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魔界邂逅史   作者: 温暖前線


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11/11

冒険者いざ行かん

 

 依頼をこなしていく事でドーマルはスライム使いの冒険者(テイマー)としての日々を送るようになった。


(ふぅ……ギラホーンに関する資料はこれで全部か……)


「ドーマル、また調べ物?」


 冒険者ギルドに併設された図書館で調べ物をしている彼に声をかける者がいた。


「おおキュアール、まぁそんなとこかな」


 ドーマルはポドフ達以外の冒険者とも接点を持つようになった。

 その1人がキュアールである。

 彼女はドーマルよりも年下ではあるが持ち前の人懐っこさで周囲とはつかず離れず上手くやっている。

 その為かとても噂好きな面を持つ。


「ドーマル聞いた?」


「何を?」


「スザクが、冒険者に復帰したって話。みんなその話で持ちきり」


「えっ!」


「その反応からすると初耳ってとこか~」


 ドーマルの反応に新鮮さを覚えるキュアール。


「そりゃまた急だな!」


「ドーマルも嬉しいんでしょ?」


「そりゃ嬉しいよ、何せ有力な冒険者が戻ってくるんだからな」


「……まぁ1番嬉しいのはミレーユかもね~」


「ミレーユが?」


「ミレーユがここのギルドに派遣された時に最初に仲良くなったのがスザクだったから。最初の頃は男に舐められないようにスザクから色々教えてもらってたんだ」


「そうだったのか。それであんなに……」


 物怖じしない性格になって、と言いそうになった口を(つぐ)んだドーマルを他所にキュアールは続ける。


「スザクもミレーユの事を妹みたいに可愛がっててさ。スザクが冒険者を辞めるってなった時なんかさ、すっごい大泣きしたんだよ?」


「あのミレーユが!?」


「あはは、信じられないでしょ?」


 悪戯心を浮かべながらケラケラと笑うキュアールの顔には一切の邪気が無かった。


「スザク、今頃ギルドのみんなから声をかけられてるよ」


「そうなのか」


「ドーマルも声かけてみたら?」


「お、俺が?」


「うん! 何かの間違いで仲間になってくれるかもしれないよ?」


「まさか! 俺は冒険者になって日が浅い。あいつはブランクがあっても名の知れたテイマーだ。分不相応ってやつだ」


「わかんないよ~? もしかしたら向こうから声をかけてきたりして」


「ますますありえないな」


「もし呼ばれたら教えてよね~」


「話のネタになるからか?」


「あはは! そういうこと、じゃ~ね~」


「はいよ」


 キュアールの思惑を読んだドーマルは彼女の言葉を軽く受け流すのであった。


 ◇


 彼女との会話を終え一息ついた彼は、図書館を出て廊下を歩いた。


 図書館と冒険者が集まるギルドは廊下で繋がっている為、ギルドの出入り口には図書館から歩いて行くことが出来る。


「頼む! 君の力が必要なんだよ! 君さえ来てくれれば我々のパーティは向かうところ敵なしだ!」


「つーか、男しかいないパーティに来ると思う? 私達のパーティはどう?」


「スザク先輩! 自分達は先輩と一緒に冒険をしたいです!」


 ドーマルはその出入り口の前を横切ると多くの冒険者達で溢れかえっていた。


 キュアールの言う通り、彼らはスザクを仲間に入れようと一斉に声をかけていた。

 その人気ぶりは凄まじく、彼女の姿は見えなかった。


(凄い人数だ……スザクがどこにいるのかわからねぇ。そんなに凄い冒険者だったのかあいつは)


 遠目からその様子を見て心の中でそう呟くドーマル。

 腕の立つ仲間としての圧倒的な信頼、男女問わない絶大な支持、そして器量の良さ。

 ドーマルが理想とする冒険者の姿を彼女は体現していた。


 廊下を通り過ぎても聞こえてくる彼らの催促の声に、もはや嫉妬も湧かなかった。


(しばらくギルドはあいつの話題で持ちきりか、大変だな人気者は……)


 胸中で独自の見解を述べる中、後ろから彼に声をかける者がいた。


「ドーマル、ちょっといい?」


 振り返るとそこには帽子を被った短髪で黒髪の女性がいた。

 自身の名を呼んだことから過去に会っている人物であることを推測したドーマルは脳内でこれまで会った人物と照らし合わせるも、その人相に心当たりはなかった。


「えっと……」


「私だよ私」


 黒い真珠の様な瞳とその軽快な口振りで彼女がスザクであると分かった。


「……スザク、か?」


「そ。この前ぶりだね」


 ドーマルの反応が遅れたのは無理もなかった。


 ミレーユに叱責されている際に会った時の彼女とは全く違う装いになっていた。

 トレードマークでもあった黒い長髪が帽子の中にまとめられていた。

 運送屋をしていた時に身に着けていた装飾品が、すべて金属質な装備品に置き換わっているのを見るに

 冒険者として本格的な復帰をすることが伺えた。


「ああ、あの時は助かった。また頼むよ」


 2人の会話を彼らは怪訝な表情で聞いていた。


(え、あいつ誰?)


(新しく冒険者になった奴じゃない? ほら、うちらに声かけてきたのいたじゃん)


(なんであいつスザクと親しげな訳? あいつスザクが冒険者だった頃知らないでしょ)


 ヒソヒソと話す彼らの会話がドーマルの耳に届く。


(くそっ、好き勝手言いやがって……!)


「ポドフ達から話聞いてさ。あなた、操れるんでしょスライム」


「まぁな」


「それ見せて?」


「……場所を変えよう」


「えぇ」


 2人がそのまま出口へ向かうと、後ろからざわめきがより一層強くなった。


「騒がしいけどあなた何かしたの?」


「知るかよ……」


 ◇


 ドーマルとスザクは、マール川のほとりにいた。


 マール川は、遥か昔からアール街の発展を担ってきた広大な河川として知られている。

 冒険者ギルドが発足された当初はこの川を利用して物資の輸送が行われていた過去がある。


「ここなら大丈夫でしょ?」


「その前に1つ聞きたい。目的はなんだ?」


「そう警戒しなくても金は用意してある。ほら」


 スザクは懐から金貨の入った袋を取り出してドーマルの前に見せた。金貨の重さで袋の底が今にも破れそうだった。


「……それだけか?」


「この額じゃ不満?」


「そうじゃない」


「じゃあ」


「たかがスライムを見るだけでそんな大金を払うか?」


「というと?」


「他に目的があるんだろ」


「……そ、お見通しってこと」


 スザクはそう言うと少しだけ脱力して、彼に渡そうと出したお金を懐に戻した。会話は続く。


「あんなに引く手数多なら別にいいんじゃないか?」


「断ったの」


「えぇ?」


「テイマーっていうか、私には私のリズムってのがあるの。パーティ組んじゃうと、どうしてもズレが出てくるの。どうしてもね」


「それで俺が例外な保証はどこにもない。俺だって自分の軸を持ったテイマーだ」


「だけどテイマーとしてモンスターを恐れない勇敢さを持ってる。スライムはモンスターでしょ?」


「広義的に言うとそうだな」


「そういう人だとズレが小さくて済むの」


「それで俺に声が掛かるのか」


「そういうこと」


 彼女が同じ召喚士テイマーを探している事をドーマルは理解した。


「だがその金は受け取れない」


「……交渉は決裂?」


「仲間になるんだろ? なら貰うより分け合うってのがスジじゃない」


「……ええ! よろしくドーマル」


「こちらこそスザク」


 2人は固い握手をした。


「それじゃ呼ぶか」


「お願いできる?」


「ああ」


 スザクの頼みを承諾すると彼は、目を閉じて意識を集中させた。


「……来い!」


 ドーマルが命令を発した。

 彼の声色が先ほどのそれとは違う事にスザクは少し驚いた。


 ガササササッ!


「!」


 キューンッ


 茂みの中からスライムが飛び出し、2人の前まで飛び跳ねて来た。


 ポテッポテッポテッ……


「これがあのスライム……」


 目の前でコロコロと動く緑色の球体にスザクはそう答えるほかなかった。

 最弱のモンスターと評される生命体が人間の意思に従って動いているのだから。


「実用的な所を見せよう」


 驚くスザクにそう言うと、再度スライムに指示を出す。


「俺に変身しろ」


 ギュムギュムギュムッ……


 ドーマルの指示を受けたスライムはグネグネと体を小刻みに動かした。

 それに伴って緑色の体色は変化していく。


 やがて球体を中心にグネグネと4本の手足が生え始めた。

 その節々に色味が付くとみるみる内に2人の前に人を模した形が出現した。

 さらにスライムはそこから骨格を事細かに調整する。


 グネッグネッグネッ


「ああ……!」


 グッグッグッ……


 程なくして2人の目の前にはドーマルそっくりの人間が現れた。


「え!? ドーマルが……」


「よし、ここで待機していろ」


「……?」


「とりあえずあの茂みに隠れるぞ」


 2人が河川敷近くの草むらへと移動した。


 ◇


「ねぇなんでスライムはあそこに立ちっぱなしのままなの?」


「そろそろ分かる。向こうを見ろ」


 彼が指差した方向を見るスザク。


「……あれ? ワワタン?」


 2人が茂みに隠れていると、程なくしてスライムの周りを囲んでいるワワタン達がいた。


 ◇


「やい! 何とか言ったらどうだ! スザクをなぜ取った!」


「……」


 ドーマル(に変身したスライム)がワワタンに胸ぐらを掴まれ怒声を浴びせられていた。

 怒気が篭った声に彼は無反応を示したが、かえってそれが彼らの苛立ちを募らせた。


 ドーマル(スライム)に高圧的な態度を取るこの男の名はワワタン。

 アール街支部冒険者ギルドに所属する剣士である。

 彼の持ち前の得物である腕力で数多くのモンスターを星にしてきた実績を持つ。

 彼もスザクの復帰を待望していた者の1人であった。


「この野郎、聞こえねぇのか! てめぇ俺が目をつけていたスザクを取っただろ!」


「俺たちが先にあいつと話をつけていたんだ! それを横からぶんどりやがって!」


「え、そうなの?」


 遠くにいても聞こえる彼の大声がドーマルにスザクを質問させた。


「めんッどくさいから適当に相槌しただけ……」


 彼の質問にそう答える彼女はどこか疲れている様に見えた。

 人気故に誰からでも声を掛けられる反面、ああいった手合いの者からの誘いが無いわけではない。

 そんな彼女を見て同情心が芽生えたドーマルに先ほどの羨望など欠片もなかった。


「……大変だな人気者は」


「それ言う?」


 お互いを労わる2人を他所に向こうでは状況が過熱していた。


「ここにオメェみてぇな初心者がデケェ面するとこなんざねぇんだよ!」


 先ほどから高圧的な態度を見せるも、なおも無反応なドーマル(スライム)に対しついにワワタン側が動く。


「……」


「なんとか言えよこの野郎!」


 バキッ


(あ!)


 ワワタンの右腕がドーマル(に変身したスライム)の顔に直撃した。吹き飛ぶドーマル。


「この野郎!」


 ワワタン達がドーマルを囲んで踏みつける。


「このやろっ! このやろっ!」 


 ドコッ バシッ


「これでもそんな態度でいれるか!」


 ドッ ゲシッ 


「怖くて声もでないか!」


 バキッ ゴッ


「許しを請う言葉でも言ってみろ!」


(そりゃあ、怒るか……)


 ドーマルはワワタン達がこの様な振る舞いを取る事を理解していた。

 冒険者である彼らは運送を営む前の冒険者だった彼女を知っている。


 彼女の操るバルドンというモンスターは、強力無比の強さを誇り、スザクはバルドンと種族を超えた連携でこれまで数々の依頼をこなしてきた。


 一時はその有力さ故にトラブルに遭い、冒険者をやめてしまったがその彼女が再び冒険者としてギルドに戻ってきたのだ。


 当時の彼女を知る者なら是が非でも自分達のパーティメンバーに招き入れたいと思うのは容易に想像が付く。


 そんな中、古株の彼らを差し置いて冒険者として積み重ねた経験もなければコネも皆無な自分がスザクから声をかけられたのだ。


 その光景を黙って指を咥えて見つめている彼らではない。


 長年、自分たちが待っていたチャンスをぽっと出の者に全て掻っ攫われたのである。

 恨みが持つには十分な理由だった。


「これくらいで勘弁してやる! 怪我で当分入院する様にスザクに話しておけ!」


「冒険者になる前に身の振り方ってやつを憶えてくるんだな!」


 彼らはドーマルに扮したスライムを蹴り込んだ事で溜飲が下がったのか、そのまま酒場のある方向へと去っていった。


 ◇


「行ったようだな……出るか、スザク」


「終わったんだ」


 ワワタン達との一部始終を見ていた2人は茂みの中からそっと出てきた。


「……いや~自分が殴られているのを見るっていうのは不思議な気分だな」


「それ見てるあなたを見るのも中々だけどね」


「お互い奇妙な体験をしたってことか。よし、あいつらもいなくなったことだし行くか」


 身を起こした2人は、ワワタン達に手ひどくやられうつ伏せで倒れているスライムの前に立った。


「大丈夫なのこの……ドーマル」


「スライムだからな。よし、変身を解け」


 スライムは再びグネグネと体を捻りながら小刻みに動いた。ドーマルとして身に着けていた服の色が少しずつ緑色へと変色し、四肢がそれぞれあり得ない方向へと折り畳まれていくと同時に姿形が丸みを帯びた流動体へと変化していった。


「戻った……!」


「うん、何ともないな」


「あんな殴られたり蹴られたりしたのに……」


 元の姿に戻ったスライムはいつも通りゆらゆらと揺れていた。


「ありがとう、また何かあれば呼ぶ」


 ピョインッピョインッ


 そうドーマルが言うとスライムは飛び跳ね、草むらへと姿を消した。


 ガサササッ……


「そういう感じなんだ……」


「命令がある時以外はあんな感じだ」


「でもドーマル、あなた酒場へは行けそうにないんじゃない?」


「このまま酒場に行けばあいつ等と確実に会うだろうしな……困ったもんだよ」


「大変だね~人気者は」


「お前それ言う?」


 ◇


 翌日、ドーマルはポドフ達と約束していた隊長との顔合わせの為、冒険者協会本部を訪ねた。


「入館証を確認しました。どうぞ、お入りください」


「ありがとう」


 入館時はポドフに渡された入館証を各々が受付に見せ、本部への入館を許可された。


「入館証なんていつの間に用意していたんだ?」


「2日前にギルドでミレーユから渡されたんだ」


「前々から申請してたのがついこの前届いたんだから危うく忘れそうになったぜぇ」


「ここが本部か……」


「緊張しなくていいぜ兄弟」


「ありがとうポドフ」


「大丈夫だ兄弟、スザクの台車に酒を零した時の方が緊張するぜぇ」


「そんなにやばかったのか……」


「あぁ、ありゃ女ギラホーンだな」


「はっはっはっは、違いねぇ」


「そろそろ隊長殿がいる部屋に着くぞ」


 ポドフが軽口を叩く2人にそう言うと、ドアの前で直立不動のまま姿勢を保った。


(いよいよ、隊長との顔合わせだ……!)


「新人を連れてきましたぜぇ!」


「ダビスか、ご苦労」


(ん? この声、どこかで……)


 ドーマルにとって聴き馴染みのある声がポドフを労った。


「失礼します隊長」


「今は本部務めだダビス、入れ」


「はっ!」


 ポドフはドーマル達に目で合図を送った。


(お前らも続け)


 ポドフがそう目配せしてドアノブを回し部屋に入る。

 そのままラーバとダビスも後に続いた。


(緊張しなくていいぜ兄弟、俺の隣に並んどけばいい)


(ありがとうダビス)


 事前に打ち合わせした場所であるダビスの左にドーマルが並んだ。


 全員が部屋に入り、横一列に並び終えたのを確認するとポドフは隊長にその旨を伝える。


「全員、並び終えました!」


「ありがとう」


 声の主はドアの前に立っている彼らの目の前で椅子に座ったまま、机の後ろに設置された窓を見ていた。

 そして、ひじ掛けに手を付きゆっくりと起き上がる。

 制服を纏った背後が椅子から現れるとドーマルはその後ろ姿に既視感を覚えた。


「よく冒険者の道を志してくれた。私の名は……」


 振り向いた男の顔を見てドーマルの既視感は確実のものとなった。


「ドーマル?」


「バーコフ……?」


 2人はお互いの名前を発したまま硬直していた。


「兄弟、どうしたんだ?」


「……どういうこった?」


「兄弟は隊長に会った事があるのか?」


「……あぁ! もちろんだ!」


 ポドフ達の言葉にドーマルが我に返って目の前にいるバーコフにも聞こえる声量で答えた。


「ドーマル!」


「バーコフ!」


 困惑したポドフ達を横目に2人は感嘆の声を上げた。


「ポドフ達が言っていた新人の冒険者ってお前の事だったのか!」


「あれから考えてな。俺なりの答えを見つけたんだ」


「そうか……そうか……!」


 バーコフはドーマルの肩を両手で叩きながらそう言う。


「バーコフ殿は兄弟とは知り合いなんですかい?」


「あぁ! 俺の幼馴染さ!」


「じゃあ、兄弟が言ってた仲間ってのは……」


「バーコフのことだ」


「ほぉ! こりゃまた凄い偶然だぜぇ!」


 ダビスがその事実に思わず驚嘆した。


「冒険者にはいつ登録したんだ?」


「ついこの間だ」


「そうか……! ここじゃなんだ。客室に案内しよう」


「気遣いありがとう」


 ◇


 ドーマル達はバーコフに案内された応接室でサバイバル訓練での出来事を話した。


「ルッケルの森でそんな事があったのか……」


「幸い、けが人は出なかったのが救いですぜ」


「あの後、ギルドの図書館で調べたが、過去にギラホーンが街の近くまで来るなんて事例は記載されていなかった」


「歴戦個体ならなおさら人里へ向かうなんてありえねぇ」


「どこか怯えているように見えたんだ。あの斬られた角と何らかの関係があると俺は思うんだよバーコフ……隊長」


「ここでは不要だドーマル。あの森は有志の保護団体が巡回しているし密猟の線が消えるとなると、ギラホーンがその森に行かざるを得なかった理由が知りたいな」


「あの森をギラホーンが住処にするには人里に近すぎるから向かないですぜぇ」


「ドーマル、さっきギラホーンが怯えているように見えたといっていたな?」


「ああ」


「何かから逃げていた……という線はないか?」


「ギラホーンが恐怖する相手か……」


「そいつが角を斬った奴なら説明がつく……というのが俺の推測だ。もっとも、今の冒険者協会にそんな手練れがいるとは到底、思えないがな……」


「角だけを斬り落とすか……想像もつかないな」


「おいおい俺たちゃ剣士だがそんな命知らずな真似、素面じゃとてもできねぇよ」


「現時点で断定できる情報を今の俺達は持っていない……という事か」


「とにかくもう少し情報を集めない事にはなんともならないな、これは」


「また何か分かったことがあったらこちらに向かいますぜ」


「ありがとう、こちらでも調査しよう。さて……ギラホーン以外で他に何か話しておくことはあるか?」


「俺たちはギラホーンの件を伝えに来ただけなんですが……兄弟は何かあるか?」


「あぁ、さっきの話とは別で個人的な話なんだが実は……」


 ◇


 ドーマルはワワタン達との一件をバーコフ達に話した。


「何、ワワタン達が……?」


「あぁ」


「あいつら、兄弟が手出ししてこないのをいい気になりやがって! ラーバ、俺はもう我慢ならねぇぜ!」


 話を聞いたダビスがそう豪語した。

 今にも彼らに殴り込みをかけていきそうな雰囲気だった。


「同感だダビス、だがここで俺たちが兄弟をあからさまに肩入れしてみろ。奴ら今度はもっと巧妙な手口で兄弟を冒険者から追い出そうとするぞ」


 頭に血が上っているダビスに冷静さを取り戻すようラーバは彼を抑えた。


「ダビス、あいつらは腐ってもそれなりの冒険者だ、知恵は回るぞ。どうする兄弟?」


 ラーバに合わせて説得しつつドーマルに意見を聞くポドフ。


「そうだな……そこを逆手に取るってのはどうだろう」


 問いかけたポドフに対してドーマルは既に答えを持っていた。


「逆手に取る……?」


「ああそうだ。バーコフ、おまえにも一芝居うってもらうぜ」


「ほう、なにか妙案が浮かんだそうだな」


 ドーマルの要請にバーコフは不敵な笑みを浮かべた。

 旧友がこういった類の問題を1人で抱え込むような気質ではない事を彼は知っていた。


「ポドフ達にも手伝ってもらうがいいか?」


「もちろんだぜ兄弟!」


「俺たちで力になれるなら喜んで力を貸そう」


「お安い御用だぜぇ!」


「ありがとう、じゃあ早速、説明する……」


 ◇


「なるほど、じゃあその日を狙ってギルドに集まればいいか……」


「日付の予定、合わせられるか?」


「それくらいなら大丈夫だ」


「でもよぉ隊長、兄弟。理由付けはどうするんです?」


「それくらいならいくらでも考えられる。そこは任せておけ」


「ありがとうバーコフ。よし、当日はこれでいこう」


「おう! 任せろ」


「ありがとう、心強いよ。……お、そろそろ時間か」


「もうそんな時間か、ギラホーンの件はこちらでも調査しよう」


「ありがとうバーコフ」


「ドーマル、冒険者としてこれから苦労する事もあるだろうが俺はお前の味方だ。これくらいのことでへこたれるなよ」


「……!」


「おいおい隊長! 俺たちも忘れてもらっちゃ困りますぜ!」


「俺はお前らよりもこいつと付き合いが古いんだよ」


「俺たちもこれから古い付き合いになればいいじゃないかポドフ」


「そうだぜ! よろしくな兄弟!」


「みんな……! ありがとう」


「また会おうドーマル! 今度会う時はもっとランクを上げて来いよ……!」


「言われなくてもそうするさ……!」


「気をつけてな……!」


「あぁ……!」


 旧友による激励の言葉を胸にと共にドーマルはバーコフと固い握手を交わした。

 ドーマルが冒険者になって初めてバーコフに会った事は彼にとって忘れられない日となった。


 ◇


 バーコフと別れの挨拶を交わしたドーマル達はアール街へ向かう為、本部を出発した。


「まさか隊長と兄弟が幼馴染だったとはなぁ! 世の中案外狭いもんだな!」


 ダビスがドーマルに言う。


「俺も驚いたよ。サバイバルの時に皆が言ってた隊長がバーコフだったとは思わなんだ」


「これも何かの縁なんだろうな」


「こんな凄い話、ギルドのみんなにも話してやろうぜぇ! きっと、おったまげるぜ!」


 そう鼻息混じり語るダビスの目は血走っていた。

 キュアール同様、彼はこういった話を好む癖がある。


「ダビス、話すか話さないかは兄弟が決める事じゃないか?」


 そんな彼をポドフが論す。


「あ! いっけねえ。つい癖で……悪い兄弟、この事は誰にも話さないよ」


「いや、俺は別にかまわないよ」


「え?」


「どうしてだ兄弟?」


「俺の話を聞いて現状で悩んでいる人の動くきっかけになるなら、こんなに嬉しい事はないよ」


「兄弟……!」


「昨今の冒険者不足を憂いてるだけの連中に兄弟の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜぇ……!」


 ダビスが感極まっている横で、ポドフは辺りを見回していた。


「うん……?」


「どうしたんだポドフ」


 彼の動作が気になったラーバが声をかけた。


「ラーバ、何かあいつら変じゃないか?」


「変……?」


「あれを見てみろ」


 ポドフが指さす方向には、村人たちが山林近くを数十人規模でうろついていた。


「何をしているんだあれは……?」


「祭りにしてはあまりにも不自然だな……」


 その光景を見るとドーマル達はたちまち不安な気配が彼らに漂っていると判断した。


「こりゃただ事じゃないな……」


「あぁ、もしかしたらギラホーンの件と関係あるかもしれんな」


 ポドフの考えにドーマルも同調した。


「こっちにはいなかったぞー!」


「こっちもだ! ここら辺にか来てないみたいだ!」


「……あ! ポドフさん達かい! 大変だよー!」


 村人たちはドーマル達を見るや否や、大慌てで駆け寄った。

 彼らの前に着くころには息も絶え絶えだった。


「落ち着け、一体どうしたんだ?」


「はぁ……はぁ……ミレーユが……」


「ミレーユがどうかしたのか」


「ミレーユが……ミレーユが昨日から行方不明なんだ!!」


「な、なんだって……!?」


 突然の報告にドーマル達は驚愕した。


「ミレーユと同じ受付のやつが交代時間になってもギルドに来ないのを不思議に思って彼女の家に行ったらしいんだが返事が無くてよ、不審に思ってドアを開けたら家に誰にもいなかったんだ!!」


「昨日だと!?」


「お前達がミレーユに最後に会ったのはいつだ!?」


「2日前だ! 本部の入館証を受け取りにギルドに寄ったが、その時はミレーユがいた! 兄弟は?」


「昨日、俺は依頼主の家の依頼を受けにギルドに行ったがミレーユは窓口にいたぞ!」


「いつ頃だ!?」


「昼前だ!」


「となるとその日まで彼女はいた……!」


「他のやつがミレーユのいた時間と照らし合わせていなくなった時間を割り出そう!」


「冒険者達は広場の時計台で集まってる! そこで情報共有してくれ!」


「分かったぜぇ、教えてくれてありがとなッ!」


「とにかくギルドに戻ろう!」


「「「おうッッッ!!」」」


 ドーマル達は意見が一致すると走った。


(ミレーユが行方不明だなんて……! )


 不安と怒りが入り混じった顔で彼らは冒険者達がいる時計台へと向かった。

 時刻は昼に差し掛かろうとしていた。



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