39 ※おまけNo.3.付き
深く、唇を重ね・・・ていた。
途中まで。
それは横からのものすごい圧力によって阻止された。
ポチが俺とリシャールの間にグイグイと鼻を突っ込んでくる。
リシャールがポチの鼻を手で抑えてグイグイと押すがポチも負けじとグイグイと来る。
「てめぇ! この野郎! 顔を突っ込んでくるな・・・。」
徐々に開いていく二人の間にポチが悠然と居場所を確保し始めた。
「ぷっ。あはは。あははははは。」
たまらず笑ってしまうと、ポチの顔を両手で抑えているリシャールも笑い出す。
「はっ。はっはっは!! クソプチこの野郎。今日は許してやるけど、次はねぇからなぁ! 」
ポチはブルルルと嘶くと、俺の胸に鼻を当ててくるので、思い切り撫でてやる。
撫でながら先程のリシャールの言葉を反芻する。
「・・・ずっと、おれがリシャールの側にいていいって事は、赤ん坊はリシャールの子どもとして育てるってことで良いの? 」
「ああ。すぐに認めるっていうのは難しいらしい。ポールの話では4・5歳位になったら正確に歳が分かりづらくなるだろうから、そのあたりで認知したら良いって話しになってる。」
「・・・もう、決まってたんだ。おれ、先走ってバカみたいじゃん・・・。」
ポチを挟んだ反対側からリシャールの手が伸びてきて、頭をガシガシと撫でた。
「おれの血を分けた子だったらそれごと愛してくれるんだろ?」
ニヤニヤとした顔でリシャール口を開く。
懐かしい手触りに、もっと触れて欲しくなるのを我慢しながら小さな声でつぶやき、続けて質問した。
「・・・リシャールは、言ってくれないのかよ? ・・・まぁ、いいけど。・・・マグリット様はどうしたの? 」
「あー。・・・マグリット殿は城に来た日にそのまま帰った。どこに向かったのかは聞いてないが・・・。」
「そっか・・・。えっと・・・そう言えば、リシャールが教会に閉じ込めたって話する時のルーが、すごく楽しそうだったよ。」
なんとなく気まずい。そう思い、話題を変えるつもりだったのに、思ったほど変えることが出来なかった。
「あぁ・・・。アイツらああいう時は喜々としてるからな・・・。脱走できなかったらどうなっていたことか。」
「まぁ。でもアレが無ければおれたち出会ってないし・・・。」
「・・・あん時は悪かったな・・・。なんか、無理やりヤッちまった感じになって・・・。」
「!! おれは、全然!! 無理やりだとか、思ってないし・・・。おれもその気になってたし・・・。」
「俺、セックスしたいだけの男みたいな感じになってっけど・・・。そんなんじゃなくって、でも、まぁあん時は、そんな感じだったけど・・・今は、お前だけっていうか・・・。教会から脱走した時の話も、その話題になる度に、話さなきゃダメだよなって、思ってたんだけど、なんか、言い出せなくって。」
「・・・え? おれだけ・・・?」
「うん。お前に、言わなきゃいけないのに・・・こんなになってからじゃ、遅いよなぁ。」
「あ、いや、そっちじゃなくって・・・。その、そういう気持ちになるのは今は、おれだけって・・・言った? 」
リシャールは少し首をかしげ不可解そうな顔をしたけれど、なんのことかを理解すると、キリッとした顔をした。
「あぁ。 セックスするのはお前じゃなきゃ、駄目だ。お前以外は嫌だ。」
「・・・そそそ、そうなんだ・・・。あ、ありがとう? 」
「っち。カッコ悪りぃな。お前に会えたらこうしようとか、トルバドールらしいロマンチックな言葉とか、一杯考えてたのに、全部忘れちまって・・・。結局こんな低俗なセリフしか出てこねぇんだもんな。」
リシャールは舌打ちすると不満げな顔で独りごちっている。
言われた内容は確かに最低なのだが、不思議と心が解けてゆくような感覚になる。
ふつふつと温かいものが込み上がってきて、笑が溢れる。
「ふふふ。確かに低俗な上に、最低で最悪でデリカシー皆無だけど・・・」
「そこまで言うことねぇだろぉよ・・・。」
「おれ、そんなリシャールがやっぱり好きだ。」
見つめたリシャールの顔が少し真顔になったかと思うと、くるりと背中を向ける。
ポチの隣、調度リシャールが振り返った後ろで寝ている彼の愛馬ラトロアを撫で始めた。
え?
え?
照れてる?あのリシャールが照れてる?
厚顔無恥で不遜を体現したようなリシャールが?
興味本位で回り込んで覗いた顔は赤く、手で抑えられた口からは小さなつぶやきが聞こえた。
「・・・うるせぇ・・・」
「くくく、珍しいね、リシャール照れてる。」
「・・・照れてねぇ! 」
「へへへっ。まぁ、そういう事にしてあげるよ。ふふふ。こういうのは慣れてないんでしょ。わかってるって。」
何だか嬉しい気持ちで笑いが止まらなくなり、肘でリシャールを小突きながらニヤニヤしていると、首に腕が回ってきた。
「・・・てめぇ。覚悟は出来てんだろうな・・・。」
赤い顔で凄むリシャールはちっとも怖くない。
むしろかわいい。
はじめは笑いながら戯れるように囚われていた体は、いつの間にかしっかりとリシャールの体に収まっていた。
埃っぽく土臭いリシャールのたくましい体に抱きしめられると、安堵する。
たとえ目の前に壊れた世界が広がっていようとも、怖くない。
そんな気持ちになる。
「・・・なぁ、ジャン。」
「ん・・・。なに? 」
「ずっと会ってなかったじゃん? 俺たち。」
「? うん。そうだねぇ・・・。おい。リシャール・・・。なんか、当たってる・・・。」
「うん。当ててる。」
「はっ!! な、何時からだよ! 」
「キスしたくらいから? やんわりと。 」
「・・・ほんっと、ムードとかそういうの持ち合わせて無いよね。」
「洗浄器なら、持ってきたぞ。」
そう言うとリシャールはニヤリと笑うとポケットから筒状のものを取り出し掲げる。
「その持ち合わせじゃねぇ! ほんとヤリたいだけ男じゃん! 」
「いや、だって、なにがあるかわかんねえだろがよ。」
「なにかって、なんにもねぇよ! しかもここ、厩の水しか無いじゃん。無理だよ。もう少し我慢しなよ! 」
「湯も入ってる。」
リシャールはたぷんと音を立てさせるように筒状のものを振ると自慢げにしている。
「・・・くそ!! 準備万端じゃんか! 」
ぎりりと睨み付けると、リシャールは少しシュンとした顔で見下ろしてくる。
お願いする時の顔だ。
おれはこの顔をされると弱い。
「ジャン、外じゃ嫌か? 今、城に帰ったらペランに今度は見つかる気がするんだよ。コレは予感だ。おれの予感は確実に当たる。そして、ペランに酒をしこたま飲まされる予知も見える。」
「もぅ!! 馬鹿な予知してんじゃねぇよ! しょうがないな。おれが被ってた布持ってくる。 地面に惹く。明かり持ってきてよ。」
「え? あ、はい・・・。お前、あんなに外は嫌がってたのに、今日めっちゃくちゃやる気じゃん。・・・俺がんばる・・・。」
「べ、別にやる気とかじゃないし! 」
こうしておれたちは厩から出ると月明かりの中、森の影へ入っていった。
※※※※※おまけ.NO3.※※※※※※
事後
リシャール 「汗が冷えてきたら流石に寒いな。火でも炊くか。」
ジャン 「・・・なんでだよ。部屋に帰ろうよ。暖炉のほうが暖かいじゃん。」
リシャール 「イヤ、でもお前もっかい洗浄すんのに湯が要るだろ? 火焚いたら湧かせるじゃねぇか。」
ジャン 「・・・だから、部屋に帰ればいいじゃん。暖炉で湧かせるじゃん。」
リシャール 「じゃお前、部屋帰ってからも、やらしてくれんのかよ。」
ジャン 「バカなの? もう! 何回でもすりゃいいじゃん! 」
リシャール 「よし。急いで帰るぞ。そして速やかに部屋に入るぞ。絶対ペランに気が付かれるなよ。」
ジャン 「・・・。」
久々の再会で嬉しくて、イチャイチャ話になりました。
閑話39.5をTwitter・pixiv·ポイピクに上げてます。
詳細は活動報告にて。
※読んでなくても内容的に全然大丈夫な、全年齢大丈夫じゃない、R18指定閑話です。
リヨンスでの馬屋での閑話で、おまけNo3の前のシーンです。
本編に影響の無い話です。
興味ある方はご覧ください。
すっかり後書きに書くのを忘れてました !
ごめんなさい !(2023.10.03.)




