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翌日の午後、衣服を改めたおれとルーと先生は共にウィンザー城内の2階の大広間に通された。

広い部屋の中は、明り取りから光が入りすこし明るくなており、入り口から正面に見える一段高くなった王座には女性の姿が見える。

部屋には幾人かの王妃の側近であろう男性と女性が控えている。

おれは少し気後れしながら、ルーと先生の後ろを懸命に歩き、王座までの距離を中程くらいまで進み出ると片膝をつく。

間近に見上げる王座に座る女性は年齢不詳で、簡素だが洗練された衣服に身を包んだ美しい女性だった。

リシャールと同じ明るい金色のに少しウェーブのかかった長い髪が窓から差し込む光にキラキラと光っている。

ルーも謁見は初めてだといっていたくせに、とてもそんなふうに見えない堂々たる騎士の様相で、部屋にいる女性達の方向からはため息が聞こえている。

一方先生は臆するような性格ではないのであろう、相変わらずニコニコと笑っている。


「ボルドーのリシャール王子が側近、ミシェル・ル・ルージェ殿。その随従ジャン殿。そして、ラナルフ・デ・グランビル殿が甥ヒューバード・ウォルター殿でございます。王妃陛下。」


王妃の近くに立つ宰相らしき男がよく響く低音で名前を告げる。

ルーの本名に驚きすぎて、変なタイミングで頭を下げてしまうが多分誰も気がついていないはず。


「エレノアでございます。皆さん。はるばるこのような場所によくいらしてくださいました。さぁ。美丈夫たちよ。私によくその顔を見せてくださいませ。」


そう言われてちらりと宰相を見るとうなずいている。

ルーを後ろから突きながら段差の間近までくると、フワリと花の甘い香りがした。


「黒狼騎士、ミシェル。ボルドーでの活躍は私の耳にも届いています。あのウィリアムとの一騎打ちで中々頑張ったそうではないですか。」

「お目にかかれ恐悦でございます。王妃陛下のご寵愛の騎士ウィリアム殿との一騎打ち。王妃陛下には申し訳ございませんが、もう一度する機会が得られましたその時は、おそらく私が勝つことでしょう。」

「ふふふ。威勢の良い騎士は嫌いではありません。むしろ気に入りました。ルー。リシャールからはそう呼ばれているそうですね。私もそう呼んでも宜しいかしら? 」

「王妃陛下の呼ばれる名こそ至極の響きでございますれば、いかようにでもお呼びください。」

「まぁ。武勇だけでなく美しさも然ることがないとは聞いていたが、斯様かようにまで人を惹きつけるとは。御覧なさい。ここにいる御婦人たちは皆あなたの虜になってしまいましたわ。」


その言葉でルーが後ろをちらりと振り返ると「きゃあ」と小さな悲鳴が聞こえる。


「ここにいるどんな御婦人たちより、エレノア様のお心を掴みたく存じます。しかし、我が主リシャールも私の帰りを待っている事でしょう。私の心は2つに裂そうな思いでございます。」

「まぁ。ライバルがリシャールなら私おろか、此処にいる誰も勝ち目がありませんわね。ふふふ。ルー。頼りにしていますよ。最愛の息子をよろしくお願いしますね。」


そう言いながらちらりと王妃の視線がおれに注がれる。

穏やかな顔に一瞬影がさし、コクリと、うなずかれた。

そしてすぐに元の穏やかな顔に戻り、今度は反対側の先生に視線がむけられる。


「ヒューバード。よくいらしてくださいました。ラナルフ・デ・グランビルにはウィンチェスターで大変お世話になったのよ。彼がいなかったらどんな酷い生活になったことか。本当に感謝しているの。そんな彼から優秀な甥っ子の話を聞いて早速来てもらったのよ。ヒューバード。確か、リシャールと同じ21歳だったかしら? 」


その言葉に驚く。

先生は確かに少し老け顔なのかなと思っていたが、リシャールと同じ年齢だったのか。


「はい。21歳でございます。道中、ルー殿とジャン殿からリシャール様のお話を伺いました。立派な王子と同じ歳に生まれ、光栄でございます。」

「ええ。私の自慢の息子ですのよ。もう随分と会ってないけれど、今年のクリスマスには会わせていただけるらしいから、今からとても楽しみにしているのよ。あなたも、ご両親が帰りを待っていらっしゃるのではないですか? 」

「はい。首尾よく勉学の旅から帰国出来ましたので、後は両親や学費を援助してくださった叔父に恩返しをする予定でございます。」

「それは頼もしいわね。ラナルフをしっかり助けてやてくださいね。なにかあれば私を頼りなさい。できる限り力になるでしょう。」

「は。ありがとうございます。」


先生が深々と頭を下げたところで、宰相が「では。」と区切る。


「皆様方は、今宵ささやかですが宴を催しますゆえ、お越しください。それまでは各御人、王妃との談話の時間を設けております。まずはルー殿とジャン殿は隣室で控えていただきますゆえ、こちらにどうぞ。」


宰相に連れられて大広間を出る。

先生は王妃とそのまま談話という流れのようだ。

廊下を歩き隣の部屋と思しき部屋を通り過ぎる。

隣室といっていたが、階段を登った3階に連れて行かれる。

重い扉が開かれ、入った部屋には窓はない。

しかし、ろうそくと暖炉の火が部屋とかけられた布を照らし暖かい雰囲気を醸し出していた。

部屋には椅子と丸いテーブルが中央に置かれ、その上にはエールとコップが用意されている。

その後ろで扉が重い音を鳴らしながら閉じられた。


「るる、ルー、お、おれたち何かやらかした? これって閉じ込められたんじゃない? 」

「・・・お前、扉を開けてみろ。」


開かないかもと思いながらもドキドキしながら重い扉を押して見ると、ゆっくりと扉が開き、外の衛兵と目が合う。

衛兵はニコリと笑うと「なんでもお申し付けください。」と言ってくれた。


「ち、違うのかな?」


焦りながら、椅子に座ってエールを飲むルーに近づくと、わずかに肩が揺れている。


「ルー! 笑ってる! 分かってるなら説明してよ! 」

「くっくっく。あぁ。悪い。お前があんまりにもビビってるから、つい。くっくっく。」

「何だよ。人が悪いな! 早く教えろって! 」


ドカリと椅子に座り、自分のコップにエールを注ぐと、いつまでも肩を揺らすルーを睨みつける。


「内密な話しをする部屋だろう。おそらく王妃も今回のリシャールとマグリット様の件を知っているのだろう。この様子なら、王都に近づかずとも、ある程度わかるかもしれないな。さすがピュルテジュネ家王妃だな。」

「そっか。内緒話か。王妃様はなんでも知ってそうだもんね。」


それで、さっきはおれの顔を見てうなずいたのか。

・・・なんで?


首をかしげながら、一時考えてみるが、一向に理由が思いつかない。


「そう言えば、ルー。王妃様との会話すごかったね! あんなに喋れるなら普段でもあんなふうに喋ればいいのに。そうしたらもっとファンが増えるんだろうなぁ。」

「あんなの演技に決まってるだろう。」

「えぇ? 即興であんなのできるの? 」

「ポールに特訓してもらった。」

「・・・それを遺憾無く発揮できるポテンシャルに驚くよ。」

「ポールは王妃とも親しいからな。大体どんな事言われるか想像がつくんだよ。想定外の事はなかった。」

「あー。そう言えば、ポールって外ではリシャールに敬語で話してるもんね。ひょっとして親戚なの? 」

「そうだな。遠い親戚ってところか。ポールは王妃の叔父さんに当たる、アンティッキオ候レイモンド伯の次男坊で、小さい頃からリシャールの遊び相手として一緒に育てられたんだ。」


なるほど。

それであんなふうに兄弟のように仲が良いくせに、どことなく上下関係がある雰囲気なのか。


ピュルテジュネ家王妃エレノア登場です。

エレノアと叔父のレイモンド伯 [ポールのお父さん]はとても仲良しで

エレノアの前の夫ルイとの離婚 [エレノアはバツイチ] の原因の要因の1つでもあったようです。

因みにピュルテジュネ王は11歳年下でエレノアは姐さん女房です


※表現変更(2023.09.29.)


※読んでなくても内容的に全然大丈夫な、全年齢大丈夫じゃない、R18指定、

閑話23.5をTwitter・ポイピクに上げてます。

ボルドーでの執務中の閑話です。

本編に影響の無い話です。

活動報告にリンク先記入してありますので興味ある方はご覧ください。

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