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第22話「激戦」

6月8日投稿分の,2話目です。

最終決戦が始まります。

「っぐぅう……ぶぐぁあああああああああ!!」


 真賀邦道満の身体が山頂の大岩に叩きつけられ,岩盤を砕きながら地面にめり込む。


 直後,青色の閃光が輝き,大爆発を引き起こした。


 これだ……これこそが,修行の成果。


 炊屋先生が同調式緩衝法を,“身につけることで彼と戦えるようになる理由”とした意味。


 この技法には,ダメージを軽減・打ち消す効果だけでなく,相手のダメージ軽減・打消効果を中和する効果も備わっているのだ。


 俺達が呼吸をピッタリ合わせて攻撃をし続ける限り,もう真賀邦道満にはそれを防ぐ術はない。


 戦える。


 これなら,勝てる。


 そう思った直後,瓦礫の山が吹き飛ばされ,もうもうとした土煙の中から邪悪な紫の爆炎が舞い上がる。


「なる,ほどな……まさか,俺達が出会ったあの日からたった数ヶ月足らずでここまでの成長を遂げているとは思わなんだ。


 貴様ら,一体どんな鍛錬を積んだのだ?」


「何も特別なことはしていないさ,道満……ただ俺のもとに,最高の師匠と,最強の相棒がいただけだ!!」


「戯言をぉおお!!」


 狂気を孕んだ道満は咆哮を上げて跳躍する。


 2人の拳がぶつかり合い,衝撃波が大地を砕く。


 そのまま俺達の戦いは殴り合い,蹴り合い,投げ飛ばされては飛びかかりの大熱戦へと発展する。


「っぐぅうう!!」


 実力差はまさに互角……と言いたかったが,100年分の戦闘経験をたかだか3ヶ月あまりで埋めることは流石にできない。


「っかぁあああああ!!」


 次第に押されていく俺の姿勢が崩れたところで,道満は爆炎を纏った拳を俺の腹に叩き込む。


 なんとか腕でガードして直撃は防ぐことが出来たものの,吹き飛ばされた俺の身体は山の斜面に叩きつけられ,長大な跡を残しながら地面にめり込まされた。


「ぐが……!!」


「っくははははぁあ,戦闘経験はまだまだ足りないようだな伏見弥彦ぉ!!


 期間を考えればよくここまで成長したものだと褒めてやりたいところだが……生憎と俺はお前の師でも盟友でもないんでな,弱ければ弱いほどありがたいというものだ!!」


「くっそが……」


 いちいち鼻につく言い回しでこちらを煽ってくる道満に,はらわたが煮えくり返る思いがする。


 だが,それで気が迷っていては狐魔姫との同調も乱れてしまう。


 そうなれば霊依憑の出力も下がり,益々道満に勝てなくなってしまうのだ。


「弥彦,しっかり」


 狐魔姫の声が聞こえてくる。


 それだけで,奴に向いていた激情が薄れ,2人の息を合わせることに集中できるようになる。


「わかってる……ありがとう,狐魔姫」


 大きく深呼吸し,ぼぅっと狐火の勢いを強める。


 それを見た道満はにやりと笑うと,爆炎を拳に纏わせて一瞬にして肉薄してきた。


「っくははぁああ!!」


 俺は地面に手をつくと,地中から蒼炎を纏った樹木の槍を突き出す。


 槍の先と道満の拳が衝突し,ぶつかりあった衝撃が山を揺らす。


 そのまま槍を破壊した道満はぐりんと身体を回転させ,紫の炎を纏った脚を叩きつける。


 その脚を払い除けた俺は道満の鳩尾を狙った掌底を放つ。


 その手を打ち払い,回し蹴りをする道満,そしてそれをしゃがみによって回避し,それを溜めとしてアッパーを繰り出す俺。


 回避と攻撃,防御と反撃。


 そのひとつひとつに紫と青の炎を纏っており,弾かれた魔力の余波によって中腹の樹海が焼かれていく。


「っくくく……くっははは!!」


 その攻防を繰り返すほどに,道満の目が狂気に見開かれていき,その瞳には力に飢えた獣のような渇望が宿り,その口元は歓喜に歪んでいる。


「っぐ……!!」


 ばっと飛び退く俺の動きを敏感に読み取り,ほぼ同時に道満も跳躍する。


 その挙動に恐らく俺の姿しか見えていないと判断すると,俺は狐魔姫と一緒に尻尾に魔力を込める。


 全力で突き出される道満の腕を自身の両腕でガードすると,樹木によって硬質化させた尻尾を鞭のように振るう。


 その一撃は道満に直撃し,山の斜面に垂直方向に叩きつけた。


「なんなんだ,あいつら……あの感情で,同調している……!?」


 あの狂気の瞳……完全に,この命をかけた戦闘を楽しんでいる。


 戦うことに,傷つけ合うことに,至上の喜びを見出しているような,そんな目をしていた。


「そうみたいですね。


 昔の凛世妃はあんな様子じゃなかったのに……霊依憑を繰り返すうちに,思想に影響されてしまったのでしょうか……」


「そうかも知れないな……大勢の人の命を喰らってまで力を欲するなんて,普通じゃ考えられないと思ってはいたけど……」


 恐らく真賀邦道満という男は,生まれついての戦闘狂なのだ。


 強い力に憧れるのも,超越魔法生物になることを欲するのも,その力を使って戦闘がしたいだけなのだ。


 より強い存在を殺戮し,命をかけた戦いをしたいだけ……どこまでも独善的で傲慢な男だ。


 だからこそ……何としても,ここであいつを倒さなければならない。


「っくひひひ……きひはははははぁあ!!


 楽しいなぁ妲己!! こんな血沸き肉踊る戦いが,もう少しでいくらでも出来るようになるんだぜ!!」


 ぎらりと目を見開いた道満は岩盤を破壊しながら跳躍し,炎の拳を目にも止まらぬ速さで打ち込んでくる。


「っぐぅうう……!!」


 その威力は緩衝法を以てしても防ぎ切ることは出来ず,今度は俺達が空中に吹き飛ばされる。


「っかはぁあああ!!」


 完全に血に飢えた獣と化した2人の猛攻に圧倒され,防戦一方になってしまう。


 だが,こうなることも想定していた俺達は,3ヶ月の修行の間にある技を考案していたのだ。


(弥彦……!!)


「っぐ,ごめん……合わせてくれ!! タイミング見て使うよ!」


 道満の猛攻を耐えながら,俺達は意識を合わせ,更に鋭敏に研ぎ澄ませる。


 今はとにかく防御に集中し,反撃の隙を伺うべきだ。


「っくははははは!!


 防戦一方だなぁ,俺達の体力を使わせて,反撃の隙を伺おうとしているんだろう……そんな事はお見通しだぞ,伏見弥彦ぉ!!」


 狂気の叫びを上げた道満は,全力の殴打を俺に打ち込む。


「っぐぅう……!!」


 腕で防いだ時,俺の体勢がぐらりと崩れる。


 俺の横腹が一瞬だけ空き,ぼぅっと身体に纏った炎の勢いが揺らいだ。


 野生の本能に支配された道満は,そういう隙ほど見逃さない。


 炎をまとった脚を思いっきり振り抜き,俺の横腹に叩き込んだ。


「っがはぁあ……!!」


 内臓にダメージが入り,あばらの軋む音がする。


 俺の身体は吹き飛ばされ,もはやボロボロになった山の斜面に叩きつけられる。


「っくはははは!!


 一瞬の隙が命取りだぞ,伏見弥彦ぉ!!」


 完全にハイになった道満は,そのまま紫炎(しえん)を俺に向かって叩き込む。


 それらは着弾とともに爆発し,山の斜面を焼土に変えていく。


 土煙が山の斜面を覆い隠し,真賀邦道満は勝ち誇ったような声を上げる。


「くふふふふふ……くははははははははは!!


 この程度で終わってしまうのは残念だが……このままでは,遊んでいる間に日蝕が始まってしまうのでなぁ。


 トドメを刺させてもらうぞ……」


 耳まで届きそうなほど歪みきった笑みを浮かべると,道満は手を拳銃の形にし,紫の爆炎をその指先に収束させていく。


 しかし……勝ち誇ったような彼の表情は,収束させた炎を撃ち出す前に,驚愕に歪む事となった。


「……!?」


 突如として,道満の胴体に広がる樹木の塊。


 それはまるで鎧のように彼の身体にまとわりつくと,四肢をがっちりと拘束していく。


「な,なんだ,これは……っぐう!!」


 拘束された道満の身体から魔力が分散していく。


 指先の炎は霧散し,周囲に火属性の魔力が充満していく。


 その魔力は青い炎へと姿を変え,ごうごうと燃え上がって道満を包みこんだ。


「んな……!?


 こ,この青い炎は,まさか……!!?」


「……ようやく気づきましたね,道満」


 道満たちのすぐ後ろにいたのは,道満からすれば俺と一緒に飛ばされているはずの狐魔姫の姿。


 そう……それこそが,俺達が見出した技。


 霊依憑による魔力の繋がりを繋げたまま融合を解き,その反動を使って衝撃を緩和しながら二手に分かれるという技術だ。


 蹴りの衝撃は俺のみにあたえられ,吹き飛ばされるのも俺だけ。


 分離した狐魔姫は奴の背後に陣取り,俺が木属性の拘束魔法を発動すると同時に狐火による火炎球で焼き尽くすのだ。


「狐ぉぉおお魔ぁぁああ姫ぃぃぃいいいいいいい!!」


 道満の絶叫は青い炎によって飲み込まれ,狐魔姫の身体の5倍はあるような巨大な爆炎が形成される。


 その中はまさに灼熱地獄。


 狐火の持つ能力は焼却と浄化の2種類あるが,そのうち浄化の効果を極限まで薄め,内部の物体を焼き尽くすことのみに特化した地獄の炎が真賀邦道満の身体を覆い隠す。


「はぁぁぁあああああ……!!」


 それだけでは終わらない。


 狐魔姫は爆炎球を操作し,火力を高めながらその球体を収縮させていく。


 そうすることで,球体内部に魔力を圧縮し,火力を更に高めていくのだ。


「ここで決めるぞ,狐魔姫……!!」


「はい,弥彦!!」


 たとえ距離が離れていても,霊依憑が完全に解除されたわけではない。


 俺の魔力が狐魔姫の魔力と合わさることで爆炎級の火力は更に高まり,いよいよその内部は太陽表面の熱量にも匹敵するほどになっているはずだ。


 そうして極限まで高めた魔力を,ついに狐魔姫が爆散させる。


 十分に球体から距離を取った狐魔姫は,その拳をぎゅっと握り込む。


 ドガァァァァアアアアアアアアアン!!


 火球は一気に爆散し,衝撃が山どころか周辺の家屋すらも激震させる。


 恐らく街では,原因不明の謎の地震が発生した……なんて噂が飛び交っていることだろう。


 その爆炎が収まった時……その中心には,黒焦げになった道満の姿があった。


「倒した……これで,俺達の勝ちだ……!!


 やったぞ狐魔姫!!」


 狐魔姫の表情も歓喜に震え,俺のもとに飛びついてくる。


 その直後……


「……甘いな」


 びゅっと紫の爆炎が飛んでくる。


 それは認識した瞬間狐魔姫を捉え,彼女の身体が爆音とともに紫の爆炎に包まれた。


「狐魔姫――――――――――――ッ!!」


次の話は同日15時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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