遺品の国のクリスマス
クリスマスに投稿しようと思っていたのに大遅刻しました。
窓の外を見ると、朝からカメレオンのペンキ屋さんが街を赤や緑に変えていっていた。
何故なら今日はみんなが待ち焦がれたクリスマス。その日は街中どこもかしこも大変な賑わいを見せていた。
——そして此処にもクリスマスに浮かれる物達が。
「ペンギン。絶対にクリスマスツリ-は食べたらダメだよ」
念を入れるようにウサギがペンギンにはっきりと言った。ペンギンはさすがにあれは食べないよと言った様子。
視線の先には立派なクリスマスツリーが一本、飾り付けられるのを今か今かと待っていた。
このクリスマスツリーはこの時期になると、探し物屋でカラスが物達に配っているのである。
じつは裏の森には、もみの木があり、今年はウサギ達三匹も伐採の手伝いをしていたのだ。ちなみに伐採しているときにウサギの不注意で木がペンギンに直撃してしまいペンギンが一週間修理屋から出てこれなかったことは事故を含めて思い出である。
そんな思い入れいっぱいのクリスマスツリー。だからこそ三匹は今回のクリスマスは特別なものになりそうだと予感していた。
ガチャリと部屋の扉が開く音がして、ウサギが扉のほうを見るとネコが両手いっぱいに紙袋を持ち、扉を開けづらそうにしていた。見兼ねたウサギが扉を開け、感謝の言葉をかける。
「お疲れさま。買い出しをしてきてくれてありがとうネコ」
ウサギがそう言うと、ネコはやれやれとジェスチャーをして、疲れたという顔をしながら荷物をキッチンに置いた。
きっと駆け込み需要で店に客が沢山居たのだろうとウサギは考え少し申し訳なく思った。
後からキッチンにやって来たウサギはネコが置いた紙袋から小麦粉や卵などの材料を取り出した。そして棚からボウルや泡立て器を取り出してウサギは二匹にこう言った。
「飾り付けは夕方にして先に料理を作っておこうか。それまで二人は好きなことしてていいよ」
だが二匹はキッチンにとどまっている。
それを見たウサギは不思議に思い問いかけた。
「どうしたの?」
するとネコは鞄から小さなホワイトボ-ド(ウサギにもらったもの)を取り出しこう書いた。
『自分も手伝っていい?』
その字はこの国に来た頃と比べるととても上手になっていた。
「手伝ってくれるの?」
とウサギが返すと二匹は『うん』と言うように頷いた。
しばらくウ〜ンとウサギは悩んだ。そして悩んだ末にこういった。
「それじゃあ二人にはアイシングクッキーの型抜きを手伝ってもらおうか」
ウサギは冷蔵庫からクッキー生地を取り出し、あらかじめキッチンぺ-パ-を敷いておいたテ-ブルの上に置く。
そして麺棒を取り出し生地を薄く延ばすと、あっという間に生地は均等の薄さになっていった。
そしてウサギはネコとペンギンに型抜きを渡す。
「二人ともクッキーの型抜きはしたことある?」
ウサギが質問すると二匹は首を横に振る。
それを見たウサギはこうするんだよと手本を見せながら生地の型を取っていく。するとそこには星の形をした生地が型抜かれていた。
それを見た二匹は自分も! というように型抜きを手に持ち、ぺったん、ぺったんっ。
しかし、ネコは押し込み力が足りなかったのか生地が切れずに跡が付くのみで、ペンギンは生地が型から外れず、歪になってしまう。
落ち込んだ二匹。それを見かねたウサギは「誰だって初めは上手に出来ないものだよ。だからそんなにへこまないで」と励ました。
それを聞いた二匹は頑張ると頷き、ぺったん、ぺったんと型抜きを続けていた。
しばらくすると何処からともなく甘い良い香りが漂って来た。
二匹は型抜きをやめ、何のにおいだろうと辺りを見渡す。
するとウサギがオ-ブンで何かを焼いている。ネコがウサギに何を焼いているのと聞くとウサギはこう言う。
「今、スポンジケ-キを焼いているんだ」
ネコは目を輝かせ、ウサギにホワイトボ-ドを見せる。
『それ昔、友達も焼いていたことがある』
「そうなんだ。君の友達の家では手作りだったんだね。僕がいたところはお店で買うことが多かったから、作れるか不安だったけど」
そういいながらウサギはオ-ブンを開けた。
鍋つかみを手にはめ、焼きあがったスポンジケ-キを取り出す。二匹がケ-キ型を覗き込むとそこには湯気を立たせながら淡い黄色をした柔らかそうなスポンジケーキが出来上がっていた。
初めてそれを見たであろうペンギンは何だろうと言うように首を傾げる。
ウサギはオーブンから型にはまったスポンジケーキをキッチンの作業台へ持ってゆく。
トントンと揺らしウサギは型からスポンジケ-キを外した。それをケ-キク-ラ-に載せる。
「しばらく粗熱を取るから二人とも触ったらだめだよ」
二匹は湯気の立つスポンジケーキを興味津々に見つめながら頷いた。
スポンジケ-キを冷ましている間にクッキ-生地の仕上げを三匹でしていく。
型を抜いた生地に卵黄を塗っていくと、卵黄が塗られた生地はまるでべっこう飴の様に輝いた。
それをオーブンに入れ焼いてゆく。
ネコがホワイトボ-トに文字を書き二匹に見せる。
『楽しみだね』
二匹はそうだねというように顔を見合わせた。
時間がたちスポンジケ-キの粗熱が取れた頃にウサギはナイフでスポンジケーキを横から切ってゆく。すると丸いスポンジが二枚出来上がった。
そして冷蔵庫から泡立てられた真っ白い生クリームと苺を取り出した。
その横で苺を食べようとするペンギンを阻止するのにネコは大忙しだ。
そんな二匹を横目にウサギは生クリ-ムをパレットナイフですくいスポンジケ-キに乗せた。慣れない手つきでクリ-ム全体に塗っていき、今度は薄くスライスされた苺を並べ、もう片方のスポンジケーキを上に乗せる。そしてもう一度クリ-ムをパレットナイフで伸ばしていくと瞬く間にショ-ケ-スに売られているケ-キの様になっていった。
ウサギは残った生クリ-ムを金具が付いた袋に入れて、袋の口をキュッと閉め金具が付いた先端にクリ-ムが寄るようにしていった。そしてケ-キから少し離したところに袋の金具を近づける。袋の口から下に向かってクリ-ムを絞りだすとクリ-ムが出てきくる。それを小刻みに動かすと二枚貝の様な模様になってっていった
二匹はその光景釘付けになって見ているとその視線に気が付いたのかウサギは嬉しそうな様子で話しかける。
「ケ-キにデコレ-ションしてみる?」
ネコは初めは不安そうな表情をするがペンギンはやる気に溢れていた。
ウサギが生クリ-ムが入った絞り袋を渡すとペンギンは意気揚々と力いっぱい絞った。
もちろん力の入れすぎでクリ-ムが飛び出し、辺り一面がクリ-ムだらけになってしまう。
それを見たネコは自分の方が上手にできると言うようにペンギンから絞り袋を奪い取った。
だが上手くウサギのように綺麗な模様が出来ず肩を落とした。
しばらく三匹であくせくしながらも、最後の仕上げに苺を乗せると、立派なショートケ-キが完成した。
見た目は少し不格好だが三匹は出来栄えにとても満足していた。
そして三匹は焼きあがったクッキーにアイシングで色を付けたりしていると、窓の外は茜色に染まる。
そして月が現れ始める頃。
「そろそろクリスマスツリ-の飾りつけをしようか」
ネコ達は倉庫から、少し埃をかぶった段ボ-ルを運んでいく。それをクリスマスツリーの傍に置き中身を空けると、段ボールにはツリーに飾りつけるボ-ル型のオ-ナメントや黄金に輝く星などのデコレ-ションアイテムが入っていた。
そしてペンギンの運んできた段ボ-ルにはクリスマスツリーに巻きつけるLEDのロ-プライトが入っていた
ペンギンがロ-プライトを取り出し、興味津々に眺めていると紐が絡んでしまう。直そうとしてが余計に絡まり、しばらくジタバタと暴れていたが諦めて座り込むことにした。
その間にネコ達はてきぱきとクリスマスツリーを飾り付けていく。
そして飾り付けがほとんど終わる頃にネコは段ボ-ルから星の飾りを取り出した。
そして椅子をツリーの近くまで寄せ、椅子に登り、手に持った星飾りをクリスマスツリーのてっぺんに飾り付けた。
飾り付けを終えたネコは誇らしげな顔をしてウサギを見つめる。
「やっぱりクリスマスツリ-に星の飾り付けをするといよいよクリスマスって感じだね」
ネコは椅子から降り『そうでしょ!』『そうでしょ!』といった様子だ。
ペンギンは好奇心でクリスマスツリーを近くで見ようと足を動かすが、ロープライトが絡まったままで動きずらい。
どうにか頑張って足を前に出したそのときペンギンは体勢を崩し大きく転んだ。
その先にはさっき飾り付けが終わったクリスマスツリー。
大きなものが倒れる音で、ウサギとネコはびっくり。
ペンギンは飛び起き、辺りを見渡したが先程までそこに立っていたクリスマスツリーがない。
それは無残にも倒れ、ボ-ル型のオ-ナメントは割れ破片が散らばりクリスマスツリ-の枝が何本も折れてしまっていた。
ペンギンは冷や汗を流しながらウサギ達を見た。
二匹とも口をポカ-ンと開け、まだ状況が理解できていない様子であった。
それを見たペンギンは二匹を怒らせてしまったと恐れおののいた。
なぜなら二匹が今日のクリスマスのために何ヵ月も前から時間をかけ準備していたことを知っていたからだ。
ペンギンは自分がせっかくのクリスマスを台無しにしてしまったことが怖くなって、気が付けば足がドアに向かっていた。
目に涙をためながら家を飛び出すペンギン。ネコはペンギンを止めようと手を伸ばすが、その手は虚しく空を切る。
扉がバタンと閉まる音と共に、しばらく部屋は静寂に包まれる。
ネコが慌てた様にペンを走らせる。
『どうしよう、追いかける?』
「僕が思うに、今連れ戻してもペンギンは嫌がるかもしれない」
どうしようという表情を浮かべるネコ。
実はこのクリスマスはペンギンのために準備していたものだったのだ。
ネコが遺品の国に来て間もない頃。
忘れ物屋までの道中、ネコが昔、自分がクリスマスプレゼントだったことが話題になった。
ウサギとはクリスマスの話題で大盛り上がり。
ウサギの家ではクリスマスになると親戚や会社のお得意さんらを招いて大きなパ-ティ-をしていたらしい。ネコはそのパ-ティ-の大きさに驚いた。
なにせネコの家のクリスマスは友達とその両親や祖父母が集まる庶民的なものであったからだ。
そんな話をしていた際、ネコはペンギンの反応に違和感を覚えた。いつもは世話しなく動く目が一点を見つめて動かないからである。
まだ知り合って間もないから自分の思い違いだとネコは考えていたが、数か月前、ウサギと本棚を整理していた時にネコはペンギンについて聞いてみたのだ。
『ペンギン、道中、自分達、クリスマスの話していると、楽しくなさそう、だった』
それを見たウサギは後ろめたそうに、「実はペンギンはクリスマスそのものを知らないんだ。それが食べ物なのか人の名前なのかもわかってないと思う。だってペンギンはクリスマスを祝われた事すらないから」といった。
『ウサギはペンギンのことを良く知ってる、ペンギンとお話しする、方法が、ある、の?』
ウサギは首を横に振り、手に持っていた本を本棚にゆっくり並べていく。
「ペンギンの気持ちは表情と動きでしか僕にもわからないよ。ペンギンは言葉すら持たないんだ。だから文字を書いたり喋ったりすることができない」
『だったら、どうして、ウサギはペンギンのこと、たくさん、知ってる、の?』
本を持つウサギの手が不自然に止まった。
「…………生前色々とあったんだ」
それがウサギが初めて言葉を濁した瞬間だった。
ネコもそれ以上は聞かず黙っていると静けさが広がる。
だがその静けさを破ってネコは一冊の本を手に持ちウサギに駆け寄ってとある本を見せた。
『ペンギン、クリスマス知らない、だったら、ペンギン主役、の楽しい、思い出になる、ような、クリスマスパーティー、開こう』
その手に持っていた本は様々なケ-キやクッキーの作り方が書かれたレシピ本であった。
ネコの提案によってその後ペンギンには内緒で着々と準備が進んでいたのだが、主役のペンギンが家出をしてしまった。
呆然と立ち尽くす二匹。
するとウサギが何かを思いついた顔をする。そして小声で「そうだこれなら」と独り言をつぶやく。そしてネコの目を見つめるその目には現状を打破するアイディアが浮かんだという様な自信に満ち溢れていた。
「ネコ手伝ってくれるかい?」
窓の外はもう夜の帳が下りているが——まだクリスマスは始まったばかりだ。
森の中をウサギとネコは急いで走る。すると忘れ物屋の看板が見えてきた。
其処ではカラスがラジオを聞きながらノリノリで料理を並べていた。
何故かその料理は二人前であることが少し不思議ではあるがこの際どうでもいい。
ウサギがカラスに近づき、「カラス、相談があるんだ」と大きな声で言う。
するとカラスも負けんばかりに、「諦めな、家庭用のもみの木は全部もらわれていったぞ」と返事をした。
「カラス、僕は別にツリーを貰いに来たわけじゃないんだ」
それを聞いたカラスは怪訝そうな顔をする。
「じゃあなんの用だよ。ちなみに忘れ物屋は定休日だぜ」
ウサギは両手を広げる。そしてこう言った。
「ここでクリスマスパ-ティ-を開きたいいんだ」
カラスの口からはぁ?という言葉が漏れた。
「ここでか?」
カラスが聞くとウサギはそうだと言わんばかりに頷く。豆鉄砲食らった鳩みたいな顔をしてカラスは下を向き考え込んでしまった。
「いや、でもな……」
口ごもるカラス。
するとネコがホワイトボ-ドをカラスに見せた。そこにはこう書かれている。
『ペンギンのためにパ-ティ-を開いてあげたいんです、お願いします』
それを見たカラスはもう一度考え込む仕草をした。
「ペンギン? ……。あぁあの時、本を飲みこんでウサギに怒られていた奴か」
ネコはホワイトボ-ドの文字を消してもう一度文章を書いた。
『実はペンギンがクリスマスツリ-を壊してしまったんです、そのせいで家を飛び出してしまって』
それを見たカラスは興味なさそうな感じで「ふ〜ん」返事をする。
「だから大きなパ-ティ-開いて慰めてやろうってか」
「ペンギンは人生で今日が初めてのクリスマスなんだ。だから嫌な思い出にさせたくない」
それを聞いたカラスは黙りこむ。そしてしばらくして重い口を開けた。
「……まぁ場所ぐらいは貸してやる」
それを聞いた二匹は喜んだ表情を浮かべた。するとカラスがだだし、と付け加える。
「条件が二つある。一つ目は出来るだけ此処を豪勢にしろ。そしてこの国の物達をありったけ呼んで来い。二つ目は——」
ネコとウサギは今度は国中を駆け回った。
子ギツネのポップコ-ン屋さんやリスの親子のベ-カリ-店。隣街のハムスタ-の映画屋さんなどなどいろんなモノたちに呼びかけて行く。
行きつけのハリネズミの修理屋さんに事情を話した際に何匹もの従業員達が快く、返事をしてくれた。
そして、その準備中、ペンギンの修理をしてくれたハリネズミがおどおどとした様子でこう言う。
「ウサギさんペンギンさんはそのパ-ティ-に来てくれるかしら。もし私がその立場だったら顔を合わせづらいわ」
「…………。確かに僕のしようとしていることは自己満足かもしれない。確かにパ-ティ-に来るか来ないかはペンギンが決めることだから……」
二匹の顔色が暗くなっていくと、それを見たネコはこう書き見せた。
『そんな暗い顔のパ-ティ-だと絶対にペンギンは来ないよ、だってペンギンは楽しそうな物達の集まりに混ざるのが好きだから』
それを見たウサギとハリネズミは少し微笑みを浮かべながら顔を見合わせた。
「たしかにペンギンはそういう特徴があったね」
その後もウサギとネコは国中を走り回った。
しばらくするとぽつり、またぽつりと物達が忘れ物屋に集まって来ると、各自いろいろな手土産を持って来てくれた。
そして時間が経つにつれ、パ-ティ-会場は豪勢になっていったのだ。
その時、パーティーの準備をしていたウサギがネコに言う。
「カラスが『ペンギンを呼んできてやるからそれまでに準備しろよ』って言ってたけど大丈夫かな」
ネコはウサギにホワイトボ-ドを見せる。
『だいじょうぶ、だってカラスは探し物のプロだもの』
一方、その頃、ペンギンは誰もいない路地裏を歩いていた。
ペタペタと足音が虚しく響くなか歩いていると、道のゴミ袋に足が引っかかった。
そのまま、ペンギンはうつ伏せに倒れたまま起き上がらなかった。
何故なら、ペンギンは昔のことを思い出していたからだ。
ペンギンが遺品の国にやって来たのはネコがくる少し前のことだった。
ペンギンによく似た、おもちゃたちと共に。
けれどもペンギンは孤独だった。
なぜ自分は捨てられたのか、どうして周りのモノたちと自分と同じ見た目をしているのか。
ペンギンは自分が捨てられた理由が分からなかった。だからこそ一匹でいるとそんなことばかりを考えてしまうのだ。
それが嫌で、ペンギンはコウテイペンギンのかき氷屋さんで働いていた。
初めは仲間ができたと喜んでいたペンギンだが周りのコウテイペンギン達の表情を見ていると何故か疎外感が否めなかった。
周りは親切で優しかった。
ペンギンもそれに答えようと頑張って働いた。
けれどもコウテイペンギン達とペンギンでは明らかにペンギンにだけ何かが欠けていたのだ。
そんな違和感を感じながらも、ある日のこと。商品の氷を食べてしまい、商品の注文を間違え続けたのでペンギンはクビになってしまった。
ペンギンはまた一匹になってしまった。
ペンギンは行く当てもなく噴水近くのしょぼん玉をただ呆然と眺めていた。
すると知らない誰かに話しかけられる。
「どうしたの。君、もしかして迷子になっちゃったの?」
そこに居たのは、綿菓子を持ったウサギのぬいぐるみであった。
ペンギンは返事もせず遠くを見つめている。
「家がどこらへんかわかるかい」
ウサギのぬいぐるみが質問してくるが、ペンギンは首を横に振る。
しばらくすると、ペンギンの腹の虫がぐ〜っと鳴り大きく鳴った。
ウサギのぬいぐるみはその大きな音に驚きながらも、「食べる?」と言いながらペンギンに綿菓子を渡す。
ペンギンにとって初めての綿菓子は、雲を捕まえてきたように思えた。
消えないかと恐る恐る口に入れると、砂糖の優しい甘さが広がる。
その甘さに、言い様のない衝撃を受けたペンギンは無我夢中で食べた。溶けた綿菓子がへばり付いてもお構いなしに
そして瞬く間に完食。
ペンギンは満たされたような幸せな気持ちになっていた。
それを見ていたウサギのぬいぐるみは苦笑いを浮かべながらも「おなかがすいていたんだね」と呟いく。
「もし困ったことがあったら大通りを右に曲がると交番があるから其処に行くといいよ」
そしてウサギのぬいぐるみは歩き去っていく。ペンギンも後ろを付いて行った。数歩、歩いたところでウサギのぬいぐるみは振り返ってこう言う。
「交番は反対方向だよ」
そしてまた歩き出すと、その後ろをまたペンギンは付いて行く。
しばらく歩いたところでウサギのぬいぐるみはペンギンに疑問を投げかけた。
「もしかして君帰る家がないの?」
ペンギンは下を見ながら頷く。ウサギのぬいぐるみはしばらく考えるそぶりをしてこう言った。
「なら家に来る?」
ペンギンは信じられないといった様子であった。
「嫌なら断ってもいいよ」
ペンギンは首をブルブルと横に振り、そして駆け足でウサギのぬいぐるみの後ろに付いて行った。
それがペンギンのウサギと始めての思い出であった
ペンギンはその時のことを思い出して涙が零れてくる。涙を手でゴシゴシと拭き、堪えるように上を向いた。
すると星空を背に黒い大きな鳥が飛んでいた。それはペンギンを探していたカラスだった。
カラスはペンギンを見つけ降下すると、偶然を装ってこう言った。
「よぅ、ペンギン一匹で居るなんて珍しいじゃねぇか」
ペンギンはそっぽを向く。
「おいおい話も聞いてくれねぇってか大きな忘れ物さんよ。お前んとこのウサギがうちに来たぜ。なんでもアンタのために大きなパ-ティ-を開きたいんだとよ」
ペンギンは暗い表情を浮かべ俯いた。その顔は、自分には其処に行く資格なんてないという様であった。
見兼ねたカラスが言う。
「話は聞いてる。お前クリスマスツリーを壊しちまったんだってな。でもわざとじゃないんだろ?」
ペンギンはコクリと弱々しく頷く。
「ならこれからどうすればいいのか分かるよな」
ペンギンは首を横に振る。
「お前生前相当愛されなかったんだな……。仕方ない、俺が一つ魔法を教えてやろう」
魔法? というように首をかしげるペンギン。
「ウサギにあってゴメンナサイって言うんだよ。ちゃんと心を込めてな」
ペンギンは困り果ててしまった。何故ならペンギンには内蔵スピーカーが無いため声が出せない。
それに気がついたカラスはあちゃ-というように羽を頭に当てる。
「困ったな、喋られないのか。じゃあ文字は書けるか?」
それも無理というように首を横に振るペンギン。カラスは困った様子でなにかを思案していた。
「そうか、そうなると——。ちょっと待ってろ」
すると、カラスは慌ただしく羽を広げ、何処かへ飛び去っていった。
しばらくすると、カラスは口に紙袋を咥えて帰って来た。
「ペンギン! ウサギに謝りに行くなら俺の背中に乗れ」
ペンギンは一瞬戸惑った。合わせる顔がないと。けれども意を決して、カラスの背中に飛び乗った。
ペンギンの結構な重さに、カラスの口から言葉が漏れる。
「鳥は鳥でもお前は飛べない鳥だからな……」
それを聞いたペンギンは怒ったように『ペチペチ』とカラスを叩いた。
「イテテ、分かった一言余計だったな! ハイハイ、俺が悪うございました。それじゃ落ちないように気をつけろよ」
そういってカラスは羽を羽ばたかせた。
風を切る音と共にあっという間に目線が高くなっていく。すると街の光が蛍のように小さく見えた。
ペンギンは自分で空を飛んでいるかのような気分になり、喜んで両手を上げる。「危ないぞ」とカラスに怒られてしまっても、へのかっぱ。
街を眺めるペンギンは街中の光がキラキラと光るさまに感動で息を呑んだ。
すると、想像もつかないほどの優しい声でカラスが言う。
「いい景色だろう? 実は俺、このクリスマスの日の空を飛んでいたくて休業日にしてんだ。これは誰にも言うなよ、秘密だぞ」
うん! とペンギンは頷いていた。
森の方に飛んでいると街の光に負けないほど輝いている場所が見えてきた。
そこは忘れ物屋であった。
忘れ物屋の一本の大木には飾り付けが施され、物達がわいわいと楽しそうな様子である。
その場所へとおもむろに降りるカラス。
「これ渡してこい」
そう言ってカラスは咥えていた紙袋からクリスマスレターを取り出しペンギンに渡した。
ペンギンはそれを大事に手に持ち、ウサギのところへ急いで走って行った。
「ペンギン来てくれたんだね」
ウサギが嬉しそうにそう言うとペンギンは手に持っていたクリスマスレタ-を渡す。
「これ僕に?」
ウサギが手紙を指差しそう聞くと、ペンギンは強く頷いた。手紙を開くと達筆な字でこう書かれていた。
『クリスマスツリー壊してごめんなさい』
「ペンギン」
ペンギンは怒られてしまうと思って肩を強ばらせた。
「気持ちは受け取ったよ。僕も君に秘密にしていてごめんね。実は前からペンギンのためにクリスマスパーティーを計画していたんだ。ほら、みんなで色々準備したんだ」
ウサギはペンギンを手招きし、料理が並べられた大きなテーブルの元へと向かう。
そこにはこんがり焼けた七面鳥に砂糖菓子で出来たサンタクロ-スが乗ったカップケ-キなどが準備されていた。
そして真ん中にはペンギンたちが作ったあのショートケーキが。
「ペンギンメリークリスマス。今日はペンギンのために準備したんだ。みんなで」
ペンギンが周りを見渡すと、遺品の国の物たちが沢山いた。
なかには見知らぬ顔も顔馴染みの物も居て、その誰もが楽しそうであった。
ウサギがせ―のっと合図をする。すると物達が一斉に手に持っていたクラッカーを鳴らす。
「「「ペンギンメリークリスマス」」」
ペンギンは初めは驚いていたが無邪気に笑っていた。その顔はペンギンの一生の中でもひときわ輝いたものであった。
ネコの提案でハムスターの映画屋さんに手伝ってもらい映画を上映していた時のこと。
ペンギンがチキンを片手に映画に没頭していた間にウサギは席を離れカラスの傍に居た。 ウサギがおもむろに口を開ける。
「二つ目の条件、謝る機会を与える。最初はどうなるかと思ったよカラス」
カラスは木にもたれかかりながら。
「俺もアイツを迎えに行った際には困ったぜ。作りの問題でお前みたいには喋れねぇわ、ネコみたいに文字は書けないしで苦労した」
「やっぱり君だったんだねあの言葉を書いたのは」
「いいや俺じゃない。あれはペンギンの言葉さ」
カラスがはぐらかすようにフッと笑うのを見て、ウサギはそれを見てカラスらしいと思った。
そしてカラスは遠い星を見つめながら言う。
「仲直り出来るなら謝っとかねぇと、いつか後悔するからな……」
「白ガラスの話かい?」
カラスは声を絞り出すようにこう呟いた。
「——あいつは俺よりも先に人に忘れられちまったからな。それにお前のその行動が偽善だったとしてもあの二匹にとってはお前も大事な家族なんだ。だからこそアイツらとの時間、大事にしてやれよ。いつ誰が忘れ去られるか分かったもんじゃねぇから」
「肝に銘じておくよ」
そういってウサギはペンギンのもとへ戻って行く。
ちょうどウサギが戻るころには映画の上映が終わる頃であった。
ウサギはペンギンに聞いてみた。
「ペンギン、クリスマスは楽しかった?」
ペンギンは「楽しかったよ!」というように飛び跳ね喜んでいた。それを見たネコとウサギもつられて笑う。
夜空に流れ星がきらりと輝く。それはまるでペンギン達を祝福するようであった。
誤字脱字あったら教えて下さると幸いです。