滅茶苦茶鞭打ちされてて、痛すぎてこれ死ぬなと思った瞬間転生してることに気づいた令嬢。の義母
「う、うう、うう」
裸にされ気が遠くなるほど鞭で打たれ、自分が立っているのか倒れているのかももうわからない。
フワフワと意識だけの存在になったような。
このまま眠ってしまいそうだ。
バッシャーーン!!
いきなり冷たい水をかけられショックで覚醒する。
ここはどこだと腫れて半分開かない目を無理矢理に開ける。
豪奢な洋室の中。空のバケツを持った使用人風の若い男と、鞭を持った女、そして真っ裸の私。
「冷た。なんだこれ」
空バケツを持ったこの男に水をかけられたの?イラッとして睨みつける。
さっきまで私は自宅にいた。
週末の夜、明日は休みだ。と、いい気分で1人で家飲みをしていたはずだ。
1人で延々と飲み続け家にあった酒を飲みつくした。
そして、風呂でも入るかと浴室に行きタイルの上で滑って転んだ......
あれ?
「なにをボーっとしてる!!」
バシッ!バシッ!!
「いっ!!」
女が鬼の形相で鞭で打ってきた。
誰?!
滅茶苦茶痛いが、慣れてる。知ってる痛み。
これは馴染みの痛みだ。
色々思い出してきた。
「このっ!!」
バシッ!!バシッ!!
「痛ぁぁ!!」
ぷちん
怒りと、痛みへのパニックで女に思いっきりタックルするとあっけなく吹っ飛び壁に頭を打ち付けて動かなくなった。
思い出した。この状況を。今までされてきたことを。私はディディエ・ケンドレット。
ケンドレット伯爵家長女である。
鞭の女は義母のバーバラ。バケツ男はバーバラの従僕トマス。
ガツッ!!!
後頭部を何か固いもので殴られフワッと意識が遠のく。床に崩れるように倒れながら見えたのは私を殴ったのであろうトマスの顔だった。
**********
「うー。痛たた」
頭の痛みで目覚めると、豪奢な部屋で、六畳はありそうな大きいベッドに寝ていた。
「はぁ......」
頭が痛い。ぶつけたのか転んだのか後頭部に握りこぶしぐらいのこぶが出来ているし。それに記憶がごちゃごちゃで。
「転生だよね。本当にあるんだ......」
問題は、前世の記憶も現世の記憶もどちらもなんとなくしか覚えていないことだ。
前世は地球の日本人。性別女。これはわかる。名前や年齢、仕事?学校?家族?はわからない。
現世はバーバラ・ケンドレット28歳。ケンドレット伯爵夫人。これしかわからない。
困ったね......
◇◇◇◇◇
その後、前妻の娘ディディエちゃんが屋敷を抜け出し、母方の祖父母であるセンイング侯爵夫妻に助けを求めた。
そして義母のバーバラによる虐待を告発。
大騒ぎになったようだ。
結果、私は王都のタウンハウスからカーマイン伯爵領に送られることになった。
侯爵夫妻の怒りはすさまじくて、私は生涯王都には顔を出さないことや社交界の出入り禁止、ディディエちゃんとの接触禁止、贅沢禁止で必要最低限の生活のみを許される生活を約束させられた。
私は日常的に酷い暴力を振るっていたらしくてディディエちゃん13歳の背中は傷だらけだったようだ。
加担していたり、見て見ぬふりをしていた使用人たちは大勢解雇になった。
伯爵家次女で私の実娘チェルシー12歳は隣国のとても厳しい全寮制淑女学校へ留学。
この子はなかなかのクソガキなようで、ディディエちゃんの持ち物を壊したり盗んだり、性格はヒステリーと癇癪持ちで暴力的。
伯爵家長男で私の実息ヴァイス10歳も辺境にあるこれまたとっても厳しい騎士育成寄宿校へ入れられることに。
この子はクソエロガキで、女性の使用人の着替えを覗くのは当たり前、下着を盗むのも当たり前。
女とすれ違えば尻を揉み、女を見れば後ろから忍び寄り胸を揉みしだく。
一線を越えてはいなかったようだが、ディディエちゃんにもやっていたようだ......
この子はこの先、まともにならなかったら廃嫡になる。
夫のカーマイン伯爵は国の外交部に勤めているのだが、この数年は第二王女の婚姻の調整でほぼ国外にいて帰国不可なそうだ。
転生の混乱と頭痛で寝込んでいた時にセンイング侯爵様が乗り込んできて、
ディディエちゃんの虐待の事で詰め寄られ、
何のことかわからず、ディディエって誰?この人誰?状態だったのだが、
侯爵様の見た目が欧米人だったので、
「アイムソーリー!!ヘルプ!!ヘルプ!!」
と答えてしまったら、激怒され襟首掴まれガクガクされてその殺気で気を失い、
気づいたら全てが終わっていて......
ディディエちゃんのことも、溺愛していたらしいチェルシーもヴァイスも、夫であるカーマイン伯爵にも会うこともなく顔さえ知らないまま私は領地へ向かうことになったのである。
馬車にガタゴト揺られながらふと思う。
これってもしかしたら、私、ざまあされたんじゃない?