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第14話「デートと予兆」

6月6日投稿分の,1話目です。

狐魔姫との共闘が描かれます。

「……あいつか?」


 日が落ちて真っ暗になった頃,俺達は先ほど感じた気配の正体を視覚で捉える。


 それは2足歩行の蜥蜴にも似た魔獣族で,身を隠して人間に紛れるためか大きなフードを被っているものの,人間にしては違和感がある程の前傾姿勢と長い尻尾で丸わかりだ。


「はい。やはり強力な魔力自体は感じませんが……忌々しい気配を感じます」


「なるほどな……さぁて,どう動くのが正解か……」


 様子を観察していると,タっと魔獣が駆け出して路地の角を曲がっていく。


 まずい,このままでは見失うか……と思い,慌てて路地の方まで駆け出すと,直後に狐魔姫の声が飛んできた。


「弥彦様,後ろです!」


「んなっ!?」


 その声に慌てて振り返ると,既に眼前まで魔獣の爪が迫っていた。


 しかしそれが俺の顔面を切り裂く寸前,狐魔姫の青い炎が放たれ皮膚を焼きながら蜥蜴の身体を吹き飛ばす。


「ぎゃんっ!」


 べしゃっとアスファルトの地面に叩きつけられた魔獣は,ぶるぶると大きく身体を震わせる。


 すると,体表からざばざばと水があふれだし,狐魔姫の蒼炎を打ち消した。


「水属性を扱うのか」


「しゅるるるぅ……そこの頭の弱い男だけなら,今頃裂き殺すことが出来たって言うのに」


「なんだと……」


「挑発に乗ってはいけません弥彦様……しっかり様子を観察しないと思わぬ返り討ちに会います」


「……わかっているよ狐魔姫,警戒していこう」


 狐魔姫の言葉に失いかけた冷静さを取り戻した俺は,改めて目の前の魔獣の様子を観察する。


 ゆらゆらと身体を揺らしている目の前の魔獣は,流暢に人語を話していることや先ほどの奇襲から,かなりの知能の高さと,地上界への適応力を持っているようだ。


 魔界に棲息し,地上界との関りが薄い魔獣族や妖魔族は基本的に,人語を介することはしないという。


 魔獣族に関しては脳を持たない異形のものが比較的多いこともあり,人語を習得する能力自体をそもそも持っていない場合が大半なのだが,妖魔族などは仮に持っていたとしても習得しないことが大半だ。


 その理由は至極簡単……ただの餌であり虐殺対象でしかない地上界の存在が扱う言語など,そもそも習得する必要がないからだ。


 そんな中でわざわざこれだけの会話能力を有しているということは……何らかの地上界の暮らしに溶け込む必要性があったから。


 恐らくそれが,黒幕の計画に関わってくることなのだろう。


「クシュルルルル……なんの用かは知らないけど,追ってこられるといろいろと困るんでね……この場で始末させてもらうぜ」


「やれるものならやってみろ……誰の指示かは知らないけど,狐魔姫との因縁の相手に関係があるようなんでね……この場で情報を吐いてもらうぜ」


「……クシャァアッ!!」


 予備動作も何もなく突然肉薄してくる魔獣族。


 一瞬驚いたが,攻撃手段が近接格闘なのはわかっている……判断する前に後ろに飛びのき,びゅっと振り抜かれる鋭利な爪を回避する。


 その後,追撃を考慮して木製の盾を両端に展開すると,思った通り,直後に左横から鞭のような尻尾が振るわれ,ばしっと盾にヒットする。


 尻尾に当たった方の盾は吹き飛ばされたが,もう片方に展開したほうは無事であったため,それに更なる魔力を込めて勢いよく魔獣に向かって伸ばす。


 華麗な大ジャンプで回避した魔獣は,びゅるんと尻尾を振り回すと,その軌道上に拳大の水滴が浮かび上がった。


「ヒィアアアッハアァアアアアア!!」


 着地と同時に魔獣は狂気的な叫び声を上げ,尻尾を振るう。


 するとそれに呼応して水滴は銃弾のように一直線に発射され,正確に俺の身体を捉えてきた。


「狐魔姫!」


「はいっ!」


 俺の身体にその凶弾が打ち込まれる寸前で,狐魔姫の青い炎で出来た魔法弾が飛んでくる。


 正確に水滴弾の軌道に介入した炎はその悉くを撃ち落とし,水の蒸発に伴う煙幕が俺の周囲を覆い隠す。


「っち,やはりあの狐が厄介だな……って,ぁあ?」


 火炎弾のいたはずの場所に目を向ける魔獣。


 だがそこには既に狐魔姫の姿はなく,驚いた魔獣は突然消えた彼女の気配を探ろうと周囲に注意を分散する。


 しかし,それが魔獣の運の尽きだった。


「「霊依憑……蒼天華焔木(そうてんかえんぼく)!!」」


「クヒャアア!?」


 立ち上る水蒸気の中から勢いよく伸びてくる,青い炎を帯びた巨木。


 慌てて口から水を噴射して対抗するも,巨木に水分が吸収されるだけでなく鋭利に尖った先端に水が分散され,ほとんどその勢いを止められないまま魔獣の腹部に直撃する。


「グギャアアアアア!!?」


 魔獣の横腹を抉り抜いた巨木はその傷口を青い炎で焼き,自然回復を阻止すると同時に失血による時間的な重症化を防ぐ。


 突然の一撃に大きくひるんだ魔獣の四肢を狙い,逃走出来ないよう木でできた杭を撃ち込んだ。


「「さて……一旦はこんなもんか」」


 水蒸気の煙幕から出てきたのは,青い炎で構成された狐の耳と尻尾が生え,着物のような羽衣を纏った俺。


 在原魔獣研究所で行った最初の霊依憑と比較して,胴体にまで拡大した狐魔姫の魔力の奔流が羽衣の形となっており,より彼女の容姿に近づいていた。


「んな,何だ……急に,魔力が強く……いや,一体化したのか!?


 まさか,あのお方と同じ霊依憑……!?」


「「……あのお方?


 その話,詳しく聞かせてもらおうか」」


「ひぃぃいい!? そ,その話だけはご勘弁をぉぉおお……!!」


 怯えた目つきの魔獣は,俺が話を振った途端にがたがたと震えはじめる。


 情報を聞こうとしただけでこの有様とは,一体どういうことだろうか。


 もしかしてこいつは,黒幕に無理やり従わされているのか?


「「……どういうことだ? 俺達は何も,お前の命を奪うつもりはない。


 ただ,お前がだれの指示でどんな行動させているのか,知りたいだけなんだ」」


「ぁぅう……しかし……


 しかし,それが結果として,私めの命を奪う形となるのです……あのお方の情報を少しでも漏らしてしまえば,ご主人様は足手まといな私めを始末するでしょう。


 お見逃しを……どうか,お慈悲を……」


 がたがたと震える魔獣族。


 その様子を見ていると,だんだんと可哀想になってくる。


 もしかしたらこいつも,何か弱みを握られて無理やり黒幕に動かされているのではないだろうか……もしここで俺達がこの魔獣から情報を得られたとしても,そのせいで彼は始末されるとなれば,後味が悪い結末になってしまうだろう。


 そう思った俺は,心の内側に共生している狐魔姫に問いかける。


「なぁ,狐魔姫……折角捕獲した手がかりだけど,こいつを逃がしてやることって……」


「弥彦様,防御してください!!」


「!!?」


 突然聞こえた狐魔姫の言葉に思わず怯み,反射的に魔獣の方に目を向ける。


 視界いっぱいに広がっていたのは,水の魔力を纏った魔獣の鉤爪だった。


「っぐあ!!?」


 ばちっという音と共に霊依憑が狐魔姫側から強制解除され,弾き飛ばされた俺の身体は地面に叩きつけられる。


 痛む身体を何とか起こして狐魔姫の方を見ると,丁度反撃に狐火を爆発させ,その勢いで魔獣を傍の壁に叩きつけているところだった。


「狐魔姫!!」


「グギャアアアアア!! あ,あづあづ,グゥゥウアアアアアア!!」


 燃え上がる魔獣の皮膚は,しかし狐火の持つ治癒の効果によって焦がされることはなく,灼熱の炎に晒され続ける。


「弥彦様,今度は厳重に……壁に樹木で固定させましょう」


「あ,あぁ……わかった」


 俺は壁や地面から樹木を発生させると,魔獣の四肢と胴体,ついでに尻尾を縛り上げて固定する。


 それを確認すると狐魔姫は狐火の火力を弱め,話せるくらいに調節してやった。


「全く……今の,まさか全部ハッタリだったのか?」


「かもしれませんね……申し訳ありません,私がもっと早く気付けていれば」


「いいんだ狐魔姫……お陰でこれ以降どれだけ嘆かれても慈悲を与えなくていいってことがわかったからな」


「っぐ,クシュルルルル。


 やっぱり,そこの女狐さえいなければ,足手まとい男など一瞬で……グギャアアアア!!」


 再びごうごうと燃やされる魔獣の身体。 心なしか先ほどよりも火力や勢いが強いように感じる。


 俺が声をかけて止めさせる頃には,魔獣は最早瀕死寸前のような状態だった。


「さて……まだ燃やされたくなかったら大人しく,さっきお前の言っていたあのお方ってやつの情報を吐くんだ。


 名前や目的……その能力や一緒に計画している奴らなんかも含めてな」


 しばらく睨みあっていたが,狐魔姫が手に炎を出したことで観念したのか,ようやく魔獣は口を割る。


「わかったよ……吐けばいいんだろ。


 あのお方の……真賀邦道満(まがくに どうまん)様の情報をよ」


「……真賀邦,道満……!?」


 その名前を聞いたとたん,狐魔姫は驚愕の表情を浮かべる。


「知ってるのか?」


「……名前は,聞いたことがあります。


 しかし,仮に同一人物だったとしても目的が……」


「クシュルルル……あのお方の目的は,それはもう崇高なものさ。


 何せ,100年も前から実行していたらしいからなぁ……」


「100年前……それって……!!」


 ちょうど,狐魔姫の神社や護っていた集落に次元の裂け目が出現した時と重なる。


 やはり,繋がっていたのか……?


「クシュルルルル。


 なんだよ,意外と心当たりありそうな反応じゃあないか……もしかして,お前らもおんなじことを考えてたりするのか? おんなじ能力を持っているんだしよぉ」


「ふざけるな,俺達はどんなことがあろうと,魔界の扉を開いて魔獣達を地上界で暴れさせようなんて思ったりはしない。


 なんなんだ,その真賀邦ってやつの目的は……」


 改めて俺が問い直すと,魔獣は意味深長にくっくっくっと不気味に嗤う。


「あのお方の目的は……皇獣族になることさ。


 魔獣族による蹂躙によって描かれた魔方陣を使い,範囲内にいる人間たちの魂を喰らいつくす儀式を執り行うことで……自身のパートナーとなる英霊を皇獣族へ進化させ,自らも超越魔法生物と同等の力を手に入れる。


 そうして得た力は天界を統べる神達にすら迫る,最強の存在となるんだ」


次の話は同日18時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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