服だなんて俗物的な文章は一行もない。何故ならば、ボクたちの目的に支配の二文字は存在しないからだ。

 ただ無差別に破壊を、エーテル世界を終焉に導く。

 それが我々の選択。あらゆる方針を検討した上で出した結論であり総意。世界を滅ぼすという決断で、魔界は地上全土に喧嘩を売ったのだ。

 その結果があの百年戦争───“楽園戦争”だ。


 そんでまぁ、環境破壊を厭わなかったテロリスト集団な我々を、精霊たちは蛇蝎の如く嫌ってだねぇ……超頻繁に攻撃してきたのはいい思い出だ。

 契約できる精霊術師もいないくせに。

 唯一闇系統の精霊は味方してきたが……んまぁ、過去の述懐は置いておこう。


「つーか治せんの? これ」

「やればできるよ。やらないけど」

「くふふっ、さっすがぁ〜……“領域外の魔女”の異名は、伊達じゃないねぇ」

「褒めても何も出ないよ」

「言動が不一致」


 二人仲良く性格クソなのはもう把握してるし、ドミィがあらゆる不可能を可能にできる天才───“天災”の領域にいることも勿論のこと知っている。

 今回の治療なんて朝飯前だろう。

 ただするつもりがないだけで。わざわざ手を貸してやる意味も義理もないし。

 結構酷なこと言ってるけど……そういうもんだ。

 ここで手を差し伸べたところで、自陣にメリットなんて欠片もないし。


 ちなみに手渡されたのはチョコだった。駄菓子屋とかで売られてるあの小さいサイズの。ダボダボ白衣のポケットから出てきた。意外と美味いよねぇ、こういうの。

 ……あれ、溶けてない。体温高かったよなお前。

 どうなってんだよ。実はその白衣魔法具だったりする? いやポケットがおかしいのか?


 ……ドミィについて悩んでも意味ないか。うん。存在が不可思議ってヤツだし。お互様だねぇ……


「んむっ……話変わるけどさぁ。魔王軍の面子、だんだん周りに揃ってきてるよね」

「うん。あー、まぁ極一部しか知らないけど」

「例えば?」

「方舟の第三団(グレイル・オーダー)に5人。民間に1人。外で大統領やってハッスルしてんのが1人。アイドルやってんのが1人」

「後ろ2人は家族枠じゃん」

「アイツは違う」

「そっかぁ……うん。方舟に関しては……エフィちゃんががんばったのかな?」

「そーじゃない?」

「雑だなぁ」


 魔王軍の残党、及び親交のあったとこの国主やらの生き残りとか転生体とかは、この新世界でもそれなりの数確認できている。

 いや、方舟に関してはまだ会ってないヤツばっかだからなんとも言えないけど。

 大統領もテレビで見ただけだし。

 異名持ちのヤツらでこれだ。ネームドじゃないのは多分もっといる。というか、あの戦争で死んだ幹部はそんなにいないんじゃないかな。

 自分が情けないよ……まぁ、魔王様の死に嘆き悲しんで殉職だーっ! て考えるバカがいないのは幸いだ。

 ……いや一人いたな、そういうヤツ。大丈夫かな。


 今更だけど魔王軍メンバーのその後、めちゃくちゃ気になってきた。

 どういう偶然か同じ時代を生きれてるからね。

 多分、あの年代に死んだヤツらは既に転生が終わってるみたいなんだよねぇ……全くどういう原理なのやら。ほぼ確実に関わってる専門家はずーっとだんまり決めてるから聞くに聞けねぇーし。

 オマエのこと言ってんだぞドミィ。


「四天王、死徒十架兵(しとじっかへい)、親衛隊、侍従隊、あと将軍かな? 軍上層部の中で、闇ちゃんが魔王だって気付いてるの……実際どれだけいるん? そこんとこ、把握できてる?」

「勿論……と言っても、オマエ含めて二人だけだよ」

「へー。誰?」

「ユーミィ」

「……えっ、あの子ぉ? そーゆーの鈍そうじゃん……あ、まさか教えた?」

「彼女の1番はボクだから。真っ先に名乗った」

「……修羅場来るな、これ。ぼく読めたわ。あーあ、もう知ーらねッ!」


 そう、洞月真宵=カーラだって知っている関係者って、意外と少ないんだよ。というか2人だけならばほぼいないようなもんだ。少ない方がいいけど。

 それだけボクの偽証が完璧って証明だ。

 近付いただけでボクがボクだと勘づいたこいつと日葵は別ベクトルで異常。


 というか修羅場って何の話。ボクが過激派なこと?


 ……まぁいい。こいつが突然変なことを宣うのはなにも今に始まった話じゃない。適当に聴き逃しても問題ない。

 ん、食べ終わった。悪くない味だったな。

 ……これからはボクも作ってみるか。日葵に雑事すべて任せてもなんとも思わないけど、流石に少しぐらい覚えておいたほうがいい気がする。

 年頃の娘としてはねぇ……今は16のニンゲンだし。

 料理とか掃除とかの、そういうのは覚えとくべきだとは理解はしている。たぁ身体がゆーこと聞かないんだけど、それはもう甘えでしかない。

 っ、はぁ〜。ヤダな。覚悟ができない。ボクがそれらをやっている光景が思い浮かばない。


 せいぜいメイドの真似事しかできないぞ……?


 そう思い悩んでいるとドミィが次の話題を切り出した。今日はやけに話振るね……珍しい。いつもはもっと受動的なのに。

 ツッコミたいけど、別にいいか。うん。


「───そ・れ・でぇ? これからどうするつもりなのさ。ぼくらの王様は」


 ふむ。成程。聞きたいことはそれか……うーむ。


「なにも? ただ時流に従うのみさ───無論、まだ今は、だけどね」

「そっか。やーっぱあの子の動き次第、ってかぁ〜」


 もし仮に魔王軍として活動を再開するのならば。今から動くのは時期尚早……なにも手早く進めるのが最適だとは限らない。

 ここは耐えだ。

 待って待って待ち続ける。魔王カーラの復活を待ち望むあの声が叶うそのときまでは。

 ……個人的には、いつまでも潜んでおきたいけど。

 ドミィはボクとは違う。今すぐにでも魔王として、この空想溢れる世界に君臨してほしいと思っている。ヤダな。親友がボクに魔王であることを望んでいる。

 ただの小娘であることを望んでいない。ニンゲンであることは許しても、ね。


───いや、最初から自分の欲求に正直だったからなぁ。こいつが自分の意見曲げるとこ見たことない。いつだって無理を押し通すのがこの女だ。

 そしてそれに引き摺られるのがボクだ。

 うん、悩んでも意味ないや。多分、いつも通り好き勝手場を掻き回されて、受け入れざるを得なくなるだけだ。


 ……魔王になれば、また殺してもらえる、のかな。


「いずれ復活する時が───ボクの魔王国を再建する時が来るのかもしれない。地下から地上へ、新しい世界、この楽園で生まれる“ゲヒト・ルナール”。

 陰鬱な地下世界は青空の下に生まれ変わる。

 うん、思い描いてみたけど……いつか魔王軍を、王国を復活させるのは面白いかもしれない」

「そうだねぇ」

「……考えても先は長い。だから今まで通り程々に生きるつもりだよ」


 取り敢えず言いたいのは、今はまだ誰もボクの居場所。探さないでくださいってこと。

 魔王復活にも、箱舟の計画成就にも消極的なので。

 魔王国ゲヒト・ルナールの再建も検討はするから。

 個人的には栄枯盛衰の言葉通りに、終わりにすべきだと思ってたりするんだけど……意外と待ち望んでるヤツらが多いんだよね。


───魔族の楽園を求める声が、今も聴こえるんだよ。


「そかそか」

「そうそう」


 ……それにしても、寝起きのドミィは異常にテンション低いな。そこも変わってなくて安心した。ついでにそんなうるさくないから好き。ちょっと物寂しいけども。

 普段はもっと発狂して大発明してるのに……

 静かな方がまだ好みだし、周りにとってもかなりの利になるんだけどねぇ……


 なんて思っていた時期もありました。その変化はまさに瞬きの一瞬であった。


「───ッしゃぁ!! お腹いっぱい甘味充電完了ッ!! 元気も満タンだぁぁぁ今日も元気に実験三昧! 口うるさい馬鹿どもの意向で勝手に凍結されたゼロ号実験、のぉ〜! 再・会・だァ! あは! シドニーくぅんどこいるのー!? 戻ってこーいモルモットめェ!! あっあっあっ、闇ちゃんありがと! 明空の子にもよろしく!」

「切り替え早いなぁ……うん、伝えておくよ」

「キヒッ、キヒヒ!! キーッキッキッキッ!!

 闇ちゃんまた来てねッ!! 次も甘いの手土産でヨロシクお願いねッ!! んじゃ!!!」

「……うん。ばいばい」


 あー、そうそう。この高速詠唱。致死難病に効きます。でもいきなりのハイテンションは心臓に悪いから……心臓ないけど。

 やめてね。


 ……あっ、やぁ不死身くん。どーも。うちの悦ちゃんがいつもご迷惑を……今日もお世話よろしくね。

 多分今日も死ぬけど、がんばって蘇生してくれ。


 うん、魔法研究部は今日も賑やかd、───あっぶねぇもう爆発したぞ!?


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