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まおー様、逝っきまーす!  作者: 民折功利
CHAPTER.1「死にたがりの悪役人生」
1/51

01-00:まおー系JKの裏奇譚

初投稿です。

2025/01/10/21:00 プロローグを分割しました。

内容は一緒です。


───昔昔、あるところに。

 「エーテル」と呼ばれる剣と魔法の世界にて───暗い地の底の異界から、世界の全てを滅ぼさんと暴虐の限りを尽くした王が現れた。

 異形の軍勢を率いた王───“魔王”による蹂躙。

 魔王は地上から、人類から空と太陽を奪い、終焉という滅亡の運命を世界に確定付けさせた。

 地上のあらゆる種族は手を取り合い魔王に抗った。

 希望は立ち上がり、光をもって絶望という底のない闇に挑んだ。


 そして、異世界の戦争の決着は、世界の壁を越えた先、縁もゆかりも無い異邦の地を舞台に開かれた。


 悲嘆と絶望、孤独の終着点。その結末は───…






◆◆◆






───紅白色の錆びた鉄塔の上。遥か昔、国の名所として数えられていた首都の名を冠する旧式の電波塔にて。

 僅かに傾いた展望台に、少女が一人黄昏ていた。

 不安定な足場をものともせずに、冬明けの凍える夜風を浴びる黒髪の少女は、感情が消え失せた冷めた目で眼前に広がる夜景を眺めている。

 黒く塗り潰された大天蓋、閉ざされた星なき空。

 丸く欠けた月にのみ照らされた夜の下、今日も今日とて悪業を重ねた少女はつまらなさそうに溜息を吐く。

 “本来”とは異なる道を歩んだ“元故郷”の摩訶不思議な空模様を一望して、少女はかつて見た……否、自分の手で創り上げた暗闇の景色を再び想起する。

 こことは異なる世界全てを使った、楽園の情景を。


「………ふふっ」


 人間となった───否、再び人間に生まれ直した今でも記憶に遺る、楽しくも辛かった、美しい激動の終生は彼女の存在を確立させる、代わりのない無二の記録。

 生まれた時から胸部にある傷痕をなぞって、笑う。

 その笑みはかつての威容を知る者が見たら最後、思わず卒倒してしまうような暖かいもの。笑みは数秒と経たずに解けて消えたが、感情はあとを引き、少女に暖かな余韻を楽しませる。


 全てを失った先で、一等美しいモノを手に入れた。


 数千年にも及んだ二度目の生───そして魔生の最期の幕切れを想起して、いくばかりかの懐古を終えた少女は、冷たい夜空に向けていた視線を前方に移す。

 紫色の瞳に映るは、明かりの消えない今世の故郷。

 記憶にある景色とはあまりにもかけ離れた、此方の並行世界における日本の新しい姿。半分は海に沈んだかつての首都から目と鼻の先に造られた海上都市は、少女が今いる廃墟や海に四方を囲まれている。

 場所がズレた首都の変わりようには未だ慣れず。

 “本当にここは違うんだな”、と改めて突きつけられて、少女は僅かに表情を歪ませて……幾度目かの溜息を夜風に溶け込ませる。


「ほぼほぼ原型が無いもんなぁ……ほんと、災害なんかに負けんなっての」


 海に沈んだ旧世界の名残を足蹴にしながら、黒い少女は苛立ち交じりに唾を吐く。


 その原因の一旦が、自分にあることは棚に上げて。


「はぁ〜……それにしても、本当に上手くいかないなぁ。こんなにボク頑張ってるのに……ちょっとは報いってのがあってもいいんじゃないかなぁ。

 ───なんて、ボヤいても意味はないか。ハハッ」


 黒手袋に滴る返り血を眺め、少女は空を睥睨する。


 旧式展望台の端の端、今にも崩れそうな鉄柵に行儀よく腰を掛けて、宙に投げ出した足をブラブラと揺らしながら少女は独り呟く。

 落ちれば即死級の高さなど、彼女にとっては怖くない。ただの褒美に他ならない。死ねるのなら死んでやりたいと常からず思っている。三度目の人生の終幕を願う少女に、命の尊さなどわからない。

 積み重なる鬱憤が、永きに渡る生の絶望が、荒れ狂った少女の心を渦巻いている。


「あ〜〜〜、死にたい死にたーい。楽になりたい!」


 赤と黒が混じった右手で柵をなぞれば、乾き損ねた血が触れた箇所を余すことなく濁った朱に染める。壊れ損ねた少女は虚無に唄って、明日なき己の死を渇望する。

 それは、神なき世界を作り、明日なき世界を待ち望んだ魔人から零れた本音。


 終わり損ねた魔の残滓は、今世こそと闇に訴えかける。


「……ほんと、どうしてこうなったんだか」


 退廃と諦観を込めたその呟きは、少女を構築する全てを物語っている。


 少女───洞月真宵(うろつきまよい)は、異世界で生きた記憶を引き継ぐ異端の転生者である。邪神を名乗る何者かに選ばれ、次の世界で生きる道を勝手に定められた……

 業を積みに積んだ、生粋の“悪”にされた人間である。

 前世のそれが因果となったのか、はたまた何者かの陰謀なのか、願望なのか、真宵は望んでいない三度目の人生を与えられて、なんやかんや今を無為に生きている。

 否、生かされている。

 一緒に生きようだとか、まだ一緒にいたいだとか、絶対死なせないぞという約束に縛られて、真宵は生きる未来を強いられている。


 本人的には、邪魔をさせない為に手早く命以外の全ても捨てたいところなのだが。


「ん゛っ……寒っ。寒すぎ。もうちょい暖かくなれよ……寒暖差には弱いんだ……」


 冬明けの空を舞う風は、柔い肌を凍て刺す強風となって開け放たれた空間に吹き込み、環境変化に弱いと自称する真宵を急激に冷やす。幾ら丈夫な身体の、それこそ死ぬに死ねない程度に頑丈な身体の持ち主でも生理現象にはまず逆らえない。それを証明するかのように、真宵は真面目に人間らしく寒さに怯んでいる。

 海上にポツンと浮かんだ廃電波塔というのも相まって、襲ってくる風は強烈だ。


 加えて、強風に煽られて乱れた前髪に、視界を遮られて余計に気分が急降下した。

 真宵は短気であった。

 独逸風の軍服を模した裏の仕事着の、血で濡れていない比較的綺麗な左手袋を口で啄み器用に抜き取る。そして、いらんとばかりに無造作に、海へ放り捨てた。

 宙に墜ちていく物的証拠には目もくれず、自由になった左の手で、肩よりも高めの位置で乱雑に切り揃えた黒髪を苛立ち混じりに指で梳き、前髪の自己主張の激しい白色のメッシュを退かして目の行き場を確保する。

 明けた視界の向こうには、またいつも通りに威光を放つ世界が見えた。


 視界に映る全てが、何処となく憎々しい───捻くれた気持ちで見るからそうなると、真宵は自戒しながら思考を切り替える。


 真宵がいるのは過去栄えていた首都の名残り。廃都から見える“今の首都”は、外周の大半を外洋に囲まれながらも健気に存続しているのが見てわかる。

 東の都という名は失われ、今や魔都などと呼ばれている新しい日本の中枢───“アルカナ”。

 最早原型のないその名を、真宵は幾度か咀嚼する。

 “異世界との衝突”で生まれた景色は、どう頑張ろうとも飲み込める気がしない。かつての姿が固定観念となり脳に染み付いているからなのか、受け入れられていない。

 残酷にもその差異を共有できる相手はいない。

 陰で血に濡れ、悩みを抱えたまま宙をふらつく真宵とは正反対に、地上の魔都は今日も輝きを灯している。


「……よし」


 できることなら壊してやりたい。やろうと思えば確実にやれてしまうことを真宵は漠然と考えながら、今宵もまた一つ、真宵はなにかの決意を固める。

 笑って嗤って嘘を呟いて、情けなくも咳き込んで。

 身体を前後に揺らして、真宵は夢遊病のようにその場を立ち上がる。柵の向こう側へと足を伸ばして、踊るように世界を跳ねる。

 いつも通りのルーティンを、惰性で続けている倫理観の欠片もない習慣を、今日も性懲りも無く繰り返す。決意を新たに、今宵こそ死ねるようにと虚空に希う。

 神などいうモノには願わない。

 関われば関わるほどロクな結末にならなかったことを、真宵は昔から知っているから。

 そして、気軽な気持ちで身体を滑らして───…


「さーて、今日こそ終われるかな?」


 かつて魔王だった少女は、笑いながら飛び降りた。






◆◆◆






───まず、真宵が今を生きることになった世界、地球の並行世界について語ろう。


 太陽系第3惑星、地球。前の真宵が邪神に見つかる前に生きていた世界線の地球とは異なる道を、ほんの少し横に逸れた結果生まれてしまった並行世界。

 本来出会うことのない“異世界”と衝突した地球。

 時を遡り西暦20XX年───その日、世界の理は唐突に崩壊した。


 事の発端は南極中央にて発生した局地的な大地震。

 特別調査隊が向かった先で見つけたのは、底の見えない巨大な縦穴で───その存在を認識したのが、終わりへと到る契機、だったのかもしれない。

 深淵もかくやの大穴に世間が騒然とし始めてすぐ。

 世界各地で立て続けに天災が起こった。地球は未曾有の大災害に襲われた。序章としては世界全体、星そのものが揺れる超規模の震動、大地震。全ての海が荒れ狂い津波を引き起こし、地下を流れていた溶岩流が地上に噴出した。同時に大規模な異常気象や軌道上の全てを消滅させる光線などの超常現象が世界各地で発生するなど、本当に世界の終わりを確実なモノとする異常が多発。

 地球上の大多数が何もできずに死んだ、世界全てを対象とした星を滅ぼす厄災。


───天災の全ては、たった一日にして起きたのである。


 日本の被害を語ると、地震に噴火、津波やらの定番天災オンパレードによって国土の七割が消滅。街は海に沈ぬは地割れに巻き込まれるはで、あらゆるモノが死に絶えた。

 辛うじて東京二十三区と関西圏、一部都市が残存。

 首都圏は地盤沈下と海難により全方位を荒波に囲まれ、関西圏は謎の地盤隆起で大地が盛り上がって、陸の孤島へ変貌したものの……日本の生存圏は保たれた。

 そんな連鎖する災禍は、次の日を迎えると最後、強烈な発光を最後に終息した。


 数多くの犠牲と、幾つもの謎を残して。


 星を滅ぼしかけた謎の厄災は、地球という歴史に一つの終止符を打ったのだ。


 これら全ての原因が異世界との衝突なのである。


───それから幾つか経って。

 日本は残存国土である旧東京を主軸に、新たな道を歩む決意をする。襲い来る様々な苦難に苛まれ、変わって行く世界の激動に身を任せ、時には逆らって……

 そうして100年かけ完成したのが、海と廃墟に囲まれた新たな日本───“新日本アルカナ皇国”。

 遷都と廃棄、増築を繰り返す並行世界の群島国家。

 その首都は東京湾と東京二十三区の上に建てられた海上都市。“魔法震災”で辛うじて残った一部の陸土と、今も尚増え続ける埋立地を土台に造られた新天地。

 その名は“第3新日本都市アルカナ”───その異様さと特殊性から、“魔都”とも呼ばれている日本の首都だ。

 これらの名の由来は未だ不明。天災後世界で観測されたあらゆる変化から付けられたなどが主力とされているが、真実かどうかはわからない。

 当時の指導者らがとち狂った、などの噂もある。

 とにかく、この世界の日本がかなりの変容を遂げていることだけはわかるだろう。


 そして、便宜上“旧世界”と“新世界”と区分けされたこの並行世界の相違点は、これだけではない。

 なんとこの世界、ファンタジーの要素が存在する。

 否、存在するになった。なってしまった。

 厄災───“魔法震災”から三年後、世界各地で空に謎の裂け目が発生。その亀裂から今までは空想の産物であった超常存在、俗に言う“魔物”なる摩訶不思議な生き物たちが現れて、地球に攻撃を開始したのだ。

 ゴブリン、オーク、スライム、果てにはドラゴン。

 神話や二次元の領域でのみ語られていた未知の存在が、幻の向こう側を飛び越えて崩壊した現実にやって来た。

 当時は知る由もないが、これも全て異世界産だ。

 魔物たち───総じて“空想”と呼称された異なる世界のファンタジーは、魔法震災以降人類に残されていた僅かな生存圏を脅かした。

 復興が始まっていた街を襲い、年齢関係なく人を殺し、喰らい、時には奪い攫い……

 最初期に現れた空想は、悪逆の限りを尽くした。


 天災後の僅かな平穏を奪われた人類は、まだ無事だった銃火器や兵器で空想に対抗したが、兵力供給を上回る数の暴力に敗北。幾度も空想の襲撃を許してしまう。

 今度こそ人類は滅んでしまうのか───

 誰もが悲嘆に暮れ、諦め、空想たちの蹂躙がより過激になっていく中。


───なんの前触れもなく突如出現した、【異能】という不可思議な力により、窮地を救われることとなる。


 発現する基準は不明。理由、構造、原理、その他全てのあらゆるデータも“未知”で彩られた非科学的な力。

 そんな摩訶不思議な【異能】に、世界は救われた。

 

 最初にこの力を発現した若き青年を筆頭に、異能を得た極小数の僅かな人々は立ち上がり、攻め込んでくる空想の群れと激突。

 数ヶ月の壮絶な激闘の末───見事、人類は勝利。

 最も大きな裂け目の破壊、そして封印に成功したことで不定期に襲来する空想を除けば襲撃の数は激減したのだ。異能持ちは復興にも大きく貢献し、人類の生存圏の奪還、拡大にも成功した。“異能者”と名乗る彼らは、終わらない混沌から世界を引き上げ、人々に救いの光を齎した。

 たった数十の小さな力が集まって、人類を守り抜いたのである。


───彼ら異能者の慈善活動が、急激に変わり行く世界の行く道を定めたと言っても過言ではない。


 それから三百年経って───魔法歴300年。

 今日も世界の何処かで地球と衝突して崩壊した異世界と繋がる《門》が開き、空想の怪物たちがやってきては人類と激突する。希少な、非科学的な超常を振るって世界に平和を齎す異能者たちと、空想の戦いの時代。

 当たり前の明日を、未来を守るために戦う歴史。


 魔法のような“異能”という特別な能力と、“空想”というファンタジーな動植物が混在する非日常。

 それらが当たり前となった、終末後の並行世界。


 そんな世界に───黒く濁った業を背負った元魔王が、二度目の転生をしたのである。

 そして、少女が生まれて17年を迎える年に───…


 終わりと始まりを刻む歯車は、ゆっくりと回り出した。






◆◆◆









































───どうやら、今日もボクは死ねなかったらしい。



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