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「葵、ちょっと手伝って」
お母さんが庭から私を呼んでいる。
私は快適だったリビングから、お母さんの待つ庭へ出た。
むせ返るような暑さと肌を焼く鋭い日差しが、当然の如く庭を支配していた。まだまだ夏は終わりそうにない。
庭で私を待つお母さんはガーデニングの真っ最中だった。色鮮やかな花々を楽しそうに世話している。少し前までは見られなかった光景。両親が仕事を変えて、家にいるようになってから命を注ぎ込まれた場所。
この光景を見ていると、今まで一人寂しく家に取り残されていたことも気にならない。
今は家族3人、誰一人欠けることなく幸せに過ごせているから。
私にはそれで充分だ。
「お花に水をやってくれる?」
「わかった」
私はじょうろを持って、花に水をやった。
私たち家族の幸せを祝福するかのように花は咲き乱れている。そんな花々に水をやるのが私は好きだ。まるで、私たち家族をより一層幸せにしているような気がするから。
そんな中で、私は1輪の花が気になった。今まで何度も目にしてきたはずなのに。
「お母さん、この花って何て名前?」
お母さんは作業を中断して、ニコニコしながら私のもとへやってきた。夏の日差しは厳しいけど、お母さんも花たちに囲まれていると私と同じで幸せみたいだ。
「この花はね、アネモネって言うの」
お母さんは優しく言った。
「そうなんだ、きれいな花だね」
「そうね、でもこの時期に咲く花じゃないんだけどね」
お母さんは不思議そうに首を傾げた。私にはその事実がひどく運命的に思えた。たぶん、私にとって特に大切な花なんだと思う。理由はわからないけど。
「葵、知ってる? この花にはね、悲しい花言葉があって――」