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第9話「実習レポート:魔獣族と霊獣族の体質的差異について」

6月5日投稿分の,1話目です。

新しいステージで世界観に関する設定が描かれます。

「あっはははははははは!!」


 ようこそ綺羅ゼミの諸君!! 私がこの在原魔獣研究所の所長・在原虚也だ。 以後,お見知りおきを~!!」


 翌早朝。


 眠い目をこすりながら整列する俺達の耳に,発声練習でもしているのかと思うほどの爆音が響く。


 目の前にいる軍服にも似た制服を纏った長身の男性は,たった今自分で名乗った通り在原虚也所長。 見た感じ,年齢は30代後半かそこいらだろうか,随分と若いように見える。


 綺羅先生曰く,うざすぎて絶対に関係を持ちたくないけど優秀すぎて絶対に関係を持たざるを得ない存在……なんだとか。


「いやぁそれにしても昨日はすまなかったねぇ,施設見学をしていただく予定だったところを急~~~な! 本当に急な予定が入ってしまってね! どうしても予定を開けることができなかったんだ,それに関しては大層反省をしているよ」


「……在原所長,その話はあとでよいので,早速施設案内に入っていただけませぬか」


「いやなに,その予定自体は昨日の段階で既にカタをつけてあるから心配しなくても大丈夫だよ~,お,その表情は施設案内をちゃんと行えるかと不安にさせてしまったかな~?」


「いや,不安とかはないので施設案内を……」


「あっははは,問題ないんだよねこれが,なんてったってこの在原所長はとっても優秀なんでね! 些細なごたごたくらいならパパっと解決! 君たち生徒さんも実習中困ったことがあったらなんでも言ってね,どんな難題・疑問だってちょちょいっと指導してあげるよ~! あっはははははは~!」


 うるさい。


 ほんっとうにうるさい。


 何せこの男,さっきからこの調子でしゃべりっぱなしなのである。


 この研究所までは魔導四輪を使ってきたのだが,その車内でもひたすらにこの男が喋りかけてくるのだ。


 曲がりなりにも実習先の指導担当であるため無視するわけにもいかず,兎に角返事だけは返しているのだが,流石に限度というものがある。


 綺羅先生はあー言っていたものの,こんなただひたすら喋るだけのちゃらんぽらんな男が優秀だなんてとても考えられない。


 そんなこんなで辟易していると,ひたすらどうでもいいことを語り続ける在原所長に遂に堪忍袋の緒が切れたのか,綺羅先生が声を荒らげる。


「おい,在原虚也! いい加減にせぬか,下手に出ていればべりくらべりくらと!


 こっちはお主のせいで1日予定がずれ込んでおるんじゃ,はよ施設案内に入れぼけなす!!」


「あっははははははは!! 小御丸ちゃん,とうとうブチギレた!!


 わーったわーった,流石にやりすぎちゃったね,ごめんねごめんね~♪」


「うっざ!! 謝り方が余計に五月蠅いわ!! ええからはよ儂の生徒たちを案内せい!」


「へいへい,それじゃあみんな,こっちおいで~」


 くっくっと笑う在原所長に従い,俺達は歩みを進める。


 俺達が今いるのは,在原魔獣研究所の玄関前にある駐車場。 魔導四輪が20台ほど駐車できる程度であり,研究所にしては中々に広め……所長曰く,魔獣園として一般開放するために今の内からある程度の広さを確保したかったとのこと。


 そして施設全体は,この駐車場30個分程度の広さを持っており,その3分の2程度が飼育スペース,残りが研究観察スペースとなっているようだ。


「まず最初に案内するのは研究観察スペース……ここでは主に小型魔獣の研究をしているんだ。


 この部屋では……カマイタチの種族能力【螺旋風(ファルフーデ)】のデータを取っているところだね」


 部屋に入るとそこは大量の測定器が設置された実験室になっており,透明な壁の向こうでは「カマイタチ」と呼ばれる真っ白のイタチのような獣がびゅんびゅんと跳び回っている。


 それを見た矢芽さんは,あれ,という疑問の声を上げる。


「あれが,カマイタチ……魔獣族なんですか?


 見た目的に,なんだか霊獣族と言われてもおかしくないような……」


「ぉお,いいねぇナイス疑問。 ええっと名前は……矢芽さんだね。


 君は何故あのカマイタチが霊獣族と言われてもおかしくないと思ったのかな」


「ぇえ? なんでって……うーん,地上界でよく見るイタチと,見た目変わらないじゃないですか。


 霊獣族は,地上界の生物が魔力を持った存在であるのに対し,魔獣族はそういったベースとなる生物もいない異形……みたいなイメージが……」


「ほうほう……確かに,地上界の動物と遜色がない見た目なら霊獣族,より特異な身体構造をしているのなら魔獣族……というのは,一般的によく言われている見分け方だ。


 実際地上界の森林であの個体を見た時,風属性を持ったイタチの霊獣だと思ってもおかしくはないだろう。 見事な着眼点だね」


 彼女の疑問の声に大袈裟に反応すると,早速所長は解説を始める。


「けれど,実際にこのカマイタチは魔獣族……一般的に言われている見分け方は判りやすいけど厳密ではないんだ。 学会で定められている定義はズバリ!」


「血中成分の違い,ですよね」


「むお? 今発言してくれたのは誰かな?」


 所長の言葉を遮った声の主は,畑楽久楼。


 彼は得意げに微笑むと,所長の代わりにと言わんばかりに話を始める。


「今発言したのは私,畑楽久楼です……霊獣族と魔獣族の大きな違いは,その血中成分,マグリジンの有無。


 これは魔界の大気に普遍的に存在しているが,地上界の大気には存在しない元素のひとつであり,細胞の魔法吸収性を高める役割があるとされています。


 霊獣族は地上界に棲息しているため血中マグリジンが存在しないため,そこが魔獣族との最も大きな種族的差異となります。 ……そうですよね,所長」


 語り終えた久楼は在原所長に問いかける。


 その表情に大きな変化はないものの,なんだか醸し出す雰囲気というか……そういう気配的なものが,なんだか勝ち誇ったようになっている。


 そんな久楼に対し,所長は数拍の間を置いた後に弾けるような大笑いをし始めた。


「あーーーっははははははははは!!


 ほぉ~ほぉ~なるほどなるほど! いいねぇ,大層良く調べているようだ。


 君はとても勉強熱心な学生さんのようだね,ぜひともうちの研究室に就職してもらいたいくらいだよ」


「ええ,ありがとうございます」


 相変らずの大袈裟っぷりだが,確かに彼の知識量はうちの研究室でもトップクラス。


 流石は畑楽久楼……そんな風に思っていると,直後の所長に彼の表情は凍り付く。


「だがまぁ……それだけじゃあ十分とはいえないよ。」


「……え?」


「霊獣族と魔獣族の違いは血中成分……それですべて説明できるのであれば, “普通の獣と全く変わらない見た目の魔獣族”もいくらでもいていい。


 もっと言えば,矢芽さんの言ったような“魔獣族は異形”というイメージそのものが生まれないんじゃあないかな?」


「えっ……い,いや,どうでしょう……いえ,待ってください。


 流石にいくらでもいていいとまで言い切るのは……いや,しかし定義に従うなら……」


 ぶつぶつ呟き,必死に考えを巡らせている様子の久楼。 自慢の知識が通用しないと思って焦っているのだろうか。


 その様子を見ていた在原所長はふっと微笑むと,助け舟を出す。


「あっははは,悩んでるね。 別に,知らないことがいけないことではない……実際,魔獣族全般と霊獣族の容姿的特徴を厳密に調べた研究なんて,所長も見たことないからね」


「え,あ,そうなんですか!? すごく知っている風な口調でお話されますから,てっきり先行研究をご存じなのかと……」


「んふっふ~ん,どうだろうねぇ。 明日には調べて見つけてきているかもしれないよ。


 実習中の態度が良ければ,特別に教えてあげちゃおうかな」


「ぉお……ぜひお願いします! 私,頑張ります!」


 目を輝かせる矢芽さんにうんうんと頷く在原所長。 研究所に入る前はただただ五月蠅いという評価だったが,急激に(実は非常に優秀な人物なのでは……?)という感情が沸き上がってくるあたり,本当に綺羅先生の言っていた通りなのかもしれない。


 そんなこんなで見学を進めていると,ちょうど研究施設をすべて見終わったタイミングで正午になる。


「さて,これで研究観察スペースは一通り見終わりました。 十分楽しんでもらえたかな」


「……凄い,いろんなところを回ったのに1分たりとも到着時間がずれてない……」


「あっははは,言ったろ?在原所長は優秀なんでね,時間配分もばっちりなのさ♪


 さて,この先は飼育施設,広大な敷地を使って数多くの魔獣族たちの自然な姿を観察している……といっても,当然結界の範囲内でだけどね。 これからお昼休憩に入った後,飼育スペースの統括研究員の方に案内を交代してもらうから,彼の指導で見学を進めてほしい。 何か質問はあるかな?


 ……よろしい,それじゃあ所長はまた別の用事があるから。 じゃあねっ!」


 一通り説明し終えた後,所長は別れの挨拶をする。


 そのままどこかに向かうのかな……と思っていると,突然彼の姿が消滅した。


「……ぇえ!? き,消えた!?」


「んな……!? き,綺羅先生,所長はどこに!?」


「落ち着くんじゃお主ら。 これは奴の固有能力じゃよ。


 本当に,いかれた才能じゃわい」


 いきなりの事態に驚愕と戸惑いを見せる俺と磯樫をはじめとするゼミの学生たちを綺羅先生が嗜める。 しかしその先生も,なんだか

「どういうことですか? 透明化とか,テレポート的なものでしょうか」


「そんなちゃちなもんじゃ断じてないわい。


 奴の能力は……【虚現想(オブリヴィアル)】。 現実を虚構にし,虚構を現実にする能力じゃ」


「……な,なんですかそれ……」


「さあのう,儂にもよぅわからん。 一つだけ言えることは……奴を敵に回すことだけは,絶対にしてはいけないということじゃ」


 その言葉に,ぐずりと心の中が刺激される。


 何故なら,俺は……仮に万一のことがあった時……すなわち,あの在原虚也が主導して次元の裂け目事件を引き起こしているかもしれないという仮説が当たっていた時……


 その絶対にしてはいけないことを,しなければならないからだ。


 在原虚也……彼は一体,何者なのだろうか。


 魔獣族を飼いならして,何をしようとしているのだろうか。


 そんな疑問を抱えたまま,俺はコンビニで買ったお弁当を食べ始めるのだった。


次の話は同日18時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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