第十四歩
「うっ、朝か・・・。」
差し込む日差しに少し眩しそうにしながらも、体を起こす。
三つのベッドを並べたそれはとても広く寝やすかった。 両サイドには昨晩を共に褥を共にしてくれた女性がいる。 転生前ではありえなかった事だ。
穏やかな寝顔で寝ている2人の顔を見ていると、自然と綻んだ。
その視線に気づいてか、2人も起きだした。
「はふぅ・・・おはようございます・・・。」
「おはよう・・・。」
「2人から先に体を清めてきなよ。 俺は後でいいから。」
「はい・・・。 すいません。」
「ありがとう。」
2人は寝ぼけながらもシャワーを浴びるべく、ふらふらと歩いていくがすぐに内股で小走りに。
昨夜の事もあり、悪いことをしたかなと、反省する・・・。
「おっ、お待たせいたしました・・・。」
「手間がかかった・・・。 すまぬ・・・。」
「いや・・・俺にも責任がある。 気にしないでくれ。」
赤面の2人を置いて、俺も逃げるようにシャワーを浴びる。
昨夜の事が洗い流されていく・・・。
汗を流し切り、身体を召喚した石鹼で洗う。 彼女らにも持たせているが、この世界での石鹸は獣臭い匂いがするために2人とも嬉しそうに受け取ってくれた。
こうして身を清めた俺らは、朝食時間の過ぎた宿を出て、外へと繰り出した。
ひとまずギルドに行くことにする。
ギルドに着くと、すぐにこちらに気が付いた職員の女性が近寄ってきた。
「お待ちしてました!すいませんが、着いて来て貰えませんか?」
「それは構わないが・・・。 どうしたんだ?」
「ひとまずはギルマスから詳しい話があるそうです。 お願いします!」
彼女に引っ張られるようにギルマスの部屋へ向かう事になった。
ギルマスの部屋まで逃げないように後ろからも付いてくる職員がいた。
別に逃げないのに・・・。
そんなことを思いながら、ギルマスの部屋のドアを嬢が叩く。
すぐに返事が入り、部屋へと入る。
するとすぐにギルマスが、応接用の椅子に座るように指で指示された。 俺らも説明を聞かなくてはいけないので、座る。
「さて、今回呼び出した訳から説明させてもらおうかな・・・。」
「はい。 お願いします。」
「分かった。 まずは・・・。」
説明は今回の転生者オークキングについて。
彼の魔物が教会の総本山から逃げ出した隔離された魔物だった事とその存在を消したがっている事とその遺体の引き渡しを要求してきた。 勿論、討伐事実自体の抹消も要求してきた。
「・・・。 それだけ?」
「そう思うか?」
「やっぱり?」
「分かってくれて感謝する。」
「それで?俺らをどうすると?」
「・・・。 教会に帰属するか、報奨金の上乗せと監視付きの教会の総本山にあるギルドへの移籍。」
「それ・・・明らかに裏、あるね?」
「発言は控えたい・・・。」
「そうなると、こう呼んだのは・・・逃げる時間をくれると?」
「・・・。 そう思ってくれて構わない。 だが、ギルドは関知しない。 それでも行くか?」
「その答え、分かって言っているでしょ?」
「ノーコメント。 どう取るかは任せる。 だが、貴様を失うのは損失だ。 消えてくれると助かる。 貴様の拠点や宿も監視が付いている。 身一つでどこかに雲隠れしてくれ。 適当な依頼を受けて・・・依頼途中で・・・みたいにな・・・。」
「遠回しに死ねっていうのも、エグイね。 まあ、良いさ。 了解。 せっかくくれた時間だ。 大切にさせてもらうよ。 ひとまず見繕った依頼を受領してから・・・消えるよ。」
俺らは怪しまれないようにギルマスの部屋を辞すると、選ばれた依頼を自然な形を装って、受諾する手続きを取る。
そして、準備がてらに保護している鬼人族の砦兼村を訪れ、族長に会う。 その際に依頼で長期に渡り開ける旨と真相を書いたメモを別れの握手時に渡し、砦も辞する。
<族長編>
いつものように来たマサカツ様・・・。
だが様子が少しおかしかった。 そして別れ際に渡されたメモ・・・。
ひとまず人払いをして、読む。
内容は教会勢に目をつけられたから姿を消す旨と拠点を撤去するが、我らが管理している場所は残す旨、ギルドが後ろ盾になることなどが書かれていて、読んだ後に燃やす旨を書かれていた。
「忝い・・・。」
我はそう言って、囲炉裏にそのメモを投げ入れるそのメモはすぐに灰となるが、字が読めないように火箸で崩して、さらにその上に消し炭と細かくしてある追加の薪を乗せ、その灰すらも紛れ込ませて隠滅した事で、完全に抹消した。
「さて我の仕事をしますかのう・・・。」
そういって囲炉裏の薬缶にある茶を湯呑に注ぎ、一口含んだ後で退室した。
かつて自身の窮地を助けてくれた方の恩義に報いるために。
<族長編・終>
俺らは鬼人族の村を辞したのちは、拠点を消してから宿に戻り、旅支度をして依頼のある地へ向かうのだった・・・。 ただ町を出るまで見張りがいた。
だが、町の外に出ると、その見張りも大幅に減り、数名になった。
その気配はエルフの彼女らは勿論、俺も気が付いていた。
「主様・・・まだついてきます。 いかがしますか?」
「だろうね・・・。 だが、まだ不味いな・・・。 さて、どこで仕掛けるか・・・。」
「まあ、夜が理想でしょうか?」
「そうだろうな。 狙撃・・・かな?」
俺らはあえて気が付かないフリをして、野営する地点を探す。
それも追手の排除も出来るように・・・。
少し岩場に入った所に半地下の洞窟を見つける。
「主様。 あの洞窟はいかがですか?」
「・・・。 そうだな。 さて、どう料理しようかね・・・?」
「楽しそうですね?主。」
「ああ、邪魔な虫は・・・やっぱり邪魔だしな・・・。」
たぶん、今の俺は最近では出していないほどの醜悪な笑顔を見せていただろう・・・。
側にいた2人はあえて言葉に出していないが、完全に獣モードになっていたと思う。
そして、夜になる。
焚火を囲む2人の側を黒装束を着た俺が歩いていく。
「行かれるのですか?」
「ああ。 狙撃なんて面白くないしね・・・。」
「お手伝いは?」
「必要ない。 出来れば、スープを用意しておいて貰おうかな・・・。」
「畏まりました。 いってらっしゃいませ。」
「お帰りをお待ち申し上げております。」
「ああ、行ってくる・・・。」
俺は2人のいる場所から消える。
追手の教会勢のストーカーを消して置くために・・・。 両手に拳銃を持って。




