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第23話「カウントダウン」

6月8日投稿分の,3話目です。

最終決戦が佳境に入ります。

「あぐぅうう!!」


 狐魔姫の身体が地面に叩きつけられる。


 聞こえてきたのは,とことんまでこちらの精神を逆なでするような,邪悪な声。


「ふぅ……やはり,いかんな。


 どうも戦闘になると,俺も妲己もつい舞い上がってしまうたちのようでな。


 お陰で冷静さを取り戻せたよ……感謝するぞ,狐魔姫」


「な……なんで……!?」


 炎の飛んできた方向に目を向ける。


 漆黒のローブに,紫色の8本の尻尾と狐耳。


 その身体には,先ほどの爆炎球でうけた火傷どころか,それまでの戦闘中に俺達がつけたはずの傷すらもなかった。


「身体を繋げたまま,一時的な分離……まさかそんな技術をお前達が使えるとは思わなかったぞ,伏見弥彦。


 だが残念……俺達には一歩,いや三歩ほど……及ばなかったようだな」


「どういうことだ!?


 お前達は狐魔姫の炎を喰らって,黒焦げになったはずじゃあ……!?」


 驚愕する俺に向かって道満はクスクスとその表情を歪ませる。


「っくくくくく,その表情になることも仕方ないよなぁ……お前たちは,この俺自身の持つ固有能力を知らないのだから」


「お前自身の,固有能力……!!?」


 考えてみれば,たしかにそうだ。


 俺と狐魔姫は,霊依憑でつながっている間,それぞれの固有能力――樹木を造り操作する能力と,狐火を扱う能力――を扱うことが出来ていた。


 それと同様に,真賀邦道満も,妲己の扱う紫の狐火の他に,何か能力を使えてもおかしくはなかったのだ。


 だが,道満がそうした固有能力を使用することはなかった。


 何か隠していたのか……あるいは,直接戦闘に使うようなものではなかったのか。


 いずれにせよ,俺達の疑似太陽火球を喰らって生き延びられた理由が,奴の固有能力にあるということだ。


「そうだ。


 答えを教えてやってもいいが,ただ教えるだけでは面白くないからなぁ……探してみるがいい。


 ただし,出来るものならなぁ……!!」


 紫の炎を鞭のようにしならせ,狐魔姫を狙う道満。


 だがその場所に狐魔姫の姿はなく,炎の鞭は大地を抉って黒焦げにするのみ。


「再憑依……1人と2人を切り替えられるというのも,大概厄介なものだな」


「随分と,余裕そうだなぁ!!」


 蒼炎を纏った俺の殴打を受け止めると,先ほどの荒々しい攻撃とは打って変わって確実に致命傷を狙う一撃をたたき込んでくる。


「っぐ……!!」


 明らかに違う道満の動きに翻弄されてしまう。


 どういうことだ,まるで別人になったかのような……


「……別人に,なった……?」


 はっとして道満を見ると,その口の端がにやりと不気味に引き攣るのが見えた。


 直後,強烈な衝撃が横から飛んできて,俺達の身体は吹きとばされる。


「ぐが……!!」


「っふふふふふふ……


 気が付いたか? 伏見弥彦……俺の固有能力について」


「……そんな,馬鹿な。


 全く別の肉体になっている,っていうのか……!?」


 俺の言葉に邪悪な笑みを浮かべる道満。


 彼は勝ち誇ったように両腕を広げると,自身の能力の詳細を語り始める。


「そうだ,それこそが俺の固有能力……【分霊】の力。


 俺や妲己の魂を少しだけ切り分けて形代に保存しておくことで,活動していた本体が絶命したとしても,形代に保存した魂を使って蘇生することが出来るのさ。


 当然ながら,この山に保存してある形代だって,このひとつじゃあないぜ……何個あるかなんて,教えてやる義理もないがな」


「そ,そんな……形代を使って,蘇生……!?」


 それはつまり,形代の分をすべて倒し切らない限り,真賀邦道満は永遠に蘇生し続けることになる。


 1体分倒すだけでもあれだけの時間がかかったのに,それが何十,下手をすれば何百とある……となれば,皆既日食の始まる正午になんて間に合うはずがない。


 何か,解決する手を考えなければ……そう思ってしまったことで,一瞬だけ狐魔姫との思考の繋がりが乱れてしまう。


「弥彦!!」


「っ!! がはぁあっ!!」


 狐魔姫の声が聞こえた頃には遅かった。


 道満の爆炎を纏った拳が俺のみぞおちに直撃し,意識が吹き飛ぶ。


「ほぉらよ!!」


 意識が途切れた瞬間に道満の蹴りを喰らったことで,精神的な繋がりを軸とする霊依憑の融合が解けてしまった。


「がぐっ……!!」


 地面に叩きつけられる衝撃で意識が戻った俺はすぐに状況を判断し,ばっと元居た場所をに目を向ける。


 そこには,紫の炎の鞭で身体を縛り上げられている狐魔姫の姿だった。


「狐魔姫!!」


「ぁぐぅう……!! や,弥彦ぉ……!!」


「っくくく,かわいい恋人が心配か?


 それなら精々助ける努力をしてみろ」


「ふざけるな……狐魔姫を離せ!!」


 道満の足元に樹木の槍を突き出して攻撃するも,俺一人の魔力では道満と妲己2人の魔力にはかなわない。


 腕を使って簡単に槍を破壊すると,ふんと鼻を鳴らして狐魔姫を拘束したまま炎の鞭を振るう。


「あぁぁあああっ!!」


 戦闘によって倒れた大木の幹に叩きつけられた狐魔姫は悲鳴を上げ,脱出しようと必死にもがく。


 再び霊依憑の融合をすればそのまま助け出すことも出来るのだろうが,2人の意識を合致させなければ霊依憑は成功しないため,道満の攻撃から狐魔姫をまず助け出さなければならない。


「ほぉら,こっちだ」


 邪悪な笑みを浮かべる道満は炎の鞭をぐいっと引いて狐魔姫の身体を自身の足元まで引き寄せる。


 どしゃあっと地面に倒れ込む彼女の頭を,道満は思いっきり踏みつけた。


「あぐぅううっ!!」


「っくはははは! ほぉら,早く助けてやらなくていいのかぁ?」


「くっそがっぁあああああ!!」


 嘲笑しながら狐魔姫の頭をガンガンと踏みつけていく道満に飛び掛かる。


 樹木で造った剣で斬りつけても,今の俺達は霊依憑による融合が出来ないため,同調式緩衝法を使う道満達にダメージを与えることが出来ない。


「ぁぁああああああああああああ!!」


 それでも,俺の攻撃は止まらない。


 樹木の槍を地中から突き出し,樹木の刀を叩きつけ,槍を作り出して振りかざす。


 どれだけ攻撃が無効化されようとも,狐魔姫を離させるまで止まらない。


 一見すれば無意味にも感じられるような俺の猛攻に,道満は苛立ちを露わにする。


「なんだ,お前……意味もない攻撃を,よくもまあそこまで必死に繰り出せるものだな」


「意味がない?


 そんな意味のない攻撃でイライラしてるのは何処のどいつだよ。


 反撃も出来ず,俺の攻撃をひたすら防ぐことしか出来ないくせに!!」


 木刀を道満の眼に向かって突き出すと,俺の言葉も相まって奴の我慢も限界に達したのだろう。


 ばしんと強く刀を払いのけると,そのまま腕を振るって俺の横腹を殴りつける。


「ぐが……!!」


 しかしそれでも,俺は道満から離れない。


「んな……!!?」


「狐魔姫を……はな,せ……」


 道満の腕を掴んだまま樹木の槍を地面から突き出す。


 それは道満の背中に直撃し,道満の余裕たっぷりの表情が一気に歪むのが見えた。


「……貴様……伏見,弥彦ぉお……!!」


 額に青筋を浮かべた道満は狐魔姫を縛っていた炎の鞭を解除し,全力の一撃を俺の顔面にたたき込む。


「がふぁあっ!!?」


 意識が吹き飛び,地面に叩きつけられる衝撃でまた引き戻される。


 瞬間,胸部に道満の脚がめり込んだ。


「がふぁあ……っ,かはっ!!」


「弥彦ぉお!!」


 息が出来ない。


 狐魔姫の俺を呼ぶ声すら遠く聞こえる。


「お前がそこまで言うのなら,お前から叩き潰しやる……大事な恋人を護れて満足か?


 結局のところどちらが先になるかだけで,結局始末することには変わりないというのに……!!」


 道満の蹴りが横腹にクリーンヒットし,俺の身体は雑巾のように吹き飛ばされる。


「っがぁ……!」


「弥彦ぉぉおおお!!」


 激痛に顔が歪み,悶絶する俺に道満の足音が迫る。


「地獄で最愛の恋人を待っているがいい……すぐに向こうの女狐も送り届けてやるからな……」


 紫の炎が迫る。


 万事休すか……そう思った時,突然山中に響き渡るのではないかと思うほどの金切り音が鳴り響く。


「っ……!!


 な,なんだ……」


「ほぅ……っくくく,もう時間か」


「時間って,まさか……!!?」


 上空を見上げる。


 その先にあるのは,煌々と世界を照らす太陽。


 その太陽が……欠け始めた。


「そうだ……皆既日食が,始まる」


 そう言うと道満は,山頂に向けて飛び立つ。


「喜べ……お前たちの命は,ただ無駄に消費されるだけではなかった。


 皇獣族となる俺の中で,永遠に生き続けるのだ……」


「ふざ,けるな……待て,道満……っぐぅう!!」


 飛び去る道満を追おうとしても,身体に激痛が走ってうまく立ち上がれない。


 緩衝法が使えなかったせいで防御が出来ず,あばら骨が何本か折れてしまったのだろう。


「弥彦!! 弥彦ぉお!!」


 慌てて駆け寄ってくる狐魔姫が狐火によって治療してくれたことでなんとか動けるようにはなったが,俺の中にあるのは絶望感だけだった。


 このまま魔法陣が発動すれば,地域中の人々の魂が道満に喰われてしまう。


 だがそれを止めようにも,道満の固有能力である形代がある以上,やつを倒し切ることは出来ないのだ。


 このまま俺は,聖騎士の期待に応えられずに終わってしまうのか……そう思っていた時,突如として俺の携帯端末に通信が入る。


「……え?」


 思わず無意識に応答すると,空中ディスプレイに投影されたのは綺羅先生の姿だった。


 その背後には,真剣な表情の炊屋先生と月魄団長もいた。


「伏見!! 生きておるか,伏見!!」


「綺羅先生……


 すみません,俺達……結局,やつを倒し切ることが……」


 絶望に打ちひしがれる俺達。


 だがそんな俺達に綺羅先生が告げた言葉は,あまりにも衝撃的な内容だった。


「ああ,わかっておる……そうじゃったときのために連絡したんじゃからな。


 よく聞け……ぶっつけ本番じゃが,道満のやつが魔法陣を展開してもなんとか出来る方法があるやもしれんのじゃ」


「……なんですって!!? ほ,本当ですか綺羅先生!!」


 うんむと頷くと,綺羅先生は手短に説明を始める。


 説明が終わることには,日蝕も半分以上進んでしまっていた。


 そして,太陽が完全に月の影に隠れる時……比叡山の山頂を中心に,巨大な魔法陣が輝いた。


次の話は同日18時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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