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産声は朝焼けの中で

 

 旧友と解散してあくる日の早朝、ドーマルは山の麓にいた。


 辺りはまだ暗く日が差し込まない野っ原に肌寒い風が彼に容赦なく吹いていた。


 彼がここに来た目的はただ1つ、夢に出てきた光景の実現であった。


「ここは夢の中で見た風景に似てるな……」


 彼が見た夢に出てくる者達は一貫して、パーティを組んで“何か”と戦っていた。

 その中に出てきた登場人物には魔法使いやリーダーの他に、召喚士もいた。


 ドーマルは、彼らの様にモンスターを操ろうと考えたのだ。

 しかしそんな経験など全くといって良いほどなかった。  


 それでもなお、彼を突き動かすのは別れ際に旧友が放った台詞だった。


『時代の流れに乗るべきだ』


 それがどんな意味を示すのかドーマルには分からなかった。

 翌日になってもその言葉が引っかかり、何もせず無意味に1日を過ごすことに抵抗感を覚え気付けばここにいた。


 その行動が正解かどうかは分からない。

 だがドーマルはここに来たのは、その言葉の意味を理解しようと考えた結果だった。


(俺がこれから出来ることは未知数だ。だが、あの夢がきっと何か手掛かりになるはずだ……!)


 うろ覚えながら、ドーマルは昨夜見た夢の光景を思い出す。以前見た夢と異なる部分があり、それはモンスター使いの存在だった。


 これまで見た夢にはいない新しい登場人物だった。


(空を飛ぶモンスターか……確か夢に出てきたドラゴン。搭乗を催促していた奴がいたな。恐らく彼は召喚士だな)


 仲間の元へ駆けつけ自分の操るドラゴンの背中に乗せ、撤収していた。

 数人の成人が乗ってもそのスピードは速く、颯爽と大空を舞う姿は、地上にいる者を釘付けにする力強さがあった。


(さすがに、あんなドラゴンは無理だな……)


 しかし、いくら腕の立つモンスター使いといえど、ドラゴンを操るには相当の達人でなければ出来ない。素人のドーマルとなれば問題外であった。


(いきなりあんな凄いモンスターではなくても良いんだが、どんなのがいいか……ん?)


 そう思っていた時、林方面の草むらから物音を立てる存在に気づいた。


「しまった! ここは出現区域だったか!」


 ドーマルはあわててその場に伏せた。

 この辺り一体はモンスターの縄張りであった。


 この時期は繁殖期を迎えたモンスターもおり、気が立っているものも多い。

 草むらから飛び出してきたモンスターに不意を突かれ、喉に噛みつかれた冒険者の話を彼は知っている。


(くそっ! 向こうに行ってくれ!)


 息を殺し、相手の出方を伺う。

 彼が今、この場で1番信頼を置けるのは右手に握りしめた護身用のナイフのみである。


(来るなら来い! 俺は簡単には死なねぇぞ!)


 心の中でドーマルは宣戦布告をした。

 草むらに向けた眼力の鋭さとは裏腹に彼の心臓は過去にないスピードで拍動を続けていた。


 ナイフを握りしめた手はますます汗ばんでいく。


(来るっ!)


 臨戦態勢に入る。額には汗が滝の様に流れていた。


 ガサガサガサ……!


 物音の正体が飛び出した。


「えっ……?」


 彼が間の抜けた声を出すのに十分な出立ちだった。


 地形に沿って変化する流動体、安定しない輪郭、薄緑色の球体……。


 スライムだった。


「……脅かしやがって」


 立ち上がって左手で土埃を払った。彼がうつ伏せになっていた地面はじんわりと汗が滲んでいた。


「久しぶりだな……」


 昨日、自室の机に刻まれた『スライム』の字がドーマルの脳裏によぎった。


 夢に出てきた召喚士に比べるとスケールダウンは否めないが、現状の自分にとってはこの緑の球体こそが自身に課せられたものの正体なのではないかと。


「俺の前に出たのが運の尽きだったな……」


 ドーマルの独り言にスライムは、不思議そうに首(?)を傾げた。


「よし決めたぞ! 俺は、俺はスライム使いだ! スライム使いの冒険者、ドーマルだ!」


 明けゆく東の空に向かってドーマルは叫んだ。


 旧友の一言はそれまで燻っていた心に火をつけ、今ここに新たな冒険者を誕生させた。


 ドーマルにもう迷いも後悔も無かった。彼は突っ走った。


 これまでずっと目を背け続けてきた“今”を、


 負い目に感じていた“昔”を、


 塞ぎ込んでいた“未来”を、


 その全てをひっくるめて彼は、走った。


 絶対的な自信、傍から見ればそれは“過信”に写っていたに違いない。


 だが彼の表情は、今までになかった程の生気に満ち溢れていた。


 旧友の死を境に、人との交流を拒んでいた彼の姿はもうどこにもなかった。


 彼に取って今必要なもの、


 それは宝の山でも甘言でもない。


 自分が自分であるための“自信”だった。


「やってやるぞぉぉーっ!!」


 朝焼けに児玉した情熱は新たな時代を予感していた。

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