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第24話「決着」

6月8日投稿分の,4話目です。

最終決戦に終止符が打たれます。

「お,おい,何だあれ……紫色の,光の筋が……!!」


「何なの!? ちょっと,どういうこと!?」


「誰か聖騎士(パラディン)に通報しろよ!! 月魄騎士団は何してるんだ!!」


 皆既日蝕という一大天体ショーに心躍っていた人々の歓声は,同様へと変わっていく。


 比叡山から広がった魔法陣の輝きは,大地を切り裂いて広がっていく。


 完成した六芒星の紋様は地上から空中に浮かび上がり,皆既日蝕すら覆い隠すほどに邪悪な紫の光を輝かせた。


「さあ,喰らえ……そしてその魂たちを,我がもとに!!」


 道満の叫びとともに大気の魔力が極限まで高ぶり,その性質が魔界と同質のものへと変化していく。


 そしてついに,地方全体を紫の炎が包み込み,人々の魂を喰らうためにうねり始めた。


「うわぁぁああああああ!!! ……って,あれ?」


 しかし,そのうねりが人々に襲い掛かる寸前。


 魂を喰らう魔方陣と全く同じ大きさの,黄金に光る魔法陣が出現する。


「……やはり,そう上手くはいかんか。


 聖騎士め,厄介なことをしてくれる」


 黄金色の魔法陣の正体は,月魄騎士団の団員が数十人規模で展開する結界魔法。


 魂を喰らい尽くす紫の炎から人々を保護するために,一カ月すべて使って構築された防衛魔法だ。


「団長,結界の展開は完了しました。


 しかし,現状を見る限りでも持って数分……とても皆既日食が終わるまでの維持は出来ません」


「ありがとうございます,よくやってくれました。


 今持ちこたえていただけているだけで十分です……先生,出来そうですか?」


 月魄嫦娥が綺羅小御丸と炊屋翠娘に問いかける。


 2人が頷くと,傍に控えていた英霊・金欒が翠娘と霊依憑の融合をした。


「真賀邦道満……あなたの外道な計画を阻むのは……神々だけではないんですよ……!!」


 ―――――――――――――――――――――――――――――


「結界魔法……大量の人員を使っている以上,構成員1人消したところで大した影響はない,か。


 だがなぁ……この程度の結界魔法で,俺達が100年かけて築き上げてきた進化の魔法を止められると思うな……!!」


 道満は叫び,空中に浮かび上がった魔法陣に向かって紫の炎を注ぎ込む。


 それによって更に勢いを増した魂を捕食する炎たちは,容赦なく人々を護る結界を侵食していく。


「ぐぅぅう!!? な,なんだ,身体が吸い込まれる……!!」


「炎に,身体が揺さぶられる……な,何これぇえ……!?」


 そして皆既日食が終わろうとする時,遂に結界の防御が破られ始める。


 次々と人々の魂は紫の炎に連れ去られ,真賀邦道満の元へと収束していく。


「くる……この感覚だ!!


 あの日味わった,進化の感覚……もう,神々に邪魔をされることもない!!


 これで俺達は,奴らに匹敵する最強の生命体になることが出来るのだ!!」


 自身に収束してくる魂の流動を感じながら,真賀邦道満は勝ち誇った叫びを上げる。


 彼の身体は中空へ浮かび上がり,巨大な魔法陣の中心で高らかな笑い声を上げ続けていた。


 そしていよいよその力が限界を超えようとした瞬間に,それは起こる。


「……っぐぅううううああああああっ!!??」


 魔法陣の外側から一直線に飛んできたのは,巨大な黄金の矢。


 それは道満の身体の中心を一撃で貫き,彼に流れ込む魂の奔流を逆転させる。


「んな,なんだ……これは!!?


 俺に流れ込んでくるはずの,魂たちが……逆に,流れ出していく!!?」


 打ち込まれた光の矢……それは,炊屋翠娘の放ったもの。


 その力は人々の生きたいという願いを集約させ,真賀邦道満という巨悪を倒すために流動する。


 その終着点には……道満と対を成す,一人の男がいた。


「伏見……弥彦!!?」


 人々の魂を喰らうことなく,ただ受け取って力に変える弥彦の身体は,黄金色の輝きを纏っていく。


「祈り,集いし魂達よ……今,我が手に全能の炎を!!」


 彼の腰から生える尻尾の数は,10本。


 その力は,伝承に残る九尾の天狐すらも上回る……新たなる神・十尾の神狐(しんこ)へと一時的な進化を遂げたのだった。


「馬鹿なぁああ!!


 貴様が……貴様のような軟弱者が!!


 神への進化を遂げただとぉぉおおお!??」


 驚愕に目を見開き動揺する道満。


 それとは対象的に,弥彦の心は澄み渡り,無風の湖面のように穏やかだった。


「不思議な感覚だ……落ち着いているのに,激しい魔力の奔流を感じる。


 まるで,自分の中に世界のすべてが入り込んで,共存しているような感覚だ……」


 感覚が研ぎ澄まされ,自身のすべきことが見えてくる。


 つい先程までは検討もつかなかった,真賀邦道満の作った形代……その数も,位置も,すべてが魔力の流れとして感じ取ることが出来た。


 これを全部焼き尽くせば……眼の前の男を倒すことが出来る。


 総判断した伏見弥彦は,ぽぅっと手のひらに青と金の入り混じった鮮やかな炎を作り出した。


「っひ……ま,待て,伏見弥彦……!!」


 命乞いを始める男の言葉は,弥彦の耳に届きはするものの,まるでその心には響かない。


「終わりだ……真賀邦道満」


 そう言うと弥彦は,ひゅっと炎を解き放つ。


 着弾した炎は轟音とともに爆発し,魂の繋がりを伝って作り出した形代ごと真賀邦道満を焼き尽くした。


 ―――――――――――――――――――――――――――――


「っが……かは,ぁあ……がふぅう!!」


 紫の耳や尻尾が完全に消失した道満の身体が地面に叩きつけられる。


 魔法陣が消失し,人々に魂を返したことで神への一時的な進化も解けた俺は,そのままトンっと優雅に着地した。


 皆既日蝕も終りを迎え,月の影に隠れていた太陽が地上界を照らし始める。


「……なんだか,あっという間の出来事だったな」


 眼の前でぜいぜいと息を荒らげる道満に対して,俺の心は穏やかに落ち着いていた。


 恐らく神への一時的な進化を経験したことに加えて,目的を果たした狐魔姫の心の安らぎも影響しているのだろう。


 そんな心の状態を感じながら,俺は道満の方に目を向ける。


 100年間練り続けた計画が失敗し,パートナーにも逃げられた彼の姿は,かわいそうなくらい惨めで小さく,しぼんで見えた。


「っぐぁあ……! はぁ,はぁ……一度,ならず……二度までも……!!」


 わなわなと震える道満は,ぎりっと腕に力を込めると,拳を地面に叩きつけて激昂し始めた。


「くそ……くそ,くっそがぁあ!!


 何故だ……何が不満なのだ,お前たちは!!


 俺が力を手に入れることが,そんなに気に食わないというのか!!」


「……道満……お前,何言って……」


 わめき始める道満の言葉は,開口一番何とも自分勝手で,自己中心的な主張だった。


 そんな様子に憐みの眼を向ける俺を無視して,道満はさらに続ける。


「神よ!! 自分たちだけ力を持っているような,傲慢な支配者たちよ!!


 何が不満なのだ……ただ俺は,強い力を(こいねが)っただけだろうに!!


 他人の自由を侵害することが,そんなに楽しいのかお前たちは!!」


 恐らく目の前の男は,自分がしたことを理解していないのだ。


 この男は本気で,他者を踏みにじってまで自分が力を手に入れることを良しとしている。


「……真賀邦道満。


 お前は根本的なことがわかっていない……お前はどうして俺達が,お前を止めようとしたかわかっているのか?」


「ぁあ……!?」


 ぎろりとこちらを睨む道満。


 妲己との融合を果たしていた先ほどまでであれば,その視線にも覇気や迫力が感じられたのだろう。


 だが今や彼は,力を失い,パートナーにも逃げられ……それに気付いてすらいないのだ。


 そんな男から向けられる殺意に,最早何の感情も抱くことはなかった。


「怨恨だろう,お前たちは……100年前にその女狐の護っていた集落にちょっかいをかけたのが,よほど憎いらしいな。


 愛を感じられないだのなんだの言って……狐魔姫,お前は欲しいものを手に入れられたんだよなぁ。


 自由に,想い願った通りに,誰に邪魔をされることもなく!!」


「……やっぱり,何にもわかっていないんだな」


 呆れてため息を吐くと,俺は少し灸をすえてやるため,鮮やかな青色に戻った狐火を道満に向かって放る。


「何ぃ……っぐぅう!!? がぅぁぁあああああ!!?」


 緩衝法を使うことも出来ない男は穏やかな炎に焼かれて悶絶する。


 傷をつけることなくすぐに火を消してやると,ぜいぜい息を荒らげながら道満は叫んだ。


「はぁ,はぁ……くそが……!!


 おい妲己!! 妲己!! 何をしている妲己!!


 早く来い……霊依憑だ!! 俺を依り代にするんだよ妲己ぃ!!」


「……いないよ,道満。


 もうお前の元に,妲己はいない」


「んな……!!?」


 そう。


 妲己は俺達の攻撃で霊依憑が解除された直後,道満が地面に叩きつけられるよりも早くこの場から一目散に逃げだしていたのだ。


 道満の力にしか興味のなかった彼女にとって,その力を失った彼に最早価値などなかったのだろう。


「そんな,馬鹿な……」


 わなわなと震える道満。


 そのまま崩れ落ちるのか……と思っていると,彼は更に惨めな激昂を見せた。


「ふざけるな妲己ぃ!!


 貴様,どれだけ俺が夢を見せてやったと思っている!!


 戻ってこい妲己!! 主人と共に戦え,妲己!! 妲己ぃぃいいい!!」


 道満がどれだけその名を叫んだところで,もう彼女の耳には届いてすらいないだろう。


 それを俺の身体越しに見ている狐魔姫からは,悲しみと失望の入り混じった感情が伝わってきた。


「弥彦……もう,見ていられません。


 終わりにしましょう……とどめは,私が刺しますから」


 狐魔姫の声が聞こえてくる。


 肯定の気持ちを返すと,彼女は自分から霊依憑を解除し,俺の傍に寄り添って立つ。


 彼女なりの誠意だったんだろうが,その行動は余計に目の前の哀れな男の神経を逆なでしてしまったようだ。


「なんだ,なんなんだお前は!!


 嫌がらせか!? 俺を凌駕する力も,探し求めていた愛も手に入れて……何が違うんだ!!


 お前が求めるものは誰に咎められることなく手に入れられて,俺が求めるものは何度も何度も妨害を受け,阻まれる!! 何が……何が違うというんだ!!」


「……ええ。


 そのようなことすらわからないなんて,思ってもいませんでしたが……本当にわからないようならば,教えて差し上げます」


 そう言うと狐魔姫は,ぼぅっと手のひらに青い炎を浮かばせる。


 驚愕と恐怖にたじろぐ道満に向かって,彼女は真っすぐ言い放った。


「あなたの間違いはただ一つ。


 自分の願いをかなえるために……他人の自由を弄んだことです」


次の話は同日21時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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