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次の日に催されたクリスマスの宮廷は見たことも無いほど盛大だった。

大広間全体を装飾された会場に沢山の食事に大勢の客人。そして沢山の豪華な贈り物が用意されていた。

宴会も至って和やかで、前日のピリつく空気も嘘のように、リシャールはうまく子を演じ、王も忙しく客人達を饗しながら、互いに最低限の接触で済ませている様にに見えた。


ポールの解説によると、今回のマグリットの件にピュルテジュネ王は関与していない。

察してはいるが確証が無なく、即ちアデルが単独で動いていたのではないかと、みたらしい。

現にリシャールとアデルの結婚の話をチラつかせると、矛先を収めたのがいい証拠だろう。と言っていた。

その駆け引きのおかげなのか、マグリットやアデルの事はタブーとされている様子で、会場でその噂話をするものは1人も居なかった。


その会場でひと際忙しくしていたのはおれだ。

ルーアンにはウィンザーのような腕利きのトルバドールはいないらしく、エレノア様の所での宴会とは全く違う雰囲気ではあるが、それがかえって助かった。

おれの下手な演奏でも皆歓迎してくれ、ウィンザーでの噂のお陰もあり、流行最新の曲ともてはやされ同じ曲を何度でも弾かされ喜んでもらえたからだ。

そのお陰でおれはクタクタになるまで引っ張り回され、皆お酒がまわり始めた頃にようやく開放されたのだったが、それはそれでリシャールの為なら何ということはない。


そっと会場を抜け出し、テラスへと出ると、小雪の降る寒空の中、リシャールが1人塀にもたれるように外を眺めながら酒を呑んでいる。

近くにはかがり火が焚いてあり、チリリと溶かしては、舞う雪達を照らしている。


「寒くないのリシャール。」


話しかけるとゆっくりとリシャールが振り返った。


「おう。やっと開放されたか。俺お抱えのトルバドール様よ。」

「えへへ。練習しといて良かったよ。みんなに褒めてもらえた。」

「そいつは良かった。俺も鼻が高いな。」


軽く笑うリシャールの側に行き、同じ様に外を見渡す。

テラスから見える街は薄っすらと雪をかぶり、幻想的に見えた。

感想を述べようと視線を向けたリシャールは、何やら神妙な面持ちでこちらを見つめていて、なんだかドキドキした。

ルーアンに来てからのリシャールはいつもの粗野な雰囲気を出さないようにしているらしく、妙に風格が王子風で少し落ち着かない。


「どうしたの、こんな所で一人で。酔っ払った? 」

「ああ。お前を待ってた。」


そう言うとリシャールはおれの体を抱きしめた。


「暖けぇー。」


見上げるリシャールは、いつもの少しだらけた顔で、なんだか泣きそうになった。

おれの前ではこうして安心してくれているのだ。

そう思うと今度は嬉しくなってくる。

泣きたいのか、笑いたいのか、自分でも分からなくなりながらリシャールの両頬に手を当てると、ひんやりと冷たかった。


「冷えてんじゃん。何時から居るの? 大丈夫? 」

「ああ。大丈夫だ。お前にさ、渡したいものがあるんだよ。」


そう言うと背中に回されていた手は、リシャールの顔に当てていた手を両手で包むようにして胸の前で合わされた。


「前から気になってたんだけど、お前、指輪どうした? 」

「あ、それが、なんか落としちゃったみたいなんだよ・・・。ごめん・・・。せっかくリシャールがくれたのに。」

「いや、いい。むしろちょうどよかったよ。」


そう言うとリシャールはポケットから小さな袋を出し、ゴソゴソと中から何かを取り出した。


「指輪を作らせたんだ。」


リシャールは再びおれの手を取ると指にその指輪を滑れせてきた。

見ると指輪には抽象的にデザインされた動物が彫り込まれていて、綺麗に磨かれた表面がかがり火の炎の光を受けキラリと光った。


「俺のもほら、一緒だ。お前、アンバーのウルフ瞳だろ? だからこれは狼でお前、俺はこの獅子だ。」


そう言うと自分の指に着けたものを嬉しそうな顔をして見せてくれる。


「揃いだ。」

「・・・これ、作らせたって、いつの間に? 」

「クリスマスにお前に送ろうと思って、ここに持ってくるように頼んでおいた。」

「今日の為に・・・用意してくれてたんだ。ありがとう。すっごく嬉しい。」


見つめる指輪には独特の文様型に狼と獅子の肢体を模ったもので、細かく手の混んだ物だ。

見入っていると、リシャールがすこし体を屈め顔を近づけてくると、おれの手を自らのおでこに付ける。

冷たいおでこがおれの熱でじわじわと暖かさを取り戻してゆくのが分かる。

小さく深呼吸する音がして、暖かな眼差しが降りてきた。


「ジャン。愛してる。コレは誓いの証だ。この指輪に誓って、俺はお前を裏切るような事はもうしない。だからお前も、俺の側から離れないと誓ってくれないか? 」


見上げるリシャールの顔が目がくらむほどかっこよくて、直視出来そうもないけれど、目を逸らしたくなかった。


どんな現実でも、受け止めていく。


「・・・うん。おれは、どんなことがあっても、リシャールの側に居るって、誓う。それで・・・。」


見つめるリシャールはその言葉に目を少し見開き、言葉を待ってくれている。

きちんと言葉にして貰った想いに、答えたい。

それには少しだけ勇気が必要だった。


「お、おれも、あ、愛し・・・てる・・・。」


リシャールは破顔すると、おでこに当てたおれの手ごと指輪に口づけして、今度は自分の指輪をおれの口元に持ってくる。

おれはリシャールがしたように彼の指輪に口づけする。


二人だけの誓いだ。


嬉しくてリシャールを見上げると、そのまま頭を引き寄せられ、しっかりと抱きしめられた。


「ままならねぇくだらねぇ世界だけどさ。一緒に行こうぜ。お前となら、どこまでも飛べそうな気がするんだ。」


耳元で低く発せられる音は脳を震わせ、心臓を揺らす。

脳裏に浮かぶのは跳躍する獣。

巨体を軽々と翻し、荒野の岸壁を力強く蹴りつけ飛ぶその獣は、獲物を噛み砕き振り回し、その足元に転がる幾多もの死屍を踏みつけ、積み重ね、いずれその頂点に君臨する。

見るものを威圧し圧倒しながら、沈みゆく夕日を浴び、赤く黄金に輝く鬣を揺らす。

それは、一頭の獅子。


誰が為に、何が為に、彼がそれを成さねばならぬかは判らない。

ただ。ひとつ分かることは。

その姿を目に焼き付ける為に。

それを見届ける為に。

黄金に輝く、この獅子と共に行くのだ。






第一幕 完






この42話で【ページ的には44部分】を

《第一幕》

「テンプレ移転した世界で全裸から目指す騎士ライフ」

として完結とさせていただきます。


《第二幕》

「テンプレ転移した世界で恋人から目指す騎士ライフ【仮】」

として全裸編から3年後を想定して、続きを予定にしてます。カペー家の新王と取巻きの彼らも絡みがもう少し多くなります。

が、なにぶん遅筆ゆえ、ストックが無いと死にそうになるので【去年のクリスマスに話を合わせたくて週2更新して使い果たした自分が悪いのですが】少し書き溜めてから更新していこう。

あとちょっと休憩したい。

と、言う事で、第一幕と第二幕と区切って第一幕を完結としました。【実は第三幕も構想があったりするけど資料が膨大すぎるし戦闘ばかりで手付かずです。】


42話での区切りは書き始め当初の既定路線であり、「5年後はどうしようかな、体力続くかなぁ」と思っておりましたが、いいねや評価ブックマークや、更新毎に読んで頂いたりで“充電“させていただきましたので、もう少し挑戦してみよう。頑張ろうとなりました。感謝です。


そして、どこかの話で.5を書くと思います。43話分としてお知らせしたほうが良いのかな?良くわかんないけど。

.5は演習色が強いので、相変わらずポイピグに上げるかと思います【どうせ18禁だし】。


第一幕、最後まで読んでいただいてありがとうございます。

いいねも、評価も、ブックマークも、付けていただいて本当に感謝しております。

うれしいです。

続きも読んでいただけるように、頑張って書きたいと思います。少し時間は頂きますが、余り空き過ぎにならないように頑張ります。


後書き未練たらしく長くなりました【反省】。

では第二幕でまたお会い出来ますよう願っております。


2023.06.30.ぽむぽむ


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