13
ピタリ。
「?」
「?」
歩みを辞めたポチが嘶き、首を振る。
「おい。どうした?」
「ポチ?」
声をかけるとじっと振り返って見つめてくる。
とりあえずなだめて、また歩ませる。
すると、またリシャールの手が服の中をまさぐり始める。
「ちょ、リシャール! 辞めろって!」
ピタリ。
またポチの歩みが止まる。
再びポチの首を撫で、優しく声をかけると落ち着いたように歩みを始める。
再びリシャールの手が服の中をまさぐり始める。
「もぉ、リシャール!!」
ピタリ。
「おい! ジャン! コイツわざとだろ! お前一度黙ってされるがままになれよ!」
「やだよ! なんでだよ。」
「おいおい、俺のこのそそり立つ漢をほっとけって言うのかよ。そりゃ無理ってもんだろお前!」
「いや。知らないよ。おれ、リシャールみたいに万年盛ってないから。」
「おぅ、聞き捨てならねぇなぁ。ああぁん?」
「そんなナリで凄まれても・・・大体馬の上でなんて出来ないじゃん。」
「・・・もぅ、いいよ。わかった。俺ぁもう独りで出すからいいよ! ついてくんなよ!」
馬から飛び降り、プンプンと怒りながら林の中に姿を消すリシャール。
少しかわいそうに思いながら、待つこと暫し、思いの外早く姿を現すリシャール。
そのタイミングに合わせて嘲るように嘶くポチ。
二人? の間にバチバチと光が見える。
「くそ。夜は絶対だぞ。」
そう言われ、内心ドキドキしていたのだが、結局夜も出来なかった。
ポチが私の傍を離れないのだ。
少し離れた所に結び付けておいても悲しそうに嘶かれると後ろ髪が引かれ、近くに置いておけば、リシャールが近づけば間に割って入ってくる。
そうして終始リシャールとポチで、昼は道を進み、夜はポジション争いを繰り広げ、疲れて寝るという数日間を過ごし、ボルドー近くまであと少しという所で、ポールが待ち構えていた。
ポールはラフな格好に紋章入りの服を着て馬に乗ったまま佇んでおり、凛々しい彫刻の様だ。
「ポール! 」
「ジャン。来たな。ん? リシャール、どうした? なんか目が血走ってね? なんかあったのか?」
「ああ。これは、その。馬との相性? が悪いみたいで。おれと馬とは全然相性いいんだけどね。」
「へぇ。リシャールが馬と合わないって珍しいな。」
「うるせぇな。早く帰ろうぜ。そんでこいつ馬小屋にぶち込めよ。ってか、ポールお前の馬よこせよ。俺ぁ、コイツにはもぅ乗らねぇ。」
「あっははは。こりゃ傑作だな! 本格的に相性悪いじゃねぇか。よくここまで帰ってこれたな。馬をほめてやるよ。」
「っち。」
リシャールはポチから飛び降りると、ポールを引きずり降ろし代わりにその馬に乗る。
自分の馬から降ろされたポールはポチの首を撫でながら、「オレは乗せてくれるのか?」と聞いて様子を伺っている。
「おれの言う事はすっごく聞くんだよー。もぅ、めちゃくちゃかわいい。ポチ。」
「プチか。いいな。美人じゃないか、お前。」
ポチはポールは好きらしい。
すりすりとポールにすり寄っている。
「大丈夫そうだな。ジャンも疲れたろう。オレが前に乗る。」
そう言うポールに手綱を渡した。
実際初めての馬の旅はやはり疲れる。
リシャールの体調もよさそうだし、ここからは駆けて帰っても支障はなさそうだ。
そうして街道を走り抜け、城壁をくぐる。
城壁に控えている兵士はポールの家紋のついた服を見かけると検問もなく敬礼をしつつ道を通してくれた。
ポールもリシャールも顔が知れている様子で手を挙げて挨拶している。
ちょっとかっこいい。
騎士っぽい。
そんなことをニヤニヤと考えながらポールの後ろに乗っていると、そのまま馬を駆け足程度の速度に落とし街を抜け、ボルドーの中心部分にある城の門まで来た。
帰る前に上司にでも報告に行くのだろう。
私も随従としてリシャールに雇ってもらえるらしいのでここまで入ってもいいのかな?
流石にここでは顔パスは無理だろう。
などと思っていると、リシャールもポールも止まる様子も見せることなくそのまま進んでいく。
すると遠くから姿を確認するや否や門番らしき兵士たちがバタバタと走り、急いで門を開くと並んで敬礼する。
偉い人の依頼を受けるくらいだから、リシャールもポールもこの街では有名人なのかもしれない。
門を抜け堀を渡ると大きな扉が開き何人もの兵士が走り寄ってくる。
そこでようやく馬を下りると馬を誰かが引き取り馬屋に連れて行く。
ポチは寂しそうに私を呼ぶように嘶いていたが、ポールの馬と共に連れていかれた。
中庭を抜けると使用人らしき人たちが走り寄ってきて、リシャールと私の鎧や肘、膝当てなどを脱ぐのを手伝ってくれる。
いつの間にかポールの姿は見えない。
慣れない状況にあたふたしていると、リシャールが振り返り笑顔を見せる。
「埃を落としにいくぞ。」
もう数日も体を拭いていないので随分と汚れているのは確かだ。
こんな格好でいては偉い人の前には失礼に当たるのだろう。
そこそこ臭いし。
そう思い頷くと、リシャールは近くに居た人物に何やら話をすると私の手を引き、ずんずんと建物の中に入っていく。
「ダクスの風呂もよかったけど、ここの風呂もまぁ悪くないんだぜ?」
上機嫌で歩くリシャールだが、後ろではバタバタと忙しそうに人が動いている。
リシャールはそのまま階段を上がると3階の奥の部屋へと進む。
開かれた扉の先はタイル張りになっており、トイレが設置されている。
トイレ兼、脱衣所といった所だろう。
物珍しさに気を取られているうちに扉は締められ、リシャールは私のシャツに手をかけ、慣れた手付きでシャツを脱がしてゆく。
「え。ちょ、ちょっと、リシャー・・・。」
慌てて止めようとするも、リシャールの口によって抗議を、大きな掌によって理性をさえぎられる。
疲れも相まって熱は火照る体を流れ伝えるようにして二人を絡めていった。
天蓋付きのベット。
目が覚めて目の前に広がる光景だ。
初めて見た。
憧れた事はあるが、実際にそこに寝ることになろうとは想像もしなかった。
想像と違うのは規模だ。
ベットのサイズの木枠に布が垂れ下がっているものを想像していたのだが、ベットのサイズが部屋半分くらいあるのだ。
その天井には布が張り巡らされ、薄いカーテンの様になり幾重にも重なり床まで伸びているのだ。
視線を横に向ければ、隣でリシャールが相変わらずだらけた顔で眠っている。
今が何時なのかもわからない。
基本的に光を取り込める大きな窓は防衛上少ない造りになっているので、室内はいつも薄暗いのだ。
この建物に入ったが日暮れ前だったので、もう次の日にはなっているだろう。
天井高くにある明り取りから、光が差し込んでいるので昼間なのは確かだ。
昨日は砂も落とさぬまま達し、湯舟、ベットと、幾度となく体を重ね、もう動く体力もない。
もはや、なる様になれ、といった感覚で、現状況を受け入れている。
きっと怒られるならリシャールが怒られるんだろうし。
寝ているリシャールを眺めていると「ぐぅぅぅ」と音が聞こえる。
自分の音?
そう思っていると、リシャールの目がバチっと開く。
「・・・腹がへった。」
「あはは。おはようリシャール。もう、お昼っぽいよ。」
「・・・そうか。腹が減るはずだな。2食食いそびれてる・・・。」
そう言うとリシャールはベットの横に設置されている棚からベルを取ると大きく振る。
思いの外大きな音の出るベルか部屋に響き渡ると、扉が開き女性が姿を現した。
ポチ。って犬かよ。って、誰も突っ込んでくれませんね。
次の更新はいつもと一緒の(火)13時です。
一部削除(2024.07.07.)