表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/25

第21話「いざ征かん,決戦の地へ」

6月8日投稿分の,1話目です。

最終決戦のステージまで向かう様子が描かれます。

「時が来る……」


 煌々と満月が照らす,比叡山の山頂。


 そこには漆黒のローブを翻しながら歩く男と,8本の尾をなびかせる狐耳の女。


 彼らの背後の虚空には,巨大な円形の孔がポッカリと空いていた。


 次元の裂け目……しかしこれは,人工的に開けられたものではない。


 100年をかけて道満によって山の周辺地域に次元の裂け目が開かれ続けた結果,比叡山の周囲は魔界の魔力による浸食を受け,自然に地上界との境界が崩壊しやすくなっていたのだ。


 しかし,たとえ山の周辺を市街地が囲っていたとしても,この次元の裂け目に気づいている者は誰もいない。


 裂け目を乗り越えて出てきた魔獣たちも,山の中から出る者はいない。


 山の周囲をぐるりと取り囲む,視覚結界,音声結界,認識結……それらの様々な結界によって,わざわざ比叡山を外から認識し,入り込もうとしない限り,お互いに接触することすら出来ないのだ。


 大英霊の次元結界を砕くことができるほどに結界魔法を極め上げ,在原虚也の眼をも欺いた古の魔法師のなせる業だった。


 次元の裂け目から這い出てきて,新たなる皇帝誕生の予感にざわめく魔獣達。


 彼らを背後に据えながら,真賀邦道満は深くため息を吐き,月に向かって両手を広げる。


「明日の正午だ。


 明日の正午,すべてが終わり……すべてが始まる。


 俺達は皇獣族・九尾天狐天津真賀邦命(キュウビテンコアマツマガクニノミト)となり,魔獣達を統べる皇帝として,神にも匹敵する力を得る。


 100年かかった俺達の計画も,ついに完成の時を迎えるのだ」


 既に勝利の感覚に酔いしれる道満。


 その隣でクスクスと愉しそうに笑みを浮かべるのは,彼と霊依憑の契約を結んだ八尾の妖狐……今の名を,妲己(だっき)


 彼女はその妖艶な肢体を傍の大岩に乗せると,愛用の扇子を口元に当てる。


「随分と愉しそうね,道満?


 でも,いいのかしら……本当に何も,懸念することはない?」


「……何の話だ,妲己」


「ほら……あの子たちよ。


 私達と同じ戦法,同じ種族能力を持ちながら……私達に手も足も出なかった,あの子たち」


「……あぁ。 狐魔姫のやつと……あの男は,なんて言ったかなぁ」


 クスクスと嘲り笑う道満。


 その邪悪な瞳にはまだ,伏見弥彦の姿は映ってもいなかった。


「放っておけ,あんな敗北者……どうせ俺と妲己の能力に憧れて,猿真似でもしているのだろう。


 仮に邪魔立てしてきたところで,俺達は奴ら程度ではどうにもならない領域にいるさ」


「うふふふふ……あなたがそう言うのならいいのだけれど。


 昔からあの()は……狐魔姫は,どこか得体のしれない女だったから」


「なんだ,その言い方は?


 どうやら随分とあいつを買っているようだな」


「そんなことないわよ?


 あの子はあなたの天賦の才と貪欲な魂に気付くことも出来なかった……幸せを掴めなかった敗北者なんだから……」


 妲己は道満の身体にすり寄ると,つややかな尻尾をなびかせながら道満の下腹部へと指を伸ばしていく。


 満更でもないように妲己の頭を撫でる道満は,それに応えるように彼女の身体を愛おしそうに撫でていく。


「私達が私達でいられる最後の夜よ,道満……明日に支障が出ないように,楽しみましょう」


 大小様々な魔獣で埋め尽くされ,狂気の咆哮が響き続ける比叡山。


 その頂を照らす月の光は,おぞましく怪しげな妖気を高ぶらせていくのだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 決戦の日……山を取り囲む比叡市は,正午に行われる大規模天体ショーに向けて,にわかに色めき立っていた。


 そんな喧騒を聞き流しながら,俺達は山の麓に立つ。


 振り向くと,綺羅先生と炊屋先生が見送ってくれていた。


「頼んだぞ,伏見……己の役割を,しっかりこなせ」


「はい,先生……狐魔姫のためにも,全力で道満を倒します」


「狐魔姫もね……因縁の相手に,きっちり決着をつけてきな」


「はい,先生……弥彦のため,私の持てるすべてを道満にぶつけて,倒してみせます」


 力強く頷く二人の師匠の眼差しを背に,俺達は手を繋ぐ。


「いくよ,狐魔姫」


「はい,弥彦」


 同時に駆け出した2人の身体は,一瞬の乱れもなく比叡山を囲む結界の中に突入した。


「グォォォオオオアアアアアアアアア!!」


 咆哮を上げる魔獣たち。


 襲いかかる異形の魔獣のうち2体の頭部が,巨大な樹木と青色の爆炎によって吹き飛ばされる。


 直後,巨大な樹木の塊と鮮やかな青い炎が燃え上がり,一気に周囲の魔獣たちを滅ぼしていった。


「おおおおおおおおおおおおおおお!!」


「はぁぁぁあああああああああああ!!」


 奇声をあげながら襲いかかってくる小型の魔獣達。


 それらを生成した樹木の幹で押しつぶし,大槌の形にして砕き割る。


 しかし当然それだけでは不十分で,俺の猛攻は硬い甲殻に覆われた飛翔魔獣に防がれ,肉薄される。


「っく……!」


 俺の懐に飛び込んできた魔獣が横腹を食いちぎろうとした瞬間,横から飛んできた狐魔姫の狐火がその身体を焼き尽くす。


「気をつけて,弥彦!」


「狐魔姫も,危ない!!」


 火炎の魔法に耐性のある蝙蝠のような魔獣が彼女の背後に迫っているのを認識すると同時に俺は腕をふるい,大木を魔獣目掛けて叩きつける。


「ぎゅぴぃ!?」


 甲高い断末魔を上げる魔獣。


 だがそんなものにわざわざ注意を向け続けていられるほど俺達は暇じゃなかった。


 皆既日食の始まる正午が近づく中,俺達は山の中腹付近に広がる鬱蒼とした森林地帯に差し掛かる。


 中型の魔獣が増え始め,更に視界の狭まる中での戦闘……本来であれば,視覚に頼ることの多い地上界の人間にとっては不利な場面だろう。


 だが,樹木を操る能力を持った俺は違う。


「弥彦!」


「ああ,任せろ!」


 樹木のひとつに手をつくと,俺はそこに魔力を流し込む。


 炊屋先生との修業を経て身につけた魔力の操作技術……それを遺憾なく発揮し,俺は根っこを伝って森林地帯の全域に自身の魔力を流し込んでいった。


 木々に俺の魔力がみなぎり,ざわざわと俺の意思に従って周囲の魔獣たちに向かってその枝を伸ばすと,中型の魔獣たちを一気に纏めて縛り上げた。


「はぁぁぁああああああああああああ!!」


 狐魔姫が大きく腕を振るい,中型の魔獣たちを狙って爆炎を放った。


「グギャァァアアアアアアアアア!!」


 樹木に拘束され逃げることの出来ない魔獣たちはそのまま狐魔姫の狐火によって焼き尽くされ,瞬く間に灰と化していく。


 これによって中腹の魔獣たちを一層した俺達は,一気に山頂へ向けて駆け上った。


「グゴオオオオオオオオオ!!」


 山頂に向かうまでの平原。


 そこにいたのは,1体のガガランドスを中心とする変幻獣・エヴィルアークの群れ。


 その奥には,球状に広がる巨大な次元の裂け目が合った。


「自然に発生したもの……あんな感じなのか」


「恐らく,度重なる次元の裂け目の影響で大気の性質が変化しているんでしょう」


 そんな話をしている俺達に向かって,風と共に合わせて10体ものフリーヴァスが襲いかかる。


 だが,そんなものは今の俺達にとって障害物にもなりはしない。


 奴らは叫び声を上げることすらなく,爆炎と樹木によって燃やされ,叩き潰されていた。


「ラストスパートだよ,狐魔姫」


「はい,弥彦……」


 俺の言葉に応えて目を瞑る狐魔姫。


 その身体は淡い光を帯び,青色の炎へと変わっていく。


 その周囲をばりばりと雷撃が駆け巡る……合わせて5体のイヴリスクの気配。


「ビシャアアアアアン!!」


 飛び掛かってくるイヴリスク達。


 だがその爪牙が俺達に届く前に,鋭利な槍と化した樹木が眼にもとまらぬ速さで魔獣達の胴体を貫いた。


 青色の炎が平原を覆い,イヴリスク達はその熱量に耐え切れず串刺しのまま灰と化す。


 その青い炎を無理やり突破してきたのは,俺の出す巨木よりも重厚な岩石の塊で構成されたガガランドスの剛腕だった。


 しかし,その気配も既に探知済み……そしてこの程度の攻撃など,最早避ける必要なんてない。


 すっと片手を前に出し,ガガランドスの殴打を受け止める。


 大地が砕け,衝撃が背後の木々をなぎ倒す……だが,俺達には傷一つつけられない。


 同調式緩衝……二人の息を合わせるだけで,あらゆる攻撃を中和し,無力化する。


 そしてその手を払いのけると,ぽぅっと青い炎を指先に灯し,ガガランドスに向けて撃ちこんだ。


 筋肉の隙間から体内に入り込んだ炎は俺の合図とともに爆裂し,ガガランドスの内臓を焼き尽くす。


 轟音と共に青い炎を吐かされたガガランドスは,身体中から蒸気を発して白目を剥く。


 在原魔獣研究所で出会った頃は脅威でしかなかった魔獣達も,霊依憑があれば,狐魔姫と一緒ならば,怖くもなんともないのだ。


 大地に伏せるガガランドスを確認すると,俺は次元の裂け目の方に狙いを定め,腕に灯した炎を放つ。


 着弾した狐火の焼却と浄化の力によって,次元の裂け目はその規模を縮小し,消滅する。


 そして俺達は……その先にいる,8本の尻尾を宿した黒いローブの男を,視界にとらえた。


「久しいな……狐魔姫の器」


「真賀邦……道満……」


「しかし,良くここがわかったものだ……どこかで計画が漏れたか? まあいい。


 山の魔獣たちを蹂躙できる程度には,多少なりとも成長したようだが……その程度でこの俺に並んだつもりなのだとしたら,おめでたい思考能力だというほかないな」


 不敵な笑みを浮かべながら,道満は手のひらに紫の炎をごうっと燃え上がらせる。


「試してやる……まずこのくらいは,止めてみろ!!」


 狂気に目を見開くと,道満は爆炎を俺達に向けて放った。


 ドガアァァアアアアアン!!


 道満の視界を覆いつくすほどの大爆発。


 確かな手ごたえに,満足そうに道満は溜息を吐く。


 しかし……


「……!!」


 爆炎の中心から飛び出してくる影が一つ。


 ぎっとそれを睨みつけると,道満は防御の構えを取る。


「はぁぁぁあああああ……っらあああああああああああああああ!!」


 青色の爆炎を纏った俺達の拳。


 それは道満の防御を一瞬にして砕き割り,その横っ面をぶち抜いた。


次の話は同日12時半に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ