タイムスリップした私は小学校で習った歴史ぐらいしか覚えていないが、私情により、大化の改新を阻止することにした
気持ちのいい小春日和だった。
私は川の流れを眺めながら少しだけと土手に腰掛けた。
子どもの楽しげに笑う声がする。駆けっこのようだ。
気がつけば夕暮れになっていた。いつの間に?
ふと、目の前に変わった・・・時代劇の平民役というか・・・ボロボロでは無いけれど、質素な服装のおじさんがいた。30歳ぐらい?
先におじさんが口を開いた。
「女人か? 私は蘇我入鹿という」
「はぁ」
と私は答えた。ソガノイルカ、が名前だと分からなかった。
「見つけたから、お前を拾い、世話をする」
「へ? どういうことでしょうか」
「そうしろと命じられたのだ」
「命じられたって、誰に?」
「母にだ。母はたまに予言を神から賜る。言うとおりにお前がいたので、当たりだったようだ。まぁ外れが多いものだが」
意味がわからなかった上に、周囲も見回して私はポカンとした。
景色がまるで今までと違った。
いつどうして、どこに迷い込んだのだろう。
時間も場所も全部すっ飛ばして、先程までいた場所とは違うところにいることだけは分かった。
***
あまりに何も分からなすぎて、いるかさんの世話になった。
そがのいるか。
聞いた覚えがある。
大化の改新だ。倒される側の方だ。
時代劇だろうかと思いもしたが、今繰り広げられている世界は演劇ではなく本当の日常のようだ。
タイムスリップした、と思いつくと、それが一番ピッタリきた。
目の前が演劇ではない以上、疑う余地が持てない。
タイムスリップの場合、なぜ私にこんなことが起こっているのだろう。何か悪いことでもしたのだろうか。
大体は偶発の印象もあるが。
そんなことを考えつつ、私は、ここの暮らしに馴染んだ。
いるかさんのお母様の予言が、大切な拾い物をするだろう、という内容だったので、客人というか、丁寧に良い暮らしをさせてもらえたからだ。
ある日、いるかさんのお父さんにも会うことになった。蘇我蝦夷だ。
在りし日のおじいちゃんよりだいぶん若いと思うけど、昔に亡くなった私のおじいちゃんに似ている。怖い人かと思ったら全くそうではなく、なんだか良い感じの人だ。
***
毎日よくしてもらって、私は真面目に考え込んだ。
私は歴史に詳しくない。しかし、小学校中学校で歴史は普通に学んでいる。
蘇我蝦夷と入鹿は記憶にあった。歴史の初めの方だからだろう。大化の改新に出てくる人だ。
中大兄皇子と藤原鎌足に襲撃されて命を落とす。
「えー。どうしよう」
私にとっては私を拾ってくれて住まわせてくれるメチャクチャいい人だ。それがクーデターで殺されてしまう。
ある日殺されると知っていて黙っていて良いんだろうか。
いや、黙ってないと説明に困るんだけど。
あとはそもそも、今が何年かも、西暦じゃないから私には分からない。つまり大化の改新がいつなのか、明日なのか数年後なのかも全く分からないのだ。まぁそもそも、大化の改新が西暦何年だったか思い出せていないけど、西暦で思い出す事に意味がない。
ゴロゴロと床を転がったりしながら悩んだ末、私は結論を下した。
「襲撃を防ぐことを頑張ろう。結果殺されても、歴史がそうだから仕方ない、けど、何もしないとか無理だし。そもそもこの状況で蘇我さん家が全滅って、私もう生きていけない」
私はできる範囲で動くことにした。
そして、剣と板を組み合わせて特製の盾を作ってみた。良い感じだったので12枚準備することに成功した。布を巻いて、一見、何かわからないように工作もした。
私も知識人のふりをして入鹿さんに同行するように心がけた。
そして、私がこの世界に来てから4ヶ月ぐらい経った時。
襲撃を受けた。
「ぎゃー!」
と私は叫んでしまったが、すぐに、
「入鹿様! 円陣! 盾、盾!!」
と片言になりつつも命令を出せた。
一応訓練もしていたので皆には通じて、なんとか守る形になる。ガンガン剣で撃ち込まれるが、こっちの盾の方が強かった。
「謀反だ、悪者だ、暴力反対!」
と私たちは騒いだ。
結果、強い守りで、クーデーターを防ぐことに成功した。
成功してしまったのだ。
「よくやった!」
入鹿さんの喜びの声を聞きながらも、私は結構動揺していた。
ど、ど、と、ど、ど、どうすれば。
大化の改新を止めてしまった。
いや止めたかったけど、止まったら止まったで、何というかどっと汗かく事態というか!
えっ。本当に失敗したの、あなたたたち? 嘘でしょ。
この後歴史どうなるんだっけ。平安時代とか鎌倉時代とか・・・。
全部全部、無し、だよね。
大化の改新あってからの歴史だったから、全部変わる。
違う未来が来る。
***
中大兄皇子たちは捕まってしまった。処刑だ。重犯罪者。
非常に複雑。なんかごめんって思う。けれど、暴力的解決を試みて失敗するってこういう事だ。
私は今の権力者、つまり蘇我さん家から重用されることになった。
さすが母の予言した人だ、とよく分からない箔まで私にはついている。
覆水盆に返らずだ。しかし頑張った結果でもある。
腹を括るしかない。というかもう括った。
蘇我さんたちがうまく行くように頑張る。私が生きるために蘇我さん家が必要だからだ。
入鹿さんが積極的に私の意見も聞くようになってくれた。
未来で培われた意見でも出し惜しみしない。
真新しい日本の歴史が始まっている。
end