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「ペラン! 」
マグリットの赤ん坊に気を取られてしまい、いつの間にかその場から消えたジャンを探していたペランに声をかけてきたのはルーだった。
「ジャンが城から出た。また、丸腰で行ったから、出掛けついでにアイツの鎧持っていくけど、お前は一応リシャールに伝えておいてくれるか? 」
「分かった。ルーはすぐにウィンザーに出立だろ? 悪いな忙しいのに。オレも急いで追いかける。ジャンの行きそうな所はだいたい目星がつくだろ? 」
「ああ。」
執務室では、リシャールが机に肘を付き、頭を抱えていた。
側にはなんとも言えない顔でポールが窓の外を見ている。
「ジャンが城から城下に出てたぞ。」
ペランからそう伝えられると、リシャールは焦った様子でガタリと椅子を鳴らしてが立ち上がった。
「も、もう帰らないつもりか? 」
「オ、オレに聞かれても知らねえよ。」
リシャールの鋭い視線を受け止めかねてたじろぐペランに、ポールがため息を付きながら近づくと、労るように肩に手をのせる。
「誰かジャンを追ってるのか? 」
「あ、ああ。ルーが・・」
ペランの言葉が終わる前に、ゴン!! という激しい音が室内に響いた。
音の出どころは執務テーブル。
リシャールが机に自らの頭を激しく打ち付けたことによって出た音だった。
テーブルからゆっくりとおでこを離し、顔を上げるリシャール。
その体からはゆらゆらと熱気が立ち上るかの様な錯覚をその場の人間に与える。
リシャールは低い唸り声を出しながら絞り出すように言う。
「・・・なんでいつもルーなんだよ。」
「あんたの間の悪さは昔からでしょ。八つ当たりしなさんな。」
「なに? 俺、間が悪いヤツだったの? え? ペランもそう思う? 」
そう言いながらリシャールはペランに近づき彼の肩に体重を乗せるように腕を回すと、そのまま体をゆっくりと絞め上げはじめている。
「いててて! リシャール! 落ち着け! 間が悪いって言ってるのはポールだろ! 」
「あ。ほら、聞きました? ペランがリシャールは間が悪いって、言ってますね。」
「おぃぃ! ポール! 」
助けてーと叫びながら羽交い締めにされているペランの側から離れると、ポールは素知らぬ顔で再び窓の外を見る。
「あ。噂のルーが城から出たぞ。」
「・・・俺も行く。」
「ダメです。」
「んな! なんでだよ! 」
「あんたはひょいひょい外に出過ぎ。とりあえず、今はルーとペランに任せましょう。ペラン。」
リシャールはポールに言われるがままペランを開放すると、ムスッとした顔をして長椅子に座る。
ペランはポールに手を振られながら、急いでジャンがおそらく行くであろう宿屋か、武器屋へと向かった。
ペランが宿屋へ行くと、店では親父が一人ブツブツ言いながら、客にエールを出している。
「親父。忙しそうだな。ジャン来なかったか? 」
「ああ、来てねぇけど、なんか家のヤツがジャンにオレの外套を着せるとかって、持っていったところだ。アイツ、どこで油売ってんだか。」
「外套? どこに持っていったんだ? 」
「だから、ジャンの所っつって持っていったって言ってんじゃねぇか。」
「だから、ジャンはどこに居るって? 」
「ん? そういやぁ、アイツどこに持っていったんだ? 」
宿屋の親父が首をかしげると、店の客が笑い声を上げる。
「お前の外套売り飛ばされたんじゃねぇのか。ババアとか言ってるからそんな目に合うんだぜ。」
「いやいや。アイツ何だかしらねえけどよ、ジャンの事すげえかわいがってんだよ。あの顔は、ジャンの所に持っていく顔だったな。しばらくしたら二人で帰って来るんじゃねぇかなぁ。ペラン、ここで待ってたらどうだ。」
「そうだな。そのほうが結果的に早いかもな。オレにもエールくれよ。」
そうしてしばらく宿屋の1階で待っていると、おかみさんが一人帰ってきた。
「おや。ペランじゃないかい。どうしたんだい? 」
「あれ。おかみさん、ジャンと一緒じゃなかったのか? 」
「ああ。ジャンなら、旅に出たよ。」
「は?? 」
「リシャールに言っときな。ジャンと仲直りするまで家は出入り禁止だよ。」
「え?? 」
「あの子、泣いてたよ。リシャールが何したか知らないけど。あたしゃあの子が泣くのなんて見てらんないから。ちゃんと仲直りして、二人で来るなら、許してやる。」
「仲直りも何も、ジャン、旅って?? どこに行くって?? 」
「全身黒い格好したかっこいいお兄ちゃんが一緒だったけど、親しそうにしていたから、アンタたちの仲間だろう? どこに行くまでは聞いてないけど、すぐ帰ってくるんじゃないかい? 」
「ルーだろ! それ! ジャンのヤツ、ブリテンまで行く気か? 」
「ブリテンかい! そりゃまた。・・・まぁ。でもリシャールにゃいい薬になるだろう。」
「・・・ジャン、リシャールのことなんか言ってた? 」
「いや。なんにもあの子は言ってないよ。でも、どうせリシャールのせいだろう? 」
「・・・まぁ、そうだけど・・・。」
「ほら、ご覧。あたしゃそういう事はすぐに分かっちまうんだからね。」
そういうとおかみさんは自慢そうに笑うと、すぐに顔をしかめる。
「とっとと仲直りさせて来とくれよ。」
そう言うとおかみさんから店から追い出されたペランは、港にゆく。
港にはすでにブリテン行きの船が出たばかりで、日もすでに暮れかけていた。
仕事が忙しくて推敲出来ていません。
すいません。