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プロローグ

冒険者の道を諦めた男、ドーマル。

自堕落な生活に甘んじていたある日、彼は魔石によって『チャクラ使いと魔族が激闘を繰り広げる』という魔訶不思議な夢を見るようになった。

旧友バーコフと共に友人の墓参りに行った際、冒険者であるバーコフから衝撃の事実を知る。


近い将来、冒険者が人々に『必要とされなくなる』ということ、そして新たな時代への適応が求められているということを…!


『宿命』とは、『魔族』とは、そして『チャクラ』とは――

無常の潮流は牙で漕げ!混迷の涙は愛で漕げ!

決意の炎が燃え上がる時、彼と仲間達の冒険が始まる…!

一度は夢を諦めた男が志を胸に熱く甦る異世界ファンタジー、ここに開幕!


 

「ここはどこなんだ……」


 気がつくと俺は奇妙な場所にいた。

 深く白い霧があらゆるものを全て包み込み、どこに何があるのか把握することも出来なかった。

 なぜこんなところにいるのか自分でもよく分からず、とにかく声を上げて自分以外の者がいるか確かめた。


「おーい!」


 ……なんの反応も無い。まるでここだけ時間が止まっているかの様に静まり返っていた。

 その不気味さにこの場所から脱出する他なかった。


「ったく、どこなんだよここ!」


 先ほどから進んではいるはずなのだがこの霧の深さだ。独り言を言うしか気を紛らせる方法が思い浮かばなかった。


 目印となる木々や獣道もない。

 足元はおろか、一寸先すらも霧で覆われていてまるでどこに向かっているのか見当もつかない。

 もしかすると同じ場所を延々と徘徊しているのではないかという焦りが俺を不安に陥れた。


「だれかー! 返事してくれー! 誰かいないかー!」


 だから叫ばずにはいられなかった。こんなところを黙って歩いていたら気が狂うのは明白だ。だがその思いも虚しく俺の呼びかけに応じる声はない。


 ただその事実だけがこの空間を支配していた。


「俺はなぜこんなところにいる……! 

 誰かが連れてこられたのか……!?」


 俺の問いに答える者などこの霧の中にいはしない。

 ただ水滴が頬を濡らしているばかりだった。


 その時だった。


 ドドドドドーッ!


「な、何だっ!?」


 突如、轟音が響き渡る。

 先ほどまで自分の足音しか聞こえなかったここで。


「ぐっ! 地面が!」


 そこに大きな揺れまで来ると立ってはいられない。

 俺はその場に伏せて揺れが収まるのを待った。

 こんな状況下でも冒険者なら冷静沈着な行動を取るのだろうが、あいにく俺にはこれが精一杯だ。


「くそっ! 何も見えない!」


 冒険者として求められる知力や体力。

 そしてその場における判断力。


「いったい何が起こってるんだよ!」


 どれも中途半端な俺はこうして地べたに這う事でしか自分を落ち着かせる術はなかった。


 そんな時だ。


「行くぞ! 用意はいいな!」


「おう!まかせろ!」


「こっちはいつでも!」


「OK!」


 いまだ収まる様子のない地響きの中、俺は確かに人の声を聞いた。


「今のは人の声だ……! 誰かいるのか!」


 揺れが収まったタイミングと同時に、這い上がった俺は声が聞こえた方向へ向かった。


 彼らと合流すればここから脱出する手立てが見つかる!


 そんな考えで頭はいっぱいだった。

 気づけば俺は全力で走っていた。


 声のする場所へ近づくにつれてそれまで何も見えなかった霧の中から、うっすらと人影らしきものが見え始めた。先ほどの会話は彼らだろう。男女が4人ほどであろうか。


「フォーメーション・アルファだ!」


「わかった!」 


「この陣形のまま意識を集中しろ!」


「うん!」


「デカブツだけを狙えばいい! 雑魚には目をくれるな!」


 距離が近づくにつれ、その声はより鮮明に聞こえた。

 直感でこの距離ならこちらの声も聞こえると思い、俺は叫んだ。


「おーい! 大丈夫かー!」


 ぼやけて見えなかった4人の人影がはっきりと見えてきた。

 4人の男女が不思議な陣形を取り、その視線は一点に注がれていた。


「あの人達は何を見ているんだ……?」


 俺をよそに彼らは会話を続ける。


「ここでやつらの足止めをするんだ!」


 リーダー格の男が3人にそう叫ぶ。


「やつら……? あの人達は何をして……!?」


 俺は目の前の光景が理解できなかった。

 しかし、彼らの目線の先にあるもの、空を漆黒に染める“何か”を食い止めようとしていることは確かだった。


地界ちかいのチャクラ使い達よ。先の戦で味わった2度の敗北、その代償をいまここで払わせてやる」


 空から聞こえる声。おそらく彼らが対峙している“何か”なのだろう。俺がいる場所からはその正体を見ることはできない。


「魔族め! ここはお前たちが来ていい場所ではない、魔界に帰れ!」


「ほほほほ! そう怯えずともよい。我らの下でのみ得られる幸福、そなた達、地界人ちかいびとにも享受させてやろう」


 会話の意図ははっきりとは分からないが、彼らの話す魔族という存在がこの世界へ侵攻しているのだろうか。


「あ、あれは一体なんだ!? それに魔族って……!」


俺の戸惑いなど他所に彼らは上空にいる何かに向かって一斉に右手を伸ばした。


「みんないくぞ! フォーメーション・アルファ!」


「「「了解! フォーメーション・アルファ!」」」


 男の後に続いて3人も同じ言葉を発す。


 バリバリバリバリィッ……!!


 言い終わると同時に青白い稲光が周囲の空気を吹き飛ばす。4人の頭上に、何かがぶつかり合う様な音を立てて凄まじい光の粒子が辺りに散布していた。

 俺はその凄さに圧倒され、ただ遠くから見ていることしか出来なかった。


「あ、あの技は一体……」


「よし十分集まった! 撃てるぞ!」


「ライジング・キャノン発射!!」


「「「発射!!」」」


 ドォォォッ!!


 彼らの掛け声に呼応する様に、4人が突き出した腕から青白い光弾が大きな音と共に漆黒に向かって飛んでいく。


 ピカッッ


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 上空へと放たれた光弾はより一層、眩しさを強めると空全体が眩い光に包まれ、そのまま俺と彼らを包み込んでいった。その光に包まれながら俺の意識は遠のいていく。

薄れていく意識に対し、彼らの残像だけが俺の頭に焼きついて、いつまでも残っていた。


 そして夜が明けた。


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